鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

イクラ大人気

2007-11-26 23:53:32 | カモ類
Photo
All Photos by Chishima,J.
サケの卵を食べるユリカモメの幼鳥 以下すべて 2007年10~11月 北海道十勝川中流域)


 朝晩の冷気が鋭さを帯びてきた10月中旬過ぎ、十勝川中流域にある流れの緩やかな浅瀬の上を、70羽強のユリカモメが乱舞していた。ユリカモメ自体は河川を遡行する性質もあり、内陸部に出現することは珍しくないが、これほどの数を河口から50km近く離れたこの場所で見るのは初めてである。元よりこの一帯には、遡上途中で力尽きたサケを求めて多くのオオセグロカモメが飛来し、この日も中州や浅瀬で100羽以上を観察していたが、それらの場所ではユリカモメごく少数だったので、お目当ては別にあるようだ。
浅瀬の上を舞うユリカモメ
視線の先の水中をサケが走り、飛沫を上げる。
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 ユリカモメの舞う浅瀬をよく見ると、多数のサケがゆらゆらと泳いでいる。水際に若干の死体もあるがほとんどは元気で、時にのたうっている。自分たちより遙かに大きなサケを、ユリカモメが襲うとは考えられないが、サケの傍らあたりに頻繁に飛び込んでいる。飛び込んだ後は両翼を広げてバランスを取りながら、逆立ち姿勢で体の前半部を水中に入れ、探餌しているようだ。この姿勢はユリカモメやミツユビカモメなどの小型カモメ類が、表層や浅い所の餌を捕えるのによく用いる方法である。その後は何かをくわえて水上に顔を出して飲み込んでおり、最初は「何か」だった餌は、橙色の直径5mmにも満たない球、すなわちサケの卵であることが判明した。サケはここを産卵場とみなして集結していたのだ。


サケの踊る水面を見つめるユリカモメ・幼鳥
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逆立ちしながらの採餌(ユリカモメ・幼鳥)
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 ユリカモメの他には数羽のカモメやオオセグロカモメも同じ場所に見られた。ただ、中型のカモメはともかく、大型のオオセグロカモメはユリカモメのような機敏な飛び込み・逆立ちは苦手で、ひとしきり試みるもののう上手くいかないようで、中州に戻って本来の餌であるサケの屍をついばんでいた。小型ならではの機動性を生かしたユリカモメの勝利であった。


カモメ・幼鳥
左下の水面をサケが走る。
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浅瀬に集う(ユリカモメカモメ)
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 それから半月ほど、「イクラ食堂」は最大150羽ほどのユリカモメで賑わったが、当地では大部分が旅鳥である本種は11月に入ると南下してしまい、徐々に姿を消して行った。11月9日、肌寒い曇天にカラマツの黄葉が映える朝に訪ねてみたところ、ユリカモメは僅かに4羽を数えるのみで、代わってカワアイサが食堂の主客となっていた。その数およそ100羽。カワアイサというと潜水しての採餌が一般的であるが、この浅瀬は潜水には浅すぎるらしく、目から先の顔の前部を水中に入れ、川底を覗き込みながらしきりに餌を捕えていた。しかし、ユリカモメとは違って水中で食べてしまうようで、サケの卵を食べていることは明白ながら、水上でそれを飲み込む姿は見られなかった。この浅さゆえだろう、数羽のマガモも同じエリアで水面下に首を伸ばし、活発に採餌していた。周辺では1~数羽のコガモやキンクロハジロ、スズガモも観察され、サケの卵に対する採餌は未確認ながら、おそらく食べていたものと思われる。


水面下を覗き込みながら泳ぐカワアイサ
周囲を泳ぐサケは同じサイズ。
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水面に姿を現したサケ
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 その翌週、カワアイサも少なくなった浅瀬は、体が傷だらけでもはや息も絶え絶えのサケばかりで、命を継承するための季節も終盤に近付いていることを物語っていた。10羽前後のオオセグロカモメが屯して、採餌に興じていた。ひと月近く前には体の大きさが仇となって、次々と飛び込んではイクラをものにするユリカモメとは対照的に、捕食は不成功に終わっていたのがどうしたことだろう。ユリカモメの採餌法を見ているうちに学習したのか。そういえば今眼前でイクラを捕えているオオセグロカモメは、圧倒的に幼鳥が多い。若い鳥ならではの行動の柔軟性の賜物だろうか。あるいは成鳥に比して小さなサイズが、小型カモメ風の採餌法を可能にしたのか。また、捕食されるイクラ側の事情を勘案する必要もあるかもしれない。イクラは時期が遅くなるにつれ皮が堅くなる傾向がある(これを「川イクラ」と呼んだりする)が、ひと月前には皮が軟らかくてオオセグロカモメの頑強な嘴でつまんだら壊れてしまった卵も、堅くなってそれに耐えうるようになったとは考えられないだろうか。


サケの卵を食べるオオセグロカモメの幼鳥
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威嚇し合うオオセグロカモメの成鳥(中央)と幼鳥(手前)
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 ひと月に渡って多くの水鳥を惹きつけてきたこの浅瀬も初冬を迎え、静けさを取り戻しつつある。実はここは半人工的な場所で、今回産卵された卵も凍結やその他のハードルをクリアして、稚魚が海に下り、数年後に回帰できるかは微妙なところである。いつの日にか、豊かな自然を取り戻した十勝川で、本来の生態のまま産卵するサケの群れと鳥たちとの関係をじっくり観察してみたいものだと思っている。


ユリカモメ・成鳥冬羽の飛翔
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喧嘩(ユリカモメ・幼鳥)
餌は豊富ながら互いにぶつかり合う。
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(2007年11月21日   千嶋 淳)


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
 この時期は道南によく行ってますが、ぱっと見た... ()
2007-11-27 22:41:30
 この時期は道南によく行ってますが、ぱっと見たところオオセグロ、ネコはかなりの数がたまってます よく川の中に突っ込んでいるのでこの地域でもイクラを食っているのでしょう

 しかしセグロは見かけないね 秋のえりもはたくさんいたのにね
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上の場所は河口から遠いせいか、ウミネコは記録が... (ちしま)
2007-11-28 15:55:16
上の場所は河口から遠いせいか、ウミネコは記録がありません。道南でウミネコも多いのは、地形が急峻で海と山が接しているせいでしょうか?

セグロは毎年記録がありますが、数は5羽程度です。河口・海岸には9~10月に5000羽以上の大群が付くのですが、あまり川を遡らないようです。

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 イクラ美味しそう・・・。そうそう、名古屋でい... (おやぽん)
2007-12-10 23:08:58
 イクラ美味しそう・・・。そうそう、名古屋でいただいたタラコは大変美味でした。ありがとうでした。
 ウチは山奥だからカモメはあんまり見ないな~。近所のも少し開けたとこで、それっぽいのが飛んでいるのをたまーに見るのだけど。前に何とかミズナギドリが飛んできたこともあったけどね。しかしながら一番のおなじみさんはキセキレイです。黒色が濃いのやら薄いのやら、いろんなのがいるよね。
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>そうそう、名古屋でいただいたタラコは (ちしま)
2007-12-11 23:47:47
>そうそう、名古屋でいただいたタラコは
>大変美味でした。ありがとうでした。

いえいえ、こちらこそ貰っていただいて助かりました。あの後2日もどんぶらこしてたもんで。
イクラは定置の調査と関わってた頃は何かと縁が深かったのだが、最近はすっかり疎遠になりました。いずれ機を見て送りますわ。

キセキレイはこちらでは夏鳥なので、すっかり見なくなりました。黒いのが濃かったり薄かったりするのは、季節や年齢、性別などによる差だと思います。
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