鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

コアホウドリ(その1) <em>Phoebastria immutabilis </em>1

2012-02-05 19:34:53 | 海鳥写真・ミズナギドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて コアホウドリ 2011年5月中旬 北海道十勝郡浦幌町)


 種小名は「不変の」を意味し、多くのアホウドリ類と異なり幼鳥の段階から見た目が成鳥と変わらないことに因んでいる。ミッドウェイ諸島やハワイ諸島をはじめ、小笠原諸島聟島列島やメキシコ沖のクラリオン島、グアダルーペ島等北太平洋の低緯度海域の島嶼で繁殖し、非繁殖期には北太平洋に広く分散する。道東では主に4~11月に海上で観察され、根室海峡では少ないが太平洋の沖合では普通。5、6月の初夏と10、11月の秋に個体数が多くなる二山型の傾向を示し、夏の後半から初秋にかけて水温が高くクロアシアホウドリが優占する時期には、本種の分布の中心はより北にあるものと思われる。この傾向は例えば初夏あたりに本州から北海道へのフェリーに乗ると実感でき、関東や東北南部の沖合では専らクロアシが観察され、三陸沖辺りから本種が優占しはじめ、北海道沖では本種ばかりになることもある。


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 翼開長は2m。「コ」とはアホウドリ(同2.4m)との対比であり、国内で観察される海鳥では最大級の部類に属する。背と翼上面、尾羽が黒褐色、それ以外の体は白色(目の周囲は黒い)と白黒のコントラストが強い印象を受け、光線条件さえ良ければ遠くからでも大変目立つ。1枚目、3枚目と同一個体のこの鳥は換羽中で、背や翼上面は茶色く見える古い羽と黒く見える新しい羽が混在しているが、実際には一様に見えるのが普通。また初列風切に幅広い白色部があるが、これはその内側の羽が換羽のため抜けて内弁の白色が見えているためで通常は見えない。


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 翼下面は外縁を縁取るように黒く、それ以外は基本的に白いが、下雨覆は白と黒の羽が混在し、白黒の配分は個体差が大きい。そのため、個体によって淡色にも暗色にも見え、これは光線条件にも左右される。嘴はピンク色で先端部は灰色。このピンク色はアホウドリの鮮やかなピンク色とは異なり、肌色にやや近い色。距離のあるアホウドリは本種と見誤る可能性があるが、成鳥であれば背は白く、若鳥であれば頭部から後頚にかけて褐色部のある点で異なるほか大きさや上記嘴の色の違いでも識別可能。クロアシアホウドリはすべての羽衣で上下面とも黒褐色。


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 1~3枚目とは別個体。ピンク色の嘴はもちろん、圧倒的な質感において他のグループの鳥と見間違うことは少ないが、距離や波によって大きさの感覚が鈍った時には黒っぽい上面とそれ以外の白がオオセグロカモメを連想させることがあり、本種が頻出している時にはその逆も起こりうる。脚は嘴同様のピンク色でやや淡色。


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 飛翔は実際にはこのような角度で見ることが多く、白黒のコントラストは一層はっきりする。風の弱い時や短距離を移動する時には海面近くをゆっくりとした拍動で飛ぶことが多いが、強風時に長距離を移動する時には羽ばたきを伴わず向かい風に対して上昇し、追い風に乗って下降するグライダーのような「ダイナミック・ソアリング」を行ない、時に大型フェリーの甲板からも見上げる高さまで上昇する。小型船からであればはるか上空かもしれないが、そんな時には海に出られないので見る機会はないだろう。


(2012年2月5日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。


オオミズナギドリ(その1) <em>Calonectris leucomelas</em> 1

2011-11-28 16:01:42 | 海鳥写真・ミズナギドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて オオミズナギドリ 2010年10月8日北海道十勝郡浦幌町)


 一連の写真は同日、同海域での撮影だが、個体は別。厳冬期を除き日本近海ではあまねく普通であるため、鳥屋からもありがたがられないが、世界的には日本周辺でのみ繁殖する。道東海域には繁殖期の後半に当たる8~10月に出現する。「白と黒の」という種小名の通り、暗色の上面と白色の下面のコントラストが顕著。


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上面の飛翔。頭部は斑状だが、光が強くて遠い条件下では白く見えることもある。背や肩羽、雨覆、上尾筒等の各羽は外縁が淡色で、鱗状を呈する。


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斜め正面からの上面。嘴は淡い灰色~ピンク色で、ハシボソやハイイロの黒色や、アカアシの明瞭なピンク色とは異なる。管鼻はミズナギドリ類に典型的なように、嘴基部に対となって開口する。


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飛翔の下面。風切や、初列雨覆の軸斑を除くと白色で、かなり白い印象を受ける。上面が見えない条件では、オナガミズナギドリやミナミオナガミズナギドリとの識別に困る時がある。両種とも下雨覆は全体的に白っぽく、本種のような軸斑は不明瞭。また、オナガミズナギドリでは翼下面の前縁が暗色である。


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日によってはかなり接岸し、海岸や河口から観察されることもある。台風や時化の後に内陸で保護されることがある。


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飛び立ち直後。このように脚を出している状況では、脚のピンク色も識別に有用である。上下ツートンカラーでピンク色の脚を持つミズナギドリ類で、日本近海で記録のあるものとしては他にシロハラアカアシミズナギドリがある。


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海上に浮いている姿。他のミズナギドリ類と見誤ることは少ないが、ウミネコ等カモメ類と紛らわしいことがある。


(2011年11月28日   千嶋 淳)


オオミズナギドリとハイイロミズナギドリ(その1) <em>Calonectris leucomela

2011-11-26 14:17:55 | 海鳥写真・ミズナギドリ目
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All Photos by Chishima,J.
オオミズナギドリ(右)とハイイロミズナギドリ 以下すべて 2010年10月8日 北海道十勝郡浦幌町)


 飛び立ち直後。サイズは近いが、嘴や脚、顔、体下面の色などが異なるため識別は容易。ハイイロは下初列雨覆の軸斑がやや不明瞭な個体だが、嘴や頭部の特徴、全体的なプロポーションなどはハイイロを示唆している。両種とも8~10月の釧路以西の道東太平洋海上では卓越するミズナギドリ類。10月頃より日によってはフルマカモメも優占し、10月末までにオオミズナギドリはこの海域から姿を消す。ハイイロは年によっては11月末までそれなりの数が見られる。

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 海上に浮かぶ4羽のオオミズナギドリの、最左個体の左側にハイイロがいるが、オオミズナギドリとの重なりや波による隠れで、頭部のみ見えている。両種ともこの海域では魚類を多く食べていると思われ、普通に同所的に見られる。ハイイロは夏から秋にかけて、しばしばウトウとも同じ海域で卓越する。


(2011年11月26日   千嶋 淳)


アホウドリ(その1) <em>Phoebastria albatrus </em>1

2011-11-25 21:32:25 | 海鳥写真・ミズナギドリ目
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All Photos by Chishima,J.
以下すべて アホウドリ幼鳥 2011年8月25日 北海道十勝郡浦幌町)


 当年生まれの幼鳥で、ピンク色の嘴を除く全身が黒褐色である。脚も基部はピンク色になりつつある。道東海域へは5~11月に出現し、記録は近年増加傾向にある。十勝では1996年9月に浦幌町厚内沖で観察記録があるだけだったが、2011年8、11月には同沖で各1羽が観察・撮影され、同年5月には2羽の目撃記録もある。記録の増加は個体数回復を反映したものと考えられる。


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嘴はピンク単色ではなく、先端部は淡い水色を呈する。


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正面顔。アホウドリ類の管鼻は、嘴基部の上部に開口するミズナギドリ類とは異なり、嘴の左右に一つずつ開口する。


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背後はクロアシアホウドリ。大きさや嘴の色、形状の違いに注目。


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着水前。脚は基部でピンク色だが、水掻きを含む全体はまだ黒っぽく、遠距離では目立たないかもしれない。翼上面では初列風切羽軸の白色が目立つ。


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飛び立ち。光線の関係か、脚の淡色はより顕著。右脚に金属リングが装着されている。伊豆諸島鳥島産と思われるが、残念ながら番号は読めず。


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飛び立ちの後ろ姿。脚は暗色に見え、嘴も隠れて見えないことから、この角度では識別は難しいかもしれない。


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飛翔。嘴のピンク色や初列風切羽軸の白色が目立つ。体、特に頭部周辺の色は黒みの強い褐色で、灰褐色のクロアシアホウドリとは一線を画している。


(2011年11月25日   千嶋 淳)