鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

青春と読書⑫コミミズク(最終回)

2013-02-24 16:11:38 | お知らせ
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Photo by Chishima,J.
コミミズク   2007年1月 北海道十勝海岸)

 集英社の本のPR誌「青春と読書」に連載させていただいて来た「北海道の野生動物」。12回目となる3月号(2月20日発売)でついに最終回です。今回はコミミズクとカメラマン・ウオッチャーとの間に起きたちょっとした騒動から、野生動物を見ること・撮ることとはを自分なりに問うてみました。お近くの書店等で手に取っていただけたら幸いです。思えばこの一年、調査やガイドの合間を縫って締め切りや校正に追われながら、あっという間でありました。至らぬ点も多々あり、自分の不勉強を嘆いたことも一度や二度ではありませんが、動物たちと人間の関係について学び、思いを巡らせることができたこと、北方世界の中での北海道や意外な南との関係といった広い視野で北海道の自然を考えることができたのは大きな収穫で、辛くも楽しい日々でした。愛読いただいた方々には心より感謝申し上げます。どうもありがとうございました。またどこかで、自分が見たり聞いたり考えたことを、文章や写真で公表できる機会を作れたらと思います。その時はどうぞ、よろしくお願いいたします。

(2013年2月23日   千嶋 淳)






氷縁のコウミスズメ

2013-02-21 00:19:16 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
コウミスズメ 以下すべて 2013年2月 北海道根室市


 先の週末は根室にいた。この時期、オホーツク海を南下する流氷に押し出されるように現れるエトロフウミスズメ属やウミバトといった冬のウミスズメ類を船から追いかけるのが目的だったが、流氷が沿岸に張り付いたため船を出すことはできず残念な結果に終わった。それでも、陸上からもコウミスズメをはじめとしたウミスズメ類を多く観察でき、特にコウミスズメの行動を限られた時間の中でもじっくり観察できたのは大きな収穫であった。
 根室に向かった16日早朝は降雪と地吹雪で路面も悪く、大いに難儀した。根室に到着した午前遅くからは雪も止み、天候は回復に向かったが北寄りの強い風が吹き、海は時化が続いた。幾つかの漁港で海ガモ類等を観察しながら辿り着いた根室半島先端の納沙布岬もやはり鉛色の空の下、強風に煽られながら白波立つ海での観察だった。流氷は思いのほか少なく、開水面に小さな氷が点在する程度だった。最近設置されたらしい観察小屋に入り沖に目を凝らした当初は波飛沫ばかりに感じるが、目が慣れて来ると海ガモ類やヒメウに加えてウミスズメ類が飛んで行くのを認識できる。その大部分はコウミスズメとケイマフリで、少数のウミガラスやエトロフウミスズメも見られた。コウミスズメはハイドに身を潜めていた一時間余りの間にも200羽以上を観察できた。1~10羽程度で続々と、海面すれすれの高度を小刻みで力強い翼の拍動と共に飛んで行ったが、興味深いのはその飛跡の全てが日露中間ライン辺りの珸瑤瑁水道を北上して行ったことである。コウミスズメに次ぐ優占種のケイマフリも、やはり1~数羽で同様の軌跡を飛翔し、少数派の種も同様だった(なお、ケイマフリの内いくらかは、既に腹まで黒い夏羽に換羽していた)。陸からの距離の割に水深のある珸瑤瑁水道の何処かに、強風と高波による撹拌で中層以深の動物プランクトンが表層に運ばれるような場所でもあったのではないかと思わせる一幕であった。それにしても全長僅か15cmの最小の海鳥が、ハイドの中にいても涙が止まらない寒風の中、波間をしっかりと飛んで行く姿には一種の爽快感すら感じる。本種の潜水能力を、その小さな体サイズから貧弱なものと推察した論文があったが、水面下でもパワフルな翼の拍動で我々が考えるより遥かに機敏かつ力強い活動をしているのではないだろうか。


16日の納沙布岬
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岬先端の野鳥観察小屋
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 翌17日午前、再度訪れた納沙布岬は海域の半分程が流氷に覆われており、刻々と姿を変え決して一ヶ所に留まることのない生物のような流氷の性質を実感した。強い北西風のため、岬先端のやや太平洋側に流氷帯の縁があり、花咲港からの帰途と思われるロシア漁船が躊躇しながらも氷域に突入を試みていた。氷縁付近で1羽のウミスズメが潜水を繰り返していたが、前日のような集群は見られず氷を避けて移動したかと思われたが、太平洋側の開水面にはかなりの数のコウミスズメのいることがじきに分かった。それらの一部はじきに、沖側から陸側へ数~30羽程の群れで着水と飛び立ちを繰り返しながらやって来て、岸から200m位の辺りで沖へ引き返す行動を示した。着水時には潜水も見られたため、採餌もしていたと思われる。沖へ引き返す際には流氷上も飛翔したが、そのまま先にある小~中規模の開水面を目指すことはなく、決まって大きな開水面のある珸瑤瑁側へ戻って行った。一連の行動は、広い開水面のある水域からわざわざ陸地近くまで氷縁に沿って動いていること、着水や潜水といった採餌と関連した行動の見られたことから、氷域からの逃避等ではなく能動的に氷縁を利用していたものと思われる。氷縁付近に餌生物の集中が存在したのかもしれない。前日やはり多数見られたケイマフリは、この日は2羽が観察されたのみだったが、開水面のある海域が逆光だったこと、観察時間の短かったことに因るのかもしれない。この日は前日並みの強い北西風が吹いていたが、波は流氷の存在により太平洋側では小さく、風もコウミスズメが主にいた開水面では半島の陰になり穏やかだったせいか、コウミスズメは特に陸地近くから反転する際には海面から10~20mの高さまで上昇した。このような行動は強い風浪に晒された時や外洋では見たことがなく、海面すれすれの飛翔は強風に煽られないための行動と考えられる。


流氷に覆われた17日の納沙布岬
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岸近くで着水態勢に入るコウミスズメの群れ
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 コウミスズメを含む、北太平洋に固有なエトロフウミスズメ属(英語ではAukletと称されるグループ)の越冬期の生態や分布には不明な点が多く、こうした断片的な観察でも妄想が膨らむので楽しい。とはいえ、2日で600km近い長距離運転はやはりしんどいものであるし、できれば船上から近距離での出会いを楽しみたかった。


流氷上を飛ぶコウミスズメ
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(2013年2月20日   千嶋 淳)