鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

ミッドウェイから十勝沖へ

2011-02-23 15:12:52 | 海鳥
1
All Photos by Chishima,J.
コアホウドリ 2010年5月 以下すべて 北海道十勝沖)

 上のコアホウドリは昨年5月18日、浦幌町厚内沖での小型船による海鳥・海獣調査の際、青い空を映した穏やかな海でハシボソミズナギドリやアカエリヒレアシシギ等とともに出会い、撮影したものである。右脚に赤いカラーリングが装着され、その中には白字で「C431」の文字が認められる。写真を添えて山階鳥類研究所に照会していたが、最近結果が帰って来た。2001年12月7日にアメリカ合衆国のミッドウェイ諸島イースタン島で、性不明・成鳥として標識・放鳥された鳥で、移動距離は3810km、経過時間は8年5ヶ月とのことであった。

コアホウドリの脚に装着されたカラーリング
2010年5月
2


 ミッドウェイ諸島は、ハワイ諸島の北西、北緯28度西経177度にある環礁で、サンド島、イースタン島等いくつかの島から構成される。6.2?という面積や地理的な位置の割に日本人への知名度が高いのは、やはり先の戦争で大敗を喫し、その後の戦局にも影響を与えた海戦の名の所為だろう。コアホウドリはハワイ諸島、メキシコ沖のクラリオン島やグアダルーペ島、小笠原諸島等北太平洋の島々で繁殖するが、ミッドウェイはその中でも最大の繁殖地で、総個体数の75%に当たる約80万羽が繁殖期に集結するという。
 上の鳥のカラーリングは、最初の放鳥時ではなく、2006年1月に追加されたものだそうだ。おそらく、毎年繁殖期にはミッドウェイに戻り、それ以外は北太平洋を広く放浪しているのだろう。ハワイやミッドウェイで標識された多くのコアホウドリが、日本近海で回収されている。アホウドリ類がその飛翔力を生かして非常に長距離の探餌を行うこと、非常に長命でコアホウドリでは50歳を超える個体も確認されていることを考えると、一生の間に一体どれほどの距離を飛ぶことになるのだろうか。何ともスケールの大きな渡りが、北太平洋を舞台に繰り広げられていることに、改めて驚きを禁じ得ない。


水を切って飛ぶ(コアホウドリ
2010年9月
ミズナギドリの和名や、英名Shearwaterはともに水を薙いで(切って)飛び立つことに由来するが、このように飛びながら水面を切り裂くこともある。アホウドリ類とミズナギドリ類は同じ目(「管鼻目」の記事も参照)。
3


 近年、小型船を用いた海鳥の観察や調査が各地で活発になってきた。アホウドリ類は乱獲や混獲による個体数減少から保全上の関心を集めやすく、コアホウドリに限らず、カラーリングを装着された個体が少なからず存在する。鳥との距離が近い小型船からの観察はリングの確認・撮影に適しており、アホウドリ類が非繁殖期に移動や採餌で利用する海域を明らかにするのに貢献できるかもしれない。繁殖地やその周辺だけでなく、非繁殖期に利用する海域を把握し、重要度の高いエリアでは保全や漁業との共存の試みを推進することも、海鳥の保護にとってまた必要なことだろう。


海面で餌を漁る3羽のコアホウドリ
2010年9月
4


(2011年2月22日   千嶋 淳)



ヒメウ、エビを食う

2011-02-15 23:49:35 | 海鳥
1
All Photos by Chishima,J.
エビ類をくわえて浮上したヒメウ 2011年2月 北海道幌泉郡えりも町)


 冬の短い陽が傾いた漁港の一角に、一羽のヒメウが嘴に獲物をくわえて浮上した。既に何回もの潜水を繰り返しているのか、水との親和性の高い羽毛は水を弾かず、体の大半が水没している。咄嗟に手にしたカメラを通して見る獲物は、褐色で平べったく、厚みは無い。彼らが沿岸でよく捕えているギンポ類やカレイの仲間といった魚類ではなさそうだ。海藻??それでも何回かくわえ直した後、勝手知らなさそうなそれを食したように見えた。
 岸壁に繋留された船の一隻の陰にヒメウを見送り、液晶画面を確認した。海藻と思ったものは、エビの仲間であった。平べったい体の上方には鋏や触角も確認できる。ヒメウの露出嘴峰長が47~55mmであることを勘案すると、頭から尾までが5cmは優に超える獲物のようだ。甲殻類の知識の乏しい私には、エビの種類は残念ながらわからなかった。


エビ類を飲み込もうとするヒメウ
2011年2月 北海道幌泉郡えりも町
2


 図鑑を開くと、ヒメウの項には「甲殻類も食べる」とか「稀に甲殻類も捕食する」とあるが、記憶にある限りでは初めての観察であった。海外の事例に目を向けると、北米ブリティッシュ・コロンビアのMandarte島で、繁殖期のミミヒメウとヒメウの食性が巣内雛の吐き戻しから調べられたところ、ヒメウではニシキギンポの一種やイカナゴ、カジカ類等の沿岸底性魚類のほかに、エビの仲間が数の上では19.4%、重量面では6.8%出現したとのことである(ミミヒメウでは出現せず)。また、近縁種のヨーロッパヒメウは、英国周辺海域ではイカナゴの一種、タラ科、ニシン科等の魚類を主に食べているが、スコットランドのアンガス沿岸で集められた176個の胃の、14%から甲殻類が出現したとのことである。それらの大半は、タラバエビ属のエビであったという。同属で北海道近海に分布するものにホッコクアカエビ(甘エビ)、トヤマエビ(ボタンエビ)、ホッカイエビ(北海シマエビ)等がある(高級食材ばかりだな)が、今回観察したのもそれら、或いはその近縁種だったのだろうか。
 ヒメウの英名「Pelagic Cormorant(外洋のウ)」や学名の種小名「pelagicus(外洋の)」はともに、カワウ等淡水域や内湾で採餌する種に比べると、より外海で摂餌することに由来するものであるが、真冬の北海道近海には、今回みたく漁港のような身近な沿岸に糧を求める個体も少なくない。


ヒメウの飛翔2点
2011年2月 北海道根室市

成鳥冬羽。構造色は光線によって緑色や紫色を呈し、美しい。
3

若鳥。全身が褐色。
4


(2011年2月14日   千嶋 淳)



嘴がオレンジ色のホオジロガモ

2011-02-12 10:42:04 | カモ類
1
All Photos by Chishima,J.
嘴全体がオレンジ色のホオジロガモ・メス 2011年2月 北海道広尾郡広尾町)


 冒頭の写真は、2月1日に広尾町十勝港で撮影したカモである。嘴の先端だけオレンジ色で、他は黒色の典型的なホオジロガモのメスとは異なり、所々くすんだ黒色が混じるものの、嘴全体がオレンジ色を呈している。この点だけに着目すると、嘴全体がオレンジ色の北米西部産キタホオジロガモのメスを連想させる。しかし、それ以外の特徴は写真を見てわかる通り、ホオジロガモと大差は無い。
 急勾配の前頭部や目より前方にある頭頂、緩やかに幅を持って下る後頭部といったキタホオジロガモ的な特徴はまったく感じられない。最高点が目のほぼ上方に当たる頭部の形状や嘴の長さは、ホオジロガモと一致する。本個体は虹彩がやや暗色なことから、前年生まれの幼鳥である可能性がある。オスの幼鳥は、個体差はあるものの、この時期には嘴全体が黒色で、胸部の白色や頬の白斑がうっすらと現れる個体の多いことから、メスであるかもしれない。元々メスの幼鳥は、嘴の黒色部と黄色部の境界が不明瞭で、先端から根元の方までぼんやりとオレンジ色味を帯びる個体もいるので、色素の関係等によってオレンジ色部分が卓越する個体がたまに生じるのかもしれない。
 在庫写真の中から、およそ一月前の1月2日に同町音調津漁港で撮影したホオジロガモにも、同様の特徴を示す個体を発見した(下写真)。上の個体ほど嘴のオレンジ色が鮮やかでなく、黒色の混入する程度も大きいが、メス幼鳥のようである。年末年始の大時化が収まりきらぬ漁港内で、マガモと共に水面採餌をしていたのが印象的で、嘴の色にまで想いが至らなかった。

嘴のオレンジ色部分が広いホオジロガモ・メス
2011年1月 北海道広尾郡広尾町
2


 ネットで調べていたら、2003年12月に韓国でやはり嘴全体がオレンジ色のホオジロガモ類が観察されており、写真も掲載されていたが、冒頭の個体とよく似ていた。その記事の執筆者もキタホオジロガモを示唆する特徴の無いことからホオジロガモであろうと結論しており、更に写真を見たスリムブリッジの水禽協会の研究者による「写真の鳥ほど鮮やかなオレンジ色ではないが、嘴がオレンジ色のホオジロガモは飼育下において稀でない」とのコメントもあった。そして文尾は「人目を惹き、特徴的な頭部の形より判断しやすい嘴の色それ自体は、多くの経験を積んだバーダーは分かっているように、決定的な識別の基準とはならない。よく似た2種を分けるのに、たまに役立つ補助的な特徴でしかない。」と結ばれていた。まったくその通りだと思う。機材や情報が進歩したおかげで、やたらと細かい特徴を捉えて鳥を識別する風潮があるが、特定の識別点だけに固執するのはむしろ視野を狭窄させるだけであって、その種自体が醸し出す雰囲気のようなもの(jizz)を大切にするべきだし、そのためには時間をかけて鳥を「観察」(撮影ではなく)する必要がある。


様々なホオジロガモの「メスタイプ」

2011年1月 北海道中川郡豊頃町
メス成鳥。嘴は黄色と黒のツートンカラー。虹彩の色は明るく、脚のオレンジ色は鮮やかで、赤みを呈す。体下面の灰色は胸まで及ぶ。
3

2011年1月 北海道中川郡豊頃町
オス幼鳥。嘴は黒色で、胸は白っぽい。虹彩はやや暗色で、目と嘴付け根の間に白斑がわずかに現れ始めている。脚の色は鈍い。
4

2011年1月 北海道中川郡豊頃町
メス?幼鳥。虹彩や脚の色から幼鳥と思われる。特にオス的な特徴がないことからメスか?嘴のオレンジ色と黒色の境界は不明瞭で、もう少しオレンジ色が強ければ嘴全体がそのように見えるかもしれない。
5

2011年2月 北海道広尾郡広尾町
幼鳥。全体的に暗色で、各羽の磨滅も小さいことから、かなり幼いと思われる。嘴は黒色みが強く、脚の色も鈍い。よほど遅く生まれたか、換羽の進行の遅い個体であろう。
6


(2011年2月9日   千嶋 淳)


コミミズク

2011-02-08 23:13:34 | 猛禽類
1
All Photos by Chishima,J.
雪中のコミミズク 2010年12月 以下すべて 北海道十勝管内)


(2011年1月10日釧路新聞掲載「道東の鳥たち22 コミミズク」より転載 写真、解説を追加)


 初冬の海岸は寂しいものです。僅かな雪も風で飛ばされ、銀世界には程遠い褐色の風景。夏に絢爛と咲き誇ったハマナスも、今は赤く萎んだ実で点々と面影を残すのみ。午後早い時間、低い位置から原野を茜色に照らす太陽が、一年で最も昼の短い季節を教えます。そんな荒漠の中をふわふわと飛ぶ鳥。鳥はそのまま地面に向けて急降下することも、流木や杭へ止まることもあります。二つの金色の目玉がこちらを睨んでいるかもしれません。コミミズクです。

流木からの飛び立ち(コミミズク
2010年12月
画面右下にはハマナスの赤い実も。
2


 コミミズクと聞くと、小さくて可愛らしいミミズクを想像されるかもしれませんが、実際には翼を広げると1m近くある、カラスより少し小さい中型のフクロウです。耳のように見える羽(羽角)が小さい、つまり小さな耳のミミズクというのがその名の由来です。


杭に止まるコミミズク
2008年1月
3


 コミミズクは二つの、他のフクロウ類とは異なる特徴を持っています。一つは草原性で、フクロウやシマフクロウなど他のフクロウ類が森林を生活の場としているのに対して、海岸草原や河川敷、農耕地など開けた環境に生息する点です。もう一つは、夜行性のフクロウ類の中にあって昼間も活発に活動することです。もちろん夕方や夜間にも活動するのですが、特に北海道では本州以南と比べて、昼行性が顕著な印象を抱いています。


午後早くから飛び回る(コミミズク
2008年1月
4


 北半球の亜寒帯以北で繁殖し、日本へは冬鳥として渡来します。道東では8月下旬に根室近海で漁船へ飛来した例もありますが、通常12月頃より観察の機会が増えます。本州では10月頃から普通に見られることを考えると不思議です。道東と本州に渡来するコミミズクとでは、繁殖地が異なるのかもしれませんが、詳しいことは分かっていません。
 越冬中の主食はノネズミ類で、草原を低く飛びながら、獲物を見付けると停空飛翔や急降下して捕えます。杭などの上で待ち伏せする場合もあります。日高静内でのアイヌ語名「エルム・コイキ」(ネズミ掴みの意)は、本種の習性から付いた名前でしょう。渡来数は年によって著しい差があり、あちこちで出会う冬があれば、まったく見かけない冬もあります。これは繁殖地でのネズミ発生量と関係しており、ネズミが大発生した年には産卵数が増加し、2回目や遅い時期の繁殖も活発になるそうです。ロシアでは、ネズミの多い年の11月にまだ幼鳥と卵のある巣が見つかった例があります。精悍な狩人のイメージとは裏腹におっとりした性格で、よくカラスに追われていますし、ケアシノスリやハヤブサなど他の猛禽類に食べられてしまうこともあります。


ノネズミ類を掴んだコミミズク
2008年1月
獲物はおそらくアカネズミの仲間。草は捕えた時、一緒に握ったのか。
5


 愛嬌のある顔や仕草ゆえ、鳥の中でも人気者です。数年前、十勝の海岸に何羽も飛来した時は連日多くの観察者で賑わい、天然記念物の海岸植生を踏み荒らしてコミミズクを追い回し、撮影用の人工的な止まり木を設置する人が続出しました。狩りの瞬間を撮ろうと、餌のネズミを集めるためヒマワリの種を撒く人さえいました。デジタルカメラの普及で、鳥や野生動物を撮影する人が格段に増えました。それと同時に動物やその生息環境への配慮を欠く行為も多く目にするようになったのは、残念なことです。自然に対する感謝と謙虚な気持ちを忘れることなく、フィールドへ赴きたいものです。


落陽に照らされて(コミミズク
2008年1月
6


コミミズク
2008年1月
7


(2010年12月29日   千嶋 淳)

本種については、
「コミミ狂想曲」 (2008年1月)
「遭遇」 (同)
「至福の一時」 (2007年1月)
の各記事も参照



ウミオウム

2011-02-06 13:56:09 | 海鳥
Photo
All Photos by Chishima,J.
ウミオウム 以下すべて 2011年1月 北海道十勝沖)


 半月ほど前、十勝沖へ船を出してもらう機会があった。昨年4月より日本財団の助成を受けて毎月実施してきた調査だが、11月以降は時化のため欠航が相次ぎ、実に3ヶ月ぶりの船出であった。厳冬期としては稀に見る穏やかな海況で気温も高く、快適な観察条件の中、沿岸数㎞で卓越していたウミスズメが、沖合に向かうにつれてコウミスズメやハシブトウミガラスに取って代わられる等、冬の海上鳥類相を垣間見ることができた。
 やや沖合に達し、ウミスズメが減った頃、サイズが中型な点、上面が黒っぽく、下面が白いという配色はウミスズメと似るが、上面の黒みが強く腑に落ちない鳥が現れて来た。距離や凪とはいえ多少揺れがあるので、細かい特徴を観察するのは難しい。そこで、1羽を撮影して液晶画面で確認すると、画像は不鮮明ながら厚みのある扁平な嘴と、白い虹彩とその後方から伸びる白い飾り羽が顕著なウミオウムであった。これには驚いたがその後も続々出現し、まだ集計していないが、遠くて不明や除外扱いとして「今にして思えば…」というのも含めれば、50羽は優に下らない数と思われる。


ウミオウムの飛翔
Photo_2


 多くの図鑑で稀な冬鳥や数少ない冬鳥とされるが思いのほか記録は少なく、昨年発行の「北海道東部鳥類目録」においても「11月下旬~3月に岬や海上で記録があり、少数が冬鳥として渡来するものと考えられるが、詳しい分布や渡来実態は不明。(中略)夏期の記録もある。」と曖昧な言及をせざるを得ない種であった。私自身は1~3月の北海道~三陸沖、6月の羅臼沖で観察したことがあるが、いずれも1~数羽程度で、これほどの数は初めてだった。図鑑類にも「単独か数羽で観察され、群れは作らない」とあるが、最大で15羽ほどの群れがいくつか観察された。また、5羽前後の小群はそれより多かった。


ウミオウムの群れ
15羽ほどの群れで、写真には9羽が写っている。
Photo_3


ウミオウム
上の写真の一部を拡大したもの。4羽が写っており、最右の個体は目より下は波間に隠れている。
Photo_4


 今回の観察例が特殊なものなのか、実は毎年結構な数が飛来するのかは今後の調査を待たねばならないが、本種を確認することを困難にしている理由の一つに、飛び立ち距離の大きさがあるように感じられた。特に5羽以上の群れは警戒心が強いようで、まだ点のような距離で飛び立って船から離れてしまう(=遠距離・後方からの飛翔の観察になる)ことが多かった。船のすぐ傍で観察できたのは、単独で海上に浮いていた1羽だけであった(この個体も警戒して体を沈めがちだった)。


ウミオウムの群れの飛び立ち
これでもかなりトリミングしている。それくらい飛び立ち距離が大きい。「やや沖合」といっても陸地がはっきり見える程度の沿岸。
Photo_5


 くわえて、他のウミスズメ類との識別である。上述の通り、飛んでいると中型というサイズと上面黒、下面白という配色から、ウミスズメと紛らわしい。ウミスズメの背の色は灰色であるが、逆光や曇天下、距離がある場合等にはかなり黒っぽく見え、このことが観察者に「中型で白黒のウミスズメ類はウミスズメ」という経験則を作らせている。ウミオウムの特徴である分厚い嘴や目後方の飾り羽は、角度や距離の条件が余程良好でないと、現場での目視は難しいと思われた。同属のエトロフウミスズメとは、体下面が白色な点で異なるが、飛翔シルエットが角度によってはエトロフ的に見えることがあり、逆光等色の見えない条件下では注意が必要と思われた。また、船の傍に浮いていた1羽は警戒して体を沈めていたため、体下面の白色が見えず、かなり近距離で嘴を確認するまでは「エトロフ?」と思っていたので、そのような場合も気を付ける必要があろう。一方で、非常に距離がある海上に浮いていたり飛んでいて、下面の白色が目立つような時には、白色が鳥を大きく見せる効果があるようで、ケイマフリやウミガラス類等の大型種と混同しそうな場合もあった。白黒どちらの部分が主に見えるかによって、大きさや配色の印象がかなり異なり、いろんな種に「化ける」のも、本種の識別を困難にしている可能性がある。


後方からのウミオウム・飛翔
白黒の中型ウミスズメで、ウミスズメと見誤りやすく思えた。
Photo_6


側面からのウミオウム・飛翔①
三角形の頭部や胸から腹にかけての膨らみのシルエットは、エトロフウミスズメと似るが、胸から後方は明瞭に白色。角度や距離の関係で、嘴や飾り羽は不鮮明。
Photo_7


側面からのウミオウム・飛翔②
嘴や飾り羽がある程度わかる。翼下面全体が黒いのは、広い白色部のあるウミスズメと異なる。
Img_9850


ウミオウム2羽の飛翔
角度の関係で顔はあまり見えない。
Photo_8


 本種のいわゆる「冬羽」に関する情報が乏しいのも、観察例が少ない要因かもしれない。今回の観察では体下面の白色は、夏羽同様胸までのものから前頚や喉の下まで及ぶものまで様々であった。また、上面の色も炭のように真っ黒な個体から、やや灰色みをおびるものまで個体による差が大きかったが、これらが齢や性に関係あるのか議論するには、まだまだ観察が必要である。


ウミオウム
冒頭写真と同じ個体。白色部は胸までで、顔~首は全体が黒い。
Photo_9


4羽のウミオウム
上での群れ写真の一部を切り抜いたもの。体下面の白色範囲が広く、顔にまで及んでいる個体も。白色部が広く、上面の色もやや灰色がかっているせいか、遠目にはずいぶん大きく見えた。
10


 図鑑によっては、本種が他のウミスズメ類よりも海上高くを飛翔するとされるが、今回の、また過去の観察経験からも、確かにコウミスズメに比べれは高いかもしれないが、ウミスズメやエトロフウミスズメ等の中型種やケイマフリ等の大型種と比べた場合には、特に高くを飛翔する印象は抱いていない。
 一緒に乗船した友人からは後に、「しかしデジカメってすごいね。海上調査に革命が起きた感がありますな。カメラが出せれば…。ヒゲ(注:シラヒゲウミスズメ)が出てもわかりそうですな。ライフリストは増やせませんが。」とのメールを受け取った。ライフリストを増やせるか否かは別として、その場で画像を確認でき、必要があれば後にパソコンで明るさやシャープネス等を補正可能なデジタルカメラは、海上での鳥の識別やそのための情報収集に非常に有用なツールであるといえる。いつどこにどんな鳥がいるといった基本的な情報すら十分にない冬の海上の厳しさと、そこにある魅力を再認識した厳冬の一日であった。


ウミオウム
冒頭写真と同個体。体は沈み気味だが、下尾筒白が目立つ。背の一部は灰色がかる?
11


(2011年2月6日   千嶋 淳)