鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

故郷探訪06年秋

2006-09-29 15:44:32 | 鳥・秋
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All photos by Chishima,J.
稲穂を背景に・チュウサギ冬羽 2006年9月 群馬県伊勢崎市)


 先週本州を訪れた際に、群馬県の実家周辺でも3日ほど鳥見を楽しんだ。大洗に上陸した時にはまだこんなに暑かったのかと焦ったが、自然界では思いのほか秋が進行しているようで、モズの高鳴きが響き渡り、シラサギ類やハシボソガラスが群れ遊ぶ長閑な田園地帯では、熟した稲穂が一列に頭を垂れていた。また、鳥の渡りもさかんに行なわれており、林ではヒタキ類やムシクイ類などより高標高や北方で繁殖した夏鳥たちの姿が目立ち、農耕地ではノビタキやショウドウツバメの姿に、「君たちも北海道からかい?」と問いかけたくなった。
電線で高鳴きするモズのオス
2006年9月 群馬県伊勢崎市
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稲穂を背景に・ハシボソガラス
2006年9月 群馬県伊勢崎市
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キビタキ(幼鳥)
2006年9月 群馬県伊勢崎市
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ショウドウツバメ
2006年9月 群馬県伊勢崎市
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 故郷での鳥見で楽しみにしていることの一つに、オナガ、ゴイサギ、キジ、セッカ、夏であればコアジサシやホトトギスなど北海道ではほとんど、あるいはまったく出会えない鳥たちの再会がある。オナガなどは群馬にいた時分はあまりにも身近で気にもかけない鳥であったが、年に1、2回会うと黒、白、水色の配色の美しさに新鮮な感動を覚えるものである。


オナガ
2006年9月 群馬県伊勢崎市
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ゴイサギ(幼鳥)
2006年9月 群馬県伊勢崎市
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 もう一つの楽しみは、そこでの鳥の分布や渡来の傾向などの変化を肌で感じられることである。この数年は年に2回程度、合わせても1週間くらいの時間しかとれないのだが、それでも昔大雨や暴風でもない限り、毎日のように通った場所で身に付けた知識や感覚は一朝一夕で消え去るものではない。それに何年か前、事情があって月に一度以上の頻度で関東に行った年があり、その時の経験も渡道10年近くなり、忘れかけていた本州の鳥の感覚をよみがえらせるのに役立った。
 今回、普段と大きく違うなと感じたのはカケスの多さであった。私の育った平野部ではカケスは繁殖しておらず、冬期山から下りてくる。それでも数はそれほど多くないし、例年姿を見せるのは9月末か10月頭くらいで、10月10日の体育の日(今では変わってしまったが)前後には、秋晴れの青空をふわふわとした独特の飛び方で渡ってゆくのをよく見たものだ。しかし今回は、まだ9月の20日すぎだというのにあちこちで普通に見られ、数も冬以上に多く感じた。


カケス (亜種カケス)
2006年2月 群馬県前橋市
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 また、ヤマガラやイカルなどもカケス同様冬に山から下りてくる鳥で、年によってはほとんど見られないほどの鳥だが観察され、特にヤマガラは数ヶ所で見られた。


ヤマガラ
2006年2月 東京都渋谷区
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 これらのことから、少なくとも群馬県の山間部では、ブナ、ミズナラなどの実がきわめて凶作であり、例年であれば秋の後半か冬に移動してくる小鳥たちが大挙して早い時期から平野部にやってきているものと考えられる。また、群馬の後で訪れた東京湾岸の谷津干潟などでも、普段見かけないカケスを見たり、声を聞いたりしているので、これは広域的な現象のようである。今回自分自身では山間部を見ていないが、本州の多くの地方でブナなどの凶作によるツキノワグマの人里への出没やそれへの注意がニュースを賑わせている。


カケス(亜種カケス)の飛翔
2006年9月 群馬県伊勢崎市
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 ほかにも、カワウやメジロ、コゲラ、アオサギなどの分布や出現時期の変化が興味深いが、それらについてはまた別に書くこととしよう。 この3日間で観察した鳥類は以下の通り。
2006年9月22~24日 群馬県伊勢崎市周辺:カイツブリ カワウ ゴイサギ アマサギ ダイサギ チュウサギ コサギ アオサギ マガモ カルガモ コガモ ハシビロガモ トビ チゴハヤブサ チョウゲンボウ キジ バン コチドリ イカルチドリ ヒバリシギ イソシギ タシギ キジバト カッコウ カワセミ アカゲラ コゲラ ヒバリ ショウドウツバメ ツバメ キセキレイ ハクセキレイ セグロセキレイ ヒヨドリ モズ ノビタキ オオヨシキリ メボソムシクイ セッカ キビタキ コサメビタキ ヤマガラ シジュウカラ メジロ ホオジロ カワラヒワ イカル スズメ ムクドリ カケス オナガ ハシボソガラス ハシブトガラス ドバト チュウジシギ? ガビチョウの一種?(不明を入れて56種)


ヒガンバナ
2006年9月 群馬県伊勢崎市
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(2006年9月29日   千嶋 淳)


マガモの変則的採餌法

2006-09-18 00:31:37 | カモ類
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All photos by Chishima,J.
マガモのオス 以下すべて2006年9月 北海道帯広市)


 この連休は天気が悪いとの予報だったので、遠出しないで家でのんびりすることにした。一番天気の良さそうな昨日に鳥見を済ませ、あとの2日はのんびりと昼酒でも煽りながら読書と洒落込もうと思っていた。ところが、今朝起きるとそれはまた爽やかな秋晴れ。こうなると屋内にはいられない性分なので、自転車に跨って市内の川へ出向いた。
 昨日の海岸部では、ヒドリガモやホシハジロをはじめ渡来組のカモ類も一通り顔を揃えていたが、ここではまだまだのようで、数羽のコガモやヒドリガモ、カワアイサをのぞくとほとんどが繁殖組のマガモとカルガモである。それでも、暑くもなく寒くもない川辺に腰を下ろしてカモの行動を観察する楽しみは変わらない。マガモやカルガモは、一般に昼間水面で休息して夜間に採餌に出かけるので、昼間はあまり餌を食べないと言われるが、ここではかなりの数が採餌に勤しんでいた。そして、その方法は千差万別で、見ていて飽きることがない。


コガモの飛翔
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カワアイサ(メス)
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 淡水ガモ類の採餌法は、水面や陸上からのついばみや濾しとり、逆立ちして水底の餌を採るなどが主流で、眼前のマガモやカルガモもその方法で思い思いに餌を食べていた。しかし、しばらく観察していると、マガモの中に2つの普段見せないような、変則的ともいえる採餌法を行なうものがいることに気が付いた。
 一つは潜水である。これは、以前「ヒドリガモの潜水採餌」として紹介したのとまったく同様で(ちなみに場所も同じ)、翼をすぼめて勢いよく潜水し、水底の水草をくわえて浮上し、水面で食べる方法である。体の構造が潜水に適していない淡水ガモは、すぐに浮いてしまうため、一瞬で水草を採るのが肝心なようで、潜水前に狙いを定めるかのごとく水中を覗いている個体も多かった。また、水中への首伸ばしや逆立ちの延長にある方法のようで、それらで事が足りる時はそれで済まし、少し深い所になると潜水を用いている印象を受けた。くわえてきた水草を食べた後は、水浴びや羽ばたきで羽毛の調子を整えると、潜水なり逆立ちなりその水深に合わせたやり方で、再び餌採りに精を出していた。


マガモの潜水(その1)
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マガモの潜水(その2)
勢いを付けて潜るため、かなりの水はねがある。
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浮上(マガモ・オス)
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 もう一つの方法は、飛びつきである。これは水面から首を伸ばして陸上に生えている草の穂や種子をついばむ方法の延長で、首を伸ばしてのついばみ自体はごくありふれた採餌法である、しかし、何羽かのマガモはこれに飽き足らず、さらに高い箇所の餌を採りたくなったようで、水面からジャンプしてそのまま数十cm上まで跳ね、そこの草からついばむことを行なっていた。一見遊びのように見えるこの方法を、当の本人はかなり気に入っているらしく、何度もトライしていただけではなく、その場所にカルガモが近付くと追い払う始末だった。まるで、「俺のシマに近付くんじゃねぇ!」と言わんばかりに。


首を伸ばしてのついばみ(カルガモ
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マガモのジャンプ式採餌
水面から数十cmは飛び出している!
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 今回観察した2つの一風変わった餌の採り方は、日常行なっている方法を少々応用したものといえる。したがって、当然と言えば当然なのかもしれないが、この辺りの柔軟性が、マガモが幅広い環境や地域で生きてゆける資質となっているように感じた。カモ類は日本の多くの地域で数の多い冬鳥である。その採餌行動や求愛行動にも目を向ければ、単なる種の識別だけでは味わえない彼らの生活の一端を垣間見ることができる。そして、それこそがバードウオッチングの魅力(の一つ)であろう。


羽ばたき(マガモ・オス)
羽毛に纏わりついた水滴を振るい落とし、再度潜水に挑む。
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(2006年9月17日   千嶋 淳)


十勝平野・初秋の鳥たち~日々の野帳から~

2006-09-15 22:30:15 | 鳥・秋
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All photos by Chishima,J.
霧雨の牧草地で憩うヒシクイの群 2006年9月 北海道十勝川下流域)

9月2日
 快晴で陽射しは強いが、吹き抜ける風が心地よく、前週までの蒸し暑さはない。水辺で2羽のコガモを見る。繁殖や越夏している種をのぞけば、今期初のカモ類。
渡来直後のコガモ
2006年9月 北海道中川郡幕別町
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                  *
9月10日
 十勝川を遡ってきた霧が、所によっては霧雨となって地上を濡らしている。
 120羽ほどのコムクドリが住宅地の電線に止まっていた。この悪天候で足止めをくらっているのか。コムクドリは8月中にはほぼいなくなるものと思っていたが、そうでもないらしい。雄の姿も多いが、よく見ると綺麗な成鳥の雄は少なく、どこか薄汚れたような色のものが多い。第1回冬羽へ移行中の幼鳥である。
 海岸部では霧雨はさらにひどくなっていた。ミストシャワーの如く原野を煙らせているその景観の中、牧草地に60羽近いヒシクイを発見。カムチャツカからの長途で疲弊したのか、それとも天気が思わしくないためか、休息している個体が多い。春にはこれから始まる生命の躍動の季節を、秋には目前に差し迫った長い冬を、その渡来によっていち早く教えてくれるこの鳥は、十勝の鳥見人にとっては特別な存在だ。
 帰路、電線に鈴なりになった約500羽のムクドリに出会う。コムクドリほど遠方への渡りをしないせいか、10月頃まで残っている個体が多い。何かのはずみで一斉に飛び立つと、そこかしこに黒い雲塊が形成され、しばしの間喧騒に包まれる。


コムクドリ(オス・幼鳥)
2006年9月 北海道中川郡豊頃町
頬がうっすらと赤褐色を帯び、風切や雨覆は金属光沢のある黒色の羽に換羽中。
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ムクドリの大群
2006年9月 北海道中川郡幕別町
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                  *
9月11日
 市内の幅10メートルにも満たない小さな川でカワセミを見る。繁殖期が終わったためか、この時期各地の川や沼でカワセミを見る機会が増えるような気がする。


カワセミ(オス)
2006年9月 北海道帯広市
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                  *
9月13日
 収穫の秋を迎えた農耕地を脇に見ながら海岸を目指す。ある畑には一面にイヌタデの淡紅色が美しい。刈り取られた牧草地や畑に現れるタンチョウの数が、また一段と多くなった。


ピンク色の絨毯(イヌタデ
2006年9月 北海道十勝川下流域
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牧草地のタンチョウ
2006年9月 北海道十勝川下流域
刈り取った牧草を集めたロールとともに。
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 爽やかに晴れ渡った浜辺には、アキアジ(サケ)釣りの竿が乱立している。 それでも休日ほどの混雑はなく、所々に鳥の姿が散見される。


秋の浜辺
2006年9月 北海道十勝郡浦幌町
チュウシャクシギのシルエットの背後には、多数の釣竿と釣り人の車。
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 100羽以上のカモメ類の群に近付くと、「ウミネコとオオセグロカモメだろうな」という予想に反してウミネコとセグロカモメがメインだった。もうセグロカモメも来ていたか…。道内でも繁殖しているオオセグロカモメやウミネコとは対照的に、セグロカモメの繁殖地は遥かユーラシア大陸の最北部。日本の大部分の地域では冬鳥だが、十勝では9~10月頃に多数が通過して行く旅鳥である。9月前半の渡来は、極北の短い夏の裏返しだろうか。


セグロカモメウミネコ(右)(成鳥)
2006年9月 北海道十勝郡浦幌町
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 1羽のチュウシャクシギが、こちらへ歩いてきた。浜辺に腰を下ろして観察していると、よほど腹を空かせているのか、採餌に夢中のあまりどんどん距離を縮めてくる。嘴が短く、湾曲もより小さな幼鳥である。しばらくは私の眼前で砂中を嘴でまさぐっていたが、ふとした拍子に目が合うと、バツが悪そうに元来た方向へ足早に歩き去った。ちなみに、腰を下ろしてじっとしていると、意外なほど近くに寄ってくれることが多く、砂浜や湿地など車が入れない場所での観察・撮影には有効である。やはり、生身の人間が立ち上がったシルエットが、鳥にとっては一番恐ろしいのだろう。


チュウシャクシギ(幼鳥)
2006年9月 北海道十勝郡浦幌町
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キトンボ(オス)
2006年9月 北海道帯広市
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(2006年9月15日   千嶋 淳)


斬り合い??

2006-09-10 16:34:16 | 鳥・一般
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All photos by Chishima,J.
キリアイの幼鳥 2005年9月 北海道勇払郡鵡川町(当時))


 早いもので9月も三分の一が過ぎ去り、日ごとに夏の存在感が薄くなっていくような気がする。わが国では大部分が旅鳥であるシギやチドリの渡りは、8月後半の成鳥のピークを終え、すでにシーズンの後半に入っている。それなのに、今年は怪我をしていたこともあり、ほとんどシギチを見に行けていないのが残念でならない。7月下旬に野付で渡りの走りを見た(「秋の気配」)以降、繁殖しているコチドリやイソシギを除くと、最近見たのはクサシギとトウネンくらいだろうか…。

クサシギ(幼鳥)
2006年9月 北海道河東郡音更町
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トウネン(幼鳥)
2006年9月 北海道十勝郡浦幌町
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 仕方ないので、図鑑やインターネットでシギチの絵や写真を見ての疑似体験で自分を誤魔化している。近頃はインターネットの普及で、家にいながらにして全国各地、否全世界の鳥の画像が見られるようになったのだから、便利なものである。それでも、気が付くと「フィールドガイド日本の野鳥」(高野伸二著)の図版を眺めていたりするから面白い。きっと、この本でほとんどの鳥を覚えた、いわば原点みたいなものだからだろう。
 「この本」を初めて手に取った時の感動は、今でも鮮明に脳裏に焼きついている。中でも、ハクセキレイのページは忘れがたく、普通種の本種にほぼ1ページを費やして、10点以上のイラストで4亜種を図示しているのには圧倒された。小学校低学年だったが即効親に買ってもらい、取り付かれたように読み耽った。
 とりわけ、シギチのページはよく開いた。この仲間が好きだったことに加えて、内陸の群馬では出会うことの少ない種に対する憧れみたいな感情もあったのだろう。60種以上もいるシギやチドリの中には、ハマシギやアオアシシギなど「名が体を現」したわかりやすい和名もあれば、小学校低学年の国語力では理解不能な和名もいくつかあった。


ハマシギ(冬羽)
2006年2月 千葉県船橋市
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 その筆頭はキリアイであろう。特に深くは考えなかったが時に気になり、「切り合い」や「斬り合い」などという時代劇の中でしかお目にかかれなさそうな光景を頭に浮かべたこともあった。実際には嘴が錐を合わせたようなことに由来することを知ったのは、本物のキリアイと出会う前だったか、後だったか。高校生くらいの頃は、英名のBroad-billed sandpiper(幅広い嘴のシギ)の方が特徴をよく現していて便利じゃないかなどと思ったものだが、今となってはこの粋な和名を付けた日本人の詩心の方が断然上と、心から思う。


休息中(キリアイほか)
2005年9月 北海道勇払郡鵡川町(当時)
まるでクイズのように皆頭を引っ込めている。答えを下に書いておくので、暇な人は挑戦されてはいかが?
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 ほかにも、トウネンやダイゼンなどの意味が当時はわからなかった。トウネンが「当年」で、トウネンの小ささが当年子、すなわちその年生まれの子供ぽいことに由来することはじき知ったが、ダイゼンの語源を知ったのはずいぶん後になってからだった気がする。ダイゼン(大膳)とは宮中の宴会料理であり、肉の味の良いダイゼンがこれに用いられていたことに因る名前らしい。江戸時代中期にはすでに「だいぜんしぎ」の名で知られていたそうである。


トウネン(幼鳥)
2005年9月 北海道勇払郡鵡川町(当時)
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ダイゼン(冬羽)
2006年2月 千葉県習志野市
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 時代は変わってダイゼンが宴会料理に出てくることもなくなったが、ダイゼンだけでなく多くのシギやチドリにとって世の中が住みにくくなっているように感じるのは、いささか哀しいことである。


十勝川・初秋
2006年9月 北海道中川郡幕別町

両岸に河畔林を従えて悠々と流れる水面の奥には、日高の蒼い山並。
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オオアワダチソウの群落。一面の黄色は美しいが、北米原産の帰化植物である。
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オオアワダチソウに止まるベニシジミ
2006年9月 北海道帯広市
そんな帰化植物も、今をしたたかに生きる生き物たちにとっては貴重な資源の側面をもつ。
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(2006年9月10日   千嶋 淳)

参考文献:菅原浩・柿澤亮三編著.2005.図説 鳥名の由来辞典.柏書房,東京.

「休息中」の答え
左からキリアイ、ハマシギ、ハマシギ、トウネン(いずれも幼鳥)。


トンボを捕えたマガモ

2006-09-05 01:17:30 | カモ類
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All photos by Chishima,J.
マガモのメス(手前)とカルガモ 2006年9月 北海道帯広市)


 つい先程まで餌を与えていた人が帰って、大賑わいだった100羽以上のマガモやカルガモの大部分は、水面や湖岸で休息の体勢に入り、市街地にあるこの公園の池は静けさを取り戻し始めていた。私は池のほとりにしゃがんで、徒然なるままにカモたちの就寝を眺めていた。この池ではカモは安全なことを知っているのか、追いかけでもしない限り人のすぐ脇でも普通に休息や採餌を行なっている。

 ふと傍らを、陸の方から2匹のトンボが連結した状態で飛び去るのを認めた。産卵期のトンボは、交尾や産卵のため、このように雌雄が連結して飛んでいるものが多い。青灰色の体とあのサイズは、シオカラトンボだろうか。何となく目が追う。トンボは池の端まで飛ぶと、水面に用事があるのか地表近くまで高度を下げた。同時に速力もいくらか落としたかもしれない。


連結したイトトンボ科(ルリイトトンボ?
2006年8月 北海道帯広市
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シオカラトンボ(オス)
2006年9月 北海道帯広市
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 その時である。すぐ横で熟睡していたかに見えた1羽のマガモの雌が、首を捕虫網のように一振りすると、2匹のトンボを捕え、即座に飲み込んだ。そして、何度か頭部を動かして完全に飲み込む仕草を見せると、まるで何事も無かったかのように瞬膜を閉じ、再び眠り始めた。この間わずか数秒。呆気に取られていたのと見とれていたのとで、もちろん写真は撮れなかった。
 帰宅して調べてみると、マガモは植物質中心の食性だが、季節や地域によっては動物質の餌も割と食べているらしい。ただし、それらは水生昆虫やサワガニ、ザリガニ等といった水生無脊椎動物である。トンボの幼虫(ヤゴ)を食べるのが観察されたことがあるとの記載は見つけることができたが、飛んでいる成虫のトンボを、それも2匹同時に捕えて食べたというような記録は、今のところ見つけられていない。どうやら、まったくの偶然に珍しい場面に遭遇したらしい。


マガモ(オス)
2006年9月 北海道帯広市
エクリプスまたは幼鳥
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アキアカネ
2006年9月 北海道帯広市
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 もっとも、マガモは基本的にオポチュニスティック(日和見的)な食性の持ち主で、目の前にある食べられるものは何でも食べるので、トンボが食べられたこと自体はさして驚くには値しないのかもしれない。ただ、捕える際の動作の素早さは目を見張るものであり、彼らが都市公園で人間に餌付きながら惰眠を貪っているように見えても、実はしっかり「野鳥」であることを、改めて教えられた気がした。


「鴨の雛」その後
2006年9月 北海道帯広市
個体識別しているわけではないので、「鴨の雛」で紹介したのと同一個体であるかはわからない。

マガモ

一見成鳥ぽくなってきたようだが…
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翼を開くと風切はまだまだ生え始め
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カルガモ

だいぶカルガモらしくなってきた雛もいれば
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まだ幼い雛もいる
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(2006年9月4日   千嶋 淳)