鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

「青春と読書」連載②(ゼニガタアザラシ)

2012-03-30 00:26:20 | お知らせ
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Photo by Chishima,J.
ゼニガタアザラシヒト 2011年2月 北海道中川郡豊頃町)


 「青春と読書」(集英社)の連載「北海道の野生動物」。2回目の4月号(3月20日発売)はゼニガタアザラシです。漁港に住み着いた1頭のアザラシと人との関わりについて書いてみました。興味のある方はお読みいただければ幸いです。1冊90円とかなりリーズナブルです。

(2012年3月21日   千嶋 淳)



ホオジロガモ

2012-03-29 23:33:45 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
(以下雑種を除き種はすべて ホオジロガモ 2012年2月 北海道中川郡豊頃町)


(2011年12月5日釧路新聞掲載 「道東の鳥たち33 ホオジロガモ」より転載 写真・解説を追加)


 秋から冬にかけて、川や湖、漁港等の水面はカモ類の姿で賑わいます。マガモやヨシガモ、カワアイサ等道内で繁殖した種にくわえ、越冬や通過のため多くの種類がやって来るからです。今回紹介するホオジロガモもその一種で、北海道周辺ではサハリン(中部以北)や千島列島(択捉島以北)、カムチャツカ半島等で繁殖し、道東には10月中旬頃より飛来して冬を越し、5月半ばまでには渡去します。

 全長45cm、おにぎり型の頭をしたこのカモのオスは、その名の通り頬に楕円型の白斑を持ちます。メスは全身灰褐色で、頬の白斑はありません。和名はオスの頬の白斑から命名されましたが英名はGoldeneyeといい、オスでは黄色、メスでは黄白色の虹彩の色にちなんだものです。また、学名の属名は「牛のような頭」という意味のギリシャ語に由来し、独特な頭の形から付けられたものです。和名、英名、学名のいずれも頭部の特徴からの命名ですが、着眼点はそれぞれ異なっています。漁港や海上、沿岸部の湖沼等海の近くで多く見られますが、大きな河川や湖沼にも生息し、山間部の湖沼に飛来することもあります。


メス(手前)とオス
2012年3月 北海道中川郡幕別町
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 市街地の公園等でも見慣れたマガモと比較すると、大きな相違点が2つあります。一つは餌のとり方で、マガモは水面や陸上で餌をとるのに対し、ホオジロガモは潜水して餌を探します。水草を食べることもありますが基本的には動物食で、甲殻類、昆虫の幼虫、小魚等を食べています。もう一つの違いは水面からの飛び立ち方で、マガモはいきなり飛び立つことができますが、ホオジロガモは助走を必要とします。これは最初の違いとも関連しており、潜水して水中を泳ぎやすいよう脚が体の後方に付いているためです。飛び立った後のホオジロガモが群れで頭上を通過する時、「ヒュルルルル…」と鈴のような高い音を聞くことがあります。これは声ではなく羽音ですが、その音質から英語では「ホイッスル(口笛)」と呼ばれます。学名の種小名は「響き渡る」という意味のラテン語が語源で、これも羽音からの命名です。


潜水するメス
2012年2月 北海道幌泉郡えりも町
翼を閉じて跳躍して潜る。「潜り方」の記事も参照。
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群れの飛翔
2010年12月 北海道十勝川中流域
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 繁殖地では深い森の、湖や川に近い樹洞に営巣するという、ホオジロガモの繁殖を日本で見ることはできませんが、その片鱗なら冬でも見ることができます。1月から3月くらいにかけて「ヘッドスロー」と呼ばれるディスプレイが盛んになるのです。1、2羽のメスを数羽のオスが囲んで、オスは頭を後方に反り返します。この時大きく反り返った頭は背中に付くほどで、フィギュアスケートの「イナバウアー」を彷彿とさせます。当のオスたちは次の繁殖に向けて必死なのでしょうが、傍で見ていると実にコミカルなものです。


ヘッドスロー・ディスプレイに興じるオスたち
2008年1月 北海道広尾郡広尾町
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 カモ類はしばしば近縁の別種と雑種を形成しますが、アイサ類に近縁なホオジロガモではミコアイサとの雑種が観察されています。また、2010年2月から3月には十勝川に本種とヒメハジロの雑種と考えられる個体が飛来しました。ヒメハジロはホオジロガモと同属の小さなカモで北米に分布し、道東には冬期1~数羽が飛来することがあります。ヒメハジロとホオジロガモの雑種と思われるカモは、この個体を含め世界で4例しか記録のない、大変珍しいものです。


ヒメハジロと本種の雑種
2010年3月 北海道中川郡幕別町
「カモ類の珍しい雑種:ホオジロガモ×ヒメハジロ?」の記事も参照。また、同年の「BIRDER」誌8月号には森岡照明氏による解説記事がある。
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(2011年11月29日   千嶋 淳)


エトロフウミスズメ(その3) <em>Aethia cristatella </em>3

2012-03-15 22:36:45 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて エトロフウミスズメ 2012年2月23日 北海道厚岸郡浜中町)


 本種の飛翔時の特徴として、他のウミスズメ類と比べて個体間の距離がたいへん近く、個体が密集した群れは黒い塊のように見える点がある。この特徴は、調査や観察の際に個体数を過小評価しやすくする。冒頭写真の群れは何羽くらいに見えるだろうか?普通の鳥を見慣れた人には30羽くらいに思えるかもしれないが、実は55羽前後で、部分によって個体は何層かに重なる。一連の写真は別の群れ。

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 この小さく見える群れでも、約20羽を含んでいる。この程度の乏しい光量だと嘴、虹彩やその後方の白い羽毛は確認しづらいが、体、翼の上下面とも黒い点は十分特徴となる。気を付けなければならないのは、シラヒゲウミスズメだろう。全長が約7cm違うので、翼の拍動等飛び方に何らかの差が出るとは思うが、シラヒゲを実見したことないので言及できない。下尾筒はエトロフの中にも限りなく白に近く見える個体がいるので、注意が必要。エトロフやコウミスズメを見ていると、Aethia属が増加する2、3月には、少なくとも成鳥では顔の模様に多少は夏羽が出るのでないかと推察される。薄暮時等、更に光量の乏しい条件だとウミオウムも体下面の白色が見えず、紛らわしいかもしれない。


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 飛翔高度は低く、海面すれすれが多い。このように波頭の後ろに個体が隠れることもよくある。翼のみ見えている個体も含め、約35羽の群れ。


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 本種の飛翔群としては割と疎らな方で、群れは列状を成す。ただ、群れの前半はやはり塊状で、総数は約100羽。冬の北日本海上では、年や流氷の状態によりこうした群れをいくつも見ることができるが、航行中の船舶への警戒心は総じて強く、特にフェリーだとこのような見え方が多い。それでも18年前の2月下旬、初めての冬の北海道からの帰路、釧路航路の釧路~十勝沖で出会った数万羽の雲のような群れの衝撃は未だ忘れ難く、海鳥にのめり込むきっかけの一つともなったが、ここ10年以上千~万単位の大群を見れていないのは同航路が無くなったからなのか、飛来数が減少しているのか…。


(2012年3月15日   千嶋 淳)

*一連の写真は、NPO法人エトピリカ基金の調査での撮影。

本種に関する過去記事
エトロフウミスズメ(その1) Aethia cristatella 1
エトロフウミスズメ(その2) Aethia cristatella 2


ミミカイツブリ(その1) <em>Podiceps auritus</em> 1

2012-03-14 23:05:42 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
(以下比較画像のハジロカイツブリを除きすべて ミミカイツブリ冬羽 2012年2月18日 北海道幌泉郡えりも町)

 道東へは冬鳥として10月以降に渡来し、11月後半以降に数が増える。渡来当初は海岸部の湖沼、それらが結氷する12月以降は沿岸部の海上で主に観察される。厳冬期にはハジロカイツブリより普通で、1~3月には漁港にもよく入るが、美しい夏羽に変わる4月以降は海上で1~数羽が観察される程度で、春の渡りピークはよくわからないまま5月中旬までに渡去する。稀に夏期にも観察される。内陸部での記録は、ハジロカイツブリよりずっと稀。
 和名や種小名は、夏羽で目の後方から後頭部にかけて表れる黄金色の飾り羽に因んだもので、米名Horned Grebe(角のような羽毛を持つカイツブリ)も同義。英名Slavonian Grebeは、クロアチア東部の地名(Sava川、Drava川、Danube川に挟まれたスラヴォニア地方)に由来する。同一種に対する英名と米名は多くの種やグループで異なっており、国際鳥学会議(IOC)の支持を得た「世界の鳥-推奨される英名(Birds of the World. Recommended English Names)」のような本は出版されても、なかなか世界共通の英名が普及しない背景である。ちなみに上記のリストは基本的に米名寄りで、本種についてはHorned Grebeを「推奨される英名」としている。

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 全長31~38cmとハジロカイツブリより少し大きいが、冬羽では白黒を基調とした中型カイツブリ類という点ではよく似る。本種は総じて白っぽく見え、顔の下部や前頚で特に顕著。前頚が白く目立つのは、同部分が黒っぽいハジロカイツブリとの識別にそれなりの距離からも有用な特徴であるが、換羽中の本種は前頚まで暗色に見えることがあり、第1回冬羽でも暗色の羽が混じることがあるようなので注意は必要。全体的な印象としては、ハジロカイツブリはカイツブリにより近い、コンパクトでふっくらした体型で、本種はサイズこそ違えどアカエリやカンムリといった大型種に近い、スリムなプロポーションを持つ。


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 正面顔のアップ。虹彩は赤く、瞳孔は黒い。その間に淡赤色の部分があるが、これは余程の近距離でないとわかりづらい。正面から見た嘴は細長い三角形で、鼻孔は上嘴基部付近の左右で横長に開口する。嘴基部は淡色に見え、前頚がやや暗色なことと合わせて若鳥なのかもしれない。近距離では、ハジロカイツブリとの識別は頭部周辺に着目するとわかりやすい場合が多い。以下に比較画像を示す。


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 頭部周辺での両種の主要な識別点は、下記の通り。ハジロカイツブリの撮影データは画像中に示した。
①嘴:ミミカイツブリの上嘴は先端付近でやや下曲し、下嘴はまっすぐなため直線的に見え、ハジロカイツブリのそれは下嘴が膨らみを帯び、上に反って見える。ミミカイツブリの嘴先端は黄白色であるが、ハジロカイツブリにそれはない。
②顔周辺:ミミカイツブリの前頭部は緩やかに頭頂部へ向かい、通常目より後方にピークがあるのに対し、ハジロカイツブリは額が切り立っていて目かその前方にピークがある。ハシボソミズナギドリやシノリガモの頭部に近いイメージ。ただし、鳥の姿勢や羽毛の膨らませ方によって見え方は異なるので注意。
 ミミカイツブリの目先から嘴基部にかけては赤色の裸出部が線状に顕著だが、ハジロカイツブリでは認められない(近距離でないとわかりづらい)。
 顔の白黒の境界線はミミカイツブリでより顕著で、同種の黒色部は目のラインまでしか達しないが、ハジロカイツブリの目の下方まで達する黒色部は後下方へ伸び、顔の白色部はより狭く感じる。また、白黒の境界は不明瞭で褐色みを帯びた部分が存在する。
③前頚:ハジロカイツブリは首全体が暗色に見え(英名や種小名の通り)、ミミカイツブリは白黒がきっぱり分かれる。ただ、若鳥や換羽中の個体は多少不明瞭になり、本個体もそれにやや近い。この部分は距離や光線条件によっても見え方が変わる。


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 顔の白色部は後頚まで達するが、頭頂部からの黒色とは明瞭に区別される。ハジロカイツブリの白色部はもっと狭く、後方からはより暗色に見える。そこだけに着目すると本種は、アカエリカイツブリ夏羽やウミガラス冬羽のその部分にむしろ近い印象。


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 翼を使わず跳躍して水に潜り、潜水中も翼は使用しない。脇は白色で灰褐色の羽毛が散在し、腹は白い。


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 脚は体の最後方に位置し、陸上での移動は苦手。カイツブリ類の脚は、各趾ごとに幅広い葉状の弁膜が付着する弁足。画像では右脚内趾(第2趾)の弁膜が、外趾(第4趾)に外側から被さる形で見えている。


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 水中での弁足の見え方。脚は黒色だが外縁は黄色~白色。黄、白色部分は死後失われると思われ、標本では確認しづらいだろう。カイツブリ類の尾羽はごく短い綿羽から成り、体羽とほとんど区別しがたい。


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 左はウミアイサのオス幼鳥。サイズはずいぶん異なるが、潜水して魚類を捕食することに適応した細長い嘴や首、流線型の体等はアビ類やウ類等とも共通している。


(2012年3月14日   千嶋 淳)



ウミバト(その5) <em>Cepphus columba</em> 5

2012-03-13 23:47:51 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ウミバト 2011年2月3日 北海道根室市)


 図鑑で見る本種冬羽のイラストは、このように全身白っぽいものが多いが、実際ここまで白い個体は厳冬期でもかなり少なく、10~数10羽に1羽程度であろう。道東近海で見られる個体としては、かなり白い方だと思う。全身黒っぽく、一見ケイマフリのような個体の方がはるかに多い。本個体との出会いは最初から最後まで非常に距離があったので、写真の画質が悪いのは御容赦願いたい(一連の個体は同一)。頭から首、胸、腹にかけてと腰はほぼ純白で、目と周囲の黒色が1つの「点」としてたいへん目立つ。背周辺の上面は淡い灰色で、肩羽には白いラインが形成される。黒色の翼上面に出る白斑は大きく、次列雨覆のほぼ全域に及び、遠くからでも目立つ。白斑内を中雨覆の先端が黒色線として分断するが、外側2/3程度で黒線は消失し、白斑は繋がる。これらの特徴は亜種アリューシャンウミバトと符合するが、そもそもその亜種が存在しているか、しているとしてそのような形態で分けられるかは聊か疑問である。尾羽は黒く、脚は鮮やかな赤色。


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 あまりの白さは北極海や大西洋にいるハジロウミバトを想起させるが、同種であれば翼下面は白い(例えば「The Crossley ID Guide」に掲載されている画像を見ると、風切と翼前縁の細いライン以外は白く、ウミガラス類のそれに近い印象を受ける)。本種やケイマフリの翼下面は、中央部の一部を除いて暗色で、白色のボディとコントラストを形成する。


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 飛び立ち直後のこの画像を見ると、腹部の下方には黒い羽がうっすらと鱗状に現れている。夏羽への換羽が始まっているのか?


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 海上に降りていても白さは顕著。ただし、距離があって大きさが把握できないと他の白っぽいウミスズメ類、例えばウミガラス冬羽やコバシウミスズメのように見えるかもしれない。特にこの個体は嘴が短く見えるせいか、飛翔時でも海上でも角度によってはウミバト属ぽくない寸詰まりな体型の印象を受ける。


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 翼は体の中央部に位置する。首をすぼめているのか同部分がたいへん短く見え、本属に特徴的な海面に対して体軸が斜め上方を向いたシルエットを示さない。撮影時にはもちろん気付いていなかったが、背後の海上にもう1羽ウミバトがいる。その個体の顔の上側や後頚は灰色で、一連の個体より全体的に暗色な印象だが、それでも淡色な方である。


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 首を伸ばしたのか、一連の写真の中では喉から胸にかけての勾配が急で、本属らしい飛翔シルエットを示している。雨覆の白色は、初列中雨覆の羽先にも及んでいるようである。


(2012年3月13日   千嶋 淳)