鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

飛んでいるカイツブリ類を見分ける

2011-05-13 12:25:14 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos & Illustration by Chishima,J.
海上を飛ぶ5羽のアカエリカイツブリ 2011年5月 北海道十勝郡浦幌町)


日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより174号」(2011年4月発行)より転載 一部を加筆、修正、写真を追加)


 カイツブリ類は、とりわけ非繁殖期に海岸や船上から観察する時には、移動や渡りのため飛んでいる姿もよく見かけます。水面に浮いていてもハジロとミミのように識別に手を焼くカイツブリ類を、飛翔で見分けるなんて至難の業と思われるかもしれません。しかし、着目点を明確にすることによって水面より簡単に識別できる場合もあるのです。そんな方法を簡単に紹介します。
 海上を飛んでいるカイツブリ類を的確に識別するには、まずそれをカイツブリ類と認識することが必要です。実はこの過程をクリアしてしまえば、正解にかなり近付いたも同然です。カイツブリをのぞく4種は、次列風切をはじめ翼の上面に白色の部分が必ずあります。ここが他の海鳥との、またカイツブリ類内での識別に大きく役立ちます。グループを絞る段階で紛らわしいのは、ウミアイサやビロードキンクロ、ホオジロガモ等、翼上面に白色部のある海ガモ類です。これら海ガモ類は、特にウミアイサではシルエットも一見似ていますが、翼の拍動が速く、まさにカモ類のものです。また、冬羽のカイツブリは体下面が白色ですが、海ガモ類ではそうでないものが少なくありません。ただし、夏羽やそれへの換羽中のカイツブリ類は注意する必要があります。逆光や薄暮時には白色が目立たないので、こちらも注意が必要でしょう。そのような光条件下では、アカエリやカンムリのような大型種は、アビ類と誤認する可能性があります。翼の拍動の速さはアビ類とカイツブリ類では違いますから、普段から見慣れておくと良いでしょう。また、同条件下でハジロ、ミミの中型種は、中型ウミスズメ類と混同する恐れがあります。こちらも翼の拍動や大きさ、全体的なシルエットの違いを日頃から意識しておくことで違いがわかります。鳥の識別というと羽の色や模様等、細かい点を仔細に観察するイメージがあるかもしれませんが、こと海鳥では大きさや飛び方といった、その種が醸し出す雰囲気のようなもの(英語でjizzといいます)が重要な場合が多々あります。ただ、観察条件が悪く、翼上面等決定的な識別点が確認できない時には、あえて種やグループを特定しないことも、カイツブリ類に限らず大事です。
 次に種ごとの特徴をみてゆきましょう。

①カイツブリ
 科中では最小で翼開長は40~45cmと、ウミスズメ(40~43cm)とほぼ同サイズです。翼は短くて先端は丸みを帯び、拍動は大変速く、一生懸命な感じです。内側次列風切の先端が点状に白くなっていますが、よほどの至近距離でない限りわかりません。そのため、カイツブリ科では唯一、白色部のない翼上面に見えます。この点や大きさ、翼の拍動等から他のカイツブリ類と見誤ることはまずないと思います。むしろ、遠くを飛んでいて嘴や顔がよく見えない状態では、小~中型のウミスズメ類と混同する恐れがあるかもしれません。もっとも私は、海上を飛翔する本種をこれまでに観察したことはありません。北海道では夏鳥として渡来するものもいるので、海上も飛んでいるのは間違いないはずですが、どうやら夜渡っているらしいのです。川や沼では危険を感じた時も基本は潜って逃げますが、時折助走後に飛び立って短距離を飛ぶことがあります(写真も帯広川)。その際も独特の体型や飛び方で、他の水鳥と混同する可能性は低いでしょう。


カイツブリ(冬羽)の飛び立ち
2010年11月 北海道帯広市
川や湖沼で逃避のため低空を短距離飛ぶこと以外で、本種の飛翔を見る機会は非常に稀。
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②ハジロカイツブリ
 本種もカイツブリ同様、主に夜間に渡っていると思われ、海上を飛んでいる姿を見る機会は極端に少ないです。そのため、飛び方や見え方については言及できません。56~60cmと、コガモ(53~59cm)とほぼ同じ翼開長です。翼上面の後縁は、次列風切から初列風切の内側にかけて幅広い白色部があり、次列風切のみ白いミミカイツブリよりこの部分は広く見えます。この部分以外の翼上面に白色部はなく、基部の前縁に縦方向(体軸と平行)に白色部のあるミミカイツブリとは異なっています。ヨーロッパの図鑑によると、飛び方だけで本種とミミカイツブリを見分けるのは困難だが、本種は体の後半部がより重そうな印象を与えるとのことです。


ハジロカイツブリ(冬羽)の飛翔(イラスト)
写真ストックの中に本種の飛翔は無く、下手なイラストで御容赦願いたい。
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③ミミカイツブリ
 翼開長59~63cmでウトウ(63cm)とほぼ同大、ハジロカイツブリより僅かに大きいものの、野外では違いはわからないと思います。翼の拍動は速く、カモ類やウミスズメ類を彷彿とさせます。翼上面の白色部は、次列風切(ハジロでは初列内側まで及ぶ)と基部の前縁側にあります。後者は縦(体軸と平行)方向の細い白色部で、横(翼先端側)方向に著しく延びない点がアカエリやカンムリと異なります。冬羽では白黒のコントラストが強いので、後方など首が見えない角度からだとウミスズメ類等と混同する可能性があります。また、横から見ると首が長く、アカエリカイツブリを小さくしたようなシルエットをしているので、大きさや飛び方を総合して判断することが大切です。本種は飛翔中にしばしば頭を持ち上げて周囲を見渡し、時には足も高く上げて「胴体着陸」でもするようなコミカルな姿勢を示すそうです。まだ見たことありませんが、いつか出会ってみたいものです。


ミミカイツブリ(冬羽)の飛翔
2011年2月 北海道十勝郡浦幌町
警戒心が強いのか、海上に出ても遠くを飛ぶ姿しか見られない。ハジロカイツブリより白黒のコントラストがはっきりしているのも本種の特徴。
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ミミカイツブリの飛翔
2010年4月 北海道十勝郡浦幌町
顔から首にかけて黒みが強く、ハジロ的に見えるが翼上面のパターンはミミのものである。首の一部に白色部も見られることから、冬羽から夏羽への移行中か。
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④アカエリカイツブリ
 翼開長77~85cmで、ウミアイサ(69~82cm)、カワアイサ(78~94cm)とオーバーラップしています。ただし、翼の拍動がゆっくりで直線的なため、より大きく見えます。翼上面の白色部は、次列風切と基部付近の前縁にあります。後者は翼の先端側にもせり出して中央辺りまで及んでいる点が、ミミカイツブリと異なります。飛翔時に頭と首のラインがまっすぐに見える(ただし、垂れ下がらせることもできる)点がカンムリカイツブリとは異なり、体に対して頭と首が安定しているのがミミカイツブリ(しばしば頭部を動かす)と異なるそうですが、これら2種の飛翔観察経験が乏しい私にはよくわかりません。本種は、道東近海では飛んでいる姿を見る機会が最も多いカイツブリ類(ミミカイツブリは、数の割に飛翔を見ない)ですから、本種の大きさや飛び方、翼のパターン等を「ものさし」として身に付けておくと良いでしょう。


アカエリカイツブリ(夏羽)の飛翔
2010年4月 北海道厚岸郡浜中町
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アカエリカイツブリ(冬羽)の飛び立ち
2011年2月 北海道十勝郡浦幌町
翼上面のパターンにくわえて、黒色部多く、体下面もくすんで見えるのがカンムリの冬羽とは異なる。
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アカエリカイツブリ(夏羽)3羽の飛翔
2011年5月 北海道十勝郡浦幌町
先頭と後尾は首を下げて、真ん中の個体は首を上げて飛んでおり、シルエットは異なる印象を受ける。
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⑤カンムリカイツブリ
 翼開長85~90cmですから、カワアイサの大型個体と同じくらいでしょうか。ただし首が細長いため、より大型に見えます。飛び方は直線的で、浅く速い拍動を持ちます。首から先が長いため、体の前半部が長く見え、また高く飛翔する時はアビのように首から頭部を垂れ下げます。翼上面の白色部は次列風切と基部から雨覆にかけてあり、後者は縦(体軸と平行)方向にも横(体軸と垂直)方向にも大きく広がり、5種の中で白色部は最も広くなっています。この広い白色部と、冬羽では顔や体下面も白いので、全体的に非常に白っぽく見えます。


カンムリカイツブリ(冬羽)の飛翔
2006年3月 青森県八戸市
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                   *
 風、波の影響を受ける海岸や船上で、飛んでいる鳥の翼のパターンをしっかり見るのは、最初は難しいかもしれません。その時にはカメラが有用です。最近の一眼レフはオートフォーカス精度も優れていますから、シャッタースピードを上げてブレないよう気を付けながら撮影しておけば、後日判定できるかもしれません。本稿のミミカイツブリ写真は相当遠くを飛んでいたのを撮影し、著しくトリミングしたものです。画質は酷いものですが、翼上面のパターンはしっかり写り込んでいました。ただ、大きさや飛び方といったものは現場でしか体得できないので、こちらもおろそかにしないようにしましょう。
 翼のパターンに関する知識は、思わぬところで役に立つことがあります。その一例が漂着物の観察や調査です。海岸には海鳥の死体もよく漂着しますが、腐敗や他の鳥による捕食等によって羽毛が残っているのが翼だけ、あるいは翼しかないということもよくあります。そんな時に翼のパターンに関する知識が物を言います。これは海ガモ類やウミスズメ類についても当てはまります。


(2011年4月13日   千嶋 淳)



十勝のカイツブリ類(後半)

2011-05-10 16:10:30 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
カンムリカイツブリの冬羽 2011年2月 北海道幌泉郡えりも町)


日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより174号」(2011年4月発行)より転載 一部を加筆、修正、写真を追加)


④アカエリカイツブリ
 ヨーロッパから西シベリア、ロシア極東、北アメリカ北部で繁殖し、冬は南へ渡ります。日本では北海道北部、東部でのみ繁殖し、九州以北の主に海上へ冬鳥として渡来します。以前は道央のウトナイ湖や厚真大沼でも繁殖していましたが、現在は途絶えています。理由として、ウトナイ湖では野生化したコブハクチョウが湖面で繁殖を始めた影響が指摘されています。繁殖地のある十勝地方では、ほぼ一年を通じて観察可能な鳥です。
 4月上旬、氷が解けるとすぐに繁殖地の湖沼へ飛来します。十勝では十勝川下流沿いや海岸部の湖沼が繁殖地となっており、2004年の調査では31ヶ所のうち13の湖沼で繁殖、4つの湖沼へ短期的に飛来しました。その後見付かった地点やアプローチが困難で未確認の繁殖地を考慮しても、十勝での繁殖地は20ヶ所程度でしょう。湖沼に戻ってしばらくは、ディスプレイや闘争に明け暮れます。これらは「ケレケレケレ…」というけたたましい鳴き声や、雌雄が嘴を合わせたり、立ち上がって水面を並走する等多様な行動とともに繰り広げられ、見ていて飽きることがありません。5月下旬に湖沼では個体数が最大になった後、安定します。なわばりを持てなかった個体が沼から排除されたのだと思われます。また、5月下旬までは海上でも普通に観察されるため、更に北で繁殖する個体も含まれているのでしょう。


アカエリカイツブリ(夏羽)
2008年5月 北海道十勝川下流域
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 早いつがいでは、6月下旬よりヒナが出ます。幼いヒナは親から頻繁な給餌を受けながら水面を泳ぎ、疲れると親鳥の背中で休みます。水面を覆うネムロコウホネの黄色い花を背景に、また今を盛りと鳴き競うコヨシキリの囀りをBGMにアカエリカイツブリの子育てを観察するのは、初夏の十勝ならではの贅沢です。ただし、ヒナが飛べないぶん親鳥は神経質ですし、本種が繁殖している場所はたいていタンチョウも繁殖していますから、十分距離を取って、警戒されないよう観察しましょう。子育ては秋まで続き、カイツブリ同様秋に入ってからのヒナも珍しくありません。 10月17日に、まだ親から給餌を受けるヒナを観察したことがあります。
 カイツブリ類は親鳥がヒナへ餌の取り方を教えた後、しつこくヒナを追い回して独立を促すといわれますが、十勝の海に近いある沼では、まず親鳥が沼から消え(おそらく海上へ出た)、その後しばらく幼鳥だけで暮らしていたことがあります。非繁殖期は海上で生活するため、親鳥の繁殖地への執着が薄いのか、あるいは気候、餌とも海上より安定しているだろう沼をヒナたちに明け渡したのかわかりませんが、興味深い事例でした。


アカエリカイツブリの親子
2007年7月 北海道十勝川下流域
右側の成鳥の背に、一番小さなヒナが乗っている。
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給餌(アカエリカイツブリ
2007年8月 北海道十勝川下流域
幼鳥(右)が親から魚をもらっている。
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 十勝平野は道内でも比較的多くのつがいが繁殖していますが、2004年の調査では、牧草の刈り入れや除草作業、道路や河川の工事等人為的影響による繁殖失敗や巣の変更が少なからず確認されました。また、繁殖地とそうでない沼の環境条件を比較したところ、幅が狭い、形が入り組んでいる等で道路や農地からの距離が近い沼は利用されない傾向がありました。特に十勝川下流沿いの沼は、かつて川や湿地だった場所が、きわめて小面積で農地の中に点在しているため、人間活動の影響を受けやすいものと思われます。
 9月頃には、繁殖を終えた鳥たちが湖沼で数羽規模の小群を形成します。これらは10月下旬まで見られ、同時に10月上旬頃から海上でも観察されます。12~1月には海上の数が増え、漁港にも入ります。これらが道内で繁殖したものかはわかっていませんが、その数を考えると北方から渡来するものも相当数含まれているでしょう。ミミカイツブリ同様、大きな群れは作らず、1~数羽が海上の広い範囲に分散しているため、あまり多いようには見えませんが、根室の納沙布岬では多い日に100羽以上を数えることもあります。今年2月に浦幌町沿岸の海鳥を船で調査した時も、20羽以上が観察されました。したがって、北海道における本種を「夏鳥」と捉えるのは正しくありません。アビ類やカイツブリ類のような、岸から肉眼や双眼鏡で見るには遠く、船での調査で記録されるほど沖には出ない沿岸性の海鳥は、分布や渡来の時期、数に不明な点が多く、油汚染や沿岸漁業による混獲の観点からも、今後もっと注目されるべきです。


アカエリカイツブリ(冬羽)
2006年3月 北海道根室市
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⑤カンムリカイツブリ
 ユーラシア大陸中部、アフリカ、オーストラリア等に分布する、カイツブリ目では最大の種です。日本ではかつて稀な冬鳥として渡来する程度でしたが、大阪湾では1960年代に、それまで普通種だったアカエリカイツブリと入れ替わるように増加を始め、本州以南の越冬数は全国的に増加傾向にあります。現在は、例えば東京湾でも1000羽以上の大群が見られます。1972年、青森県下北半島で繁殖が確認され、1991年以降は滋賀県琵琶湖でも繁殖しています。北海道では数少ない旅鳥または冬鳥として、少数が渡来します。十勝でも同様で、主に10月下旬から5月上旬に、海岸付近の湖沼や漁港で1,2羽がたまに観察されるだけです。育素多沼や幌岡大沼、豊北海岸、大津漁港、十勝港等で記録があります。2000年代以降記録は増加しています(1978~1999年8例以上;2000~2010年14例以上)が、依然数は少なく、観察者や観察精度の増加に伴うものの可能性もあります。根室管内の野付半島、尾岱沼では旅鳥として普通との情報がありますが、具体的な数や季節は不明です。
大樹町生花苗沼では2004年6~7月に2羽、豊頃町湧洞沼では2005年6月に1羽、いずれも夏羽を観察しています。特に前者では雌雄と思われる2羽がしばらく滞在し、繁殖を期待したのですが、確認できませんでした。広大で、入り組んでいるため死角も多い沼ですから、もしかしたらどこかで繁殖の初期段階くらいには達していたのかもしれません。


カンムリカイツブリ(夏羽)
2007年6月 青森県
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(2011年4月13日   千嶋 淳)


十勝のカイツブリ類(前半)

2011-05-09 23:20:02 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
ハジロカイツブリの冬羽 2010年10月 北海道十勝郡浦幌町)


日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより174号」(2011年4月発行)より転載 一部を加筆、修正、写真を追加)


①カイツブリ
 ユーラシア大陸とアフリカ大陸の温帯、熱帯域に広く分布する種で、日本でも北海道から沖縄まで全国に分布します。十勝では多くが夏鳥として4月上旬に渡来して、十勝川中・下流沿いや海岸部の湖沼、流れの緩やかな河川等で見られます。渡来当初は漁港や海上でも見られます。全国的には最も普通のカイツブリ類ですが、十勝ではあまり多くありません。これは、一つには道東、道北が日本周辺の本種の分布の北・東限に当たり、元から数が多くないことによるものと思われます。道東でも東へ向かうに連れて少なくなり、根室管内で現在知られている繁殖地は一ヶ所のみです。さらに、帯広周辺等内陸部では河川の改修や埋立てによって、本種が生息できる池沼や止水域が減少していることが予想されます。ただ、これについては昔の生息状況が記録に残っていない(と思われる)ため、詳細は不明です。
 アカエリカイツブリのような派手な求愛行動こそないものの、繁殖期には「キリリリリ…」と鋭い声でよく鳴き、それによって存在に気付くことも少なくありません。夜間にも鳴きます。7~9月には1~数羽のヒナを連れた家族とも出会います。アカエリカイツブリもそうなのですが、4月に氷が解けてすぐ沼に入って来るものの、ヒナが出て来るのはそれよりずっと後、特に本種は9月頃になってヒナを見ることが多いです。早い時期には卵、ヒナが寒さや洪水で死んでしまうのか、それとも夏の終わりから秋にかけての方が餌条件が良好で、それに合わせて繁殖しているのかはわかりませんが、興味深い現象です。
 9~10月には主に湖沼で小群を形成し、10羽以上になることもあるので、一番目立ちます。沼が本格的に凍るより少し早く、10月下旬から11月上旬までに渡去しますが、数~10羽程度が帯広川河口付近で、カモ類とともに越冬します。


カイツブリ(夏羽)
2007年8月 北海道中川郡豊頃町
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カイツブリ(冬羽)
2010年12月 北海道中川郡幕別町
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②ハジロカイツブリ
 ユーラシア大陸の西部と東部、アフリカ、南北アメリカ等に飛び地的に分布します。日本へは冬鳥として、主に九州以北に渡来します。十勝では大部分が秋に旅鳥として通過し、それ以外の時期は少ないか稀です。渡来期は9月上旬と早く、同中・下旬にかけて数を増します。この時期には海岸近くや河川下流部沿いの湖沼、河川で観察されることが多く、育素多沼や幌岡大沼等海岸から比較的離れた水域や稀に仙美里ダムや阿寒湖等、山間部の湖沼にも現れます。たいてい1~数羽ですが、大面積の湖沼では数十羽になることもあります(例:2004年10月30日 豊頃町湧洞沼50羽前後)。結氷前の11月下旬までに湖沼を去り、多くは南へ渡去するものと思われます。
 厳冬期は波の静かな海上や漁港で見られますが、観察頻度はミミカイツブリやアカエリカイツブリよりずっと低くなります。ただし、海上では10~30羽程度の密集した小群になることがあります(例:2008年2月17日 大樹町晩成海上25羽以上)。3月頃まで時折海上で観察されますが、それ以降あまり見られなくなり、5月に夏羽が観察されることはあるものの、春の渡りは非常に不明瞭です。渡りコースが異なるか、降りることなく通過してしまうのでしょう。
 帯広畜産大学には、2002年8月31日に足寄町で拾得された本種の標本がありますが、メスの幼鳥ということで、おそらく秋の渡りの走りなのでしょう。道東での確実な越夏記録は、ないようです。


ハジロカイツブリ(夏羽)
2008年9月 北海道中川郡豊頃町
ハジロ、ミミともに渡来初期や渡去期には夏羽を見ることがある。
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病気と思われるハジロカイツブリ・冬羽
2008年11月 北海道野付郡別海町
嘴や目の周囲に腫瘍らしきものがいくつも見える。原因はわからないが、海洋汚染など人為由来の可能性もあるだろう。
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③ミミカイツブリ
 ユーラシア大陸から北アメリカの亜寒帯で繁殖し、日本へは冬鳥として全国に飛来します。十勝でも冬鳥で、ハジロカイツブリより遅く、10月中・下旬に渡来します。渡来初期には湧洞沼等の海跡湖で、ハジロカイツブリとともに観察されますが数はずっと少なく、1~数羽、多くても10羽程度です。ハジロカイツブリとは異なり、海岸から離れた湖沼ではまず見られません。11月下旬の結氷までに湖沼を去り、12月以降は波の静かな海上や漁港で観察されます。文献によっては本種を、「稀な冬鳥」や「渡来数は少ない」としていますが、冬の道東沿岸ではアカエリカイツブリと並んで普通のカイツブリ類であり、数も決して少なくありません。体が小さいので波があると見えづらいこと、まとまった群れは作らず、1~数羽が広い範囲に分散していること等から少ない鳥とされがちですが、波の穏やかな日に海上を望遠鏡で眺めてゆくと数十羽が確認されることがあります(例:2009年1月3日 豊頃町トイトッキ海上30羽以上)。根室の野付半島では、200羽以上の大群の観察記録もあります。
 春の渡りはハジロカイツブリ同様不明瞭ですが、それよりはよく観察されます。4月以降は夏羽の個体も観察され、稀に内陸部へも飛来します(2000年5月 帯広市十勝川など)。5月中・下旬までに渡去しますが、2008年7月20日には豊頃町大津の沼で磨滅した夏羽1羽が観察されました。付近で越夏したのか、繁殖失敗等できわめて早く渡来したのかわかりませんが、非常に稀な記録です。


ミミカイツブリ(冬羽)
2007年3月 北海道幌泉郡えりも町
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(2011年4月13日   千嶋 淳)



カイツブリ類とは

2011-05-06 23:18:55 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
魚をくわえて浮上したカイツブリの冬羽 2009年1月 北海道中川郡幕別町)


日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより174号」(2011年4月発行)より転載 一部を加筆、修正、写真を追加)

 カイツブリ類はカイツブリ目カイツブリ科の1目1科からなり、極地をのぞく世界全域から6属約22種が知られています。湖沼や河川など湿地環境に生息する水鳥で、種によっては非繁殖期に沿岸域も利用します。潜水を得意とし、水中で魚や甲殻類、水生昆虫などの無脊椎動物を捕え、水草の葉や種子を食べることもあります。体重130㌘のカイツブリから体重1500㌘のカンムリカイツブリまで、体は小~中型です。日本には2属5種が生息し(繁殖はそのうち3種)、すべての種が北海道また十勝地方からも記録があります(繁殖は2種)。
 カイツブリ類の体の各部を概観してみましょう。細長い嘴は先端が尖り、魚など餌の保持や突き刺しに適しています。翼は短くて丸みを帯び、飛び立ちには助走を必要とします。飛翔技術は高くありませんが、渡り時には長距離を飛ぶ種もあります。南米の高地の湖沼に生息するコバネカイツブリのように、飛翔力を失った種もいます。尾羽はごく短く綿羽のみで、体羽と区別が付きづらくなっています。カイツブリ類を近距離で見ても、尾羽がわからないのはそのためです。足は体の最後部に位置し(*注1)、陸上での直立や歩行は困難ですが、遊泳や潜水には適しています。足首が柔軟で、あらゆる方向に動かすことが可能です。各趾は幅広い葉状の弁膜となっており、自在に動かせる足とともに水を掻いて泳ぐのに役立ちます。このような弁膜を持つ足のことを弁足(べんそく)といい、ほかに弁足を持つ種としてはオオバンやヒレアシシギ類があります。羽色は一般的に雌雄同色で、繁殖期と非繁殖期で羽色が異なり、種によっては繁殖羽の頭部周辺に鮮やかな色や飾り羽が現れます。


カンムリカイツブリ(冬羽)の顔
2011年2月 北海道幌泉郡えりも町
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弁足(アカエリカイツブリ
2010年8月 北海道十勝川下流域
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 カイツブリ類の潜水は、密生した羽毛の間にある空気を排出し、気嚢(*注2)を空にすることによって行われます。そのため、翼や足をばたつかせる必要がなく、餌に静かに接近する、あるいは危険を感じた時に水中へ隠れるのに役立つことにくわえ、エネルギーの消費も最小に抑えることができる利点があります。水中では翼は使用せず、自在可動の弁足が推進力や舵の役割を果たします。


潜水中のカイツブリ
2006年12月 群馬県伊勢崎市
カイツブリの潜水については「モグリッチョ」の記事も参照。
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 種ごとに踊りや鳴き声を伴う多様な求愛行動が発達し、ハクスリー(*注3)らによるカンムリカイツブリの闘争やディスプレイの研究は、初期の動物行動学に大きく貢献しました。巣は湖沼の水面のヨシの生えている中や水中に繁茂する水草の上などに、水草の茎を支柱として草やコケ類で作られ、時にこの支柱がないこともあり、これが「鳰(にお、カイツブリの古名)の浮巣」と呼ばれる所以です。2~5卵を産み、抱卵中巣を離れる際、親鳥は水草で卵を覆い隠します。ヒナは早成性(*注4)で、孵化後すぐ水面へ出、親鳥から給餌を受けて育ちます。巣立ちまで2ヶ月以上を要する種もありますが、これは餌の魚や甲殻類を捕えるのに高度な技術が必要なためと考えられています。


ディスプレイの引き金(アカエリカイツブリ
2010年4月 北海道十勝川下流域
オス(右)がメスに水草や枯れ枝を渡し、それがきっかけとなって鳴き交わしや踊りなどのディスプレイに入る。
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水上の巣(アカエリカイツブリ
2010年6月 北海道十勝川下流域
本種に関しては「十勝川下流・河跡湖の鳥たち-②アカエリカイツブリ」の記事も参照。
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 カイツブリという和名の由来は、「掻きつ潜(むぐ)りつ」、あるいは「つぶり」が水に没する音と考える説があります。古名の鳰(にお)も「水に入る鳥」の転訛・略されたもので、いずれも水に潜る習性に因んだ名前といえます。古来、琵琶湖は「鳰の海」と呼ばれるほどカイツブリが多かったそうですが、そこでの越冬数や営巣密度は近年低下しています。オオクチバスやブルーギルといった外来魚類の増加によって、タナゴやモツゴの仲間などカイツブリの餌となる小型の魚類が減少したことが要因と考えられています。ほかにもオオクチバスによるヒナの捕食や、アカミミガメによる巣の占拠(甲羅干しの場所として)など外来種による影響が報告されており、いくつかの県ではレッドデータブック掲載種となっています。また、十勝川下流のアカエリカイツブリは農耕地内に残存する小湖沼で営巣するため、牧草や雑草の刈り取り、道路工事など人間活動に由来する繁殖撹乱を受けています。ハジロカイツブリ、アカエリカイツブリなど非繁殖期を海上で過ごす種は、船舶からの流出などによる油汚染の影響を被ることがあります。海外に目を向けると20世紀後半の数十年で、中南米のコロンビアカイツブリ、オオオビハシカイツブリ、マダガスカルのワキアカカイツブリの3種が絶滅しました(*注5)。コロンビアカイツブリでは、開発や汚染による生息環境の消失、オオオビハシカイツブリでは移入魚による餌資源の不足が、絶滅の主な要因とされています。カイツブリ類もほかの多くの鳥たちと同様、人間の影響を大きく受ける時代となっています。


ディスプレイ中のアカエリカイツブリ
2010年4月 北海道十勝川下流域
二つ前の写真で水草を渡した直後。まだ寒々しい湖面に「ケレケレケレ…アアア」とけたたましい声が響く。
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*注1:カンムリカイツブリ属の属名Podicepsは、ラテン語で「足のある臀部」、すなわち足が体の最後部に位置していることを意味する。
*注2 気嚢(きのう):鳥類が持つ呼吸器官。肺の前後に気嚢を持つことにより、効率的な呼吸を行うことができる。また、気嚢が内臓や筋肉、骨格にまで入り込むことによって鳥体を軽くし、飛翔を有利にしている。
*注3 ハクスリー:ジュリアン・ハクスリー(Sir Julian S. Huxley,1887-1975)。英国の動物学者、進化生物学者。20世紀中盤の進化の総合説成立に重要な役割を果たした。父方の祖父は自然選択説を強力に擁護し、「ダーウィンの番犬」の異名をとったトマス・ハクスリー。
*注4 早成性(そうせいせい):卵から孵化した時点でヒナの体が羽毛に覆われ、すぐに目も開いて活動できる種を早成性という。カモ、キジ、チドリなど地上性の鳥に多い。対して孵化した時点でヒナは赤裸で目も開いていない、多くのスズメ目鳥類のような種を晩成性(ばんせいせい)という。
*注5:それぞれの種で最後に個体が確認された年、絶滅が確認された年は、コロンビアカイツブリで1977、1982年、オオオビハシカイツブリで1989、1994年、ワキアカカイツブリで1985、2010年。


(2011年4月13日   千嶋 淳)


ヤマゲラ

2011-05-04 16:29:49 | 鳥・一般
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All Photos by Chishima,J.
ヤマゲラのオス 2007年2月 北海道札幌市)

(2011年2月7日釧路新聞掲載「道東の鳥たち23 ヤマゲラ」より転載 写真・解説を追加)


 2、3月の山林は景色こそ冬ですが、鳥たちは近付きつつある春を予感させてくれます。ハシブトガラやヒガラといったカラ類は、高らかな囀りで次の繁殖に備えます。キツツキの仲間が木を激しく叩く、「ドラミング」も聞こえるでしょう。「ピョーピョーピョー…」という、口笛のような尻下がりの声がすることもあります。丹念に探せば、木の幹に垂直に張り付く緑色のキツツキがいるかもしれません。

 声の主ヤマゲラは、市街地でも身近なアカゲラよりやや大型のキツツキです。背中から翼にかけて鮮やかな黄緑色で、それ以外の部分は灰色、オスは頭に赤色部があります。平野から山地の森林に生息し、数は多くないものの、中規模以上の林があれば平地でも見られます。キツツキというと木の幹や枝を穿ちながら餌を取るのが一般的ですが、積雪期以外は地上でもよく採餌し、アリの巣を掘り返して、長い舌を活かして食べます。それ以外の昆虫や木の実、冬に市街地へ飛来し、餌台の脂身を食べることもあります。


地上で採餌するヤマゲラ
2007年4月 北海道河東郡鹿追町
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 山だけに棲むわけでないのに、ヤマゲラの名が付いたのはなぜでしょう?この「山」は「人の住む、中心的な所から離れた山の手」と解釈されています。江戸時代後期には「しまあをげら」とも呼ばれていました。「島に棲む緑色のキツツキ」の意で、どちらの名もヤマゲラが日本では北海道だけにいることに因るものです。本州から九州にかけては、よく似た別種のアオゲラが棲んでいます。一方、世界的にはヤマゲラは、ユーラシア大陸に広く分布しています。このように、ユーラシア大陸と北海道には分布していて、本州以南の日本にいない鳥が、実は何種類もいます。シマフクロウやエゾライチョウ等がそうですし、エナガやカケスは本州とは亜種(同じ種でも姿形が異なり十分に区別できるもの)が異なります。逆に本州以南にいて北海道に分布しない鳥にヤマドリ、キジ等があります。


アオゲラ(オス)
2006年12月 群馬県伊勢崎市
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エナガ(亜種シマエナガ
2010年9月 北海道河東郡音更町
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 津軽海峡が分布の境界線となっているのです。約2万年前の最終氷期、海面が最大で130m低下した際、水深の浅い北海道とサハリンやユーラシア大陸間の海は陸地化して動物が往来したのに対し、水深が深い津軽海峡は海のままで動物が渡れなかったためと考えられています。そのことに最初に気付いたのは1880年、英国人のトーマス・ブラキストンでした。来日するのに妻同伴で雪氷のシベリアを犬橇で横断し、帰国の際は帆船で黒潮に乗って太平洋を北上したという、徹底した探検博物学者だった彼は、貿易商として函館に20年以上居住しながら、日本の鳥獣を精力的に集めました。1000点を超える鳥類標本は、100年以上を経た今も北大植物園・博物館に所蔵されています。そして、生物分布境界線としての津軽海峡には「ブラキストン線」の名が冠せられました。
 ブラキストン線は鳥よりも哺乳類で、より分かりやすいかもしれません。本州以南にいない種はヒグマ、ナキウサギ、エゾモモンガ等、その逆にツキノワグマやニホンザル等があります。鳥は飛翔力があり、種によっては海峡を飛び越えられますが(ヤマゲラも過去に一度だけ、栃木県で捕獲されています)、哺乳類では海峡が移動上の大きな制約となるためです。


カケス(亜種ミヤマカケス
2007年2月 北海道河東郡上士幌町
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ナキウサギ
2006年6月 北海道河東郡鹿追町
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(2011年2月2日   千嶋 淳)