鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

十勝の自然92 ホシハジロ

2016-11-29 22:27:48 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
ホシハジロのオス 背後はオオバン 2015年11月 北海道中川郡豊頃町)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月16日放送)


 国際的な野鳥保護団体「バードライフ・インターナショナル」が作成する絶滅のおそれのある鳥のリスト、レッドリストに今年、カモの仲間のホシハジロが新たに加わり、驚かされました。ホシハジロは、オスでは赤茶色の頭、黒い胸に灰色の体がよく目立つ中型のカモで、潜水して水草やその種子を食べます。ヨーロッパからアジアまで、ユーラシア大陸に広く分布し、日本でも普通の冬鳥として都市公園の池などで見ることができます。

 ところが、ヨーロッパではこの20年あまりで個体数が30~49%も減ってしまったことから、新たに絶滅危惧種に指定されたのです。激減の決定的な理由はよくわかっていませんが、狩猟や水面のレクリエーション利用、湖沼の富栄養化などにくわえ、地域によっては外来種のミンクによる捕食も影響を与えています。ヨーロッパほどではないものの、日本や韓国を含むアジアの個体群も減少傾向にあります。

 たしかに、十勝では春と秋を中心に十勝川やその周辺の湖沼で割と普通で、15年以上前の湧洞沼では秋に1万羽を超える大群が水面を埋め尽くさんばかりでしたが、最近では多くても数百羽程度のまばらな群れしか見られなくなりました。市街地にありながら少数が子育てしていた釧路市春採湖での繁殖も、20年近く途絶えたままです。これらも世界的な減少傾向の反映かもしれません。

 それなのに日本では依然として狩猟鳥のまま、銃口が向けられています。同様に減少著しく近年、国際自然保護連合のレッドリストにノミネートされたクロガモも、日本では未だに狩猟鳥です。日本のレッドリストは、国内繁殖数が少ない種や昔から希少な鳥は網羅していますが、これら2種のカモのように、最近になって危惧されるようになったものの整備が進んでいません。種の保全を目指すのであれば世界的な傾向に目を向け、それらをすみやかに国内での保護に反映すべきです。


(2015年11月15日   千嶋 淳)

十勝の自然91 庭に小鳥を

2016-11-27 12:19:34 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J
庭の餌台に飛来したアカゲラのオス 2015年1月 北海道中川郡池田町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月11日放送)


 小春日和の続いた先週から一変しての日曜日の雪には、間近に迫った本格的な冬という現実を突きつけられましたね。冬は鳥たちにとっても飢えや寒さの厳しい季節。野鳥への餌やりには、感染症が広まるリスクや本来の生態を変えてしまうといった否定的な意見もありますが、私は個人の庭やベランダの範囲内で、節度を持って野鳥に給餌するのは特に問題ないと考えています。森の中ではなかなかじっくり見られない小鳥を、暖かい室内から間近に眺めるのは、彼らを知り、親しむ良い機会でもあります。

 我が家の庭でも11月下旬から3月頃まで、餌台や数台のバードフィーダーを設置しています。果物、小鳥のエサが中心の餌台にはヒヨドリやスズメが、ヒマワリの種を入れて物干し竿から吊るしたバードフィーダーにはシジュウカラ、ゴジュウカラなどがひっきりなしに訪れ、牛脂はアカゲラの大好物です。ただし、ヒマワリは外来植物ですので、近所に広がってしまっていないか、日々の散歩でチェックしています。

 餌台やバードフィーダーを作る際には、あまりに鳥が密集すると糞や羽毛から感染症の広まるリスクが高まるので、餌の量をほどほどにして、定期的に清掃するなど周辺環境を清潔に保つよう心がけましょう。また、近くの木まで持って行ってから食べる鳥もいるので、糞や食べ残した餌でご近所に迷惑をかけないよう、配慮する必要があります。

 時にはハイタカなどの猛禽類がやって来て、犠牲になる小鳥もいるかもしれません。しかし、猛禽も厳しい冬を生き抜くのに必死なのです。自然の摂理に任せましょう。

 以上の話は個人の庭・ベランダで野鳥と親しむための餌やりに関するもので、公園など公共の場所、自然の中での撮影や私物化を目的とした餌やりは厳に慎まなければなりませんし、十勝川温泉のように観光の一環として餌やりが行われている場所では、その場所のルールに従って下さい。


(2015年11月10日   千嶋 淳)

十勝の自然90 シジュウカラガン

2016-11-23 20:13:03 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
シジュウカラガンの群れ 2015年11月 北海道十勝川下流域)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月10日放送)


 多くの鳥が数を減らす中、奇跡とも言える復活を遂げつつあるのが、先週ご紹介したハクガンと、本日のシジュウカラガンです。黒い顔と白い頬が、庭や公園でも身近な小鳥のシジュウカラとよく似ていることからその名がある小型のガン類で、江戸時代には仙台付近でガンを狩ると10羽中、7、8羽を占めたというくらい普通の水鳥でした。

 ところが、明治以降の乱獲にくわえ、繁殖地の千島列島を手に入れた日本が積極的に展開したキツネの放牧が減少に拍車をかけます。毛皮をとるため無人島に放たれたキツネは、本来天敵がいなくて無防備だったシジュウカラガンの巣を襲い、親鳥やヒナ、卵まで食べ尽くしました。そのため、戦後は数羽が渡来するまでに減ってしまいました。

 絶滅を回避すべく、仙台市八木山動物園や日本雁を保護する会が飼育下で生まれた鳥を野外に放し始めたのが1980年代でしたが、越冬地である日本からの放鳥はなかなか功を奏しませんでした。ところがソ連崩壊後の1990年代、カムチャツカに繁殖施設が作られ、旧繁殖地の千島列島での放鳥が日露の共同プロジェクトとして始動すると、状況が一変します。

 日本への飛来数は着実に増え、2014/15年の冬にはついに1000羽を超えました。1つの種が存続するのに最低限必要な個体数が1000とされますので、復活へのハードルを一つ、クリアしたことになります。主に宮城県で冬を越す彼らが秋と春に羽を休めるのが浦幌町をはじめとした十勝川下流域です。

 シジュウカラガンやハクガンが復活の道を歩んでいることは、ともすれば悲観的になりがちな生物多様性の喪失に希望の光を与えてくれますが、経済性だけを優先した人間による自然界の利用や搾取が2種のガン類を絶滅の淵に追いやり、その復活に莫大な時間や手間、資金を要したことは忘れてはならない教訓です。


(2015年11月9日   千嶋 淳)

十勝の自然89 ダイサギ

2016-11-18 17:13:12 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
ダイサギ冬羽 2015年11月 東京都江戸川区)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月9日放送)


 サギをご存知ですか?日々ニュースや新聞を賑わす「振り込め」とか「オレオレ」といった類の犯罪ではありません。嘴と首、足の細長い優雅な水鳥です。本州以南から十勝に移り住んだ方は、身近なサギの大部分が灰色のアオサギであることに驚かれたかもしれません。本州以南の水辺で見られるサギのほとんどが「白(しら)サギ」と総称される、全身純白の数種類だからです。

 白サギは十勝では繁殖せず、春から秋に少数がふらっと飛んで来るだけの珍しい鳥です。その中でも最大のダイサギは割とよく見られ、十勝川下流域や海岸部の湖沼で4月から11月に毎年少数が見られるほか、旧帯広温泉横の池でアオサギと一緒に冬を越したこともあります。アイヌの聖地チョマトーに隣接したこの池は、市街地の国道沿いにありながら多くのカモやサギが訪れる水鳥の楽園でしたが、残念なことに近年、その大部分が埋め立てられてしまいました。

 浅瀬や干潟を歩き、あるいはじっと佇んで、餌の魚を見付けると長い首を素早く伸ばし、長い嘴で捕えます。伸縮自在な首の動きを可能にしているのは首の骨、頚椎(けいつい)。私たちヒトを含む哺乳類の頚椎は、ナマケモノやマナティなど少数の例外を除き7個です。キリンでさえ7個なので、首をしなやかに動かすことはできません。一方、鳥は11~25個の頚椎を持ち、首を器用に動かせます。サギ類は16~20個で、中央付近のいくつかの骨を極端に動かせるので、首を折り曲げることもできます。飛ぶ時には首をS字型に折り畳み、それも高い可動性を持つ頚椎があってこそ。形の似たツルやコウノトリの仲間は長い首を伸ばして飛びますが、サギは頭や首に対して体が小さく、首を伸ばして飛ぶと重心が前に偏ってしまうため、首を折り畳むと考えられます。

 このように、生き物の暮らしを理解するには行動や生態をよく観察すると同時に、骨や筋肉、鳥であれば嘴や翼といった形(かたち)に注目することも大切です。


(2015年11月6日   千嶋 淳)

十勝の自然87 ハクガン

2016-11-17 12:02:34 | 十勝の自然


Photo by Chishima, J.
ハクガン 後ろはヒシクイ(亜種オオヒシクイ 2010年10月 北海道十勝川下流域)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月3 日放送)


 黒い翼先、ピンク色の嘴と足以外の全身が純白で、英名の「Snow Goose(雪のガン)」通りの大型水鳥です。北米と北東アジアの北極海沿岸で繁殖し、かつては日本にも数多く渡来したことは江戸時代の絵画に度々登場し、明治初期の東京湾に舞い降りる群れが残雪のように美しかったとの随筆が残されていることから伺えます。しかし、乱獲や北極海沿岸でのトナカイ放牧による巣・卵の破壊で、20世紀初頭までにアジアへ渡る群れはほぼ消滅しました。

 その復活を賭け、日本、ロシア、アメリカの研究者、保護団体らの国際プロジェクトが動き出したのは1990年代前半。北極海に浮かぶ島にある繁殖地で採取した卵をアジアへ渡るマガンの巣に預け入れ、マガンを里親としてのアジアへの渡りに想いが託されました。

 開始から数年、日本や韓国でハクガンの記録が少しずつ増えます。十勝でも過去1回の単独記録しかなかったのが1995年に浦幌町で3羽確認されて以降、毎年春と秋に少数が十勝川下流域で見られるようになりました。2007年、25羽と2桁へ突入した渡来数は着実に増加し、一昨年には100羽を超え、この秋はなんと190羽以上が飛来しています。多くの人の情熱と努力が、20年以上の時を経て奇跡的な復活という形で身を結ぼうとしています。

 沼が凍る11月後半まで浦幌町三日月沼周辺の十勝川下流域に滞在しますので、麗らかな小春日和の日にでも観察に出かけてみませんか。その際は春にもお伝えした通り、畑や牧草地に立ち入らない、交通量の多い路上に駐車しないなど、地域の方々へ迷惑をかけぬよう、配慮をお願いします。

 十勝を立ったハクガンは東北や新潟で冬を越し、3月に再び戻って来ます。そして、たっぷりと栄養を蓄え、4月末までに極北を目指します。長距離を渡るハクガンにとって、十勝川下流域は長旅の途中で羽を休め、体力を付けるためになくてはならない「奇跡の舞台」なのです。


(2015年10月29日   千嶋 淳)