鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

「北海道の海鳥4 アビ類」発刊のお知らせ

2017-06-30 15:58:42 | 海鳥


 半年以上の長きにわたって放置してしまいましたが、「北海道の海鳥4 アビ類」の発行を機に再開します。今後ともよろしくお願い申し上げます。


 太平洋、オホーツク海、日本海と3つの海に囲まれた北海道には四季折々、世界中から様々な海鳥が飛来します。それらに親しむ一助になればと2013年に刊行を始めた「北海道の海鳥」シリーズも4作目。今年はアビ類です。主に越冬地の日本では地味な冬羽を遠くの海上に見ることが多く、決して人気の高い仲間とは言えませんが、極北でのシャーマニズムと結び付いた神秘的な夏羽や圧倒的な存在感に魅せられたコアなファンが少なくないのも確かです。そして北海道は国内で最も多くのアビ類を、夏羽も含めて観察できる土地。沿岸性が強く、漁港や河口から観察できるのもアビ類の魅力です。「船はちょっと…」と尻込みしているそこのアナタ、まずは本書を手に海岸からアビ類を観察して海鳥の世界にどっぷりハマってみませんか。

 総論では進化、形態、生態、人間との関係などに多くのページを割きました。現在の日本では知名度の低いアビ類も沿岸の漁民には古くから親しまれ、その習性を利用した漁法が栄えるなど共生関係にありました。そんな文化史的な側面も盛り込んでいます。

 各論では日本で記録のある(=世界の)5種すべてについて、各種あたり13~20枚と豊富な写真と最新の知見も取り入れた解説で紹介しています。神経質な鳥なので高画質の写真ばかりではありませんが、角度や気象条件によって変わる野外での見え方、季節、個体により異なる羽色の変異に重きを置いてセレクトしました。

 本書がアビ類、ひいては海鳥ファンを一人でも多く増やすことに貢献できたなら、これに勝る喜びはありません。

著者:千嶋淳 ISBNコード:978-4-9909290-0-8
判型/総ページ数: B5判/44ページ オールカラー 定価: 1,400円(本体)+税
発売年月日: 2016年11月1日
発行:道東鳥類研究所


(総論ページ)


(各論ページ)


*まずは11月5、6日に千葉県我孫子市で開催されるジャパンバードフェスティバル(JBF)にて販売します。私の個人ブースだけでなく、六本脚さんのブースでも取り扱いいただける予定です。その後はweb上や取り扱いいただける店舗での販売となります。それらの詳細は追って掲載します。
(10月31日追記:JBFではHobby's Worldさんのブースでも取り扱いいただける予定です。どうぞよろしくお願いいたします。)

(11月29日追記)

現在、以下のwebサイトや店舗で購入できます。

道東鳥類研究所ネットショップ
② 「北海道の海鳥シリーズ」Facebookページ
Hobby's World様
Amazon様
エコネットワーク様
⑥ (公財)日本野鳥の会様
⑦帯広百年記念館様
昆虫文献 六本脚様

「北海道の海鳥」シリーズFacebookページならびにネットショップ開設のお知らせ

2017-06-29 20:26:08 | 海鳥
 4冊目の発行に合わせて「北海道の海鳥」シリーズのFacebookページを開設しました。新刊に関する情報はもちろん既刊の出版後に得られた知見の補遺やボツになった写真、こぼれ話などを紹介してゆきたいと思いますので、既刊をお求めの方含めよろしくお願いいたします。また、NPO法人日本野鳥の会十勝支部が出版・販売事業を中止したため閉鎖されていた同会のネットショップに代わり、Yahoo上に道東鳥類研究所(我が家の屋号)ネットショップも開設しました。「北海道の海鳥」シリーズはHobby's World様、六本脚様、エコ・ネットワーク様などでもお求めいただけます。皆様の利用しやすい手段で手にとっていただければ幸いです。

「北海道の海鳥」シリーズFacebookページ 

道東鳥類研究所ネットショップ 

ウミネコのパトロール

2016-10-31 23:13:07 | 海鳥

Photo by Chishima, J.
サケ釣りの竿の間に急降下するウミネコ 2016年10月 北海道中川郡豊頃町)

 海岸で子どもたちと遊んでいるとウミネコとオオセグロカモメ、特に前者が海岸線伝いに頻繁に飛んでいる。時期が時期だし移動中なのかなと思っていたが、そのうち双方向へ同じくらい動きがあることに気付いた。どうやら複数のウミネコが海岸を行ったり来たりしているようだ。

 この時期、十勝の海岸にはアキアジ(サケ)釣りの竿が林立する。そうした竿が林立する場所になると飛翔速度を落とし、ホバリング的な飛翔(完全なホバリングではない)を繰り返して時に地上へ急降下する、カワセミの真似事みたいなことをしていた。浜からの投げ釣りにはサンマやイカの切り身を餌として用いるらしい。それらの破片か、釣り人の食事の残骸でも落ちているのだろうか。急降下後に何かをついばむのを何度か見たが、距離があって餌も小さそうで何かは結局わからずじまいだった。

(2016年10月30日   千嶋 淳)

151011 十勝沖海鳥・海獣調査

2016-01-06 21:47:37 | 海鳥

All Photos by Chishima, J.
ミツユビカモメを襲撃するトウゾクカモメ 以下すべて 2015年10月 北海道十勝沖)


 午前遅くから大気が非常に不安定となり、雷や突風も予想されたため、この時期としては早めの午前5時半の出航。4時半に家を出ると、南の空にはオリオン座が煌々と輝いていました。いつの間にか、そんな季節になっていたのです。

 港に着く頃には雲が広がり始めたものの、海況も比較的穏やかで申し分ありません。港を出るとすぐに多くのウミネコやセグロカモメで賑わいます。毎年、秋はこんな感じで沿岸の秋サケ定置網漁業と関係があるのかもしれません。出港して20分もすると、カモメ類にオオミズナギドリやハイイロミズナギドリが混じり始め、いつの間にか優占種として置き換わります。オオミズナギドリ中心の海鳥相は先月と同じですが、フルマカモメ、ミツユビカモメといった寒流系の種も並んで目立ち始めたこと、夏の終わり以降姿を消していた(おそらく北上していた)ウトウが散見され、海ガモ類やアビ類の移動も活発になって来たことが秋の深まりを教えてくれます。

 そして、そのミツユビカモメを虎視眈々と狙うのが天敵のトウゾクカモメ。小型な体を活かした急旋回やきりもみで振り切ろうとするミツユビカモメを執拗に追いかけ、上から下からダイレクトに、また激しい威嚇声で攻撃し、着水すると上から覆い被さるように続く一連のアタックは、猛禽類と呼んで差し支えないくらい激しいものです。中には、まるで助けを求めるかのように船に近付くカモメもいて、それでもなおトウゾクカモメも追いかけて来るので、息を呑むような死闘を手の届きそうな距離で何度も目にすることができました。急な動きを頻発する追撃はトウゾクカモメにとっても負担となるようで、追跡を諦めた個体が海上に降り、水浴びや羽づくろいをして調子を整える姿もありました。

 底曳網漁やトロール漁が行われていなかったためか、アホウドリ類が全般に少なめなのは残念でしたが、復路の水深170m付近で、一緒に調査していた大学生のN君が「アホウドリ!!」の絶叫。指差す方角を見ると、確かに巨大で骨太で…白い!!双眼鏡に捉えた姿は綺麗なアホウドリの成鳥で、カメラに持ち替えた瞬間に死角へ入って、そのまま飛び去ってしまったのは残念でしたが、N君がしっかり証拠画像を残してくれました。若者の優れた反射能力にただただ感謝。アホウドリはほぼ毎年観察されますが、ここまで成鳥か限りなくそれに近い個体の出現は初めてのことです。

 沿岸に戻って来る頃には暗雲が広がり、雨もちらつき始めました。雷を見た人もいたそうです。幸い、港から20分程度の距離までだったので、調査の中断も一瞬で、無事終えることができました。下船後は番屋で旬のアキアジ(鮭)を使ったチャンチャン焼きを囲みながら、話に花を咲かせました。このサロン的雰囲気も本調査の魅力の一つだと思っています。今回は旭川、室蘭など遠方からも参加いただきました。参加・協力いただいた皆様、どうもお疲れ様でした。また、今年度の調査は前田一歩園財団からのご支援をいただいており、こちらも合わせて感謝いたします


トウゾクカモメ



確認種:マガモsp. シノリガモ ビロードキンクロ クロガモ シロエリオオハム アビsp. コアホウドリ クロアシアホウドリ アホウドリ フルマカモメ オオミズナギドリ ハイイロミズナギドリ アカアシミズナギドリ ヒメウ カワウ ウミウ ハイイロヒレアシシギ ミツユビカモメ ウミネコ ワシカモメ セグロカモメ オオセグロカモメ ‘タイミレンシス’ オオトウゾクカモメ トウゾクカモメ ウトウ ハシボソガラス ハシブトガラス ハクセキレイ 海獣類:ネズミイルカ


(2015年10月11日   千嶋 淳)

150924 十勝沖海鳥・海獣調査

2015-12-11 16:37:42 | 海鳥

Photo by Chishima, J.
海上でマミチャジナイを襲うウミネコ 2015年9月 北海道十勝沖)


 午前6時前、朝のすっかり遅くなった漁港で調査用具を積み込んでいると、なんとGPSを忘れて来たのに気付きました。GPSに記録された時間と位置の情報から、動物たちの分布と水深、陸岸からの距離などが明らかにできるため、これは痛手です。幸い、船に装備されたGPSから水深や大まかな航跡を残すことができ、事なきを得ましたが、フィールドワークにおいては一つの忘れ物や確認ミスが致命的となることがあり、大反省。

 海は若干うねりがあったものの穏やかで、水深400m以上まで行くことができました。鳥は概ね少なめで、主なものとしては沿岸の水深20~40mでオオミズナギドリの中規模な帯が見られ、水深200m以深でミズナギドリ類やアホウドリ類2種が散発的に見られた程度でした。まき網船団が厚岸方面の海域に集中しているとの情報があり、アホウドリ類やカモメ類、トウゾクカモメ類などはそちらに分布しているのかもしれません。イカ船団は反対に広尾・えりも沖を目指しているようで、水深100m付近では青森や岩手、道南などからの多くの船とすれ違いました。調査捕鯨のキャッチャーボートが操業していた海域では、実際にミンククジラと何度か出会いました。様々な漁が道東一帯を慌ただしく遊動しながら、冬を前にした海からの恵みを追いかけています。

 全般には低調ながら、当然、興味深い事象もいくつもありました。その一つは7月に引き続き、これまでほとんど観察されなかったコシジロウミツバメが何度も現れたこと。水深40m付近の比較的沿岸域でも見られ、中には着水して羽づくろいらしき行動を示す個体もいました。潮目沿いでは多くのアカエリヒレアシシギ(大部分が幼鳥)も見られました。

 最大のイベントは復路の水深80m前後で起こりました。水平線高くを小刻みな羽ばたきで飛ぶ鳥に「小鳥!」と思ったのですが、数段階かけて降下するとそのまま着水してしまいました。飛び方がウミツバメ類とは異なるし、ヒレアシシギ類にも違和感を覚えながらゆっくり船を近付けて行くと、驚いたことにマミチャジナイ!! 両翼を半開きにして、逃げる気配がありません。明らかに衰弱しているようなので魚釣り用のタモ網で捕獲しようとすると、鳥は水面から飛び立ちました。しかし、100mも飛ばないうちにまた着水してしまいます。これを2度繰り返し、3度目の着水直後、上空からウミネコの成鳥が襲いかかって来ました。ウミネコはまずマミチャジナイの頭をくわえましたが失敗し、次いで尾羽付近をくわえ、尾羽や上尾筒の羽毛をごっそり抜き取りました。自然の成り行きに任せるという手段もあったのですが、ひとまずは捕獲し、港に連れて帰りました。帰港時には羽毛も乾き、かなり元気を取り戻していましたが、尾羽付近の羽毛をごっそり抜かれていて、白昼の港周辺での放鳥はカラスやカモメに捕られる可能性が高いため、参加者の一人の獣医師がひとまず保護しました。

 そのしばらく後、今度はさらに小さな鳥が船の周囲を数度飛んだ後、舳先にいた私の目の前に降り立ちました。わずか数秒の出会いでしたが、黄緑色みの強いムシクイ類でエゾやセンダイとは明らかに異なり、分布や時期を考慮してオオムシクイと判断しました。こちらはその後も数度、船に短時間の止まりを行いましたが、じきに飛び去りました。同様の行動をシマセンニュウで観察したことがあり、フェリー航路では長時間乗船していたやはりシマセンニュウがいたこともありました。降りる場所の無い海上を渡るのが、陸の鳥たちにとってはどれほど体力を消耗させ、また危険であるかを思い知らされるエピソードたちです。

 下船後は番屋で今が旬のサケのチャンチャン焼きを囲んで話に花を咲かせ、一部の有志はその後、十勝川河口で多数のセグロカモメに混じる’taimyrensis’の観察に向かいました。参加、協力いただいた皆様、どうもお疲れ様でした。

確認種:シノリガモ クロガモ アビsp. コアホウドリ クロアシアホウドリ フルマカモメ オオミズナギドリ ハイイロミズナギドリ アカアシミズナギドリ コシジロウミツバメ ヒメウ カワウ ウミウ アオサギ アカエリヒレアシシギ ハイイロヒレアシシギ ウミネコ ワシカモメ セグロカモメ オオセグロカモメ アジサシsp. オオトウゾクカモメ カンムリウミスズメ トビ ハシボソガラス ハシブトガラス オオムシクイ マミチャジナイ ハクセキレイ タヒバリ 番外:ミンククジラ サメ類 シロザケ


(2015年9月24日   千嶋 淳)