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All Photos by Chishima,J.
(アビの冬羽 以下ネズミイルカを除きすべて 2008年4月 北海道中川郡豊頃町)
海岸は春らしい暖かさに包まれていたが、数日来の時化の余韻で砂浜は白い波に絶えず洗われていた。珍しい漂着物やそれに群がるカモメ類の大群を期待したのだが、まだそこまで収まってはいないようだ。カモメ類は沖に散見される程度で、こちらに近寄って来る気配は無い。折角ここまで来たのにと恨めしく眺めていると、波打ち際からごく近い所に1羽の、大型で首の長い海鳥の姿を認めた。双眼鏡の視野に捉えると、予想通りアビである。
まだ冬羽らしい地味な羽を多く残している。若い個体なのかもしれない。アビは十勝沿岸では秋から春まで普通に観察される海鳥ではあるが、これほど岸近くまで寄るのは珍しい。時折来襲する大波に怯えながらも近付いてみる。たまに漁港内や波の穏やかな海岸の岸近くに現れた時には、人の気配を察知すると得意の潜水を繰り返しながら、速やかに逃げてしまうことが多いのだが、今日はあまり逃げる素振りを見せない。高波と波音に視覚・聴覚を奪われているのか、それとも気付いてはいるがこの波では人間が自分の許まで来られる筈も無いことを分っているのか。
はばたき(アビ・冬羽)
背や翼の付け根付近には、本種の特徴である小白斑が散らばっている。蛇足ながらアビ類の中で最小の本種は、助走が必要な他種と異なり、水面から直接飛び立つことができる(ただし、余裕のある時は助走もするようだ)。
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アビは幅せいぜい100~200mのごく狭い範囲を、活発な潜水を繰り返しながら何度も往復していた。潜水の中には突発的な高波を避けるための受動的なものもあるが、大部分は自発的なもので潜水時間も時に1分を超えそうなほど(実際には計ってない)長い。どうやらこの波打ち際で採餌しているようなのだ。もしかしたらこの時化でアビの餌となる小魚や無脊椎動物が沢山、波に押し寄せられる形で岸近くに集まっていて、アビはそれを食べるのに夢中だったのではないだろうか。時化がもう少し収まって来ると、それら生物の一部が海藻等と共に海岸に漂着し、そうすると今度はカモメ類が集まるのかもしれない。
潜水(アビ・冬羽)
漁港内や波の穏やかな海上では、水面から頭を突っ込み、水中を覗き込むような仕草(→オオハムでの写真)をしてから潜ることがよくあるが、今回は観察されなかった。濁って視界が利かないか、事前の確認が不要なくらい餌が豊富なのだろう。
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波間に漂う(アビ・冬羽)
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決して珍しくはないが、たまに岸近くに寄って来て「おっ!」と思うものには、他にネズミイルカがいる。こちらは初冬から早春にかけての、今回のアビとは対照的に、海面に細波一つ立たないくらい穏やか日の、やはり砂浜海岸の波打ち際近くで見られることが多い。1~数頭で同じエリアでの潜水と浮上を繰り返していて、直接観察はできないが休息や遊びではなく、採餌しているようだ。ただ、こちらは時化の後等には出現しないことから打ち寄せられた物目当てではなさそうである。冬には岸近くの浅海に産卵・接岸する沿岸性魚類も少なくないので、それらを狙っているのかもしれない。また、時化の後では2mもの体長を持つ自身が海岸に打ち上がってしまう危険性もあるのだろう。
ネズミイルカ
2008年2月 北海道中川郡豊頃町
詳細な生息状況や生態は不明だが、道東沿岸ではかなりの普通種。カマイルカ等とは違い、水面上へジャンプすることはまず無いので、水面に背中を現す一瞬が観察のチャンス。
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気温が急速に上昇すると同時に、沖からは乳白色の海霧の帯がやって来て、緩やか且つ迅速に一帯を覆った。そして、先刻までありふれた海岸の風景だった流木上のトビや釣り人と協働して世界を神秘的に変えた。霧の季節も近い。
霧の海岸に憩う(トビ・ヒト)
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(2008年4月24日 千嶋 淳)