鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

「青春と読書」連載

2012-02-27 23:30:11 | お知らせ
 集英社から出ている「青春と読書」という本のPR誌に、「北海道の野生動物」という連載を何回か掲載していただけることになりました。2月20日発売の3月号には、タンチョウについて書いています。「北海道の野生動物」とは古くから多くの方が書いて来られた、いわばスタンダードのようなテーマですが、だからこそフィールドでの最前線の情報や近年の人間との関係も交えながらその魅力を伝えてゆけたらと思っています。1冊90円と大変リーズナブルですので、お近くの書店でご笑覧いただき、お気に召したらお手元に携えていただければ幸いです。

(2012年2月27日   千嶋 淳)


シロエリオオハム(その3) <em>Gavia pacifica </em>3

2012-02-26 23:53:33 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて シロエリオオハム 2011年11月18日 北海道厚岸郡浜中町)


 オオハム類の繁殖後の換羽は部分換羽であり、そのせいか換羽のタイミングには個体差が大きく、またその進行も遅い。渡来初期の10月にはほぼ夏羽の個体も珍しくないし、11月以降でもこのように一見茶色と白の冬羽のようで、肩羽や雨覆に夏羽の白斑を残した個体はよく観察される。一連の写真は同一個体。


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 飛び立ち直前。肩羽と雨覆の白斑がよく目立つ。白斑は前者でより大きく、後者では小さく細い。Chinstrapは明瞭で、後頭部から後頚にかけてはやや淡色。


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 本種をはじめアビ類は、主に渡り時期に内陸部の地上で保護されることがある。これは舗装道路等の表面が陽炎や陽光で照らされたのを水面と勘違いして「不時着」したものの、飛び立ちには水面の助走が必要なため(アビを除く)離陸できなくなってしまったものであることが多い。


(2012年2月26日   千嶋 淳)


*一連の写真は、NPO法人エトピリカ基金の調査での撮影。


ホオジロガモ(その3) <em>Bucephala clangula</em> 3

2012-02-16 21:49:47 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下比較画像のメス2点除きすべて ホオジロガモ 2012年2月 北海道幌泉郡えりも町)


 一見メスのようだが全体的に茶色っぽく、特に胸から脇にかけての褐色みが強い。虹彩が暗色で、脚の橙色みが淡いことから前年生まれの幼鳥と考えられる。嘴は全体が黒く、嘴基部と目の間に将来は楕円形の白斑になるだろう白い羽毛が生じ始めていることから、性別はオスであろう。首から胸にかけて白色部が広がりつつある感じも、オスを示唆するものかもしれない。

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 潜水の瞬間。尾羽の各羽先端は擦り切れて内側へ食い込み、V字状を呈す。これはカモ類の幼羽(第1幼羽)の特徴で、マガモやカルガモでは多くの個体が秋の時点で換羽しているが、ヒドリガモやオナガガモ、潜水ガモ類等では割と遅い時期まで残す。


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 羽ばたき時の上面。中・小雨覆に灰白色と黒色が入り混じるのも若い鳥の特徴。


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 本個体とオス成鳥、メス成鳥、同幼鳥との翼上面付近の比較。メス2点の撮影データは画像中に示した。オス成鳥では小雨覆まで及ぶ翼の白色部は、分断されることなく広いエリアとして存在する。メス成鳥では白色部は中雨覆、大雨覆の各先端の黒色により、2本の暗色線に分断される形になる。メス幼鳥では白色部は大雨覆までで、中・小雨覆は灰白色と黒の混合のため、白色部を分断しているのは大雨覆の羽先1本だけに見える。本個体はメス幼鳥と近いが、次列風切、大雨覆の白色部の形、大雨覆羽先の暗色線の不明瞭さ、初列寄りの中雨覆羽先に白色部が出ない点等は、既にオスの特徴を現し始めているのかもしれない。


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 本個体は胸から脇にかけての褐色みが非常に強い。以前、「嘴がオレンジ色のホオジロガモ」「ホオジロガモとその仲間」の記事に掲載した幼鳥と比較しても、褐色みの強さは顕著。個体差なのか、換羽のタイミングの問題なのか…。尾羽の形状は確認できないが、褪色して茶色く見えるのは世代の古い羽の証拠だろう。


(2012年2月16日   千嶋 淳)


ケイマフリとコウミスズメ(その1) <em>Cepphus carbo</em> & <em>Aethia pusilla</em> 1

2012-02-15 22:01:58 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
ケイマフリ(奥の2羽)とコウミスズメ 以下すべて 2011年1月23日 北海道十勝郡浦幌町)


 基本的に沿岸性のケイマフリと沖合性のコウミスズメだが、時にはこうして一緒に見られる時もある。それらはたいていコウミスズメが岸近くまで寄って来てケイマフリの生活圏と重なるもので、逆のパターンはあまり無い気がする。翼開長はケイマフリが67~71cm、コウミスズメが33~36cmと、後者が前者の半分で大きさの違いは歴然。羽ばたき速度も後者でより速い。体型は横長なケイマフリに対して、コウミスズメは寸詰まりで丸っこい。
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 手前、奥の各2羽がそれぞれコウミスズメとケイマフリ。先頭のコウミスズメは両側の肩羽の白色が、三日月状によく目立つ。同種の翼下面は淡色部があるにも関わらず、暗色に見えることが多い。ただし、後ろの個体ではちょうど陽が当たってかなり白っぽい。


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 中央のやや左を2羽のケイマフリが折り重なって飛び、コウミスズメはその右手前を2羽が飛翔、右奥に1羽、左奥に4羽がそれぞれ海上に浮いている。コウミスズメは全長15cmとたいへん小さく、波があると海上の個体は波間に隠れて発見が難しくなるが、このような凪の時も左から2羽目の鳥みたく黒っぽい背面を見せていると気付かないことが多い。


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 ケイマフリ。大きさ、横長な体型、細長い嘴のほかに順光であればかなり遠くからでも見える目の周囲の白色が特徴。角度によっては脚の赤色も。上面は黒く、顔はやや灰色みを帯びる。細長くて先の尖る翼は上下面とも暗色で、胸から腹にかけての体下面は冬羽では白い。2月上旬よりこの部分に鱗状に暗色部の入る個体が見られ始め、同下旬には早くも全身黒い個体が現れるが、換羽のタイミングにはかなりの個体差がある。


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 コウミスズメ。丸っこい体型や太短い嘴、白黒の体色等が特徴で、先頭の個体では肩羽の白いラインも見えている。また、白色の虹彩も中程度の距離より近ければ比較的目立つ。翼はケイマフリやウミガラス類よりは丸みを帯びる。


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(2012年2月15日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。


ハシブトウミガラス(その2) <em>Uria lomvia</em> 2

2012-02-13 23:27:51 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下脚の参考画像を除きすべて ハシブトウミガラス 2011年1月23日 北海道十勝郡浦幌町)


 本種の冬羽タイプの顔は、全体が黒っぽく喉から前頚にかけて淡色なものと、頭頂から目の付近にかけてキャップ状に黒く、そこから下が白いツートンカラーのもの、ならびにその中間的なものとに大別できるが、画像の個体は2番目のタイプに近い。ただ、典型的な個体とは若干の違和感を覚え、それは主に本種としては短くて湾曲の乏しい嘴、白色であるはずの上嘴基部の線が黄色みを帯びること、顔の黒色もやや褐色みを帯びることからもたらされると思われる。確固たる証拠は無いが若い個体なのかもしれない。北米のモノグラフによれば本種の第1回冬羽は、「頭部の側面が換羽中で、高齢クラスの個体より小さい嘴を持つ」とのことであり、本個体の小さな嘴はやはり若齢個体を示唆している可能性がある。
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 斜め後方からだと顔の黒色部はより広く見え、上記1番目のタイプに近い印象を受ける。ウミガラスは頭頂周辺、目後方の細い線、後頚の中央以外は白く、全体的に白っぽい印象を与える。また、後頚中央の暗色が分断する白色部は、真後ろからは2つの白斑のようにも見える(「ウミガラス(その1)」の記事を参照)。白黒のコントラストは、本種の方がより強く感じられる。


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 顔を水面下に入れ、水中を覗き込むこの行動は、本種やウミバト属、パフィン類といったウミスズメ科鳥類だけでなく、アビ類や大型カイツブリ類、ウミアイサ等魚食性の海鳥に広く見られる。


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 潜水の瞬間。開かれた翼は水面下でそのまま推進力となり、ウミスズメ科が水中を「飛ぶ」と呼ばれる所以である。潜水性海鳥の潜り方は3通りに大別でき(詳細は「潜り方」の記事を参照)、ウミスズメ科は翼を開くこの方法を取る。尾羽は著しく短い。


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 上の画像の直後。一本の脚の蹼以外は水面下に没している。蹼部分を中心にオレンジ色みを帯びている。


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(参考画像)2009年1月に羅臼町の海上で拾得した本種死体の脚。一般に本種の脚は黒いとされ、この死体の画像も全体的に黒っぽいが、上の画像のように潜水直前の蹼は黄色からオレンジ色みを帯びて見えることがある。参考画像でもふしょの前縁や蹼の付け根付近はやや赤みを帯びている。個体あるいは光線等観察条件によっては、この特徴が顕著に現れるのかもしれない。


(2012年2月13日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。