鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

魅惑の探鳥地・冬の九州(1)

2007-01-23 23:49:30 | 鳥・冬
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All Photos by Chishima,J.
ナベヅルマナヅル 2007年1月 鹿児島県出水市)


 遅い正月休みを兼ねて、九州へ鳥を見に行ってきた。実質5日間という短い日程ではあったが、この季節の九州ならではの鳥を楽しむことができた。冬の九州を初めて訪れたのは今から11年前、20歳になる直前のことだった。北海道から鈍行列車を乗り継ぎ、途中群馬の実家に寄りながら、京都からは夜行列車を使って漸く辿り着いた九州だったが、そこでの鳥たちとの出会いは、関東や北海道といった主に東日本で鳥を見てきた私にとっては鮮烈で、長旅の疲れを吹き飛ばしてくれるものであった。

 それ以来何度となく訪れ、長い時には2週間近くも滞在して、田舎の無人駅を主な宿にしながら方々で鳥を見て歩いたこともあった。そうしているうちに初めは右も左もわからなかった場所でのポイントや見方も自然と体得し、来る度に新鮮な発見や感動を得られている。今回は2004年2月以来のことで、3年も開いてしまったがかつて身に付けた勘を頼りに効率良く鳥を見て回れたと、自分では思っている。
 冬の九州で鳥を見る醍醐味は、主に東日本で鳥を見てきた私にとって、以下の4点に要約できるだろう。

①ツル類をはじめとした大型水鳥
 鹿児島県の出水平野は全国的、否世界的に有名なナベヅル、マナヅルの一大越冬地である。古くから渡来地として知られ、大正10年には早くも天然記念物に指定されていたが、戦争前後には狩猟や開発で大きく数を減じたこともあったらしい。しかし、その後はねぐらの確保や給餌などの保護対策が功を奏し、1990年代以降、年によっては1万羽を超えるツルが確認されている。現在、約9000~10000羽のナベヅルと約2000羽のマナヅルが越冬するが、これは、ともに極東にのみ分布する各種の世界個体数の、それぞれ大多数と半数に相当する。冬に日本を訪れる欧米人バードウオッチャーの多くが、出水を目指すのも納得が行く。


マナヅル(背後にはナベヅルの姿も)
2007年1月 鹿児島県出水市 
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 越冬地の一極集中や給餌に伴う問題はあるが、1万羽からのツルを目の当たりにして、鳥好きとしては感動を覚えないはずがない。特に朝夕のねぐらへの出入り時の喧騒と乱舞は壮観であるし、日中周辺の農耕地で採餌・休息する家族群の行動も見ていて飽きることがない。


過密(マナヅル・ナベヅル
2007年1月 鹿児島県出水市
朝の給餌時、干拓地に集結した。
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ねぐら(マナヅル
2007年1月 鹿児島県出水市
このような水を張った農耕地がねぐらとなる。
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 また、年によってはクロヅルやカナダヅル、アネハヅル、ソデグロヅルなども混じって渡来する。これら1~数羽しかいない珍種を、それこそ1万羽の群れの中から探し出すのは容易なことではない。探しきれずにタイムアップとなることもしばしば。しかし、だからこそ出会えた時の感動はひとしおである。


カナダヅル(中央・周囲はナベヅル
2007年1月 鹿児島県出水市
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 出水平野はツルのみならず野鳥の多い土地で、水鳥から猛禽類、小鳥に至るまで一日に70種以上の鳥を観察できることもあり、目下九州の探鳥地の中でもっともお気に入りの場所となっている。


ナベヅルとともに
2007年1月 鹿児島県出水市
普段見慣れた鳥も、ツルを背景に見るとまた違った風景となる。

タゲリ
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チョウゲンボウ
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 福岡県の博多湾では数十羽のクロツラヘラサギが定期的に越冬する。九州では比較的目にする機会があるので、慣れてくると有り難味を感じなくなりがちだが、世界でも東アジアに約1400羽が生息するだけの珍鳥である。潮が引いた干潟でスプーン状の嘴を左右に振りながら採餌する様や、休息する時に近隣の個体と示すグルーミングのような行動は興味深い。


休息地の中洲に舞い降りるクロツラヘラサギの群れ
2007年1月 福岡県福岡市
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 ヘラサギはクロツラヘラサギの群中やそれだけで見られることがあるが、クロツラヘラサギよりはずっと少ない。かつては出水に10~20羽の小群が定期的に渡来しており、清棲幸保著「原色日本野鳥生態図鑑」では50年近く前に撮影されたそれらの写真を見ることができるが、現在では途絶えている。蛇足だが、同書や野鳥写真家の下村兼史の著作では、出水より専ら「荒崎」の地名が使われている。これを不思議に思っていたが、現在ツルがねぐらをとる出水干拓は戦後に造成されたもので、当時は昔からあった荒崎新地の頭文字の方が一般的だったのかもしれない。
 コウノトリやナベコウは迷鳥として稀に飛来する程度で、後者の最近の記録はとんと聞かない。
また、ガン類やハクチョウ類などのカモ科の大形水鳥も少数飛来することがある。ただ、これらはツル類やヘラサギ類に比べるとはるかに珍しいようで、今回福岡で出会った地元の鳥見人は、「オオハクチョウとコハクチョウが一緒に出ています。こんなことは滅多にありません。」と嬉しそうに教えてくれた。所変われば品変わるものだ、とつくづく思った。
 おそらく、昔は日本各地で普通に見られたであろうツル科やトキ科といった大型水鳥。現在、それらを一度に何種類も観察できるのは、冬の九州を置いてほかにないだろう。
 
マナヅルの飛翔
2007年1月 鹿児島県出水市
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ナベヅルの飛翔
2007年1月 鹿児島県出水市
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出水平野・冬(ナベヅル・ウシ・ヒト
2007年1月 鹿児島県出水市
乾いた冬の平野を観光用の牛車が行く。手前の田んぼにはナベヅルの家族。
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夕陽を浴びて(マナヅル
2007年1月 鹿児島県出水市
九州の夕方は、冬でも遅い。5時半を過ぎて、漸く景色が茜色に染まる。
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(続く)
(2007年1月20日   千嶋 淳)


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2 コメント

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お久しぶりです。samです。 (sam)
2007-01-24 09:57:29
お久しぶりです。samです。
私も九州に19~22日まで行きました。
それも群馬県の人4人と一緒に行きました。
偶然ですね。
返信する
samさん、お久しぶりです。 (ちしま)
2007-01-24 17:56:05
samさん、お久しぶりです。

>私も九州に19~22日まで行きました。
>それも群馬県の人4人と一緒に行きました。

何とも奇遇ですね!
私たちは18日に帰ったので、ちょうど入れ違いになってしまったようです。
samさんとは以前にも、白樺峠で入れ違いになったことがあったように思います。
いつかどこかの探鳥地でお会いしたいものです。
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