鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

ホオジロガモとその仲間

2011-01-16 23:09:16 | カモ類
Photo
All Photos by Chishima,J.
ホオジロガモのオス 2007年3月 北海道中川郡幕別町)


日本野鳥の会十勝・会報「十勝野鳥だより170号」(2010年4月発行)より転載 一部を加筆・修正)


 ホオジロガモの仲間(ホオジロガモ属)は、大きさの異なる3種から構成されています。属名のBucephalaは「牛のような頭」の意味で、この仲間の頭の形をよく言い表しています。いずれも潜水して貝類や甲殻類を捕るカモで、クロガモ属(クロガモやビロードキンクロ)と類似点が多い一方、アイサ属にも近いと考えられています。日本では3種すべての記録があり、十勝へは2種が飛来するほか、残りの1種についても不確実な観察記録があります。

①ホオジロガモ
 国内で見られるホオジロガモ属の大部分は本種です。おにぎりのような三角形の頭部、英名Goldeneyeの由来となった黄色い目、それにオスでは和名の由来となった頬の白斑などが特徴的です。
 十勝へは冬鳥として10月中旬に飛来して5月中旬まで見られますが、数が多いのは12~4月上旬くらいまでです。漁港や沿岸の海上、大きな河川、湖沼(結氷期をのぞく)などに生息し、十勝川の中・下流や広尾町十勝港などでは数百羽にも上る大群が観察されることもあります。また、新得町岩松ダムや上士幌町元小屋ダムといった山間部の湖沼や河川に飛来することもあります。


ホオジロガモのメス
2008年1月 北海道中川郡幕別町
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ホオジロガモのオス若鳥
2010年12月 北海道広尾郡広尾町
メスに似るが、嘴が黒い、胸周辺が白っぽい、虹彩の金色が成鳥より暗いなどの特徴から、オスの若鳥と思われる。
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 十勝川ワシクルーズでは毎回数百羽の群れが乱舞し、参加者の歓声を集めていました。群れがボートの上空を通過する時、「ヒュルルル…」という口笛のような高音に包まれますが、これは声ではなく翼が空を切る音で、英語ではwhistle(口笛)と呼ばれるものです。ホオジロガモは越冬中ほとんど鳴きませんが、ディスプレイの時にはオスが「ギッ、ギィー」と聞こえる声をさかんに発します。メスも飛翔時に「ギャギャギャ」と聞こえる弱い声を出すことがあります。


群舞するホオジロガモ
2010年12月 北海道十勝川中流域
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 十勝川温泉の白鳥護岸では数羽のオスがハクチョウや他のカモとともに餌付き、特に水面から沈んだ餌を潜水して食べるのを得意としていました(「ホオジロガモ餌付く」「ホオジロガモ餌付く(その2)」の記事も参照)。水深が浅く、水も澄んでいるため、水中での行動も見ることができる貴重な機会でしたが、この冬(2009~10年)は護岸が安全上の理由で立ち入り禁止になり、餌やりの大部分が陸上で行われたため、ほとんど見ることができませんでした。来冬以降はどうなるでしょうか?
 ホオジロガモの観察で面白いものの一つにディスプレイがあります。1~3月くらいに数羽のオスがメスを取り囲んで、上述のような声を発しながら、頭を後ろに大きく反り返らせます。これはヘッドスローと呼ばれるディスプレイで、カモたちは必死なのでしょうが、傍から見ているとコミカルな感じがします。


ディスプレイに興じるホオジロガモ
2008年1月 北海道広尾郡広尾町
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②キタホオジロガモ
 アイスランドからアラスカにかけて、ホオジロガモよりも北で繁殖し、冬も繁殖地周辺にとどまり、あまり長距離の移動はしないといわれています。ホオジロガモによく似ていますが、額が大きく盛り上がった、独特の頭の形をしており、オスでは頬の白斑が三日月型をしているなどの違いがあります。
 日本ではこれまでに道内の根室市や上磯町、岩手県宮古市から観察記録がありますが、岩手県の記録以外は写真も無いようで、「日本鳥類目録第6版」にも掲載されていません。十勝では1984年の3または4月に広尾町の音調津漁港でメス1羽が観察・撮影されているそうですが、撮影者は既に亡くなられており、写真の所在も不明なため、不確実な記録と言わざるを得ません。多数のホオジロガモが渡来する十勝ですから、今後記録される可能性は十分にあると思います。冬の漁港や川べりで夢を見るのも、また楽しいものでしょう。

③ヒメハジロ
 この仲間では一番小さなカモです。オスは一見白黒のようですが、頭部の構造色は実に美しく、緑に紫にその色を変えながら輝きます。
 本来は北アメリカに分布するカモで、日本では1~数羽が年によって見られる程度の迷鳥です。北海道や東北など北日本での記録が大半ですが、昨冬(2009年)は兵庫県にも飛来して話題となりました。本来の生息地では内陸の湖沼や河川にも生息するようですが、日本での記録の多くは漁港や海上、海岸近くの湖沼からです。


ヒメハジロ(オス:右)とホオジロガモ(オス)
2009年2月 北海道根室市
オスの構造色の美しさは秀逸だが、残念ながら逆光のため白黒に見える。
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ヒメハジロ(メスまたは幼鳥)
2009年2月 北海道中川郡豊頃町
顔の白斑が大きい、胸が白っぽいなどからオス幼鳥の可能性があるが、滞在期間も短く、結論は出なかった。
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 十勝では1989年1月の初記録以来、豊頃町の大津漁港や十勝川河口、大樹町生花苗沼で少なくとも5例の記録があります。生花苗沼での雌雄の記録をのぞくとすべて単独での飛来で、滞在期間も短いものが多いですが、昨年11月23日に十勝川河口で観察されたオスはそのまま冬を越し、3月19日現在まだ観察されています(注:2009~10年にかけての情報)。道東ではほかに新釧路川、厚岸湖、風蓮湖周辺や根室半島などから記録があります。
 北海道ではホオジロガモと一緒にいることが多く、昨冬は根室半島で、今冬は十勝川河口で単独のオスが、ホオジロガモのメスに対して果敢にディスプレイしている姿を観察しました。哀しいかな、ホオジロガモにはまったく相手にされていませんでした。


ホオジロガモ(オス)の飛び立ち
2010年12月 北海道中川郡幕別町
川霧の濃かった寒い朝、1羽のオスが川面から飛び立つ。多くの潜水採餌ガモと同様、助走を伴う。
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(2010年4月15日   千嶋 淳)


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