鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

十勝の自然70 十勝が丘展望台

2015-10-28 16:19:59 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
十勝が丘展望台 2014年10月 北海道河東郡音更町)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年9月16日放送)


 秋は鳥たちの渡りの季節。岬や山の突端など上昇気流の発生しやすい場所でタカやハヤブサの仲間が群れをなして渡るのは人目を惹いたらしく、古くは旧約聖書のヨブ記にも記述があるほか、松尾芭蕉も愛知県の伊良湖岬でタカに関する句を詠んでいます。
 十勝にはタカが大群を作って渡るような場所は今のところ見つかっていませんが、小規模な渡りは各地で見ることができます。その一つが音更町にある十勝が丘展望台です。長流枝内(オサルシナイ)丘陵の南西端に位置し、標高150~200mの緩やかな丘陵は、ここから一気に十勝川に向かって落ち込み、対岸の幕別丘陵まで平野が広がります。
 そのため、丘陵地帯を渡ってきたタカがここで高度を上げ、さらに南へ渡って行くのです。一度に観察されるのは1~数羽ですが、ハイタカやノスリ、ハチクマ、クマタカなど、シーズンを通じて10種類以上のタカやハヤブサの仲間を観察できます。清々しい朝の空を、ハクチョウや小鳥の群れが飛んで行くこともあります。
 そして、この場所の最大の魅力は素晴らしい展望です。眼下の十勝川温泉や十勝中央大橋はもちろん、十勝川と札内川の合流点、帯広市街、芽室嵐山などを望む奥には日高山脈の山並みが連なります。これらを一望しながらコーヒーや紅茶を嗜むのは、何にも代え難い贅沢と言えましょう。
 NPO法人日本野鳥の会十勝支部では毎年、9月23日にこの展望台でタカ渡り観察会を開催しており、今年も行います。午前7時半から正午までの自由集合・自由解散の緩やかな集まりで、好きな時間に展望台に来て鳥を見たり、ティータイムを楽しんだりします。申し込みは不要で、会員以外の参加も自由ですので、お時間のある方はお好きな時間に展望台にお越しいただき、優雅なひと時を味わってみませんか。質問や問い合わせは、090‐4871‐9480(千嶋淳)までお願いします。


(2015年9月13日   千嶋 淳)

→観察会は無事終了しました。参加いただいた皆様、どうもありがとうございました。

十勝の自然69 サケ(シロザケ)

2015-10-28 16:10:39 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
サケシロザケ 2015年8月 北海道中川郡幕別町)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年9月15日放送)


 今年も8月下旬から、十勝川へのサケの遡上が始まりました。ベニザケやマスノスケなど多くの種類があるサケ科魚類の中で、北海道など主に北日本の川へ秋に遡上するのがシロザケやアキアジとも呼ばれるサケです。春に川を下った稚魚が、アラスカ湾やベーリング海など冷たい北の海で4年前後を過ごし、卵を産むため生まれた川へ帰って来たのです。
 帯広近郊でサケを観察しやすい場所に、幕別町の千代田新水路があります。増水時以外は少量の水しか流れないので、サケの産卵に適した浅い川底があるからです。海にいた時の銀白色が嘘のように黒ずみ、鼻先や頭は皮が剥けて肉が丸見えになるほど傷付いた「ブナ」と呼ばれるサケが浅瀬で闘争や産卵行動を繰り広げながら命尽きます。
 新水路の上流側には魚道観察施設もあり、流れの速い魚道を力強く上るサケを観察できます。ここだけ見ると、魚道を通ってサケが川を上っているようですが、実はそうではありません。観察施設のすぐ上流側で魚道は、川とは丈夫な柵で仕切られています。運良く柵を飛び越えることのできた、ごくひと握りのサケ以外はここで捕獲され、人工ふ化放流事業に回されることになるのです。現在、十勝川へ戻って来るサケは、ふ化放流事業の成果だからというのが、捕獲する側の言い分です。
 「カムイチェプ(神の魚)」と呼んだアイヌにとってサケは、食料や衣料品として欠くことのできない魚でした。その時代にはヒグマをはじめ多くの野生動物にとってもサケは重要な食料で、更には海の栄養を山へと運ぶ大切な存在だったはずです。その繋がりは、明治以降のふ化放流事業に伴う中・下流域での一斉捕獲で断ち切られました。世界自然遺産の知床ですら、サケはヒグマの栄養分の5%にも満たないそうです。サケをはじめとした魚たちが川を自由に行き来して、海と山の生態系の交流が復活した時に、北海道はかつての豊かな大地に少しだけ近付けるのではないでしょうか。


(2015年9月3日   千嶋 淳)

150916 渡り観察(池田町)

2015-10-28 15:45:50 | 鳥・秋

Photo by Chishima, J.
斜面を駆け上る雲海 2015年9月 北海道中川郡池田町)


 早朝は雲海、その後は上がって来た濃霧に包まれ、記録を取る手がかじかむほどでした。昨日から増えたカケスが相変わらず多く、そこらじゅうで「ジェージェー」と賑やかに鳴いています。
 午前9時頃、霧が一気に消えて快晴になると、今度は気温が急上昇。猛禽類も動き始めますが、とにかく高度が高い。高々度のツミなどは「視力検査かよ!!」とツッコミを入れたくなるほどの小ささでした。そして、冷え切った体を簡易椅子に委ねると、たちまち猛烈な眠気に襲われます。
 今朝の冷え込みは山地やより北の地方ではさらに厳しかったでしょうから、近い内には山の鳥や冬鳥も姿を見せるのではないかと期待しています。

確認種:ドバト キジバト アオバト タンチョウ ハチクマ2 トビ ツミ3 ハイタカ6 オオタカ1 ハイタカ属sp.1 ノスリ3 コゲラ コアカゲラ アカゲラ クマゲラ チゴハヤブサ2 モズ カケス ハシボソガラス ハシブトガラス ハシブトガラ ヒガラ シジュウカラ ヒヨドリ メジロ ゴジュウカラ キバシリ キセキレイ ビンズイ カワラヒワ シメ  ホオジロ アオジ


(2015年9月16日   千嶋 淳)

150915 渡り観察(池田町)

2015-10-28 15:36:38 | 鳥・秋

All Photos by Chishima, J.
展望台から望む一面の雲海 以下すべて 2015年9月 北海道中川郡池田町)


 早起きしたものの、酷い濃霧だったので家にいたところ、Nさんから上は雲海だよと教えていただき、展望台に登りました。雲海から濃霧を経て快晴へ。昨日ほどではないけど、なかなかの渡り日和でした。


朝の林



 数羽のハイタカが観察ポイント近くの樹林にとどまり、数時間にわたってカラスとの攻防を繰り広げていました。カケスが一気に増え、メジロの声も目立って来ました。十勝川沿いにはヒシクイも飛び、こうした日々の変化を肌で感じられるのも渡り観察の魅力。


ハシボソガラスに追われるハイタカ



確認種:ヒシクイ ドバト キジバト アオバト タンチョウ カッコウ ハチクマ3 トビ オジロワシ3 ハイタカ5 オオタカ1 ノスリ3 コゲラ オオアカゲラ アカゲラ クマゲラ モズ カケス ハシボソガラス ハシブトガラス ハシブトガラ ヒガラ シジュウカラ イワツバメ ヒヨドリ エナガ メジロ ゴジュウカラ キバシリ キセキレイ ビンズイ カワラヒワ シメ アオジ


十勝平野を背に飛ぶトビ


(2015年9月15日   千嶋 淳)


十勝の自然68 ヘラシギ

2015-10-26 16:22:32 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
ヘラシギ幼鳥 2010年9月 北海道中川郡豊頃町)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年9月14日放送)


 生き物の世界には一般的な姿かたちで、幅広い餌を食べる何でも屋さんが多くいる一方、独特の形態や習性を持ち、他の種が利用しない資源をたくみに利用しながら生きるスペシャリストも存在します。水鳥のシギの仲間にも多くのスペシャリストがいます。その特殊さは、餌を食べる器官の嘴によく表れます。砂の中に差し込み、中にいるカニを捕えるため大きく下に曲がったチュウシャクシギの嘴、小石をひっくり返して餌を探すノミのようなキョウジョシギの嘴などは、食生活の特殊化に適応したものです。
 中でもひときわ変わった嘴を持つのがヘラシギ。スズメくらいのこの小さなシギは、その名の通りのヘラのような嘴を浅瀬や波打ち際にひたして、あるいは左右に振りながら、小動物を効率良く捕えます。ちなみに、ヒナは生まれた時から既に、ヘラ型の嘴をしているそうです。
特殊な生活を選んだ生き物はたいてい、分布が狭かったり、数が少なかったりしますが、ヘラシギも地球上でロシアの北東端にあるチュコト半島からカムチャツカ半島の北部でのみ繁殖します。40年ほど前に5000羽以上いた個体数は2000年以降急減し、2013年の調査では約100ペアしか確認されず、地球上で最も絶滅の危険が高い鳥とされます。
 近年の激減には、地球温暖化などによる繁殖地の環境変化、中継地である東アジアでの干潟や湿地の埋め立てや開発、越冬地のミャンマーやバングラデシュでの狩猟や環境消失が複合的に作用していると考えられ、解決を難しくしています。それでも、世界中の保護関係者が関心と情熱を注ぎ、人工増殖の試みも始まるなど希望も見え始めています。
 十勝では少なくとも5回記録があり、うち2回は大樹町歴舟川河口、残り3回は以前このコーナーでもご紹介した豊北原生花園周辺からです。豊北で2010年9月に数日間、1羽滞在したのが一番最近の記録です。


(2015年9月4日   千嶋 淳)