鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

伝播する遊び?

2007-11-30 16:22:09 | 鳥・秋
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All Photos by Chishima,J.
貝か石をくわえて飛び上がるハシボソガラス 以下最後の1枚を除き 2007年11月 北海道中川郡豊頃町)


 川面を吹き抜けてきた風が一気に海へ出るべく加速し、冷たく頬を突き刺す。河口にはいつものようにカモメ類の大群が集結しているが、先月まで群の大半を占めていたセグロカモメやウミネコは概ね姿を消し、寒波と共に数を増してきたカモメが主流となっている。純白のシロカモメも最近目立ってきた。今日はそれらにくわえてトビやカラス類の姿もずいぶんと多い。魚の死体でも打ち上がったのだろうか?
シロカモメの幼鳥
背後の2羽はオオセグロカモメ
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 1羽のハシボソガラスが、何か大きな物をくわえているので双眼鏡の視野に入れると、それは餌ではなくペットボトル‐壮○○茶の500mlのもの‐だった。カラスはそれをくわえて飛び上がり、数mの高さから地上に落とすことを繰り返していた。「何ワケのわからないことを…」と思ったがこちらも暇なもんで付き合って眺めていたところ、数分後、地面に落としたペットボトルを砂に突き刺して立てた。ペットボトルが立ったことで満足したのか、カラスはそのまま歩き去ってしまった。

ペットボトルをめぐる一連の行動(ハシボソガラス

くわえて
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地上に落とす
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砂に立てて歩き去った
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 しばらく後、ハシボソガラスが、先程より高く舞い上がってやはり何かを落とすことを繰り返しているのに気付いた(同じ個体であるかは不明)。今度は二枚貝か石のようだ。ハシボソガラスが貝をコンクリート上に落としたり、車道に落として車に轢かせることによって殻を割って捕食するのはよく観察されるが、一帯は柔らかい砂地で、何度繰り返しても食べる素振りを示さないところから、実用的な行動ではなさそうである。程無くして地上に降りたそのカラスの隣に、2羽のカラス(やはりハシボソ)が集まって来た。3羽の間にどんな会話があったのか、人間の私にはわからない。ただ、元からいた1羽はその場所を明け渡すように横に退き、後から来た内の1羽が「物」をくわえて飛び上がった。すると、元からいた個体は歩いてその場所を離れた。新参者は同じことを繰り返そうとしたが、性や齢の違いかあるいは個体差で最初の個体より嘴が小さいか、嘴の使い方が下手で「物」を上手くくわえることができず、非常に苦労してくわえ落とすこと数回で、この行動を止めてしまった。


貝か石をめぐる一連の行動(ハシボソガラス

冒頭の写真は、この最初の部分。

飛び上がって「物」を落下させる
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主役交代?最初にこの行動を示した個体は右側で様子を見守っている。
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しかし、新参者には「物」は大きすぎたようで、くわえるのに苦労している。
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 ハシボソガラスの「遊び」の多様さに関心すると同時に、行動というのはあのように先駆者がいて、それを模倣する個体がいて集団中に伝播してゆくのだろうなどと考えながら、カモメ類の観察に戻った。休息、水浴び、羽づくろい…、カモメたちの行動は様々だが、1羽のオオセグロカモメの若鳥が木片をくわえては海に落としている姿に釘付けになった。貝(?)と木片、また砂地と海上という違いはあるものの、先程のハシボソガラスと同じことをしている。これを何回か繰り返し、特に実りのないことに失望したのか木片は海上に捨てられ、それを餌と勘違いした別の個体が持ち去って、この場面は幕を閉じた。


木片をめぐる行動(オオセグロカモメ・若鳥)

海に落として
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それをまた拾い上げる
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 オオセグロカモメとハシボソガラスの類似した行動の因果関係は不明だが、主観的な解釈をすると、ハシボソガラスの遊びを日常的に目にしていたオオセグロカモメがそれを真似してみたものの、カラスほど遊びに魅力を感じずに飽きてしまったという印象を受けた。行動の同種間伝播と、異種への伝播を同時に目の当たりにした思いがした。
 それにしても、ハシボソガラスは実用面でも遊び面でもとても鳥類離れした行動を披瀝するが、ハシブトガラスではそうした行動をあまり見ない気がする。昔から人里近くで暮らしてきたハシボソガラスならではの「人間臭さ」だろうか。こう書くと「現在都会にいるカラスの大部分はハシブトではないか」と反論されそうだが、ハシブトガラスはJungle Crow という英名の示すように元来は森林や高山に住むカラスであり、都会への進出はビル群を樹林に見立てての、種の歴史の中ではごく最近の出来事である。それに対して、農耕地や原野を主な住処とするハシボソガラスは、長年にわたって人類の傍らで生きてきた結果、人を利用したり模倣したりする術が身に付いたように思えるのである。


ハシボソガラス(右)とハシブトガラス
2007年11月 北海道中川郡幕別町
互いによく似た、旧北区系の前者と東洋区系の後者が同所的に暮らしている日本は、面白い場所だと思う。
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(2007年11月30日   千嶋 淳)


イクラ大人気

2007-11-26 23:53:32 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
サケの卵を食べるユリカモメの幼鳥 以下すべて 2007年10~11月 北海道十勝川中流域)


 朝晩の冷気が鋭さを帯びてきた10月中旬過ぎ、十勝川中流域にある流れの緩やかな浅瀬の上を、70羽強のユリカモメが乱舞していた。ユリカモメ自体は河川を遡行する性質もあり、内陸部に出現することは珍しくないが、これほどの数を河口から50km近く離れたこの場所で見るのは初めてである。元よりこの一帯には、遡上途中で力尽きたサケを求めて多くのオオセグロカモメが飛来し、この日も中州や浅瀬で100羽以上を観察していたが、それらの場所ではユリカモメごく少数だったので、お目当ては別にあるようだ。
浅瀬の上を舞うユリカモメ
視線の先の水中をサケが走り、飛沫を上げる。
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 ユリカモメの舞う浅瀬をよく見ると、多数のサケがゆらゆらと泳いでいる。水際に若干の死体もあるがほとんどは元気で、時にのたうっている。自分たちより遙かに大きなサケを、ユリカモメが襲うとは考えられないが、サケの傍らあたりに頻繁に飛び込んでいる。飛び込んだ後は両翼を広げてバランスを取りながら、逆立ち姿勢で体の前半部を水中に入れ、探餌しているようだ。この姿勢はユリカモメやミツユビカモメなどの小型カモメ類が、表層や浅い所の餌を捕えるのによく用いる方法である。その後は何かをくわえて水上に顔を出して飲み込んでおり、最初は「何か」だった餌は、橙色の直径5mmにも満たない球、すなわちサケの卵であることが判明した。サケはここを産卵場とみなして集結していたのだ。


サケの踊る水面を見つめるユリカモメ・幼鳥
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逆立ちしながらの採餌(ユリカモメ・幼鳥)
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 ユリカモメの他には数羽のカモメやオオセグロカモメも同じ場所に見られた。ただ、中型のカモメはともかく、大型のオオセグロカモメはユリカモメのような機敏な飛び込み・逆立ちは苦手で、ひとしきり試みるもののう上手くいかないようで、中州に戻って本来の餌であるサケの屍をついばんでいた。小型ならではの機動性を生かしたユリカモメの勝利であった。


カモメ・幼鳥
左下の水面をサケが走る。
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浅瀬に集う(ユリカモメカモメ)
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 それから半月ほど、「イクラ食堂」は最大150羽ほどのユリカモメで賑わったが、当地では大部分が旅鳥である本種は11月に入ると南下してしまい、徐々に姿を消して行った。11月9日、肌寒い曇天にカラマツの黄葉が映える朝に訪ねてみたところ、ユリカモメは僅かに4羽を数えるのみで、代わってカワアイサが食堂の主客となっていた。その数およそ100羽。カワアイサというと潜水しての採餌が一般的であるが、この浅瀬は潜水には浅すぎるらしく、目から先の顔の前部を水中に入れ、川底を覗き込みながらしきりに餌を捕えていた。しかし、ユリカモメとは違って水中で食べてしまうようで、サケの卵を食べていることは明白ながら、水上でそれを飲み込む姿は見られなかった。この浅さゆえだろう、数羽のマガモも同じエリアで水面下に首を伸ばし、活発に採餌していた。周辺では1~数羽のコガモやキンクロハジロ、スズガモも観察され、サケの卵に対する採餌は未確認ながら、おそらく食べていたものと思われる。


水面下を覗き込みながら泳ぐカワアイサ
周囲を泳ぐサケは同じサイズ。
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水面に姿を現したサケ
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 その翌週、カワアイサも少なくなった浅瀬は、体が傷だらけでもはや息も絶え絶えのサケばかりで、命を継承するための季節も終盤に近付いていることを物語っていた。10羽前後のオオセグロカモメが屯して、採餌に興じていた。ひと月近く前には体の大きさが仇となって、次々と飛び込んではイクラをものにするユリカモメとは対照的に、捕食は不成功に終わっていたのがどうしたことだろう。ユリカモメの採餌法を見ているうちに学習したのか。そういえば今眼前でイクラを捕えているオオセグロカモメは、圧倒的に幼鳥が多い。若い鳥ならではの行動の柔軟性の賜物だろうか。あるいは成鳥に比して小さなサイズが、小型カモメ風の採餌法を可能にしたのか。また、捕食されるイクラ側の事情を勘案する必要もあるかもしれない。イクラは時期が遅くなるにつれ皮が堅くなる傾向がある(これを「川イクラ」と呼んだりする)が、ひと月前には皮が軟らかくてオオセグロカモメの頑強な嘴でつまんだら壊れてしまった卵も、堅くなってそれに耐えうるようになったとは考えられないだろうか。


サケの卵を食べるオオセグロカモメの幼鳥
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威嚇し合うオオセグロカモメの成鳥(中央)と幼鳥(手前)
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 ひと月に渡って多くの水鳥を惹きつけてきたこの浅瀬も初冬を迎え、静けさを取り戻しつつある。実はここは半人工的な場所で、今回産卵された卵も凍結やその他のハードルをクリアして、稚魚が海に下り、数年後に回帰できるかは微妙なところである。いつの日にか、豊かな自然を取り戻した十勝川で、本来の生態のまま産卵するサケの群れと鳥たちとの関係をじっくり観察してみたいものだと思っている。


ユリカモメ・成鳥冬羽の飛翔
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喧嘩(ユリカモメ・幼鳥)
餌は豊富ながら互いにぶつかり合う。
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(2007年11月21日   千嶋 淳)


オオバンとオカヨシガモの奇妙な関係

2007-11-21 00:27:32 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
オオバン(左)とオカヨシガモ 以下すべて 2007年11月 北海道中川郡豊頃町)


 オオバンは、十勝地方では不思議な出現の仕方をする鳥である。4月中旬に渡来し、海岸部や河川沿いの湖沼で少数が繁殖する夏鳥なのだが、秋も深まってくる9月半ば~10月頃にかけて著しく数を増し、あちこちの沼で数~数十羽の群れが見られるようになり、場所によっては100羽を超えることもある。クイナの仲間なので繁殖期には隠棲していたのが開水面に出てきた、あるいは幼鳥の出現による増加ではとても説明できない増え方で、季節的にはどこかから南下してきたとでも思いたいのだが、本種はサハリンでは南部で稀な夏鳥、千島列島やカムチャツカには分布していないことから、北からの飛来の線は薄そうだ。そんなわけで、秋の十勝のオオバンがどこからやって来るのかは、謎に包まれたままである。
 すっかり緑の抜けた抽水植物群落を映した秋色の水面が美しい、海岸近くの小さな沼で30羽ほどのオオバンが頻繁に潜水しては水草を食べていたのは、11月に入って間もない、ある晴れた日だった。午後の早い時間だったが、西南低くから入射する陽光は既に白日のものではなかった。北国では、晩秋や初冬には正午を過ぎると一気に夕方の空気が漂う。水面には他に100羽近いスズガモや各々数~十数羽のヒドリガモ、ヨシガモ、オカヨシガモ、ホシハジロなどの姿もあり、面積の割に多くの水禽類で賑わっているこの沼でしばらく観察を続けることにした。時折発せられるオオバンの「ピッ」という甲高い声や、スズガモが水浴びする音を除くと沼は静かなものである。季節の変わり目はこんなにも穏やかだったものか。


秋色の中のオオバン(成鳥)
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ヨシガモの一群(後ろの左側のみオオバン
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 沼はさして深くないのだろう。オオバンが頭から勢い良く逆立ちするように潜ると、数秒で水草を口一杯にくわえて浮上してくる。水面で水草を振り回しているのは、引きちぎって食べやすくするためか、それとも水を切っているのか。そんな情景を飽くことも無く眺めていると、オオバンの傍らに1,2羽のオカヨシガモがいることが多いのに気が付いた。最初は単なる偶然かと思ったが、その行動に注目すると決して偶然ではなく、オカヨシガモの方から積極的にオオバンに近付いていることがわかった。


潜水の瞬間(オオバン
海鳥ほど水の抵抗を少なくできる形態をしていないので、潜るには勢いが必要。
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オオバンと2羽のオカヨシガモ(左後の1羽はスズガモ
オカヨシガモはどちらもメスに見えるが、手前の個体は胸部に黒斑が集中していること、肩羽に栗色の細長い羽毛が出始めていることなどからオス(エクリプスか幼鳥)であろう。後はメスか幼鳥だが、背や肩羽の丸みは後者であるかもしれない。
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 実は、オカヨシガモはオオバンが水底から持ってくる水草が目当てだったのである。上記のようにオオバンが振り回してちぎれた水草や、あまりにも大きくてオオバンが水面に置いてから食べる水草の一部を、上手いこと食べているようだった。オオバンはオカヨシガモに見事に利用されているにも関わらず、攻撃するような素振りは見せなかった。それくらいの収奪は気にならないほど餌が豊富であるか、自分より体の大きなオカヨシガモを攻撃するコストの方が大きいのだろう(オオバンの体重650~700g前後に対して、オカヨシガモの体重は900g前後)。


水草を振り回す(オオバン
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オオバンに追随して採餌するオカヨシガモ
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 と、ここまで書いて過去のオカヨシガモに関する記事(「足踏みするオカヨシガモ」)を読み返すと。「オカヨシガモの一風変わった採餌法が、ドイツから報告されている。秋に水深が深くなってしまう水域に住む約300羽のオカヨシガモは、その時期オオバンが(おそらく潜水して)水面に持ってくるシャジクモの1種に完全に依存しているそうである。」との一文があった(恥ずかしながら、完全に失念していた)。規模や微細な環境条件は異なるが、今回の事例とよく似ている。今回の沼では、やはり水面採餌が中心のヒドリガモやヨシガモが、オカヨシガモより多く(各10~15羽前後)見られたが、それらの種によるオオバンへの寄生的行為は観察していない。もしオカヨシガモに固有の行動なのだとしたら、それはオカヨシガモとオオバンの長い歴史の中で確立された生得的なものなのか、オカヨシガモが優れた観察眼(?)を持ち、ある条件下で学習しうる後天的な行動なのか、そしてそれに対してオオバンはどのような態度を取ってきたのかなど、興味は尽きない。


オオバンの持ってきた水草を食べるオカヨシガモ(背後はスズガモ
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(2007年11月20日   千嶋 淳)


とんと御無沙汰

2007-11-20 00:34:36 | 鳥・秋
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All Photos by Chishima,J.
波打ち際のオオソリハシシギ・幼鳥 2007年10月 北海道中川郡豊頃町)


 10月以降あまり更新できていません。これもひとえに95%の怠惰と5%の身の回りの忙しさの成せる技であります。先日、ある人から「全然更新されてないね、余程機嫌が悪いのか。」と言われましたが、そんなことはありません。むしろ、今も蕎麦焼酎など飲んでご機嫌なくらいです。


 そうしている間にも季節は秋から冬へ、確実に進行していて、今秋の十勝の鳥界では一番のニュースであったろう25羽のハクガンたちも、週末の冷え込みで南に渡ったようです。今日の帯広は最低気温が0℃以下だったようです。夏鳥や旅鳥があらかた去り、極北からの冬鳥を待ち侘びるこの季節、またぼちぼち更新してゆきたいと思っています。


ハクガン25羽の飛翔
2007年11月 北海道十勝郡浦幌町
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