鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

雪降って小鳥集まる

2007-02-26 23:55:41 | 鳥・冬
1_80
All Photos by Chishima,J.
路肩で採餌するカシラダカ 2007年2月 北海道広尾郡大樹町)


 史上稀にみる暖冬はこの地にも影響を与えているようで、先日早すぎる飛来を報じた北帰のガン類の群れは日増しに大きくなりつつある。この冬は気温、積雪とも厳しさを欠き、気温に関しては何度か「今朝はシバれたなぁ」という日はあったものの、深夜のテレビ画面に「明朝は水道管の凍結に注意」の字幕を見た回数はずいぶん少なかったように思う。雪も正月が開けた時点で平野部にはほとんど無く、帯広など内陸部では1月上旬の降雪で銀世界と化したが、海岸部では降っても降雨や暖かさですぐに融け、雪の少ない状態が続いていた。それでも、2月に入ってからの数回の本格的な降雪は、海岸部をようやく真冬らしい光景に塗り変えた。

 降雪後の海岸部に鳥を見に出かけて印象的だったのは、それまで非常に少なかった小鳥の多さであった。その小鳥がユキホオジロやベニヒワ、ツメナガホオジロなどいかにも冬の北海道らしい極北からの客だったら喜びもひとしおなのだが、大部分はホオジロやオオジュリンなど従来夏鳥でごく少数が越冬するだけのもの、アトリやカシラダカなどのように多くは旅鳥として更に南を目指すものだった。ここ数年冬にも見る機会が増えているベニマシコがこの冬も多いのは降雪の前から感じていたが、実に多くの鳥が温暖さと積雪の無さに渡りを忘れて北海道にとどまっていたようで、それが雪により採餌場所を奪われたことによって、急に人目につく所に出てきたといえそうだ。


アトリ(冬羽)
2007年2月 北海道中川郡豊頃町
普通に越冬もするが、数は秋・春の渡り時が多い。
2_80


ベニマシコ(右:メス 左:オス)
2007年2月 北海道中川郡幕別町
本来は夏鳥であるが、雪の少ない川原、海岸などでは少数が越冬する。
3_80


 こうした小鳥がよく集まる場所が2つある。一つは道路の端。除雪された道路の端には雪が積まれるが、その雪と道路の間、路肩や路側帯の部分には地上が露出し、この狭い地面に生えている草本植物の種子をつまみに、あるいは地上に落ちた種子を拾いに、種子食の強いカシラダカ、ミヤマホオジロなどのホオジロ類やアトリがやって来る。年によってはツメナガホオジロなども道路脇に現れる。また、降雪の直後はよほど餌に困ったのか、シジュウカラが小群で飛来して、やはり地上で種子を探す姿があちこちで見られた。これらの鳥の多くは腹が減っていて採餌に夢中なので、道路を車が通っても一旦は飛び立つものの、またすぐに戻って来て食事に専心する。したがって、そっと近付いて気配を隠していれば、相当な至近距離で観察できるのが特徴である。先日観察したカシラダカの群れでは、多くの個体が車の接近によって飛び立ったが、中に1、2個体、車が通り過ぎる間軽く体を伏せるか、雪の影に隠れるだけで飛ばず、車が通り過ぎた瞬間に脇目も振らず食べ始めるものもあり、図太いのか飢えているのか思わず苦笑したものだ。


ホオジロ(上:オス 下:メス
2007年2月 北海道中川郡豊頃町
十勝では繁殖期にもあまり多い鳥ではないが、越冬個体を時々見かける。

4_78

5_80


ミヤマホオジロ(上:オス 下:メス)
2007年2月 北海道広尾郡大樹町
西日本に多い鳥で、北海道、特に道東では少ない。

6_77

7_76


 もう一つの場所は、酪農家の庭先にある堆肥や牛舎の周辺である。発酵などの熱により融雪が進み、地面が露出して餌を取りやすくなる上に、堆肥では昆虫などの無脊椎動物、牛舎付近では牛用の配合飼料のおこぼれといった付加的な餌もある。これらの場所には大抵留鳥のスズメやカラス類が群れで居着いているが、降雪で餌が逼迫した時には堆肥にツグミやムクドリが、また牛舎周辺にはカワラヒワやアトリ、ホオジロ類もよく飛来する。こちらも道路と同様、鳥は警戒よりも目先の餌に心を奪われているので接近可能だが、観察する場所や時間を弁えないと、人様の庭先を覗き見る不審者となりかねないから注意が必要だ。


牛舎に飛来したカワラヒワ
2007年2月 北海道中川郡豊頃町
厳冬期には北方より渡来する大型の亜種オオカワラヒワと思われるものが多い。
8_76


 10年前の1996-97年の冬はベニヒワの大当たり年で、それ以外の小鳥も非常に多い贅沢な冬だった。聞けばその10年前、20年前もベニヒワの当たり年だったという。何となくの10年周期に期待を膨らませた今冬だったが、現在のところそのような気配はまったく無いばかりか、小鳥は全般的にやや低調気味ですらある。それでも、暖冬とはいえ日によっては0度を上回ること無い寒さと雪氷のもたらす厳しい飢えを、道路や人家の軒先にまで現れてしたたかに生き抜く小さな鳥たちの勇姿は、たとえ普通種ではあっても出会う度にささやかな感動と喜びを与えてくれる。


ウソ(オス)
2007年2月 北海道河東郡音更町
関東ほどではないが、今冬は平地で見る機会が多く、アトリなどとともに牛舎や道路へ姿を現すこともあった。
9_62


チョウゲンボウ(メスか幼鳥)
2007年2月 北海道十勝郡浦幌町
雪で小鳥が増えた朝、それを餌(の一部)にするつもりか本種の姿もあった。
10_39


(2007年2月26日   千嶋 淳)


ハギマシコの学名

2007-02-25 07:47:35 | 鳥の学名
Dscn2153_edited1
Photo by Natsuko
(ハギマシコ 2007年2月9日 北海道浜中沿岸)

スズメ目アトリ科
Leucosticte arctoa
Leucosticte・・・ハギマシコ属
   白い斑点のある(鳥)
   leukos白い+ stiktos斑点のある(女性形)
arctous ・・・北極の

Dscn2156
Photo by Natsuko
(同上)
ちょっと濃いピンクにかわいらしいくちばし、派手ではないけど渋くて好きです。画像はデジスコなのと距離があったのでポヤッとしてしまったのが残念。。。この後少しずつハギマシコ達が近づいてくれたのだけれど、ちっしーに取られる・・・
この冬は小鳥がさっぱりでちょっとつまらなかったですね。ユキホオジロも見てないし、かろうじてミヤマホオジロ。ガンも来てしまったし、もう小鳥は無理かなと。春は待ち遠しいけどもっとちゃんと冬を感じたいですよ、まったく。まあシロハヤブサが見れたので良いか♪

なつこ



真冬の上陸場

2007-02-21 20:35:05 | ゼニガタアザラシ・海獣
1_77
All Photos by Chishima,J.
遊び行動中の2頭のゼニガタアザラシ 以下すべて 2007年2月 北海道東部)


 10日ほど前になるが、真冬のゼニガタアザラシを見たくなって、波の穏やかな日を選んで夜明けの道を東に走った。流氷や定着氷など氷の消長に合わせて分布様式を季節的に変化させる他の多くの氷上繁殖型アザラシ科の種とは異なり、陸上で繁殖するゼニガタアザラシは一年を通して上陸場やその周辺の海上でみられる。もっとも、冬は繁殖や換毛などのイベントが無い上に、波や潮周りが上陸に不適な日が多くなるので、春から秋にくらべると観察はやや難しくなる。
 観察が困難な分、わかっていることも他の季節よりはるかに少ない。波や潮が理想的な状態での上陸数は本当に春や夏より少ないのか、冬に見られるメンバーは他の季節と同じ顔ぶれなのか、成獣が多いのか幼獣が多いのか、メスの成獣は本当に採餌回遊に出るのかなどなど。したがって、冬の観察は1回の重みが大きくなる。もしアザラシが見られればの話だが。
 そんな期待と不安の入り混じった気持ちのまま東を目指し、到着後は雪の原野を歩くこと30分余り、ようやくゼニガタアザラシの上陸場に到着した。陸上繁殖型ということは裏を返せば嫌氷性なわけで、沿岸氷が発達したり、流氷が太平洋側に流れ込むと上陸場周辺から姿を消してしまうこともある。温暖な今年は沿岸氷もほとんど見られず、流氷にもまだ早いようだ。オオワシの成鳥が1羽、崖伝いに低空を飛んだ後、岬状に突き出した場所で風を得て海上へ流れていった。


海上を飛翔するオオワシの成鳥
2_79


 冬にしては珍しい凪で潮も良い具合に引いているが、肝心のアザラシは2頭しか上陸していない。遊泳個体はそこらじゅうにいて、20頭は下らないようだ。「どういうことだ?…」、不安が胸をよぎる。ここに着く直前、数十頭のエゾシカが海岸線を爆走していった。もしかしたらそれに驚いて、一斉降海してしまったのかもしれない。それとも、冬ゆえに上陸の欲求もさほど高くなく、海中にとどまっているだけのことなのだろうか。

海上に顔を出したゼニガタアザラシ
3_79


海坊主(ゼニガタアザラシ
頭だけ出して泳いでいるのを後ろから見ると、海坊主そのものだ。
4_77


 いずれにしても今目の前にいるものを記録しようと、観察道具を取り出す。その後、遊泳個体の中から上陸するものが相次ぎ、15頭近くまで増加したのは幸いだった。上陸集団は大き目の成獣も、まだ小さい若い個体も含んでいたが、3~4頭のメス成獣の下腹部が既にぽっこりと膨らみ、妊娠の兆候を示していたのが印象的だった。考えてみれば、出産ラッシュの5月中旬まではあと3ヶ月。冬の盛りだが、確実に次の季節へのカウントダウンが進行しているのだ。これらの妊娠メスは、少なくともこの何年間かこの上陸場で繁殖が確認されている(=新生児を連れて観察されている)個体ではなかった。どこかほかの地域から移動・回遊してきたのだろうか、それとも人間の容易に近付けない沖の小島で繁殖している個体なのか。今日は見られなかったが、ここで繁殖しているメスも冬に観察されることがある。こうした事実は、一年を通して同じ上陸場の周辺にとどまる個体と、季節的に上陸場を変えながら移動する個体がいることを示唆している。このことは複数の上陸場での観察や個体識別からほぼ間違いないが、そうした個体差が生じる要因についてはまだわからないことが多い。


ゼニガタアザラシの上陸集団
5_79


ゼニガタアザラシの妊娠メス
まだわかりづらいが、腹部は通常のプロポーションより膨らみ始めた。
6_76


 周辺の海中では遊び行動がさかんに行われていた。遊び行動には単独で行うものと、2頭以上で行うものとがあるが、この日は2頭による遊びが数組観察された。2頭がもつれあうようにグルグル回りながら、時に頭部や前肢で激しく水面を叩き、水飛沫を撒き散らす様は見ていてなかなか豪快である。遊び行動を示すのは3~5歳程度の若いオスが多いことが明らかになっており、おそらく特定の上陸場に定着していく中で、オスが互いの力強さや敏捷性を確かめあう機能があると推測されている。そんな人間の推測を知ってか知らずか、眼前のアザラシたちは激しくじゃれあっている。先にこの行動を行うのは若いオスと書いたが何事にも例外はあるようで、以前遊び行動をしていた性不明の登録個体を、それを根拠にオスとして観察していたら、ある年の繁殖期に新生児を連れて現れたのでびっくりしたことがある。


ゼニガタアザラシの遊び行動
文頭の写真も参照。時には相手に噛み付いたり、マウンティングのような仕草を示したりと、他の食肉類の遊び行動同様、攻撃や交尾行動と相同、あるいは同じ要素が含まれている。
7_75


 少し北風が強くなったようだ。海面にも所々白波が立っている。これ以上上陸数が増えることは無いだろう。雪原歩きで火照った体も冷えてきた。冬のうちの再来を決意すると、先程までハギマシコの小集団が種子を食んでいた草原を通り抜け、帰途についた。


ゼニガタアザラシ
右手前は11年前から識別されているオス成獣で、推定15歳以上。左手前は2~3歳の幼獣。奥は妊娠したメス成獣。
8_74


(2007年2月21日   千嶋 淳)


早すぎる春の使者

2007-02-20 18:47:30 | 鳥・冬
Img_3996
All Photos by Chishima,J.
雪原に降り立ったヒシクイの群れ 以下すべて 2007年2月 北海道十勝川下流域)


 本日、十勝川下流域の農耕地でヒシクイ約150羽の群れを観察した。少し前から数羽から十羽程度の飛来情報はあったものの、それらは様子見の「斥候」だろう程度に考えていた。しかし、これだけの数が降り立ったことから、単なる偵察ではなく本格的な「飛来」と考えて良さそうだ。

 例年、十勝地方で最初にガン類が見られるのは2月末から3月頭だが、それらのほとんどは単独から数羽による一時的な偵察やオオハクチョウの群れに混じっての飛来だ。数十~100羽を超える群れの飛来は、その年の積雪量や気候にもよるが、だいたい3月10日前後である。今回の飛来は3週間前後早いものといえる。この十数年、群れの飛来がここまで早かったことは無かったように思う。暖冬の本州をいち早く飛び立ったガンたちが、雪の少ない(らしい)日高地方の状況を見て、十勝まで飛来したのだろうか。
 一昨日には、知人が海岸部の湿地でエゾアカガエルの声を聞いている。こちらも一月ばかり早い春の兆しである。これらの兆候は、地球規模での気候変化を反映しているのか、単なる一過性のものなのか…。


ヒシクイ(飛翔)
Img_3993


(2007年2月20日   千嶋 淳)





ホオジロガモ餌付く(その2)

2007-02-16 23:13:23 | カモ類
Img_3588
Photo by Chishima,J.
餌付けに集まるホオジロガモほか 2007年2月 北海道河東郡音更町)

 十勝川の、ハクチョウやカモ類への餌付けが行われている場所で最近ホオジロガモが餌付き始めたことは既に書いたが、本日撮影した画像を眺めていたところ、他種も含めその様子を写したものがあったので、ここに紹介する。撒かれているのは長径1cmあるかないか程度のコムギだが、マガモやオナガガモは水面でそれをついばんでいる。オオハクチョウは体の大きさと小回りの利かなさでマガモたちに劣るので、長い首を生かして水中や水底のコムギを拾っている(中にはヒトから直接貰うふてぶてしい奴もいる)。そんな中、ホオジロガモは自由自在に水中を泳ぎまわり、餌を欲しいままにしている(画面中央とその左上;いずれもオス)。これを見ると、やはりホオジロガモの人馴れには、餌のコムギへの切り替えが関係しているような気がする。

(2007年2月16日   千嶋 淳)