鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

嘴がオレンジ色のホオジロガモ

2011-02-12 10:42:04 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
嘴全体がオレンジ色のホオジロガモ・メス 2011年2月 北海道広尾郡広尾町)


 冒頭の写真は、2月1日に広尾町十勝港で撮影したカモである。嘴の先端だけオレンジ色で、他は黒色の典型的なホオジロガモのメスとは異なり、所々くすんだ黒色が混じるものの、嘴全体がオレンジ色を呈している。この点だけに着目すると、嘴全体がオレンジ色の北米西部産キタホオジロガモのメスを連想させる。しかし、それ以外の特徴は写真を見てわかる通り、ホオジロガモと大差は無い。
 急勾配の前頭部や目より前方にある頭頂、緩やかに幅を持って下る後頭部といったキタホオジロガモ的な特徴はまったく感じられない。最高点が目のほぼ上方に当たる頭部の形状や嘴の長さは、ホオジロガモと一致する。本個体は虹彩がやや暗色なことから、前年生まれの幼鳥である可能性がある。オスの幼鳥は、個体差はあるものの、この時期には嘴全体が黒色で、胸部の白色や頬の白斑がうっすらと現れる個体の多いことから、メスであるかもしれない。元々メスの幼鳥は、嘴の黒色部と黄色部の境界が不明瞭で、先端から根元の方までぼんやりとオレンジ色味を帯びる個体もいるので、色素の関係等によってオレンジ色部分が卓越する個体がたまに生じるのかもしれない。
 在庫写真の中から、およそ一月前の1月2日に同町音調津漁港で撮影したホオジロガモにも、同様の特徴を示す個体を発見した(下写真)。上の個体ほど嘴のオレンジ色が鮮やかでなく、黒色の混入する程度も大きいが、メス幼鳥のようである。年末年始の大時化が収まりきらぬ漁港内で、マガモと共に水面採餌をしていたのが印象的で、嘴の色にまで想いが至らなかった。

嘴のオレンジ色部分が広いホオジロガモ・メス
2011年1月 北海道広尾郡広尾町
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 ネットで調べていたら、2003年12月に韓国でやはり嘴全体がオレンジ色のホオジロガモ類が観察されており、写真も掲載されていたが、冒頭の個体とよく似ていた。その記事の執筆者もキタホオジロガモを示唆する特徴の無いことからホオジロガモであろうと結論しており、更に写真を見たスリムブリッジの水禽協会の研究者による「写真の鳥ほど鮮やかなオレンジ色ではないが、嘴がオレンジ色のホオジロガモは飼育下において稀でない」とのコメントもあった。そして文尾は「人目を惹き、特徴的な頭部の形より判断しやすい嘴の色それ自体は、多くの経験を積んだバーダーは分かっているように、決定的な識別の基準とはならない。よく似た2種を分けるのに、たまに役立つ補助的な特徴でしかない。」と結ばれていた。まったくその通りだと思う。機材や情報が進歩したおかげで、やたらと細かい特徴を捉えて鳥を識別する風潮があるが、特定の識別点だけに固執するのはむしろ視野を狭窄させるだけであって、その種自体が醸し出す雰囲気のようなもの(jizz)を大切にするべきだし、そのためには時間をかけて鳥を「観察」(撮影ではなく)する必要がある。


様々なホオジロガモの「メスタイプ」

2011年1月 北海道中川郡豊頃町
メス成鳥。嘴は黄色と黒のツートンカラー。虹彩の色は明るく、脚のオレンジ色は鮮やかで、赤みを呈す。体下面の灰色は胸まで及ぶ。
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2011年1月 北海道中川郡豊頃町
オス幼鳥。嘴は黒色で、胸は白っぽい。虹彩はやや暗色で、目と嘴付け根の間に白斑がわずかに現れ始めている。脚の色は鈍い。
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2011年1月 北海道中川郡豊頃町
メス?幼鳥。虹彩や脚の色から幼鳥と思われる。特にオス的な特徴がないことからメスか?嘴のオレンジ色と黒色の境界は不明瞭で、もう少しオレンジ色が強ければ嘴全体がそのように見えるかもしれない。
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2011年2月 北海道広尾郡広尾町
幼鳥。全体的に暗色で、各羽の磨滅も小さいことから、かなり幼いと思われる。嘴は黒色みが強く、脚の色も鈍い。よほど遅く生まれたか、換羽の進行の遅い個体であろう。
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(2011年2月9日   千嶋 淳)


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