鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

130323 十勝川下流天然記念物鳥類観察会

2013-03-27 19:55:32 | ゼニガタアザラシ・海獣
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All Photos by Chishima,J.
ヒシクイをはじめとしたガン類の乱舞 以下すべて 2013年3月 北海道十勝川下流域)


 先週の土曜日(23日)は、NPO法人日本野鳥の会十勝支部東十勝ロングトレイル協議会の共催による十勝川下流天然記念物鳥類観察会にガイドとして参加させていただきました。十勝川下流域には春と秋の年に2回、マガン、ヒシクイ、タンチョウ、オジロワシ、オオワシと天然記念物の鳥5種が揃い、更に近年ではハクガンやシジュウカラガンも観察できるので、日帰りでそれらを見てしまおうという贅沢なバスツアーです。

 午前9時前に帯広を出発し、道中ヒシクイやオジロワシを見ながら十勝川沿いに下ります。いよいよ下流域に入るとまずは、旧河川跡の湿地に多くのヒシクイ(亜種オオヒシクイ)やオオハクチョウがごそっと集まっていたのを皮切りにタンチョウやガン類も次々姿を現します。抜けるような青空を背に飛ぶそれらの水鳥は、いつもに増して美しく見えます。これだけの大型水鳥や猛禽類の生息環境であるにも関わらず、開拓の過程で湿地の98%が失われ、食糧生産の拠点となった農地では食害や踏圧といった人間との軋轢も生じていることを紹介しながら進んでゆくと、昨秋刈り残した畑に無数のガン類が集まっており、ハクガンやシジュウカラガンも見ることができました。特にシジュウカラガンは、30羽近い群れがすぐ頭上を飛び、一同の興奮も最高潮に達した瞬間でした。


刈り残したデントコーン畑に群がるオオハクチョウヒシクイ
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 浦幌市街で昼食の後は再度海岸に戻り、ハヤブサやクロガモを観察していると、ゼニガタアザラシ、ゴマフアザラシ、ネズミイルカと海獣類が3種も次々と姿を現してくれ、十勝の海にも豊かな動物たちの世界のあることを、午前中に紹介させていただいた拙著「十勝の海の動物たち」とともに実感いただけたのではないかと思います。
 その後は河口近くの氷と開水面の入り混じったエリアで、多数のカワアイサに加えてオオワシも無事観察でき、天然記念物5種+ハクガンとシジュウカラガンを堪能して帰途に就きました。
 十勝は、道東や道央圏に比べると探鳥地としてはマイナーですが、季節によっては世界でもここだけの鳥たちを満喫できます。一方でそれらが害鳥視されている側面もあり、灌漑や湿地の水位低下により生息環境の悪化も進んでいるので、鳥たちの存在によってより豊かな地域となることを目指して今後も活動してゆきたいと思います。


望遠鏡で水鳥を観察する参加者
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(2013年3月25日   千嶋 淳)


130315~17 十勝川プライベート・ツアー

2013-03-26 14:00:57 | お知らせ
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All Photos by Chishima,J.
陽光煌く早春の十勝川 以下すべて 2013年3月 北海道十勝川流域)


 15日からの3日間、本州からのお客様3名をNPO法人日本野鳥の会十勝支部として鳥と食を中心におもてなしさせていただき、私は主に鳥を担当しました。例年、3月中旬は多くのガン類はじめ渡り鳥で賑わう十勝川流域ですが、今年は去年に引き続き冬の降雪が多く、雪解けも遅いという悪条件で、どれだけの鳥と出会うことができるか正直かなり不安がありました。

 初日は帯広市内で昼食後、タンチョウを見たいというご要望に沿うべく十勝川下流域を目指しました。農耕地はまだ一面の雪原でしたが、雪の解けている場所を中心に何羽ものタンチョウを見ることができ、飛来の遅れていたヒシクイも200羽ほどの群れと出会えました。それらを観察中、オオハクチョウとヒシクイがすぐ頭上を、羽音が聞こえる距離で飛んでくれ、皆様大変感動されていました。今年の気象条件を考えればこれで十分と思った帰路では更に何羽ものタンチョウ、オオマシコの小群、至近距離でのオジロワシ等まだまだ出会いが待っていて、半日なのに予想外の充実した探鳥となりました。


堆肥場のタンチョウ
このような人工物背景の写真を嫌う愛好家が多いが、野生動物と人間の関係の今を伝えるのもまた、写真の役割だと思う。
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 翌16日、シノリガモとオオワシを見てみたいという希望を叶えるため、どの方面に繰り出すか、かなり迷いました。天候や移動時間等を総合的に考え、ある方面に定めましたが、到着後すぐにシノリガモをはじめ各種海ガモ類やゼニガタアザラシ等を観察でき、その場所で偶然お会いした支部会員の方々からの連絡によりオオワシも成鳥、幼鳥ともしっかり見ることができました。その後、海岸部は雪模様となったため引き揚げ、帯広近郊でカモ類やその行動をじっくり観察しました。夜は支部長が自ら料理する道内の食材をふんだんに味わい、杯を酌み交わしました。中でも、久しぶりに食べたキンキの煮付けは絶品でした。
 最終日は午後には皆様帰途に就かれるため、午前中のみの探鳥で、十勝ネイチャーセンターの協力のもと十勝川をゴムボートで下りました。快晴で麗らかな陽光の降り注ぐ十勝川の水面は、厳冬とはすっかり異なる早春の雰囲気で釣り人の姿も多く、河畔林からはシジュウカラの囀りが聞こえていました。晩秋にサケを求めて飛来するワシ類はこの時期少なく、オジロワシ1羽だけでしたが、すぐ近くを悠然と旋回するワシの姿に一同すっかり見入ってしまいました。気が付けば、あっという間の3日間でした。多くの鳥を見ていただけたことにくわえ、繁殖期を目前に控えたこの時期ならではの鳥たちの様々な行動をご覧いただけたことも今回の大きな収穫だったと思います。
 参加いただいたお客様、情報をリアルタイムで提供いただいた何名かの支部会員の方々、本当にありがとうございました。また、前線、後方ともツアーを作ってきたスタッフの皆様、お疲れ様でした。
 NPO法人日本野鳥の会十勝支部では、これまでやって来たツアー以外にも、このような小規模な「プライベート・ガイド」も行っております。少人数ゆえ行動やスケジュールの融通が利きやすいのも魅力です、その時期にでき得る限りの探鳥と食事でおもてなしさせていただきます。興味のある方はお問い合わせ下さい。
 トップ画像は最終日午前、ゴムボートからの十勝川。逆光の水面がとても春らしい感じでした。


ゴムボートからのオジロワシ成鳥
晩冬の澄んだ青空に白い尾羽が映える。
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確認種:ヒシクイ オオハクチョウ オカヨシガモ ヨシガモ ヒドリガモ アメリカヒドリ マガモ オナガガモ コガモ ホシハジロ キンクロハジロ スズガモ シノリガモ クロガモ ホオジロガモ ミコアイサ カワアイサ カイツブリ ハジロカイツブリ カワウ アオサギ タンチョウ イカルチドリ ハマシギ カモメ シロカモメ オオセグロカモメ トビ オジロワシ オオワシ オオタカ ノスリ アカゲラ カケス ハシボソガラス ハシブトガラス ハシブトガラ ヤマガラ ヒガラ シジュウカラ ヒヨドリ エナガ ゴジュウカラ キバシリ ムクドリ ツグミ スズメ ハクセキレイ カワラヒワ オオマシコ ホオジロ属の一種 カワラバト(ドバト) (以上、鳥類) キタキツネ エゾリス ゼニガタアザラシ(以上、哺乳類)


(2013年3月17日   千嶋 淳)


霧多布沖の海鳥・海獣⑪ハイイロミズナギドリ(6月27日)

2013-03-22 18:34:20 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
ハイイロミズナギドリ群れの飛び立ち 以下すべて 2012年6月 北海道厚岸郡浜中町)


NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第5号(2012年10月発行)掲載の「2012年度霧多布沖合調査(その1)」を分割して掲載、写真を追加 一部を加筆・訂正)


 この季節特有の霧が出ることもなく、気持ち良い快晴の一日でした。沖合はサケ・マス流し網がびっしり入っているということで、いつもより沿岸を、岸と沖を何往復かする変則的なコースでの調査でした。それが良かったのかどうか、沖合調査では初となるエトピリカ成鳥が2羽観察され、若鳥も含めると計3羽が出現しました。繁殖期の成鳥は、思いのほか岸近くにいるのかもしれません。
 当日海上で目立ったのはフルマカモメとハイイロミズナギドリ。数百羽から時に千を超える群れを、幾つも見ることができました。特にハイイロミズナギドリは、船が近付いて飛び立つ際に翼が海面を打つ「ペシペシペシ…」という音と飛び立つ姿が、まるで一つの巨大な生物のようで圧巻でした。ハイイロミズナギドリは、とてもよく似たハシボソミズナギドリ同様、南半球でこちらの冬に繁殖し、春以降に赤道を越えて来る海鳥です。ハシボソが主にオキアミを食べ、大型鯨類と一緒に観察されることも多いのに対して、ハイイロは魚食性が強いといわれ、確かに霧多布でもウトウと共によく観察されます。この日は餌となる魚群が、岸近くまで寄っていたのでしょうか?前日の夕方には、岬からも大群が見られました。


フルマカモメ暗色型
翼先が海面を薙ぐ。
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ウトウ
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(2012年8月30日   千嶋 淳)

*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの



霧多布沖の海鳥・海獣⑩ゼニガタアザラシ(5月27日)

2013-03-18 23:26:29 | ゼニガタアザラシ・海獣
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All Photos by Chishima,J.
ゼニガタアザラシ 以下すべて 2012年5月 北海道厚岸郡浜中町)


NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第5号(2012年10月発行)掲載の「2012年度霧多布沖合調査(その1)」を分割して掲載、写真を追加 一部を加筆・訂正)


 2年目となる沖合調査。今年度最初の航海は曇りがちで、波もやや高めでした。アビ類やヒレアシシギ類、ウミスズメ類等がぱらぱら観察されたものの、昨年の同時期に多かったアホウドリ類やミズナギドリ類は非常に少数でした。海水温や餌の分布等、海の状態が去年とは違ったのでしょうか。今後も調査を続け、データを積み重ねてゆけば、そうしたこともわかってくるかもしれません。

 霧多布港を出て約20分にある岩礁では、荒波砕け散る岩の上で、数頭のゼニガタアザラシが休んでいました。このアザラシはゴマフアザラシ等氷上で繁殖する多くのアザラシ類とは違って陸上繁殖で、5月頃にオトナと同じ黒い毛の赤ちゃんが生まれます(氷上繁殖種では、赤ちゃんは白い毛の種が多いです)。陸から離れた帆この岩礁周辺は、子育て場としても大事な地域ですが、この日は波が高かったせいかオスの成獣と繁殖前の若獣ばかり観察されました。その名の通り、全身に穴開き銭のような模様が散在し、人間の指紋と同じくそのパターンは一頭一頭異なります。なので、これを写真で記録することによって上陸場間の移動や繁殖履歴、寿命といった生活史の解明に役立てることができます。沖合にあるこの岩礁はなかなか調査に行けないため、このような機会に調査・撮影しておくのは、ゼニガタアザラシの研究や保全の上でたいへん価値のあることです。


海上より見る霧多布岬
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(2012年8月30日   千嶋 淳)

*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの

130307十勝沖海鳥・海獣調査

2013-03-14 19:31:56 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
ウミガラスの夏羽(右)と冬羽 以下すべて 2013年3月 北海道十勝沖)

 今年2回目の十勝沖調査を実施しました。昼前後から風浪の強まることが予想されたため、この時期としては異例ともいうべき午前6時出港に間に合わせるべく5時前に家を出ると、真っ暗だった空は10分もすると白んで来て、ずいぶん日の長くなったことに驚きました。


 海上では水深100m以浅の沿岸域を中心に、前回同様ウミスズメ類や海ガモ類等が多く観察されました。ただ、その顔触れは僅か10日足らずの間にも変化しており、1000羽以上見られたコウミスズメは半分程度に減った一方で、エトロフウミスズメは最大で400羽前後の群れも観察され、総数は1200羽近くとなりました。もっとも波の穏やかな今日は、遠くから群れを発見できる一方、船舶の往来の多いこの海域では接近中にかなりの距離から飛んでしまい、あまり沢山見たという実感に乏しいのが少々残念でした。いつか、往年の釧路航路で見られたような雲のような群れを、その只中で見てみたいものです。消去法で考えるとウミオウムという鳥もそれらの中に散見されましたが、近距離での観察や撮影はできませんでした。エトロフウミスズメは調査後半に、やや波風が出て来ると単独個体を近距離で観察する機会が何度かあり、それらは嘴の色が鈍く、冠羽や目後方の白線の短い若鳥のようでした。
 今回特徴的だったのはウミガラス類の多さでした。ほぼ全域で1~数羽が浮いており、総数はウミガラス56羽、ハシブトウミガラス32羽、どちらか不明のもの164羽の計252羽が出現しました。これだけの数はこの調査ではおそらく初めてですし、普段はハシブトウミガラスの方が圧倒的に多いのですが今日はウミガラスの方が多く、不明もそのかなりがウミガラスと考えられた点です。ウミガラス類の付近ではカモメ類やヒメウが見られることも多く、何らかの餌と関連しているのかもしれません。ウミガラスは早くも夏羽の個体もいたほか、中間羽も多く観察されました。それらの中間羽は顔がもやっとした黒~灰黒色で、遠目や飛翔ではハシブトウミガラスとの識別が難しいものも少なくありませんでした。また、少なくとも一部の個体は次列風切を一斉換羽中で、上手に飛べないようでした。
 これら冬のウミスズメ類が多数見られているのは、今年は太平洋側にもかなり流入している流氷の影響かもしれません。その一方で、年末~前回の調査では確認できなかったコアホウドリやフルマカモメが何羽も観察され、帰港時にはテトラポッドに道東では夏鳥であるウミネコの姿を見る等、春の息吹を感じさせる航海でもありました。下船後は番屋で珍しいオオミゾガイのワイン蒸し等の御馳走に舌鼓を打ちながら歓談し、適宜解散しました。


夏羽に移行中のケイマフリ
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確認種:マガモ コガモ スズガモ シノリガモ ビロードキンクロ クロガモ コオリガモ ホオジロガモ カワアイサ アカエリカイツブリ ミミカイツブリ ハシジロアビ コアホウドリ フルマカモメ ヒメウ ウミネコ カモメ ワシカモメ シロカモメ オオセグロカモメ ハシブトウミガラス ウミガラス ケイマフリ ウミオウム コウミスズメ エトロフウミスズメ トビ ハシボソガラス ハシブトガラス

*十勝沖調査は、漂着アザラシの会が日本財団、NPO法人日本野鳥の会十勝支部がセブンイレブン記念財団より助成を受けて、上記2団体と浦幌野鳥倶楽部の連携のもと行われているものです。


海上より望む日高山脈
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(2013年3月7日   千嶋 淳)