台風一過の十勝海岸に出かけた。日本周辺を通過する台風には、大きく分けて小笠原・伊豆諸島を経由するものと南西諸島を経由するものとがあるが、前者が通過した時には外洋性海鳥が沿岸や内陸で見られることが多いと言われる。したがって、そのような時には一般国民の憂鬱とは裏腹に、鳥屋はいそいそと海岸に出かけてゆくのである。今回の進路はまさに典型的な前者であった。
しかし、台風が思いのほか早く通過したためか、海岸や漁港にはウミネコやオオセグロカモメがいつもより多いものの、期待していたアジサシ類やミズナギドリ類の姿は皆無である。軽微な被害に胸を撫でおろしている道民の方々には申し訳ないが、少々拍子抜けの気分で回っていると、ある漁港の一角の砂浜にゼニガタアザラシが上陸していた。去年ぐらいからこの港や周辺の海岸にゼニガタアザラシが出現するという情報はあったが、実際に目にするのは初めてだ。一応アザラシ類の生態調査に従事している者として、まずは個体の特徴の把握を試みる。相対的な大きさから3歳前後の亜成獣と思われる。性別は距離があって厳しい。
オオセグロカモメ若鳥
磨滅しきった白い羽は、シロカモメを思わせるものがある。
![FH000014 FH000014](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/4f/09/c8caf94d40a553ba37e30bb5d2075465_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
砂浜のゼニガタアザラシ
この時点では人との「距離」を感じさせる。
![zeni zeni](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/73/38/db2c9ce68a0d21b80fc84af7d179c66d_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
<script src="http://j8.shinobi.jp/ufo/09432870m"></script>
<noscript>
![](http://x8.shinobi.jp/bin/ll?09432870m)
無料ホームページ</noscript>
より詳細な情報の入手と写真撮影を目的に、草むらに隠れながらじりじりと接近する。釣り人と一緒に上陸していたとの事前情報もあったため、こちらもいささか大胆に接近する。30メートル程まで接近しただろうか、カメラのファインダー越しにアザラシと目が合った気がした。間もなく、奴はその体を引きずるようにしながら海に入ってしまった。しまった!警戒させてしまったか。アザラシ類は、陸上ではきわめて不器用な移動しかできないため、危険を察知するといち早く海に逃げ込むのである。
泳いできたゼニガタアザラシ
![zeni2 zeni2](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/52/9e/4e4568e0b8f80cb890e706dc92f2d10f_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
「10年以上も付き合っていながら、俺もまだまだだな。」と反省し、手近な叢に身を隠して、状況を伺う。アザラシがこちらに泳いで来た。これ自体はよくあることだ。すなわち、アザラシは海に入った時点では何が危険因子であったか認識できていないため、素早く行動できる自信のある海中において初めて、認識を行なうのである。
「すまんな。」と思いながら覗き見ていると、奴はおもむろに我々の眼前の砂浜に上陸してきた。幾分面食らっていると、こちらの驚きをあざ笑うかのようにどんどん近寄って来る。最初は特定の場所に執着を持ったがために、そこへの侵入者を排除しようと威嚇に来たのかと思った-オットセイなどでは実際にこのようなことがあるらしい-。なので噛まれては一大事と身構えたが(食肉類と近縁なだけに強靭な歯を持っている)、そのような意思は微塵も無いらしく、私らの足元まで這ってくると、安心したようにそこで眠り始めた。その姿は、ペットの犬と何ら変わらない。
なんと上陸してきた!
![zeni3 zeni3](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/2c/78/9a786c22fe0ebcda4dcc6dd85612d4a6_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
気持ち良さそうに眠る
![zeni4 zeni4](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/2a/db/22f1c71fa0ccf4ba5548d164fcb8fa0d_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
人の接近は気にならないようで…
携帯で記念撮影。
![zeni5 zeni5](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/79/dd/f801abd0a775c6f4e76b57b01da8c1ad_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
暫くは、狐に摘まれたような気分でいた我々も、どうやら面白い場面と遭遇していることが分かってくると、ここぞとばかりに観察や撮影を始めた。この間、彼(生殖孔を確認したところオスであった)は気持ち良さそうに、惰眠を貪っていた。もっとも襲来して肌を突き刺すアブには閉口したとみえて、しきりに寝返りを打っていたが…。
アブだけが邪魔
目の上や鼻先に止まられると、それは嫌そうに寝返りを打っていた。
![zeni6 zeni6](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/0b/99/474d45d4bdac5e59768ee00d1467fe62_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
昆布拾いのおばちゃんや貝掘りのお兄さんは、私たちの挙動不審にも関わらず目もくれなかったことから、どうやら日常茶飯事な光景らしい。ちなみに、北米などの近縁種は都市近郊の砂浜にも上陸して人の接近にも臆しないことが知られているが、北海道のゼニガタアザラシは、本来は無人島や沿岸でも人の接近しない地点の岩礁に、それは慎ましく上陸している連中なのだ。
本来のゼニガタアザラシ
北海道では、このように無人島などの岩礁に集団で上陸する臆病な動物である。
![zeni7 zeni7](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/42/64/486261a748a7676817053e78ec75282a_s.jpg)
Photo by Chishima,J.2005年8月北海道東部。
他はすべて2005年7月28日十勝海岸
人間に飼育された経験のある個体なのであろう。知人を通じて、十勝管内で親とはぐれてしまったアザラシの赤ちゃんの野生復帰を精力的に行なっている施設に照合してもらった(ゼニガタアザラシは、銭型模様の配列が個体によって異なるため、それに基づいて個体識別が可能なのである)ところ、その施設で放流したのに該当する個体はいないとのことであった。となると、管外の別の施設か、さもなくば個人で飼育されていたものか。
何はともあれ、このようなゼニガタアザラシが誕生したのだから、大勢の仲間を引き連れて人を恐れずに上陸し、各種データロガーも装着・回収し放題になったら楽しいだろうにと考えてしまうのは、研究らしきことをしている人間のエゴというものか…。
安眠
![FH000020 FH000020](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/12/2b/15b8b85ac9f5549dbe04e40dd49664ec_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
(2005年8月19日 千嶋 淳)
しかし、台風が思いのほか早く通過したためか、海岸や漁港にはウミネコやオオセグロカモメがいつもより多いものの、期待していたアジサシ類やミズナギドリ類の姿は皆無である。軽微な被害に胸を撫でおろしている道民の方々には申し訳ないが、少々拍子抜けの気分で回っていると、ある漁港の一角の砂浜にゼニガタアザラシが上陸していた。去年ぐらいからこの港や周辺の海岸にゼニガタアザラシが出現するという情報はあったが、実際に目にするのは初めてだ。一応アザラシ類の生態調査に従事している者として、まずは個体の特徴の把握を試みる。相対的な大きさから3歳前後の亜成獣と思われる。性別は距離があって厳しい。
オオセグロカモメ若鳥
磨滅しきった白い羽は、シロカモメを思わせるものがある。
![FH000014 FH000014](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/4f/09/c8caf94d40a553ba37e30bb5d2075465_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
砂浜のゼニガタアザラシ
この時点では人との「距離」を感じさせる。
![zeni zeni](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/73/38/db2c9ce68a0d21b80fc84af7d179c66d_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
<script src="http://j8.shinobi.jp/ufo/09432870m"></script>
<noscript>
無料ホームページ</noscript>
より詳細な情報の入手と写真撮影を目的に、草むらに隠れながらじりじりと接近する。釣り人と一緒に上陸していたとの事前情報もあったため、こちらもいささか大胆に接近する。30メートル程まで接近しただろうか、カメラのファインダー越しにアザラシと目が合った気がした。間もなく、奴はその体を引きずるようにしながら海に入ってしまった。しまった!警戒させてしまったか。アザラシ類は、陸上ではきわめて不器用な移動しかできないため、危険を察知するといち早く海に逃げ込むのである。
泳いできたゼニガタアザラシ
![zeni2 zeni2](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/52/9e/4e4568e0b8f80cb890e706dc92f2d10f_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
「10年以上も付き合っていながら、俺もまだまだだな。」と反省し、手近な叢に身を隠して、状況を伺う。アザラシがこちらに泳いで来た。これ自体はよくあることだ。すなわち、アザラシは海に入った時点では何が危険因子であったか認識できていないため、素早く行動できる自信のある海中において初めて、認識を行なうのである。
「すまんな。」と思いながら覗き見ていると、奴はおもむろに我々の眼前の砂浜に上陸してきた。幾分面食らっていると、こちらの驚きをあざ笑うかのようにどんどん近寄って来る。最初は特定の場所に執着を持ったがために、そこへの侵入者を排除しようと威嚇に来たのかと思った-オットセイなどでは実際にこのようなことがあるらしい-。なので噛まれては一大事と身構えたが(食肉類と近縁なだけに強靭な歯を持っている)、そのような意思は微塵も無いらしく、私らの足元まで這ってくると、安心したようにそこで眠り始めた。その姿は、ペットの犬と何ら変わらない。
なんと上陸してきた!
![zeni3 zeni3](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/2c/78/9a786c22fe0ebcda4dcc6dd85612d4a6_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
気持ち良さそうに眠る
![zeni4 zeni4](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/2a/db/22f1c71fa0ccf4ba5548d164fcb8fa0d_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
人の接近は気にならないようで…
携帯で記念撮影。
![zeni5 zeni5](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/79/dd/f801abd0a775c6f4e76b57b01da8c1ad_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
暫くは、狐に摘まれたような気分でいた我々も、どうやら面白い場面と遭遇していることが分かってくると、ここぞとばかりに観察や撮影を始めた。この間、彼(生殖孔を確認したところオスであった)は気持ち良さそうに、惰眠を貪っていた。もっとも襲来して肌を突き刺すアブには閉口したとみえて、しきりに寝返りを打っていたが…。
アブだけが邪魔
目の上や鼻先に止まられると、それは嫌そうに寝返りを打っていた。
![zeni6 zeni6](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/0b/99/474d45d4bdac5e59768ee00d1467fe62_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
昆布拾いのおばちゃんや貝掘りのお兄さんは、私たちの挙動不審にも関わらず目もくれなかったことから、どうやら日常茶飯事な光景らしい。ちなみに、北米などの近縁種は都市近郊の砂浜にも上陸して人の接近にも臆しないことが知られているが、北海道のゼニガタアザラシは、本来は無人島や沿岸でも人の接近しない地点の岩礁に、それは慎ましく上陸している連中なのだ。
本来のゼニガタアザラシ
北海道では、このように無人島などの岩礁に集団で上陸する臆病な動物である。
![zeni7 zeni7](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/42/64/486261a748a7676817053e78ec75282a_s.jpg)
Photo by Chishima,J.2005年8月北海道東部。
他はすべて2005年7月28日十勝海岸
人間に飼育された経験のある個体なのであろう。知人を通じて、十勝管内で親とはぐれてしまったアザラシの赤ちゃんの野生復帰を精力的に行なっている施設に照合してもらった(ゼニガタアザラシは、銭型模様の配列が個体によって異なるため、それに基づいて個体識別が可能なのである)ところ、その施設で放流したのに該当する個体はいないとのことであった。となると、管外の別の施設か、さもなくば個人で飼育されていたものか。
何はともあれ、このようなゼニガタアザラシが誕生したのだから、大勢の仲間を引き連れて人を恐れずに上陸し、各種データロガーも装着・回収し放題になったら楽しいだろうにと考えてしまうのは、研究らしきことをしている人間のエゴというものか…。
安眠
![FH000020 FH000020](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/12/2b/15b8b85ac9f5549dbe04e40dd49664ec_s.jpg)
Photo by Chishima,J.
(2005年8月19日 千嶋 淳)