鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

陸から見ると…

2009-12-25 17:09:40 | ゼニガタアザラシ・海獣
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Photo by Chishima,J.
トド 2009年12月 北海道目梨郡羅臼町)


 先の記事で漁村の前浜に群れるトドを紹介したが、そこで用いた写真は海上から船を使って撮影したものであった。陸側の海岸線から撮影したのが、上の写真である。最手前で海上から突き出しているのが小群で遊泳するトドの頭や後肢、そこから背後に向かって画面中央のやや上に見えるのが漁網の位置を示すブイ、その奥では漁船が操業している(おそらくスケトウダラ漁)。そして最奥部に見えている陸地は、北方四島の国後島である。幅25㎞程の根室海峡で、ヒトもトドも海からの恩恵に預かりながら共に生きている。


(2009年12月25日   千嶋 淳)


前浜のトド

2009-12-21 14:19:57 | ゼニガタアザラシ・海獣
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All Photos by Chishima,J.
トド 2009年11月 以下すべて 北海道目梨郡羅臼町)


 初冬には珍しいくらい穏やかな羅臼の海を、船は緩やかに進んで行く。時折、シノリガモやヒメウが脇を通り過ぎる。平らな海面に褐色の点が幾つも散らばっていた。点だけでなく、三角定規の細長い方が突き出しているようなのも見える。トドの休息集団だ!調査員やカメラマンを乗せた甲板は俄かに色めき立ち、船はゆっくりと、だが確実にトドへ近付いて行く。向こうもこちらの存在に気付き、大きな口を開けた直後、咆哮が耳に飛び込んで来た。「オーッ、オーッ」。点に過ぎなかったトドの頭部や背中の赤褐色が、肉眼でもそれと認識できる。三角定規は、前・後肢だったのだ。
 こう書くといかにも、「世界自然遺産」や「原生的な自然環境」と云ったイメージの強い知床の、人里離れた桃源郷の沖合での出来事に思われるかもしれない。しかし、実際には下の写真を見れば明らかなように、トドの群れ泳ぐすぐ後ろにはテトラポッドが堅固に組まれ、そのまた後ろには人家が建ち並ぶ漁村の前浜での遭遇である。凪いだ海面は背後の家々を反映して、所々白や茶や様々な色に染まっている。夏に千島列島などで繁殖したトドは、11月頃から羅臼の沿岸に回遊して来る。観察されるのは沖合よりもむしろ、特定の岸近くの「付き場」と呼ばれる海面が多い。この日出会ったもう一群も、すぐ背後は車の往来する道路だった。両地点とも岸からもはっきりと見えていたはずだ。いや、むしろ陸からの方が距離は近いかもしれない。水深やコンブの養殖網のため、船はごく沿岸へは進入できないのを、彼らは知っているのかもしれない。


岸近くのトドの群れ2点
2009年11月

幾つもの頭にくわえて、三角定規のような前肢も見える。
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トドの後方、水面が淡色に見えるのは家を映しているから。
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 こうして初冬の羅臼で平和な日々を送っていたトド達も、1月中旬頃からは様子が変わる。船の接近に対して非常に敏感になり、時にはイルカのような激しい跳躍を伴ってそれを交わそうとする。有害獣駆除としてのトド撃ちが始まるからだ。メスでも体長2mを超えるトド(羅臼に来遊するのはメス成獣が多い)は無類の大食漢で、1回の摂餌量の平均が18㎏(羅臼における捕獲個体の胃内容物重量から推定)との報告がある。餌生物にはスケトウダラ、マダラなどのタラ類をはじめ、カレイやサケの仲間など人間にとっての有用魚種も多く含まれる。ゆえに漁獲物や漁具への被害が発生し、駆除という措置が講じられることになる。


跳躍して船から逃げるトド
2009年1月
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サケ科と思われる魚を捕食中のトド
2009年1月

オオセグロカモメの若鳥がおこぼれに預かろうと付き纏う。
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大きな餌は口にくわえて振り回し、細かくしながら食べる。
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 一方でトドは分布域の多くで生息数を減少させており、アメリカやロシアでは絶滅危惧種として保護されている。北海道に隣接した千島列島でも、1960年代の2万頭から1990年代の4000頭まで著しい減少を示した。北海道における駆除もその減少に拍車を掛けたと考えられている。環境省のレッドデータブックでは、絶滅危惧Ⅱ類の指定を受けている。羅臼でもかつて見られたような数百頭の大群や、岩礁への上陸は近年とんと見られなくなったと言う。しかし漁業被害は依然として存在し、全道では100頭以上が毎シーズン駆除されている。知床の自然遺産登録に当たっても、トドの保護か人の生活かといった議論がなされた。
 それでも、相変わらず市街地の沿岸にトドがやって来るのは、そこが彼らにとって魅力を持った海域だからなのであろう。漁業との軋轢は深刻な問題であるが、解決を図りながら将来に渡ってトドの来遊を維持できれば、世界遺産の核心地域でも海面保護区でもない前浜に来るトドは、野生動物との共存の新たな風景となるかもしれない。


はえ縄で漁獲され、船に水揚げされるスケトウダラ
2009年11月
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真冬の知床半島を海上より望む
2009年1月
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(2009年12月17日   千嶋 淳)


柳葉魚をめぐる鳥たち

2009-12-10 02:19:06 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
スズガモのメス 2009年11月 北海道中川郡豊頃町)


 秋の午後独特の柔らかい陽射しが降り注ぐ岸壁では、係留された漁船の脇で家族総出でのシシャモの選別作業が行われている。麗らかな陽気を反映してか、それはとても穏やかな漁港の風景に見える。それでも、木の台の上で次々と魚を選別してゆく手つきは決して緩んでいない。漁船の奥の水面は、綿菓子を散りばめたように数百羽のカモメ類で覆われている。双眼鏡で見やると、ユリカモメやカモメ、ウミネコなど小・中型の種類が中心のようだ。
 彼らの狙いは他ならぬ、この岸壁だ。選別でこぼれ落ちた、あるいは状態が悪く投げ捨てられた魚が出ると、何羽かがすかさず飛び立ち、魚に向かっての競争を繰り広げる。勝者が嘴に魚を掴み取った後も勝負はまだ続く。時には執拗に追い回した個体が奪い取り、最終的な勝者が入れ替わることさえある。こうしてシシャモを選別する人たちの話声と、それを取り巻くカモメ類の喧噪に包まれた漁港を、釣瓶落としの秋の陽がセピア色に染めて行く。(10月中旬)


岸壁の風景
2009年10月 北海道中川郡豊頃町
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ユリカモメ(左手前)とウミネコ
2009年10月 北海道中川郡豊頃町
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船の合間を縫って飛ぶウミネコ
2009年10月 北海道中川郡豊頃町
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                   *

 朝晩の冷え込みが肌を刺すように厳しくなり、遠く望む日高の峰々は日々白さを増して来る。そんな午前に訪れた漁港は閑散としていた。シシャモ漁船がカモメたちを引き連れて、前浜に出漁中のためである。人っ子一人いない静かな岸壁の直下で、十羽程のスズガモがしきりに潜水している。普段は港の奥で人を避けるように休息しているスズガモが、一体何をしているのだろう?
 一羽が餌をくわえて浮上した。銀色に光る細長い体がまぶしい魚だ。おそらくシシャモだろう。昨日の選別作業でこぼれ落ち、なお且つ水面でカモメ類に浚われなかったものが、この浅い海底に沈んでいるものと思われる。スズガモは一気呵成に、数口で飲み込んだ。そうしなければならない理由はじきに分かった。漁船に付いて行かず港に留まっているオオセグロカモメが、あわよくばシシャモを奪おうと周囲で狙っているのだ。そのため、水面下で先に飲み込んでから浮き上がる個体も少なくない。
 小春日和の午前中に、静寂の中でスズガモが潜る「ポチャッ」、魚を食む「ペチャペチャ…」という音に浸れるのもあと数日だろう。今年の漁もじきに終わる。(11月中旬)


シシャモ?を食べるスズガモ
2009年11月 北海道中川郡豊頃町
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                   *

 シシャモは北海道の太平洋沿岸に生息する、日本固有のキュウリウオ科の魚である。アイヌの神様によって柳の葉から作られたという伝説があり、「柳の葉の魚」を意味するアイヌ語のスス・ハムもしくはシュシュ・ハモが和名の由来だという。10月中旬から11月下旬にかけて、日高地方の鵡川や沙流川、十勝川、釧路地方の庶路川、阿寒川、新釧路川、別寒辺牛川等に産卵のため遡上する。その時期に、沿岸で主に桁網を用いて漁獲される。シシャモというと日高の鵡川が有名だが、胆振・日高地方の資源は著しく減少し、近年では十勝・地方で全道の漁獲量の大半を占めている。
 本州などでは「シシャモ」として出回っているかなりの部分が北太平洋や北大西洋で獲れるカラフトシシャモ(カペリン)で、本当のシシャモは高級魚扱いになっているそうだが、産地が近いこともあって十勝のスーパー等では比較的安価で求めることができる。何を隠そう今晩も、安く手に入れた干物を焼いたやつでの晩酌を楽しんだ後でこの駄文を綴っている。


十勝産シシャモの干物
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カモメ(成鳥冬羽)
2009年11月 北海道中川郡豊頃町
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(2009年12月9日   千嶋 淳)



「十勝川ワシフェスタ」のお知らせ

2009-12-05 12:20:32 | 鳥・冬
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Photo by Chishima,J.
厳冬の十勝川上空を舞うオオワシ・成鳥 2009年2月 北海道十勝川中流域)


 近年、遡上するサケを追いかけて、初冬の十勝川中流域で多数のオオワシ・オジロワシが観察されるようになりました。日本野鳥の会十勝支部と音更町十勝川温泉観光協会では、来る12月19日(土)に「十勝川ワシフェスタ」を開催します。午前中は千代田新水路付近での観察会で実際にワシを見て、午後は日本野鳥の会の柳生博会長、同会研究員の安西英明氏、北大大学院の小野有五教授らによるフォーラムで十勝川のワシの魅力を語ってもらいます。

・日 時: 12月19日(土)
  10:00~11:30  千代田新水路でワシ観察(集合:千代田新水路管理棟)
  13:00~15:00  フォーラム (十勝川温泉第一ホテル)
  17:00~18:30  懇親会
※参加費無料 
※午前中のワシ観察は事前申し込みが必要です。
※17:00~18:30 懇親会を開催。会費¥5,000-(要事前申し込み)

・場 所: 十勝川温泉
・主 催: 日本野鳥の会十勝支部 ・ 音更町十勝川温泉観光協会
・申し込み・問い合わせ: 日本野鳥の会十勝支部 支部長 室瀬秋宏 携帯 090-3119-6568 
        
 また、当日は公募による十勝のワシ写真展も予定されています。それらも含め、詳細は日本野鳥の会十勝支部のホームページを御覧下さい。