鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

第2回十勝川ワシフェスタ

2010-12-17 22:45:09 | 猛禽類
Img_5889
Photo by Chishima,J.
オジロワシの幼鳥 2010年12月 北海道十勝川流域)

 直前の案内になってしまいましたが、今週末の19日(日)、音更町十勝川温泉観光協会と日本野鳥の会十勝では、昨年に引き続き「弟2回十勝川ワシフェスタ」を開催します。千代田新水路での観察会や夕方の懇親会は事前申し込みが必要ですが、小野有五氏と安西英明氏によるトークショーは申し込み不要で自由に参加できます。十勝川とそこに飛来するワシたちの魅力に浸ってみませんか。

詳しくは
こちらのビラ
日本野鳥の会十勝HP
まで。




カンムリウミスズメ

2010-12-17 22:13:21 | 海鳥
Photo
All Photos by Chishima,J.
カンムリウミスズメ 2010年9月 北海道苫小牧沖)


(2010年11月1日釧路新聞掲載「道東の鳥たち20 カンムリウミスズメ」より転載 写真を追加)


 台風一過の青空を映した海は穏やかで、ゆっくり進む船の舳先を、翼を広げると2mもあるコアホウドリが悠然と横切りました。岸からは滅多に見られないハイイロウミツバメが、所々ひらひらと舞っています。海面に小型の鳥を発見。ウミスズメとよく似ていますが、双眼鏡の視野にとらえた、目の上から後頭部に伸びる白い冠羽と鉛色の嘴は、明らかに異なっていました。「カンムリだ!」思わず叫びました。2009年10月10日、釧路沖約15km。当地での最初の出会いでした。

最初の出会い(カンムリウミスズメ
2009年10月 北海道釧路沖
Photo_2


ハイイロウミツバメ
2009年10月 北海道釧路沖
Photo_3


 カンムリウミスズメは、エトピリカやウミガラス(オロロン鳥)など北海道以北の寒い海で暮らす種類が大部分のウミスズメ科にあって、暖かい海で繁殖する異色の海鳥です。地球上で伊豆諸島や宮崎県、韓国南部の島などに5000~1万羽が繁殖するのみで、日本近海の固有種といってよいでしょう。英名は「Japanese Murrelet(日本のウミスズメ)」、学名の種小名(その種固有の部分)「wumizusume」も日本語ウミスズメの誤記に由来するものです。
 繁殖地周辺には12月から飛来し、3、4月に岩の割れ目などに産卵します。一ヶ月後、孵化したヒナはわずか2日で巣を離れ、親鳥と一緒に海上で育ちます。5月には繁殖地近海から姿を消しますが、その後どこで何をしているかは、ほとんど分かっていません。
 私は、釧路でシャチを調査している「さかまた組」の協力を得て、去年から秋の釧路沖の海鳥を調べています。冒頭の出会いはそこでのものです。カンムリウミスズメはその後も出現し、最大6羽と出会った日もありました。今年は浜中や厚岸、十勝の浦幌、苫小牧地方の海上でも7~9月に観察しています。また近年、ほかの観察者によって羅臼や根室の沖でも記録されました。7月から10月の道東・道央の太平洋上には、結構な数が来ていると考えています。南の印象の強い本種ですが、北の海が非繁殖期の重要な生息地となっているようです。


釧路沖のシャチ
2010年10月 北海道釧路沖
Photo_4


カンムリウミスズメ
2010年10月 北海道釧路沖
Photo_5


 最近になって記録が相次いだ理由は不明ですが、非繁殖期の正確な羽色がわかってきたこと、各地で海鳥ウオッチングが活発化したこと、観察・撮影機材の進歩などが関係しているかもしれません。昨今は図鑑も続々出版され、日本の鳥のことは大方分かったと思われるかもしれませんが、実は基本的な生態すら分かっていない種類も多く、生涯の大半を沖合で過ごすカンムリウミスズメのような海鳥はなおさらです。
 地球上に5000羽しかいないため、天然記念物や環境省、国際自然保護連合のレッドリストで絶滅危惧種に指定されていますが、その将来は楽観できません。繁殖地では、釣り人とともに上陸したネズミが卵やヒナを食べてしまいます。油流出などの海洋汚染や漁網による混獲は、分布域のすべてで脅威となっています。渡り鳥を守るのに繁殖地と越冬地、中継地すべてが必要なように、海鳥の保護には繁殖地とそれ以外の時期を過ごす海の両方の保全が要求されます。


カンムリウミスズメ
2010年7月 北海道十勝沖
Photo_6


 釧路沖にはほかにも、ハワイや小笠原からのアホウドリ類、南半球からのミズナギドリ類など世界中から海鳥が集まります。それだけ豊かな海なのでしょう。私たちもその恩恵に預かっています。いつまでも人と鳥が共存できる釧路の海であってほしいと思います。


コアホウドリ(手前)とクロアシアホウドリ
2010年9月 北海道十勝沖
Photo_7


(2010年10月28日   千嶋 淳)


他力本願?(10月22日)

2010-12-03 22:38:53 | 猛禽類
1
All Photos by Chishima,J.
牧草地の上を飛ぶハイイロチュウヒ・オス 2010年10月 北海道十勝川下流域)


 まだ15時前だというのに西に大きく傾いた陽と、牧草地や畑を渡る冷たい風は紛れもなく10月下旬のものであった。牧草は例年に比べて聊か背の高い気がする。既に何度かの刈り入れを経ているはずだが、今年の夏から秋の高温が生育を促したのかもしれない。そんな秋も後半の風景を背に、2羽のハイイロチュウヒのオスが飛んでいた。ハイイロチュウヒ自体は数少ない旅鳥または冬鳥として毎年渡来するが、大抵はメスまたはそれに類した羽色の幼鳥である。青灰色と黒、白のコントラストが美しいオスが、それも2羽同時に現れるなどというのは、そうあることではない。

ハイイロチュウヒのオス
2010年4月 北海道中川郡豊頃町
本種は十勝地方では9月末に渡来し、4月下旬まで見られる。渡来数は年により異なる。
2


 はじめ互いに比較的近い距離を飛翔し、攻撃的な絡みも見せた2羽は徐々に距離を離してゆく。ただし、やっていることは同様で、農耕地の上を低く掠めるように飛び、時々停空飛翔や地上への突っ込みを繰り返している。たまにその先から小鳥、距離があるので正確にはわからないがタヒバリやカワラヒワと思われる、が飛び出して全速力で捕食者から逃げてゆく。生と死のせめぎ合いにしばし見入っていると、興奮のため見逃していたと思われるあることに気が付いた。


停空飛翔しながら地表を窺うハイイロチュウヒのオス
2010年10月 北海道十勝川下流域
3


 双眼鏡の視野内を、コチョウゲンボウがやたらと横切るのだ。最初は偶然かと思っていたが、ハイイロチュウヒが低空飛翔や地上への突撃など獲物を仕留めそうになった時に特に、右から左から1羽のコチョウゲンボウ(メスまたは幼鳥)が弾丸のごとく飛来して、疾風よろしくハイイロチュウヒの傍を吹きぬけてゆく。何度か観察するうちに、これはハイイロチュウヒから逃れて飛びだした小鳥を狙っているのではないかと考えるようになった。なるほど、これならハイイロチュウヒに付き纏うかのように視野に入って来るのも納得がゆく。


ハイイロチュウヒ(オス)とコチョウゲンボウ(メスまたは幼鳥)(その1)
2010年10月 北海道十勝川下流域
4


 その後、コチョウゲンボウが付き従っていた1羽目のハイイロチュウヒが獲物を捕えて、地上での捕食に入ったと思われる(草丈が高く、詳細は観察できず)と、今度はまだ飛びながら狩りをしていた2羽目の方に移行し、やはり右から左から、ハイイロチュウヒの近くを掠めるようになった。結局、こちらのハイイロチュウヒは獲物を仕留めることなく視界の外に飛び去ってしまい、コチョウゲンボウもそれに追随したので、コチョウゲンボウの企てが成功したかはわからない。


ハイイロチュウヒ(オス)とコチョウゲンボウ(メスまたは幼鳥)(その2)
2010年10月 北海道十勝川下流域
5


 それでもこのような行動を示すということは、過去にそれによって狩りに成功した経験があるということなのだろうか。確かに両種とも中継地や越冬地では農耕地や原野、草原など開けた環境を好み、獲物は小鳥類が多い(ハイイロチュウヒでは小型哺乳類も重要な餌であるが)点は共通している。ただ、狩りの方法はまったく異なっていて、ハイイロチュウヒが上述のように地表近くを飛びながら、餌に突っ込んで捕えるのに対して、コチョウゲンボウは小さくて小回りの効く体を活かして、主として空中での追撃や不意打ちを得意とする。そこで、ハイイロチュウヒの捕りこぼした獲物を空中において失敬するといったような方法が発達したのかもしれない。それを表題では「他力本願」と呼んだが、たとえ他者が捕りこぼした獲物でも、その後自身が追跡・捕獲しなければならないのだから、強ちそうとばかりも言えないと思い、「?」を付しておいた。


ハイイロチュウヒ・オス
2010年10月 北海道十勝川下流域
6_2


コチョウゲンボウ

オス
2009年2月 北海道中川郡豊頃町
7

メス
2008年4月 北海道十勝郡浦幌町
8


追記:この秋の十勝川下流域では、ハイイロチュウヒ・オスの通過数が多かったようで、例年の傾向に反してメスタイプよりも頻繁に見られた。11月に行われた日本野鳥の会十勝の探鳥会や第6回十勝川エコツアーにおいても、美しいオスを全員で観察することができ、至福の思い出となった。


(2010年12月3日   千嶋 淳)