鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

ヒメウ(その2) <em>Phalacrocorax pelagicus</em> 2

2012-02-04 23:30:16 | 海鳥写真・ペリカン目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ヒメウ 2011年2月3日 北海道根室市)


 ウ類は全身黒っぽい外見のせいかバートウオッチャーの間でも人気が低いように思う。しかし本種は顔裸出部の赤色が派手な成鳥夏羽だけでなく、成鳥冬羽でも光線次第では十分美しい鳥である。成鳥冬羽の飛び立ち。全身の羽毛は構造色の部分が多く、曇天や逆光では黒いだけだが晴天の順光下では緑色の金属光沢を帯び、頸周辺は紫色を呈す。虹彩はラムネのビー玉のようなエメラルドグリーン。

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 上とは別個体の成鳥冬羽の飛び立ちと飛翔。ウ類は全般に流線型の体と長い首、アイサ類と似た(魚類の捕食に特化した収斂進化の例としてよく引き合いに出される)鉤型の嘴が作り出す細長いシルエットを持つが、本種は首と嘴が細く一段とスリムな印象を受ける。距離や光線次第ではアビ類や大型カイツブリ類と似て見えるかもしれない。ウ類はそれらに比べて翼が体のずっと後半に位置し(アビ類の飛翔型は「十字架」のよう)、その割に尾羽は長く、安定した飛翔状態で脚は目立たない。また、翌先の尖るアビ類とは丸みを帯びる点でも異なる。アイサ類は外観は似るが小さく、翼の拍動はずっと早い。体色が観察できれば、上下面とも黒っぽくて細長い海鳥はウ類くらいのもの。ウミウ成鳥とは大きさや首の太さ、顔の裸出部の有無等から識別可能。冬のチシマウガラスとは少々厄介なものの、同種の上面、特に翼上面は本種ほど緑色光沢は帯びないと思う。


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 若鳥は全身が褐色みを帯び、このような順光下ではかなり明るい色に見える。ただし、成鳥のような金属光沢はない。翼上面は初列風切、初列雨覆、小雨覆の前縁で褐色みが強く、次列風切や中、大雨覆は黒っぽい。スリムで腹部はやや膨らみを帯びるシルエットは成鳥と一緒。本種は海面近くと高くの双方を飛び、総じて一定以上の距離を飛ぶ時は高いことが多い。同時期のチシマウガラス若鳥は頭部から頸部にかけてより黒っぽく、太い嘴や目周辺の淡色が目立つ。


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 海上の成鳥冬羽2羽。手前は2、3枚目と同一個体。奥の個体では頸部の紫色光沢が顕著。尾脂腺が未発達なウ類は羽毛の親水性が高く、長時間潜水を繰り返していると体が沈んでしまう。そのような時の本種は、細い嘴や首のせいもあって海上からヘビが突き出しているような印象を与える。


(2012年2月4日   千嶋 淳)


カツオドリ(その1) <em>Sula leucogaster</em> 1

2012-01-03 18:37:11 | 海鳥写真・ペリカン目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて カツオドリ・オス成鳥 2011年7月7日 東京都小笠原村)


 北の海鳥というイメージはあまりないかもしれない。実際、繁殖地は太平洋、インド洋、大西洋の亜熱帯、熱帯海域であり、日本では南西諸島や小笠原諸島、九州南部の離島等で繁殖し、周辺海域で観察される。ただし、多くの海鳥と同様、時に長距離を移動する個体もいるようで、道東からは1980年6月根室市春国岱、2002年8月根室市ユルリ島、2006年7月厚岸町大黒島と少なくとも3例の記録があり、1997年7月には歯舞・色丹諸島の南東沖でもロシアの漁業監督官によって観察されている。記録はいずれも6~8月であり、本州東岸沖を北上する魚群やそれに付き従うオオミズナギドリ等の鳥山と一緒に漂行して来るのかもしれない。
 写真の鳥は、目から嘴基部にかけての裸出部が水色のオス成鳥である。

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 ユルリ島と大黒島の記録は、海鳥コロニーへの飛来である。ユルリ島ではオオセグロカモメやウミウ、エトピリカ等が繁殖する陸繋島の上空を、それらの鳥に混じって10分ほど飛翔した後島の沿岸沿いに飛び、その後沖合に飛去した。迷彩ポンチョを着てコロニーの近くで調査をしていた私は、大慌てで他のメンバーに飛来を無線で伝えたが、興奮していてよく聞き取れなかったらしい。ある人はあまりの興奮ぶりにキャンプサイトが火事にでもなったかと勘違いしたほど。ユルリ島では2006年にアカアシカツオドリの若鳥も記録されている。
 体型、体色とも独特で、遠距離や光線条件が良くないとオオミズナギドリと似て見えることもあるが、見紛う鳥は同属の近縁種以外では少ない。本来の分布域以外で目撃した際に識別の障害となるのは、むしろ「こんな場所に、こんな鳥がいる筈はない」という先入観であろう。


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 水中突入後に顔を震わせて水気を払っている。カツオドリ類は、トビウオ等を追って海中への突入採餌を頻繁に行なう。翼はミズナギドリ類等と同じく尖翼長腕型であるが、カツオドリ類では特に腕部が長く、次列風切は26枚に達する。尾羽は割に長く、楔状を呈する。


(2012年1月3日   千嶋 淳)


ヒメウ(その1) <em>Phalacrocorax pelagicus</em> 1

2011-12-23 10:56:11 | 海鳥写真・ペリカン目
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All Photos by Chishima,J.
(以下1点(比較画像のチシマウガラス)除きすべて ヒメウ成鳥夏羽 2011年4月18日 北海道十勝郡浦幌町)


 北海道では留鳥とされるが、道東では夏期に見られる大部分は褐色みを帯びた若鳥の越夏個体である。道東太平洋側での確実な繁殖記録は、おそらく数例しかないだろう。多くが冬鳥として10月以降に渡来するものと思われる。その季節性同様、意外と知られていないが成鳥夏羽の羽衣。多くの図鑑にあるよりも顔の赤い裸出部ははるかに広く、腰の脇の白斑も大きく目立つ。また、嘴も淡色に見える個体もいることから、チシマウガラスと誤認する可能性がある。そうした羽衣は2月下旬頃より見られ、4~5月には普通であるが、5月下旬以降は成鳥を見る機会が激減するため、いつまでそうなのかは不明。ただ、腰の白斑に関しては、11月くらいでも顕著な個体がいる。一連の写真は同日の同海域での撮影であるが、一部を除き別個体。

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 冒頭写真と同一個体。上面の色は構造色で、光線によって金属光沢を帯びた紫や緑に変化し、実は美しい鳥であることがわかる。嘴は、個体によってはこのように白っぽく、また厚みもあるように見え、冬羽や若鳥の黒くて細い嘴を見慣れていると、違和感を覚えるかもしれない。


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 別個体。顔の赤色は顕著だが、頸部の白い羽毛や腰の脇の白斑はまだ出ていない。


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 上の個体の顔のアップ。顔の赤い裸出部は広く、嘴が太く淡色に見えることから、チシマウガラスと誤認されやすいタイプ。


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 別の個体。頸の白い羽毛と腰の脇の白斑がきわめて顕著な個体。首から顔、嘴にかけて先細りになってゆくプロポーションは、本種に典型的なもの。


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 また別の個体。腰の白斑は大きいが、頸部の白い羽毛は疎ら。淡色の嘴と顔の赤い裸出部が目立って見え、チシマウガラスと誤認されやすい。


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 ヒメウとチシマウガラスの、夏羽での顔の比較。ヒメウは冒頭写真と同一個体。チシマウガラスの撮影データは画像を参照。2種とも顔の裸出部の赤が目立つが、その形状は異なる。チシマウガラスでは、裸出部は目の上からそのままの高さで前方に向かい額に達するが、ヒメウでは目の前方で下方へ向かい、額にかけての上嘴基部は黒っぽい羽毛で覆われる。また、チシマウガラスでは裸出部のうち下嘴基部付近に水色部分があるが、ヒメウではすべて赤色である。裸出部の色もチシマウガラスでは朱色に近い赤なのに対して、ヒメウでは紅色に近い。画像では確認できないが、チシマウガラスの翼上面はより褐色みが強く、ヒメウほど構造色による光沢は出ない。


(2011年12月22日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。