鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

コオリガモ(その2) <em>Clangula hyemalis </em>2

2014-03-10 22:25:24 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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Photo by Chishima, J.
雌雄のコオリガモ 2011年3月 北海道厚岸郡厚岸町)


 少し前に調べ物をしていて気付いたのだが、2012年にコオリガモがIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでVU(絶滅危惧Ⅱ類)にリストアップされている。バルト海の個体群が1990年代以降に激減し、分布域の多くで湿地環境の悪化や油汚染、混獲、ハンティング等の脅威に曝され続けていることによるもののようだ。同じランクの日本産鳥類がアホウドリ、カラシラサギ、ズグロカモメ、カンムリウミスズメ、ルリカケス等であることを考えると驚きを禁じ得ない。同リストではクロガモもNT(準絶滅危惧)に指定されている。30年くらい前の道東の海では、海ガモ類の群れが帯になって切れ間なく見えたと言う人もいる。そこまでではないが、自分が北海道に来た20年前にも今よりは余程いた。現状が殆ど調べられないまま、消えようとしているのかもしれない。広域的な海ガモ類のモニタリング体制の確立と関係者間の情報共有が必要だ。画像のコオリガモのペアを撮影したのは3年前の今日、午後の陽射しが柔らかな厚岸港だった。日本が平和で安全な国と思えた最後の日だったかもしれない。


(2014年3月10日   千嶋 淳)



ハシジロアビ(その1) <em>Gavia adamsii </em>1

2012-03-08 22:05:34 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下比較画像除きすべて ハシジロアビ冬羽 2011年2月27日 北海道十勝郡浦幌町)


 アビ類中最大の種で、全長は89cm、体重は4.6~6.4kg。体重はオオワシやオジロワシともオーバーラップするといえば、その巨大さが実感できるだろうか。種小名は英国の軍医で探検家のEdward Adams(1824-1856)に献名されたもの。以前はかなり稀な鳥とされたが、北日本の海上には冬鳥として少数が定期的に渡来する。道東では主に冬鳥として10月後半より海上に渡来し、漁港に入ることもあるが、数少ない鳥であることに変わりはなく、シーズン中に1~数度出会いがある程度。大型で個体数も少ないせいか、一度に見られるのはたいてい1、2羽である。春の渡り期間は長く、4月下旬から6月上旬まで海上を渡る個体が観察される。南千島沿岸では少数の若鳥が越夏する。
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 一連の写真は同一個体で、色合いや雨覆の各羽に淡色の羽縁がないこと等から幼羽ではなく、第2暦年以降の冬羽と思われる。海上で出会った時に識別の助けになるのは、大きさ、嘴、色合い等。最大の特徴は黄白色の嘴だが、角度や光線、距離によっては意外と目立たない。本個体もかなり近付いた時点で嘴を認識できたが、曇天の夜明け直後という条件が発見を遅らせたのであろう。基本的に警戒心は強く、このように船の近くに浮いていても警戒して体を沈めているし、一度潜るとかなりの長時間になり、その間に距離も稼ぐ。


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 顔のアップ。上に反って見える嘴は、アビ同様下嘴角が大きいことによるもので、上嘴は直線的であるのがわかる。黄白色で厚みのある嘴は、光線条件さえ良ければ遠距離からも有用な特徴となる。顔、頭部から首にかけては褐色で、喉と目の周囲は白い。額はオオハムより更に切り立って見える。成鳥の虹彩は赤っぽいが、画像で暗く見えるのはおそらく光線条件のせい。首の下部で後頚から前頚にかけて襟巻き状に広がる暗色部は、飛翔中も含め本種やハシグロアビに特徴的だが、オオハム類でも時にこのように見える個体がいるので注意が必要である。


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 背後より。


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 アビ類4種の顔の比較。嘴の形状や顔から首にかけての配色等に注目。ハシジロアビ以外の撮影データは下記の通り。

アビ(第1回夏羽):2008年4月30日 北海道中川郡豊頃町
オオハム(幼羽):2007年12月20日 北海道幌泉郡えりも町
シロエリオオハム(成鳥冬羽):2009年2月10日 北海道幌泉郡えりも町


(2012年3月8日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。



シロエリオオハム(その3) <em>Gavia pacifica </em>3

2012-02-26 23:53:33 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて シロエリオオハム 2011年11月18日 北海道厚岸郡浜中町)


 オオハム類の繁殖後の換羽は部分換羽であり、そのせいか換羽のタイミングには個体差が大きく、またその進行も遅い。渡来初期の10月にはほぼ夏羽の個体も珍しくないし、11月以降でもこのように一見茶色と白の冬羽のようで、肩羽や雨覆に夏羽の白斑を残した個体はよく観察される。一連の写真は同一個体。


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 飛び立ち直前。肩羽と雨覆の白斑がよく目立つ。白斑は前者でより大きく、後者では小さく細い。Chinstrapは明瞭で、後頭部から後頚にかけてはやや淡色。


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 本種をはじめアビ類は、主に渡り時期に内陸部の地上で保護されることがある。これは舗装道路等の表面が陽炎や陽光で照らされたのを水面と勘違いして「不時着」したものの、飛び立ちには水面の助走が必要なため(アビを除く)離陸できなくなってしまったものであることが多い。


(2012年2月26日   千嶋 淳)


*一連の写真は、NPO法人エトピリカ基金の調査での撮影。


ホオジロガモ(その3) <em>Bucephala clangula</em> 3

2012-02-16 21:49:47 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下比較画像のメス2点除きすべて ホオジロガモ 2012年2月 北海道幌泉郡えりも町)


 一見メスのようだが全体的に茶色っぽく、特に胸から脇にかけての褐色みが強い。虹彩が暗色で、脚の橙色みが淡いことから前年生まれの幼鳥と考えられる。嘴は全体が黒く、嘴基部と目の間に将来は楕円形の白斑になるだろう白い羽毛が生じ始めていることから、性別はオスであろう。首から胸にかけて白色部が広がりつつある感じも、オスを示唆するものかもしれない。

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 潜水の瞬間。尾羽の各羽先端は擦り切れて内側へ食い込み、V字状を呈す。これはカモ類の幼羽(第1幼羽)の特徴で、マガモやカルガモでは多くの個体が秋の時点で換羽しているが、ヒドリガモやオナガガモ、潜水ガモ類等では割と遅い時期まで残す。


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 羽ばたき時の上面。中・小雨覆に灰白色と黒色が入り混じるのも若い鳥の特徴。


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 本個体とオス成鳥、メス成鳥、同幼鳥との翼上面付近の比較。メス2点の撮影データは画像中に示した。オス成鳥では小雨覆まで及ぶ翼の白色部は、分断されることなく広いエリアとして存在する。メス成鳥では白色部は中雨覆、大雨覆の各先端の黒色により、2本の暗色線に分断される形になる。メス幼鳥では白色部は大雨覆までで、中・小雨覆は灰白色と黒の混合のため、白色部を分断しているのは大雨覆の羽先1本だけに見える。本個体はメス幼鳥と近いが、次列風切、大雨覆の白色部の形、大雨覆羽先の暗色線の不明瞭さ、初列寄りの中雨覆羽先に白色部が出ない点等は、既にオスの特徴を現し始めているのかもしれない。


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 本個体は胸から脇にかけての褐色みが非常に強い。以前、「嘴がオレンジ色のホオジロガモ」「ホオジロガモとその仲間」の記事に掲載した幼鳥と比較しても、褐色みの強さは顕著。個体差なのか、換羽のタイミングの問題なのか…。尾羽の形状は確認できないが、褪色して茶色く見えるのは世代の古い羽の証拠だろう。


(2012年2月16日   千嶋 淳)


ウミアイサ(その2) <em>Mergus serrator </em>2

2012-02-08 23:46:52 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ウミアイサ 2012年1月17日 北海道厚岸郡厚岸町)


 褐色と灰色を基調にした体色は一見メスを思わせる。しかし、①頭部、特に目より上のそれは黒色みが強い、②本来灰色であるはずの胸は褐色で、最前面ではその中に細かい縦斑が認められる、③胸後方の側面に数個の白斑がある、④背の黒色みが強い、⑤暗灰色を基調とする脇の一部に灰白色の明るい部位が見られるといったオス的な特徴が見受けられる。一連の写真は同一個体。
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 20cmは優にあろうかというギンポ類と格闘中。背の後半から腰にかけて、またその下方の脇は明るい灰白色で、黒みの強い前方とコントラストを成す。


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 魚を無事食べ終えた後での羽ばたき。翼上面のパターンはメスに近いが、小、中雨覆の特に下方の白色部に近い辺りは、カワアイサに近い明るい灰白色であるように思う。以上見て来た特徴から、本個体は前年生まれのオス幼鳥と考えられる。アイサ類のオスは成鳥でも生殖羽への移行が遅い(それでも本種の場合、12月までには概ね移行している)が、成鳥のエクリプスであればオス様の翼上面パターンを示すはずである。


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 潜水性海鳥の潜水には何通りかの方法がある(詳しくは「潜り方」の記事を参照)が、本種は翼を閉じて放物線を描きながら跳躍する、スズガモ属やクロガモ等多くの種類に見られる方法で潜水する。水面に突入する瞬間にも目を大きく見開いている。本種は顔を水面に付けたまま、獲物を探すように泳いでいることがよくあり(アビ類やウミガラス類でも見られる行動)、水面下の探餌において視覚が重要な役割を果たしているものと思われる。


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 ギンポ類と思われる魚をくわえて水面を走る。冬の漁港で本種が捕食しているのはギンポ類やカジカ類等、沿岸底性魚類が多い。その一方で岸からかなり離れた海域で見かけたり、ウ類、カモメ類やアビ類等とともに海面近くで採餌混群を形成していることもあり、それらは表層性の浮魚を捕食していると考えられる。多くの魚食性の動物と同じく、強い選好性は無いのであろう。


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 ギンポ類を呑み込む。魚体はまだ嘴から溢れているにも関わらず異常に膨れた喉が、獲物の大きさを物語っている。アイサ類の嘴には鋸歯状突起という嘴が変形した歯のような突起があり、魚を効率よく捕食するのに都合良くなっているが、流石に大きくてぬめりの多いこの魚を呑み込むのは難儀だったようだ。鳥類は獲物を丸呑みするため、このように捕食直後の喉が異常に膨れているのはウ類やサギ類でもよく見られる。


(2012年2月8日   千嶋 淳)