All Photos by Chishima,J.
(コシジロアジサシ 以下すべて 2013年8月 北海道十勝沖)
今年度は月1回ペースで調査を進めていますが、7月の2回の調査でカンムリウミスズメやオオトウゾクカモメ等興味深い種が観察されたこと、7月下旬から8月上旬にかけての海鳥の分布が例年とまったく異なっていた(前回の報告参照)こと、8月下旬はコシジロアジサシの出現する可能性の高いことから、有志で傭船費を負担する形で8月2回目の調査を実施しました。午前5時半、曇りながら視界は十分ある漁港を出港。しかし、少し沖に出ると深い霧の中。所々霧の晴れ間はありましたが、視界に関しては御世辞にも好条件とはいえないクルーズでした。
前回までの、主として沿岸部にコアホウドリをはじめとした海鳥が集中している状況は解消され、オオミズナギドリがぱらぱらと飛んでいます。十勝沿岸が局所的に、周辺海域より水温の低い状態が終息したためでしょう。濃霧の中を飛ぶ2羽のアジサシ類。悪条件の中なんとか画像に納めると、どちらもコシジロアジサシ成鳥でした。顔がはっきり見えない状況では、翼下面の次列風切に出る暗色帯や、アジサシと違って外側が黒くない尾羽が識別には有用です。更に沖合では、海上に漂うコアホウドリの死体を発見し、これを回収しました。船上からたも網で掬ったのですが、その際にイシダイの幼魚と思われる魚も一緒に網に入りました。図鑑によると北海道以南に生息とあるのですが、私も船頭さんも初めて見る魚に「何だこの熱帯魚みたいのは!?」と興奮気味でした。もしかしたら流れ藻等と共に漂流しながら北上して来たのかもしれません。
オオトウゾクカモメとの何度かの出会いを経て達した最大沖合。船を停めて今後のルートについて相談していると、大きな見慣れない海鳥の影がぬっと現れて船の真上を飛び、一瞬で濃い霧の中に吸い込まれて行きました。普通なら「何だったんだアレは??」で終わってしまう状況ですが、幸運にも一人の参加者の方が数枚の写真を撮ることに成功しました。画像を確認したところ、なんとカツオドリ!!根室や厚岸の海岸や無人島で数例の記録がありますが、十勝では初記録です。小笠原や南西諸島で繁殖し、周年その海域で見られる南の海鳥の飛来は、高まりつつある海水温と関連があるのでしょうか。
霧の中のオオトウゾクカモメ
久しぶりにイカやタラを釣りながら沿岸に戻り、あと10分程で港というところで一度は遠くを飛び去ったアジサシ類が反転し、船に近付いて来ました。近付くにつれ、白い額が明瞭に見えて来ます。冒頭の画像は船にかなり近付いた時のものです。興奮した私が「コシジロ、コシジロ、コシジロ!!」と絶叫していたために首を傾げて船を見ているのでしょう。港の入り口では早くも渡りが始まった思われる5羽のハジロカイツブリも見られ、テトラポッドにはキアシシギの姿もありました。
下船後は番屋でサケのチャンチャン焼きや煮ツブにくわえて、先ほど釣り上げたばかりのイカをお刺身でいただき、豊かな海の恵みに感謝しました。行程の大半で悪い視界に悩まされ、全般に鳥も少なめだったため下船時の満足度はいまいちでしたが、よくよく考えるとオオトウゾクカモメやコシジロアジサシ(計3羽)、更には十勝初記録のカツオドリまで珍鳥率の高い、贅沢な調査でした。参加、協力いただいた皆様にお礼申し上げます。
確認種:ハジロカイツブリ コアホウドリ クロアシアホウドリ オオミズナギドリ ハイイロミズナギドリ アカアシミズナギドリ カツオドリ ヒメウ カワウ ウミウ キアシシギ アカエリヒレアシシギ ハイイロヒレアシシギ ウミネコ オオセグロカモメ コシジロアジサシ アジサシ オオトウゾクカモメ ウトウ オジロワシ ハシボソガラス ハシブトガラス イワツバメ キセキレイ ハクセキレイ 海獣類その他:ネズミイルカ マンボウ サメ類 イシダイ カラスアゲハsp.
ハジロカイツブリ
*十勝沖調査は、NPO法人日本野鳥の会十勝支部が日本財団より助成を受けて、漂着アザラシの会、浦幌野鳥倶楽部との連携のもと行われているものです。
(2013年8月28日 千嶋 淳)