鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

130824 十勝沖海鳥・海獣調査

2013-08-28 19:27:26 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
コシジロアジサシ 以下すべて 2013年8月 北海道十勝沖)


 今年度は月1回ペースで調査を進めていますが、7月の2回の調査でカンムリウミスズメやオオトウゾクカモメ等興味深い種が観察されたこと、7月下旬から8月上旬にかけての海鳥の分布が例年とまったく異なっていた(前回の報告参照)こと、8月下旬はコシジロアジサシの出現する可能性の高いことから、有志で傭船費を負担する形で8月2回目の調査を実施しました。午前5時半、曇りながら視界は十分ある漁港を出港。しかし、少し沖に出ると深い霧の中。所々霧の晴れ間はありましたが、視界に関しては御世辞にも好条件とはいえないクルーズでした。
 前回までの、主として沿岸部にコアホウドリをはじめとした海鳥が集中している状況は解消され、オオミズナギドリがぱらぱらと飛んでいます。十勝沿岸が局所的に、周辺海域より水温の低い状態が終息したためでしょう。濃霧の中を飛ぶ2羽のアジサシ類。悪条件の中なんとか画像に納めると、どちらもコシジロアジサシ成鳥でした。顔がはっきり見えない状況では、翼下面の次列風切に出る暗色帯や、アジサシと違って外側が黒くない尾羽が識別には有用です。更に沖合では、海上に漂うコアホウドリの死体を発見し、これを回収しました。船上からたも網で掬ったのですが、その際にイシダイの幼魚と思われる魚も一緒に網に入りました。図鑑によると北海道以南に生息とあるのですが、私も船頭さんも初めて見る魚に「何だこの熱帯魚みたいのは!?」と興奮気味でした。もしかしたら流れ藻等と共に漂流しながら北上して来たのかもしれません。
 オオトウゾクカモメとの何度かの出会いを経て達した最大沖合。船を停めて今後のルートについて相談していると、大きな見慣れない海鳥の影がぬっと現れて船の真上を飛び、一瞬で濃い霧の中に吸い込まれて行きました。普通なら「何だったんだアレは??」で終わってしまう状況ですが、幸運にも一人の参加者の方が数枚の写真を撮ることに成功しました。画像を確認したところ、なんとカツオドリ!!根室や厚岸の海岸や無人島で数例の記録がありますが、十勝では初記録です。小笠原や南西諸島で繁殖し、周年その海域で見られる南の海鳥の飛来は、高まりつつある海水温と関連があるのでしょうか。


霧の中のオオトウゾクカモメ
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 久しぶりにイカやタラを釣りながら沿岸に戻り、あと10分程で港というところで一度は遠くを飛び去ったアジサシ類が反転し、船に近付いて来ました。近付くにつれ、白い額が明瞭に見えて来ます。冒頭の画像は船にかなり近付いた時のものです。興奮した私が「コシジロ、コシジロ、コシジロ!!」と絶叫していたために首を傾げて船を見ているのでしょう。港の入り口では早くも渡りが始まった思われる5羽のハジロカイツブリも見られ、テトラポッドにはキアシシギの姿もありました。
 下船後は番屋でサケのチャンチャン焼きや煮ツブにくわえて、先ほど釣り上げたばかりのイカをお刺身でいただき、豊かな海の恵みに感謝しました。行程の大半で悪い視界に悩まされ、全般に鳥も少なめだったため下船時の満足度はいまいちでしたが、よくよく考えるとオオトウゾクカモメやコシジロアジサシ(計3羽)、更には十勝初記録のカツオドリまで珍鳥率の高い、贅沢な調査でした。参加、協力いただいた皆様にお礼申し上げます。

確認種:ハジロカイツブリ コアホウドリ クロアシアホウドリ オオミズナギドリ ハイイロミズナギドリ アカアシミズナギドリ カツオドリ ヒメウ カワウ ウミウ キアシシギ アカエリヒレアシシギ ハイイロヒレアシシギ ウミネコ オオセグロカモメ コシジロアジサシ アジサシ オオトウゾクカモメ ウトウ オジロワシ ハシボソガラス ハシブトガラス イワツバメ キセキレイ ハクセキレイ 海獣類その他:ネズミイルカ マンボウ サメ類 イシダイ カラスアゲハsp.


ハジロカイツブリ
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*十勝沖調査は、NPO法人日本野鳥の会十勝支部が日本財団より助成を受けて、漂着アザラシの会、浦幌野鳥倶楽部との連携のもと行われているものです。


(2013年8月28日   千嶋 淳)



130824(土)十勝沖海上探鳥会のお誘い

2013-08-08 14:39:25 | お知らせ
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All Photos by Chishima,J.
コアホウドリ(右)とクロアシアホウドリアカアシミズナギドリ(左手前) 2012年10月 北海道十勝沖)

 今年度の十勝沖海鳥・海獣調査は、基本的に月1回でやっていますが、7月については良い季節なので2回実施したところカンムリウミスズメはじめ、多くの成果がありました。8月の調査は昨日無事終わりましたが、8月下旬の道東太平洋では結構な頻度でコシジロアジサシの見られていること、9月以降、海上の状態が不安定になる前にアホウドリ類やミズナギドリ類の群がる海上の素晴らしさを少しでも多くの人に体験してもらいたいことから、24日(土)に船を予約しました。ただし、調査予算は既に使い切っているため、実費を人数で割って参加費とする探鳥会形式で行います。下記の要領で実施予定ですので、興味のある方は一読いただいた上、奮って参加いただければ幸いです。

十勝沖海上探鳥会

年月日:2013年8月24日(土)
集合時間・場所:時間は未定(午前5時半~6時前後) 浦幌町厚内漁港 乗船時間は4時間前後
定員:13名 要事前申し込み 先着順
参加費:一人6000(8~10名時)~5000(10名以上時)円
最低催行人数:8名
見どころ:遊漁船で沖合に出て、ミズナギドリ類やアホウドリ類など、普段見る機会のない外洋性の海鳥を間近に観察します。運が良ければイルカやクジラの仲間との出会いも。
参加方法:千嶋までメール(pvstejnegeri_yoidore@dance.ocn.ne.jp:@は半角にして下さい)か電話(090‐4871‐9480)またはコメントへの書き込み(書き込みの際に入力したアドレスは、web上では表示されません)にて申し込んで下さい。詳細を追って連絡します。
注意事項:①夏とはいえ霧や雨があると海上は寒く、晴れると遮るものがなく暑くなります。防寒・防水を含めた装備や体調の準備をお願いします。
船は突然揺れたり、波を被ることがあります。光学機器はじめ物品の管理は、     自己責任でお願いします。
波をはじめ、天候次第では欠航または沿岸域限定の航行になる場合があります。      欠航時には参加費はいただきません。
保険は各自で入って下さい。
小さい船ですので、三脚・一脚の持ち込みはできません。
基本的に現地集合ですが、帯広や池田からの乗合が可能な場合もありますので、車の無い方は相談下さい。

出会いの期待できる鳥獣:コアホウドリ クロアシアホウドリ オオミズナギドリ ハイイロミズナギドリ ヒレアシシギ類 トウゾクカモメ類 ウトウ カマイルカ ネズミイルカ ほか

この時期に記録のある珍鳥:アホウドリ コシジロアジサシ オオトウゾクカモメ カンムリウミスズメ ほか

 当日は資料を用いながらその都度解説もしますので、初心者の方、船での観察未経験の方もお気軽に参加下さい。どうぞよろしくお願いいたします。


広げると2mにもなる翼で悠然と飛ぶクロアシアホウドリ
2013年8月 北海道十勝沖
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(2013年8月8日   千嶋 淳)


130807 十勝沖海鳥・海獣調査

2013-08-08 14:17:09 | ゼニガタアザラシ・海獣
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All Photos by Chishima,J.
ハイイロヒレアシシギ 以下すべて 2013年8月 北海道十勝沖)


 午前5時半、やや厚い雲に覆われてまだ薄暗いものの、視界は良好な海上へ向けて出港しました。港を出てすぐにミズナギドリ類やアホウドリ類が現れた前回ほどではありませんが、海鳥の分布はやや沿岸寄りに多い傾向が続いており、水深100m前後から海鳥は一気に少なくなりました。優占種は前回同様、ハイイロミズナギドリやコアホウドリで、特に後者の多さはこの時期としては珍しいものです。十勝沖でコアホウドリが多いのは、主に初夏と秋で、海水温の高くなる7月下旬から9月にかけてはクロアシアホウドリの方が多くなります。例えば、2012年8月8日の調査では、コアホウドリ24羽に対してクロアシアホウドリは80羽が記録されました。それが今年は7月はもちろん、8月に入ってもコアホウドリの圧倒的に多い状態が続いています。7月末時点での道東太平洋の海面水温は、平年並みから2℃くらい高い状態で、特に低水温というわけではありませんが、北海道周辺で7月中旬に見られていた、平年より4℃以上高い海域はなくなり、水温の高い海域も減少しているようです。特に、十勝から襟裳岬沖にかけては道内の中でも低い水温で、その東側~根室半島南側にかけて、より水温の高い海域が存在しています。確かに、7月1回目(11日)の調査では何匹ものマンボウが観察され、海水温の上がって来たことが窺えましたが、その後の2回の調査ではマンボウは確認されていません。クロアシアホウドリやマンボウ等、暖かい海域を好む動物は、北海道南東方の水温の高い海域に分布しているのかもしれません。それと関連しているのかいないのか、前回調査では20羽が記録されたカンムリウミスズメは、今回確認できませんでした。カンムリウミスズメは今年、根室半島や羅臼等で例年以上の頻度や数で確認されているように思います。


尾羽を立てて着水態勢に入るコアホウドリ
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 昨年7~8月にかけて少なくとも3組の家族群が観察されたウミスズメは、今年は家族群と出会うことができませんでした。一方、去年は1組のみの確認だった霧多布沖では今年3組が確認されており、年によって異なる海の状態に合わせてダイナミックに分布を変え得る側面を垣間見せてくれました。
 ひとしきり観察を終え、港に近付いた時、本日一番の(?)見どころが待っていました。50頭以上ものカマイルカの群れです。それが数~10数頭のいくつもの小群に分かれ、活発に泳ぎ回り、船のすぐ近くでジャンプし、時に舳先をかすめて船の下を泳ぐ姿は、参加者一同の熱い歓声を集めていました。オオミズナギドリやハイイロミズナギドリが上空から付き従う、採餌中と思われる小群もありました。漁具にでも絡んだのか、背びれのほとんど無いイルカもいました。痛々しい姿ですが、特徴的な形態のため移動や回遊ルートを知る上で重要な役割を果たしてくれるかもしれません。
 すっかり満ち足りた気分で船を降りた後は、番屋で旬の蒸かしたジャガイモを、イカの三升漬(自家製)と共に頬張り、他にもガヤ(メバルの仲間)のフライや各種飯寿司といった漁師料理をご馳走になりました。トップの写真はハイイロヒレアシシギ。アカエリヒレアシシギも本種もまだ成鳥ばかりでしたが、鮮やかな赤はすっかり褪せて白や黒、灰色を基調とした冬羽に近いものが目立って来ました。海上から望む陸地の、既に盛りを過ぎた雰囲気の緑や防波堤に集うキアシシギの寂しげな声など、次の季節を意識せずにはいられない調査でもありました。参加、協力いただいた皆様、どうもお疲れ様でした。


カマイルカの小群とハイイロミズナギドリ
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確認種:シノリガモ コアホウドリ クロアシアホウドリ フルマカモメ オオミズナギドリ ハイイロミズナギドリ アカアシミズナギドリ カワウ ウミウ アオサギ キアシシギ キョウジョシギ アカエリヒレアシシギ ハイイロヒレアシシギ ウミネコ オオセグロカモメ アジサシ トウゾクカモメ クロトウゾクカモメ ウトウ トビ オジロワシ ハシボソガラス ハシブトガラス イワツバメ 海獣類その他:カマイルカ ネズミイルカ サメ類 チョウ類

*十勝沖調査は、NPO法人日本野鳥の会十勝支部が日本財団より助成を受けて、漂着アザラシの会、浦幌野鳥倶楽部との連携のもと行われているものです。


(2013年8月8日   千嶋 淳)