鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

121221 十勝沖海鳥・海獣調査

2012-12-25 22:07:09 | ゼニガタアザラシ・海獣
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All Photos by Chishima,J.
ハシブトウミガラス 以下すべて 2012年12月 北海道十勝沖)


 今年最後となる十勝沖調査を行いました。今回もいつもより遅めの午前8時半出港。1週間前よりすっかり白くなった十勝平野と、その背後に聳える白銀の日高山脈を振り返りながら沖を目指します。前日よりは幾分暖かめとは云うものの、内陸部では-20℃を下回る寒さに備えて相当な防寒を施しましたが、往路は思いのほか穏やかで陽射しが暑いくらいでした。しかし、水深100m前後で船頭さんから「帰りがしんどいから引き返した方が良い」と言われ、半信半疑で変針しました。

 舳先を陸に向けた瞬間、すべてを理解しました。陸方向からは冷たい風が容赦なく吹き付け、顔面は神経痛のような状態、手足の先は瞬時に麻痺してゆきます。加えて波も甲板を撫で、完全に冬の海です。往路は単に、追い風だっただけでした。この復路はこれまでの調査の中でも最も過酷な時間でした。よく皆、無事に帰って来たものです、と言いたくなるくらい。


海上から望む十勝平野と日高山脈
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 鳥の方は、そんな条件なので限られた観察しかできませんでしたが、1週間前にはそこそこいたミツユビカモメが姿を消しておりました。同時期に姿を消すと思っていたフルマカモメは、まだかなりの数が見られ、これまでの自分の認識と異なっていたのを把握できたのは収穫といえましょう(海鳥の分布は暦より海洋環境に影響を受けるだろうから、その辺の吟味は必要ですが)。冬のウミスズメ類は、ケイマフリやコウミスズメが沿岸域でやや数を増していました。通常、前者は沿岸性が強く、後者はやや沖合性ですが、この海域の沿岸では完全に混在しているのが面白いところです。
 昼近くには無事帰港しましたが、舳先近くのカウントで冷凍状態になっていた自分は体が思うように動かず、揚句足が攣ったりして半ば岸壁に引き上げられるようにの、情けない上陸でした。その後は番屋で熱々の甘酒で冷え切った体を内側から温め、旬の魚介類をたっぷり頂いてから適宜解散しました。今年の調査はこれが最後になります。参加いただいた方、支援いただいた方に感謝いたします。来年以降の体制は未定ですが、可能な限り長期のモニタリングを、楽しみながら続けてゆきたいと思いますので今後ともよろしくお願いいたします。

確認種:アビ シロエリオオハム ミミカイツブリ アカエリカイツブリ コアホウドリ フルマカモメ ヒメウ スズガモ クロガモ ビロードキンクロ シノリガモ コオリガモ ホオジロガモ トビ オオセグロカモメ ワシカモメ カモメ ウミガラス ハシブトウミガラス ケイマフリ ウミスズメ コウミスズメ ハシボソガラス ハシブトガラス(以上、鳥類) ネズミイルカ



ウミガラス
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*十勝沖調査は、漂着アザラシの会が日本財団、NPO法人日本野鳥の会十勝支部がセブンイレブン記念財団より助成を受けて、上記2団体と浦幌野鳥倶楽部の連携のもと行われているものです。


(2012年12月21日   千嶋 淳)


青春と読書⑩エナガ(亜種シマエナガ)

2012-12-24 12:44:06 | お知らせ
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Photo by Chishima,J.
エナガ(亜種シマエナガ)の正面顔 2012年10月 北海道中川郡豊頃町)


 集英社の本のPR誌「青春と読書」に連載させていただいている「北海道の野生動物」。第10回となる1月号(12月20日発売)のテーマはエナガ(亜種シマエナガ)。日本では北海道だけで見られる(本州への迷行記録はありますが)、円らな瞳の小鳥の魅力に始まり、北海道の動物や人間、大地の歴史とそこから見えて来るユーラシア大陸との意外な繋がりについて、簡潔ではありますが紹介しました。お近くの書店等で手に取っていただけたら幸いです。web上での購読申し込みや見本誌プレゼントもありますので、書店で手に入りづらい場合はそちらもお試し下さい。

(2012年12月20日   千嶋 淳)



121214 十勝沖海鳥・海獣調査

2012-12-18 14:07:26 | ゼニガタアザラシ・海獣
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All Photos by Chishima,J.
ハシジロアビの幼鳥 以下すべて 2012年12月 北海道十勝沖)


 今月1回目となる十勝沖調査を実施しました。いつもは夜明けの薄暮と共に沖を目指す本調査ですが、今日は漁の都合により午前8時半、すっかり明るくなった漁港から、最近数の増えて来た海ガモ類を見ながらのスタートとなりました。

 ここ数日の内陸部の冷え込みに恐れをなしていたところ、海上は気温、風とも思いのほか穏やかで、この時期としては比較的快適に過ごせました。波も冬にしては珍しいくらい低く、久しぶりにかなり沖合まで出ることができました。
 鳥は沿岸部でやや少なめだったものの、沖合にはコウミスズメやハシブトウミガラスが目立って来た一方で、半月前に見られたウトウやセグロカモメの姿はなく、冬がまた一歩進んだ印象でした。流氷の動きにもよりますが、これから3月くらいまで冬のウミスズメ類を楽しめるはずです。アビ類の渡りはまだ続いているようで、1~数羽が東から西へ飛んで行く姿を何度も観察できました。珍しいものではハシジロアビを1羽、やや距離はあったもののしっかり観察できたこと、ウミオウムが2回、それぞれ1羽ずつ出現してくれたのが収穫でした。ウミオウムは2シーズン前の1月に60羽以上、2月には100羽以上確認しましたが、昨年はその時期に船を出せなかったので、今後の動向を楽しみにしたいところです。海獣類では常連のネズミイルカの他にアザラシ類、キタオットセイが観察され、キタオットセイは首に釣り具のようなものが絡んでいました。沖合調査で出会うオットセイの多くが、このような絡まり個体なのは残念なことです。


コウミスズメ
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 昼過ぎの入港後は、いつものように船頭さんのお宅で旬の海の幸を鱈腹頂いて、適宜解散しました。無事調査も終わった週末は札幌で開催された「生物多様性地域連携促進セミナー in 北海道」にブース出展し、この活動を紹介してきました。5月の帯広百年記念館に始まり、浦幌、十勝エコロジーパーク、襟裳岬と広がった「十勝沖・海の動物たち」展はじめ、鳥学会での発表やJBF出展等各地で展開して来た活動報告も、今年はこれが最後となるでしょう。今回はブースの一角で、最近立ち上がった有志「とっかりプロジェクト」の紹介も行いました。

確認種:アビ オオハム シロエリオオハム ハシジロアビ アカエリカイツブリ コアホウドリ フルマカモメ ヒメウ コガモ スズガモ クロガモ ビロードキンクロ コオリガモ シノリガモ ホオジロガモ トビ オジロワシ オオワシ ハヤブサ オオセグロカモメ ワシカモメ シロカモメ カモメ ミツユビカモメ ウミガラス ハシブトウミガラス ケイマフリ ウミスズメ コウミスズメ ウミオウム ハシボソガラス ハシブトガラス(以上、鳥類) ネズミイルカ キタオットセイ アザラシ類(以上、海獣類)


前肢を高く上げて休むキタオットセイ
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*十勝沖調査は、漂着アザラシの会が日本財団、NPO法人日本野鳥の会十勝支部がセブンイレブン記念財団より助成を受けて、上記2団体と浦幌野鳥倶楽部の連携のもと行われているものです。


(2012年12月14日   千嶋 淳)



清見ケ丘公園

2012-12-01 22:33:31 | 自然(全般・鳥、海獣以外)
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All Photos by Chishima,J.
コムクドリのオス2012年5月 以下アオバトを除きすべて 北海道中川郡池田町)


NPO法人日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより178号」(2012年9月発行)より転載 写真を追加)


 開拓が入る前の十勝平野はカシワをはじめ、ミズナラ、センノキ、ハルニレ等の巨木に覆われていたらしい。しかし、今では帯広市街地の緑地面積が3%程度に過ぎないことからも察せられるよう、その大部分は失われてしまった。そんな往年の、巨木が生い茂る原野の片鱗を感じながら散策を楽しめるのが、池田町市街地に隣接する清見ヶ丘公園だ。
 帯広から車で30分、またはJR池田駅から徒歩で20分の距離にある同公園は、池田市街地の東側に連なる丘陵地帯の一部で、公園内には樹齢300年を超えるというカシワの巨木が立ち並ぶ。両手を回してもとても抱きしめられない太さの幹と、その上部から力強く分岐する枝の数々からは、荘厳さと時の悠久さを十分実感できる。
 同公園での探鳥は四季を通じて楽しむことができるが、一番のおすすめは初夏(5月中旬~6月上)。巨木が多いため、樹洞や木の割れ目も多いのであろう。コムクドリやキビタキ、ハリオアマツバメといった樹洞営巣性の鳥が多いのが特徴の一つだ。コムクドリを観察するのなら、葉が芽吹く以前の5月中・下旬が良い。黄金週間前後に夏鳥として渡来する本種は、渡来初期にはディスプレイや営巣場所をめぐる争い等のため活発に動き回る。「キュルキュルキュル…」という、ムクドリより高めの声を頼りに探せば、主に梢付近にその姿を見出すのはそう難しくない。ムクドリより一回り小さく、オスでは赤褐色や紫色が鮮やかな本種は意外にも気性が荒く、既に繁殖に入っているアカゲラと樹洞をめぐって争い、そこから追い出すことさえある。じっくり観察していれば、そんな場面に出くわすかもしれない。
 ハリオアマツバメは、斜面の上にある駐車場付近が観察しやすい。「チルルルー…」というアマツバメよりやや低めの声と共に、鎌型の鳥体が高速で迫って来る。時には「シュッ」という羽音が耳を掠めることさえある。和名の由来となった、尾羽の先の針状の突起は高速で飛翔するので観察は難しいが、最近ではデジタルカメラの性能が大幅に向上したので、高速で撮影すれば画像で確認できることがある。本種は、私の生まれ育った関東地方平野部ではほとんど見られず、高山帯に赴いてようやく少数観察できる程度だったので、自宅付近で毎日のように観察できても、未だに有難味を感じてしまう。


虫を追いかけるハリオアマツバメ
2012年5月
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 留鳥の樹洞営巣種であるカラ類やゴジュウカラ、キツツキ類も勿論多く、6月下旬以降は巣立ったばかりのあどけない幼鳥を見ることも多い。年間を通してヤマガラを観察できるのも、ここならではだろう。南方系で照葉樹林を主たる生息地とし、十勝では少ない種だが夏にも少数が観察され、冬には分散個体も加わるのか、やや増えるようだ。ドングリを好む種なので、カシワの巨木が林立しているのが良いのかもしれない。繁殖期であればシジュウカラより更にテンポの遅い囀り、それ以外であれば「ニーニー」というハシブトガラより鼻にかかった地鳴きを意識して探すと良い。


ヤマガラ
2009年11月
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 樹洞の鳥といえば、ここはかつてフクロウで有名な場所であった。ここで撮影された雛や家族の写真を、今でもあちこちで見かける。しかし、近年では年に数回声が聞かれるだけで、繁殖の有無は不明である。多くのカメラマンが押し寄せ、巣立ち雛に張り付いて親鳥が給餌できない状況が何年も続いたらしい。中には昼間ほとんど動きのないフクロウの、動きのある写真を撮ろうと騒ぎ立てたり、花火(?)を焚いたりする輩までいたという。デジタルカメラの普及に伴って動物写真が簡単に撮れるようになり、動物への思いやりの欠片も抱けない人間が大手を振ってフィールドを闊歩してるのが、悲しいかな、昨今の現状である。どうか探鳥中に運良くフクロウに出会うようなことがあっても、深追いはしないで欲しい。
 公園の北側に隣接して、池田清見温泉がある。ナトリウム‐塩化物強塩泉のしょっぱい温泉なのだが、おそらくそのためにここに飛来するのがアオバトだ。なぜか渡来初期の5月には見られないが、6月中旬以降、最大30羽ほどが温泉に隣接した公園内の沢に飛来する。葉が茂る時期なので直接確認できていないが、沢で飲水してナトリウムを摂取していると思われる。本種は海水を飲む行動が有名だが、鉱泉付近等での飲水も知られており、ナトリウムの摂取が生理的に必要と考えられている。葉が茂り、警戒心も強いため飲水を観察するのは難しいが、尺八のような声や上空を飛ぶ姿は8月頃まで楽しむことができる。


アオバトの飛翔(左がオス)
2011年7月 北海道白糠郡白糠町
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 公園はカラス類のねぐらにもなっており、8月中旬以降は数千羽のカラスがねぐら入りするのを日没前後に観察できる。冬にはカラス類に代わってトビがねぐらとして利用するようになり、冷え込んだ朝には午前9時を過ぎてもなお、多数のトビが巨木に群がる姿が見られる。
 繁殖期は上で紹介した鳥にくわえて、ヒヨドリ、アカハラ、センダイムシクイ、コサメビタキ、アオジ、シメ、ニュウナイスズメ等を観察できる。公園で下草の手入れが行き届き林床が開けているためか、ウグイス、ヤブサメ、コルリ等は見られない。
 秋から冬は葉が落ちるので留鳥のカラ類やキツツキ類が観察しやすくなり、キバシリやキクイタダキも姿を現す。清見温泉側の沢ではミソサザイもよく観察される。また、園内を走り回るエゾリスが目立つ季節でもある。


エゾリス
2009年11月
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 基本的には大樹を謳歌しながら身近な鳥を楽しむ、散策的バードウオッチングの場所であるが、ヤツガシラ、ヤマゲラ、シロハラ、ミヤマホオジロ等の記録もあるので油断は禁物だ。もっとも、そう書いている筆者もそれらを見た時は散歩中で、カメラを取って戻ってくるといなくなっていたというのが大半であるが…。


ヤツガシラ
2010年5月
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 アフターバードウオッチングの選択肢は多い。春秋にはガンカモ類や猛禽類で賑わう十勝川下流域は目と鼻の先であるし、渡り時期であれば十勝が丘展望台やまきばの家展望台で猛禽類や小鳥類を見るのも良いだろう。同公園内には児童公園やパークゴルフ場もあるのでファミリーでの探鳥にも向いており、その場合ワイン城や十勝エコロジーパーク等観光コースに繰り出すこともできる。池田町内には、もやしたっぷりのラーメンを堪能できる「再来」や、格安でカットステーキのランチを楽しめる「よねくら」等、飲食店も多い。清見温泉や十勝川温泉で湯に浸かるのもまた一興だ。


カシワの巨木茂る公園内
2008年12月
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(2012年9月7日   千嶋 淳)



121130 十勝沖海鳥・海獣調査

2012-12-01 15:40:28 | ゼニガタアザラシ・海獣
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All Photos by Chishima,J.
海面から飛び立つウミスズメの小群 以下すべて 2012年11月 北海道十勝沖)

 11月の十勝沖調査をようやく実施できました。ミズナギドリ類やアホウドリ類も残っている前半に本来なら行いたかったのですが、時化が続いたり漁繁期と重なってしまい、月末ギリギリで何とか出航の運びとなりました。10月9日の調査以来、実に2ヶ月近くも空いてしまったことが秋冬の海の厳しさを物語っています。
 海は数日前の大時化の影響か著しく濁り、うねりも残っていたため水深110mまで行くのがやっとでした。それでも水深50m前後を中心にシロエリオオハムとウミスズメを多数観察でき、全体では29種の鳥類と2種の海獣類を確認できたのは大きな収穫でした。シロエリオオハムは十勝では従来記録が少なく、十勝のアビ類は大半がアビかと思っていましたが、アビがいるのは本当に岸近くで、少し沖に出ると道東の他地域と同様、シロエリオオハムが卓越する状況が見えてきたのもこの調査ならではの成果です。この鳥の繁殖後換羽は部分換羽のため、背・肩羽や雨覆に夏羽の白斑を残している個体も少なからず見られました。そろそろ南へ移動し切ったかと思っていたウトウが、思いのほか多く見られたのはこんなもんなのか、夏から秋にかけての高い海水温が効いているのか…。
 クロガモやビロードキンクロの群れを見ながら帰港する頃にはすっかり風浪も強まり、絶妙なタイミングで船を出して下さった船頭さんに感謝しながら下船。番屋で旬の魚介やお鍋を頂いて、心地よい疲労感と共に解散しました。

確認種:アビ シロエリオオハム ハジロカイツブリ アカエリカイツブリ フルマカモメ ウミウ ヒメウ キンクロハジロ スズガモ クロガモ ビロードキンクロ シノリガモ ホオジロガモ トビ ノスリ セグロカモメ オオセグロカモメ ワシカモメ シロカモメ カモメ ミツユビカモメ ウミガラス ハシブトウミガラス ケイマフリ ウミスズメ ウトウ ハシボソガラス ハシブトガラス(以上、鳥類) ミンククジラ ネズミイルカ(海獣類)


雨覆、肩羽に夏羽の白斑を残すシロエリオオハム冬羽
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ハシブトウミガラス
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*十勝沖調査は、漂着アザラシの会が日本財団、NPO法人日本野鳥の会十勝支部がセブンイレブン記念財団より助成を受けて、上記2団体と浦幌野鳥倶楽部の連携のもと行われているものです。

(2012年11月30日   千嶋 淳)