鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

2011年に十勝に飛来した珍鳥たち

2011-12-31 19:56:41 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
(アホウドリの若鳥 2011年11月 北海道十勝郡浦幌町)

NPO法人日本野鳥の会十勝支部会報「十勝野鳥だより」第176号(2011年12月)掲載「2011年に十勝に飛来した珍鳥たち(解説編)」を加筆・修正ならびに写真を追加して転載)


①アホウドリ
 8月25日に幼鳥(下の写真)、11月13日に若鳥(4歳弱・年齢は標識による;冒頭写真)各1羽が、浦幌町厚内沖で観察・撮影された。掲載写真は11月の若鳥。いずれの個体にも足環が付いており、伊豆諸島鳥島生まれ。11月個体は番号が判読でき、2008年1月に鳥島で生まれ、同年5月に標識された個体であることがわかった。十勝では1996年8月に厚内沖で観察された(写真の有無など詳細不明)ほか、本年5月4日にも本種幼鳥と思われる2羽を、同沖で遊漁船の船長が目撃している。個体数回復にともなって、道東太平洋海上や根室海峡で観察される機会が増えている。

アホウドリの幼鳥
2011年8月 北海道十勝郡浦幌町
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②ミナミオナガミズナギドリ
 10月4日厚内沖で1羽が、多数のオオミズナギドリとともに観察・撮影された。十勝初記録と思われる。本種はかつて迷鳥とされたが、北日本の太平洋海上には夏から秋に定常的に飛来しており、釧路~根室の海上や根室海峡でも、多い時には10羽以上が観察される。十勝沖にも時期や海況によっては、もっと飛来している可能性が高い。


ミナミオナガミズナギドリ 
2011年10月 北海道十勝郡浦幌町
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③コシジロアジサシ
 8月25日に成鳥1羽が厚内沖で観察された。十勝初記録と思われる。最初クロトウゾクカモメに追われていたが後に形勢が逆転し、クロトウゾクカモメを追いかけていた。本種の渡りには謎が多いが、2010、11年の8月下旬には釧路から根室にかけての海上で計6羽を観察しており、繁殖地(サハリン、カムチャツカなど)からしても、同時期に通過している可能性がある。


コシジロアジサシ成鳥
2011年8月 北海道十勝郡浦幌町
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クロトウゾクカモメに追われるコシジロアジサシ
2011年8月 北海道十勝郡浦幌町
この後形勢が逆転し、クロトウゾクカモメが追われることになる。
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④ウミオウム
 厚内沖で1月23日63羽、2月27日119羽、3月26日10羽、11月13日1羽が確認された。本種は稀な冬鳥として少数が北日本海上に渡来するとされ、記録、個体数とも少なく、これだけの数の記録は国内でも稀有といえる。識別等の問題でこれまで見逃されていたのか、今年だけの現象だったのかは不明。十勝での客観的証拠のある記録は初と思われる。


ウミオウム
2011年1月 北海道十勝郡浦幌町
本種については「ウミオウム」の記事も参照。
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⑤エトピリカ
 厚内沖で6月16日に1羽、7月14日に2羽が観察・撮影された。掲載写真は6月のもので、一見成鳥夏羽ぽいが黄色の房毛を欠くことなどから亜成鳥と思われる。過去には2005、2007年9月に浦幌町昆布刈石への死体漂着(各1羽:写真あり M.N氏)、2010年5、10月の厚内沖での観察例(前者は成鳥?で写真なし、後者は幼鳥で写真あり)がある。本種は国内の繁殖地での生息数は40羽程度と非常に少ないが、千島列島では多数繁殖しており、繁殖前の若鳥や、あるいは非繁殖期には道東の海にも広く分布しているのかもしれない。


エトピリカ
2011年6月 北海道十勝郡浦幌町
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⑥ツメナガセキレイ
 9月22日に浦幌町朝日で1羽が、S.K氏により観察・撮影された。性・齢は不明だが全体的に羽衣が一様で黄色みの乏しいこと、下嘴が淡色なことなどから幼鳥ではないだろうか。亜種は不明。本種は2009年5月に豊頃町大津で亜種マミジロツメナガセキレイが観察・撮影されている(M.K氏)ほか、9~10月に上空を通過する声を聞いたことが何度かある。分布を考えるともう少し出ても良さそうだが、あまり地上に降りないのかもしれない。今回観察されたのも台風通過後の水たまりということで、荒天を避けたのかもしれない。

⑦ギンムクドリ
 7月31日に浦幌町豊北でR.M氏が観察・撮影し、その後8月10日頃まで複数の観察者によって確認された。滞在中は主に酪農家の堆肥付近で、ムクドリやコムクドリの群中に見られた。頭部が白色で背、胸から腹にかけてが銀色、翼には金属光沢のあることなどからオス成鳥であろう。本種は主に中国中・南部に分布し、小規模な渡りしか行なわず、従来日本では南西諸島や九州などで少数が越冬する程度だった。しかし、浦幌では2007年10月にも1羽が観察され(S.K氏)、他に道内では札幌で越冬の記録、日本海側離島での記録がある。また、近年では東日本での記録も出つつある。なぜこのようなことが起こるかは不明だが、例えば南西諸島など越冬地が重複する地域で越冬した個体が、ムクドリとともに北や東へ渡るというのは、想像力を膨らませ過ぎだろうか?


ギンムクドリ(左;右はムクドリ
2011年8月 北海道十勝郡浦幌町
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                    *
 掲載した7種のうち、5種が海鳥である。これは海鳥の分布や生態に関する知見が乏しく、いわゆる「珍鳥」とされる種が多いからである。しかし、ウミオウムの例からも明らかなように、実際にはかなり飛来している種も少なくない。今回の5種も、今後海上での観察や調査が進めば、十勝沖を含む道東太平洋には、数の多少はあれ定期的に飛来している可能性が高い。
 ここで紹介したもの以外で情報のあった珍鳥としては、ナキイスカ(4月音更)、ミヤコドリ(6月豊頃)、コホオアカ(10月帯広)、シロハラ(10月帯広)などだろうか。変わったものとしては、10月に足寄でコシジロウミツバメが拾得されている。本種は沖に出てもなかなか見ることができないが、時折内陸部に迷行する。ヒグマの胃内容物から羽毛が出て来たという、冗談みたいな話もある。毎シーズン当たり前のように見ているハクガンやシジュウカラガンの群れも、国内的には十分羨望の的である。
 珍鳥でいま気になっているのは、帯広川のクビワキンクロ。2005年10月の初渡来以降毎冬訪れて我々の目を楽しませてくれた彼の、今年の所在を一向に聞かない。渡来年は幼鳥だったので、今年6歳ということになるが心配なところである。あの個体が来なくなったら、特に北海道での観察はかなり難しくなるだろう。


クビワキンクロのオス
2008年2月 北海道中川郡幕別町
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 今年も残すところあとわずか。2012年はどんな珍鳥が十勝に舞い降りてくれるだろうか?無論、珍鳥と出会うことだけがバードウオッチングの醍醐味ではないが、発見した時の驚きや喜びは我々をフィールドに誘う原動力の一つであることは確かだろう。


(2011年12月16日   千嶋 淳)


ケイマフリ(その1) <em>Cepphus carbo </em>1

2011-12-30 20:54:28 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ケイマフリ冬羽 2011年3月11日 北海道根室市)


 国内では道東の離島や海岸、知床半島、天売島、下北半島等で繁殖するが、その数は過去数十年で激減している。世界的に見てもオホーツク海と日本海北部、北海道から千島列島だけで繁殖する、極東の固有種といえる。国内でのウミスズメ科鳥類の保全対策は、主にエトピリカとウミガラスに努力が注がれているが、前者は北太平洋全域、後者は北太平洋、北大西洋に広く分布し、日本は分布の辺縁である。国際的な視野に立って日本が保全すべきものは何だろうか?


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 大規模な繁殖地のある歯舞諸島、色丹島から近い根室半島近海で冬に多数観察されること、流氷の辺縁で多く見られること等から長距離の渡りはしない個体が多いと思われるが、南下する個体もおり、冬には道内各地の沿岸で観察され、本州でも稀に記録される。沿岸性が強く、海岸から数kmの範囲で観察されることが多い。
 近距離であれば細長い嘴や和名の語源である赤い脚(アイヌ語の「ケマ・フレ(赤い脚)」に由来するとされる)、英名(Spectacled Guillemot「眼鏡をかけたウミガラス・ウミバト類」)の語源である目の周りの白い縁取り等から他種との識別は容易。ただ、ウミバトの中には雨覆の白斑が不明瞭で、各羽の先端に僅かに白色が出る程度で全体的に黒っぽく、本種と酷似する個体もいる。本種の翼上面は各羽の先端も含めて暗色であり、白色部はない。


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 飛び立ちや飛翔において、ウミバト以外で冬羽の本種と紛らわしいのは、ウミガラス冬羽である。近距離であれば顔のパターンや嘴の形状で識別は容易だが、中距離以上だと意外と似て見える。ウミガラスが顔から体の後半まで一貫して太い筒型で、海面に対して水平に見えるのに対して、本種は顔、首の部分は細く、胸から腹にかけて急速に太くなるため、体の軸が海面に対して斜めに見える。また、ウミガラス類では下雨覆が白色であるが、本種は初列、次列の下大雨覆がやや淡色であるものの、基本的には翼下面は暗色である点が異なる。


(2011年12月30日   千嶋 淳)


ウミスズメ(その2) <em>Synthliboramphus antiquus </em>2

2011-12-28 21:45:17 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ウミスズメ 2011年11月13日 北海道十勝郡浦幌町)


 海鳥は総じて体サイズや羽色、換羽のタイミング等に個体差が大きいが、そうした実際の差ではなく、距離や光線等による「見え方」によってもまったく違って見える。特に大きさは物差しの無い海上では中距離以上で非常に把握しづらいし、近距離であっても角度や鳥の沈み具合、鳥の周囲の波の立ち方等によって受ける印象がかなり異なってくる。そんな一例を紹介する。上の写真では3羽のウミスズメは、同じ向きで同じような姿勢を取り、著しく浮いたり沈んだりする個体がいないため、大きさはほぼ均一に見える。
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 この写真は、1枚目の左側の2羽で位置関係は一緒。手前の個体が著しく小さく見える。これは鳥の体がかなり沈んでいて、特に白い部分が水面上にあまり見えていないこと、鳥の手前側に細かい波のピークがあり、鳥体がその向こう側にあること、鳥の頭が後部しか見えておらず、質量感を与える広い顔や厚い嘴が見えていないこと等が複合的に作用した結果と思われる。画像で見る形や色は紛れもない通常のウミスズメであるが、逆光や短時間の観察だと他種や幼鳥・雛と誤認される可能性がある。


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 2枚目の少し後の画像で、個体の配置は1枚目と同じ。2枚目で小さく見えた最手前の個体は、ここではさほど小さく見えない。鳥の周囲に波が立っておらず、鳥体の水面上に出ている部分が多く、特に脇から下尾筒にかけての白色部が目立っているためであろう。海上、特に晴れた日の青いそれでは、白色部の多い鳥は大きな、逆に暗色部の多い鳥は小さな印象を受けやすい。そのような「錯覚」にも留意する必要がある。


(2011年12月28日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。

霧多布沖の海鳥⑤ミナミオナガミズナギドリ(9月20日)

2011-12-28 19:16:15 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
ミナミオナガミズナギドリ 以下すべて 2011年9月 北海道厚岸郡浜中町)

NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第3号(2011年10月)掲載の「2011年霧多布沖合調査」を分割して掲載、写真を追加)

 台風15号によるうねりが霧多布岬や小島に押し寄せる中での出港でしたが、沖は意外なほど静かで、飛ぶオオミズナギドリやヒレアシシギ類が海面に映るくらいでした。大黒島や阿寒の山並みを北西に望む海域では10頭前後のシャチが、そのうち数頭は舳先に現れ、甲板は歓声に包まれました。すぐ近くにヒゲクジラ類1頭も浮上したことから、もしかしたらシャチは狩りの最中だったのかもしれません。
 この日の調査で特筆すべき海鳥は、ミナミオナガミズナギドリです。ハシボソミズナギドリやハイイロミズナギドリのように、南半球で繁殖して北半球まで渡るミズナギドリ類がいますが、本種もその一種です。ニュージーランドの沖にある島で繁殖し、その後北太平洋に分散します。日本近海の確実な初記録は1976年と新しく、ごく稀に迷って来る鳥と考えられていました。しかし、最近の観察では夏から秋に少数が定期的に、本州北部から北海道の沖合へ来ることがわかってきました。霧多布沖でもそれを裏付けるかのように10羽近く(現在、集計中です)が続々出現し、翼上面に現れる美しいM字模様を披露してくれました。
 南半球からのミズナギドリ類、ミッドウェイや伊豆・小笠原生まれのアホウドリ類、ロシア極東で繁殖するウミスズメ類などが、付近で繁殖するオオセグロカモメなどとともに一同に会する霧多布の海は、さながら「海鳥たちの交差点」といえそうです。


水平線上の船を背に浮上するシャチ
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(完)

(2011年9月24日   千嶋 淳)

*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの


霧多布沖の海鳥④カンムリウミスズメ(8月20日)

2011-12-27 17:20:06 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
カンムリウミスズメ 以下すべて 2011年8月 北海道厚岸郡浜中町)

NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第3号(2011年10月)掲載の「2011年霧多布沖合調査」を分割して掲載、写真を追加)


 一部区間で濃霧だったものの、大部分は視界良好な曇りでした。逆光や照り返しのないこのような天気が、海上調査には一番向いているのかもしれません。霧多布岬の北東沖にある帆掛岩に上陸するゼニガタアザラシの個体識別用写真(体表面にある銭型模様が指紋のように一生変わらないため追跡可能です)を撮影した後、沖を目指しました。
 ウミスズメ類といえば北の海、北の海といえばウミスズメ類と寒い海を代表する海鳥のウミスズメ類ですが、例外的に暖かい黒潮域で繁殖する種があります。カンムリウミスズメです。伊豆諸島や九州の離島など日本近海でのみ繁殖し、総個体数は5000~10000羽程度と見積もられています。春に繁殖を終えた後の分布が長い間よくわかっていませんでしたが、最近、夏から秋にかけての北海道周辺の海で記録が相次いでいます。この日の霧多布沖でも合計16羽が観察されました。9月にも13羽、そして7月にはなんと31羽が記録され、夏から秋にかけてのカンムリウミスズメにとって重要な生息地である可能性が出てきました。このことは霧多布の海が、エトピリカやケイマフリといったここで繁殖する種類だけでなく、遠い南の海で繁殖する海鳥にとっても大切な場所であることを教えてくれています。
 この日の調査ではサハリンやカムチャツカで繁殖し、やはり非繁殖期の分布がよくわかっていないコシジロアジサシ2羽も記録されました。


濃霧の中のコシジロアジサシ
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(2011年9月24日   千嶋 淳)

*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの