鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

何を食べてる? 海ガモ類

2011-01-21 23:39:08 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
漁港内でカジカ類を捕食するウミアイサのメス 2008年2月 北海道幌泉郡えりも町)

日本野鳥の会十勝・会報「十勝野鳥だより173号」(2011年1月発行)より転載 一部を加筆・修正、写真を追加)


 寒い冬の海で日がな一日潜水を繰り返し、餌捕りに励む海ガモ類。彼らは一体何を食べているのでしょうか?日本では海ガモ類の食性に関する研究は少ないですが、欧米とも共通種が多いので、そちらの情報も盛り込みながら、主要な7種の海ガモ類が冬に何を食べているのか垣間見てみましょう。
①スズガモ
 貝類をはじめ、浮遊甲殻類、カニ類、ヒトデ類といった水生無脊椎動物を中心に、植物質の餌(アマモの種子等)も食べます。動物性の餌が占める割合は、地域によって45~97%と変異があるようです。オランダで、9~2月に111個の胃が調べられた例では、貝類が全容量の80~95%を占め、貝は主にイガイの仲間(ムール貝に近い)、他にザルガイ、タマキビ類、ムシロガイが含まれていました。スウェーデンで3~4月に採取された24個の胃も同様の傾向で、イガイの仲間が87%の出現頻度を示しました。旧ソ連での研究では、餌は季節と地域によっても変化することが示され、例えば秋(10月)には貝類の割合は31.5%で、水生昆虫(24%)や種子(10.5%)も重要な餌となっていました。
 以前、根室の春国岱と黄金道路で、どちらも11月に拾得された本種の胃内容物を見たことがあります。春国岱個体の胃には干潟性のアサリ、ホッキ、黄金道路個体の胃には岩礁性のエゾタマキビガイが見られ、その時住んでいる場所の近くに豊富にある餌を、状況に応じて利用している様が窺えました。
 本種のちょっと変わった餌としては、シシャモがあります。これは自由に泳ぐ魚を捕まえるのではなく、大津漁港等でシシャモ漁期(10~11月)に、岸壁からこぼれ落ちて水没したものを狙って、多数のスズガモが岸壁付近で活発に潜水しているのを見ることができます。


岸壁付近でシシャモを捕食するスズガモ・メス
2009年11月 北海道中川郡豊頃町
「柳葉魚をめぐる鳥たち」の記事も参照。
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②クロガモ
 貝類を中心にエビ等の水生無脊椎動物、時に魚類が餌となります。10~4月にデンマークの海上で得られた219個の胃内容物では貝類が95.9%と高い出現頻度を示し、中でもイガイの仲間(50.7%)、ザルガイの仲間(42.5%)が多く出現しました。甲殻類は10.9%の胃から出現し、それらは主に端脚類(ヨコエビやトビムシの仲間)でした。旧ソ連や北米での研究でも、イガイの仲間が重要な餌生物となっていました。


二枚貝類を捕食するクロガモのオス
2010年1月 北海道中川郡豊頃町

貝は既に口の中にあるが、付着した海藻等がはみ出している。
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直後、それらを洗い流すような仕草を見せた。
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③ビロードキンクロ
 貝類を主食とし、水生無脊椎動物や魚類、植物質のものも食べます。デンマークで冬期に集められた144個の胃内容物では、貝類が出現頻度で97.2%、全容量の83%と卓越し、イガイ、ザルガイ、ムシロガイの仲間が中心でした。他には甲殻類(出現頻度16%)、棘皮動物(ウニ、ヒトデなど;出現頻度9.7%)、環形動物(ゴカイなど;出現頻度8.3%)、魚類(出現頻度4.2%)等が出現しました。北米での研究でも、貝類やカニ類が主食であることが示されています。秋にはカゲロウ等水生昆虫の幼虫や蛹も食べているようです。
 ヨーロッパでは、クロガモより岸近くで採餌することが多く、おそらくそのために餌メニューの幅があると考えられています。北海道沿岸では砂質海岸の海上で見られることが多い本種ですが、これもクロガモと餌や採餌環境を別にしているからなのかもしれません。


二枚貝類を食べるビロードキンクロ・オス
2008年2月 北海道幌泉郡えりも町
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④シノリガモ
 繁殖期には渓流をカワガラスのように潜水してトビケラやその幼虫を捕えていますが、冬には貝類や甲殻類が主食となっているようです。ヨーロッパではほぼ完全に動物食といわれ、主に貝類(タマビキ類、イガイの仲間)、他に甲殻類、環形動物、魚、魚卵を経寝ています。アイスランド沿岸では甲殻類が中心で、若干の貝類も食べているそうです。アラスカではイガイの仲間、プリビロフ諸島では端脚類とヤドカリの仲間というように、海域によっても餌は異なるようですが、いずれにしても動物質が中心で、植物質は全体の1 %程度と考えられています。11月に根室の花咲港で拾得された本種の胃内容物を見たことがあります。エボシガイ、コガモガイ、エゾタマキビガイ、イガイの仲間、フジツボ、稚ガニ、2~3種類の甲殻類、海藻などが含まれ、沿岸部の多様な無脊椎動物を利用している様子がよく分かりました。
 ただ、諸外国で言われているほど植物質への依存度が低いのか、疑問に思うこともあります。本種は漁港のスロープやその波打ち際付近で、コクガンやヒドリガモとともに採餌していることがよくあります。後2者は海草食者でスロープ周辺に付いている植物を食べていることは明らかです。シノリガモは何を食べているのでしょうか?また、漁港の岸壁部分に生えている海草群落から何かを食べているのを見たことがあります。ただし、フジツボ等固着している無脊椎動物を食べている可能性も否定できないので、今後注意して観察する必要がありそうです。


渓流に集ったシノリガモ
2007年5月 北海道十勝川上流域
「渓流の道化師」の記事も参照。
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⑤コオリガモ
 貝類、小型甲殻類、軟体動物等動物質を中心に食べます。デンマークで11~4月に集められた113個の胃内容物では、貝類(ザルガイ、イガイ)の出現頻度が高く(93.8%)、甲殻類(端脚類や等脚類(ワラジムシ等の仲間);54.9%)、魚類(ハゼ科など;14.4%)、多毛類(ゴカイ、イソメ等;9.7%)等がそれに続きました。グリーンランド沿岸では甲殻類と貝類、カムチャツカでは端脚類と貝類など、同様の結果が他の海域でも得られています。
 珍しい事例として、荷役中の船からこぼれ落ちた穀粒を食べたというものがあります。

⑥ホオジロガモ
 昆虫類、甲殻類、軟体動物といった動物質の餌のほか、水生植物も食べます。デンマークで10~2月に集められた90個の胃からは、甲殻類の出現頻度が最も高く(76%)、貝類(小型のタマビキ類、イガイ、ザルガイ;70%)、魚類(主にハゼ科;22%)がそれに続きました。北米で11~4月に集められた150個の胃内容物は貝類、甲殻類(ザリガニ)、昆虫(トビケラ幼虫)等で、海ではそれらにフジツボ、カニ等も加わったということです。本種は内陸から外洋まで幅広い水辺環境に生息するので、その環境によっても餌生物は変化します。スコットランド等の内陸部で調べられた事例では、トビケラやカワゲラ、カゲロウといった水生昆虫の幼虫が重要な餌生物であることが示されています。十勝でもワシクルーズで出会うような河川中流域に暮らす群れは、水生昆虫の幼虫を食べながら冬を送っているのかもしれません。

⑦ウミアイサ
 魚食性が強く、ヒナや幼鳥はエビや水生昆虫も食べます。静岡県の駿河湾では、コアユとマイワシを捕食しているのが観察されています。私はえりも町の漁港で、本種が小型のカジカ類を食べているのを見たことがあります(冒頭の写真)。他に外国で食べているのが確認されている魚類には、トゲウオ、ギンポの仲間、ローチ(ウグイに似た魚)、キタノカマツカ、ツノガレイ、クロダラ、サケ科、ヤツメウナギの仲間、パーチ(スズキに似た魚)、イカナゴ等があります。胃内容物から甲殻類や昆虫が見つかることもありますが、小型のもの場合、魚が食べていたものの可能性があります。一般にカワアイサより小型の魚類を捕食するため、稚魚に有害であるとされます。
 フェリー等で沖に出ると、他の海ガモ類が沿岸部で多く出現するのに対して、本種はかなり沖合でも群れを見かけます。これは他の種類の主食が貝類のような底性動物で、水深がありすぎると潜って捕りに行けない(または行っても労力の割に合わない)のと違って、本種は表・中層の魚を捕れば沖合でも浅い潜水で餌にありつけるからではないかと思います。
 魚群が表層近くにあると思われる時に、他種の海鳥と採餌混群を形成することがあります。こうした混群の多くはまずオオセグロカモメやウミネコ等が集まって、続々と海に飛び込み始め、それを見たと思われる本種やウトウ、ウ類、アビ類等が飛来し、潜水採餌を始めることによって群れが大きくなります。潜水採餌者がメインになってくるとカモメ類はまた別の場所に飛び込み始め、潜水採餌者が再び追随することによって形成と分解を繰り返します。


ウミアイサを含む採餌混群
2010年4月 北海道根室市
夕刻の海上に海鳥が集う。オオセグロカモメウミネコは既に次の場所に移動を始め、ウトウヒメウが集まって来た。ウミアイサは最大3羽が観察された。
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岸壁から何か(貝?)をこそぎ取るクロガモ(メス?)
2010年4月 北海道広尾郡広尾町
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(2011年1月4日   千嶋 淳)


十勝の海ガモ類(未記録種を含む)(後編)

2011-01-18 22:48:04 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
アラナミキンクロのオス 2007年3月 北海道幌泉郡えりも町)

日本野鳥の会十勝・会報「十勝野鳥だより173号」(2011年1月発行)より転載 一部を加筆・修正、写真を追加)
C. 会えたら宴!? お年玉級の4種


オオホシハジロ
 スズガモ同様ハジロガモ族ですが、冬の出現はもっぱら海上です。本来は北米に分布する鳥で、稀に北日本に飛来します。ホシハジロとよく似ていますが、長大な嘴やごつい頭部は独特です。主に1~3月に漁港や河口周辺で記録があり、多くは1~数羽ですが、06年1~3月には大津漁港でオス12羽、メス4羽、合計16羽もが観察されました(浦幌鳥類目録第2版)。
 他に内陸部で秋の記録が数例ありますが、秋のホシハジロには嘴の黒い個体が少なからずおり、額も切り立って見えることがあるため、特にメスや幼鳥ではホシハジロとの識別に注意が必要です。特定の識別点に固執しないで、総合的に特徴をとらえて判断することが大事でしょう。


2006年1月 北海道中川郡豊頃町
左がメス。
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2000年2月 北海道野付郡別海町
オス。この冬やその前の冬にも道東には割と多く飛来した。
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コケワタガモ
 1945年発行の「鳥と猟」(堀内讃位著)という本では、「この鴨の顔を見ると、米国の秘密結社KKK団を思ひ出す」と書かれるくらい、オスはユニークな顔付きです。北極海沿岸で繁殖し、冬もあまり南下しません。国内の記録の大半は道東で、根室の納沙布岬周辺では1990年代半ばまで数~数十羽が毎冬観察されていました。襟裳岬でも同時期まで記録がありました。しかし、2000年代以降ほとんど観察されなくなりました。十勝での記録も1984、85年の広尾町での2例のみです。本種は主要な繁殖地でさえも生息数が不規則に変動する習性があり、道東への飛来状況の変化もそうした傾向を反映したものかもしれません。
 ちなみに英名Steller’s Eider、学名の種小名stelleriは、ドイツ出身でロシアの博物学者、医師のシュテラー(ステラー)にちなんでいます。ベーリングと共にカムチャツカやアリューシャン列島を探検し、オオワシ、トド等の英名にもその名を残しています。


Steller’s Sea Eagle(オオワシ・成鳥)
2010年12月 北海道十勝川中流域
「シュテラーに因んだ海ワシ」の意の英名。かつてベーリング海に生息し、絶滅したステラーカイギュウも彼の名に因んだもの。
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アラナミキンクロ
 ビロードキンクロと似ますが、オスの額や後頚の白、嘴の模様は更に派手に見せています。本来は北米に分布する鳥で、日本では1970年3月根室での初記録以降、道東を中心に稀に出現し、関東地方での記録もあります。十勝では00年11月に豊頃町湧洞の海上で、クロガモの群中にオス1羽を観察しましたが、写真はありません。えりも町庶野漁港には、2000年代にオス1羽が連続飛来しましたが、06~07年の冬にメスを伴って出現して以降、記録が途絶えました。まさかメスが、北米に連れ帰ったのでしょうか?
 メスは後頚に白色の出ない個体もおり、ビロードキンクロとの識別に手を焼きますが、全体に黒っぽく、また嘴と顔の境界ラインが本種独特の形状です。飛翔時には白くない次列風切も識別点となるでしょう。本種だけでなく、海ガモ類の嘴やその周辺の形態は、生態を反映してか種ごとに異なっており、野外識別や漂着死体の同定で役立つことがあります。


以下2点とも 2007年3月 北海道幌泉郡えりも町

メス。オスは冒頭の写真。ビロードキンクロとの識別については、「アラナミキンクロのメスの識別について」の記事も参照。
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オスの飛翔。雌雄ともビロードキンクロと異なり、翼上面(次列風切)に白色部は出ない。
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ヒメハジロ
 アイサ族の中で最小のカモ。オスの頭部周辺の構造色の美しさは、カモ類の中でも秀逸です。北米に分布する種で、日本では北海道、東北地方等北日本に稀に渡来します。十勝では1989~2010年の間に十勝川河口周辺や生花苗沼で、少なくとも5例の記録があるほか、昨年2、3月に十勝川温泉で本種とホオジロガモの雑種と思われる個体が観察されました。本種や上述の雑種については、「ホオジロガモとその仲間」「カモ類の珍しい雑種:ホオジロガモ×ヒメハジロ?」の記事、また雑種は「BIRDER」誌の10年8月号にも記事がありますので、興味のある方は参照下さい。


雑種と思われる個体
2010年3月 北海道十勝川中流域
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D. この鳥を探せ!? 未記録種たち


コスズガモ
 北米に分布する種で、スズガモとよく似ています。識別が難しいためか、国内での初記録は1980年代ですが、その後は関東地方や沖縄県等全国から記録されています。北海道では92年1月にえりも町でオス1羽が観察・撮影され、その後根室市や別海町で3例の記録(いずれもオス)があります。本州以南では都市公園の池や河口で観察されますが、道東での記録はすべて漁港です。えりもで出ていることを考えれば、十勝に飛来しても不思議はないですから、図鑑とにらめっこして、後頭部の尖った顔が紫色のスズガモを探すのも夢がありますね。ただし、キンクロハジロとスズガモの雑種はコスズガモ的な形態を示すので、御注意あれ。


ケワタガモ
 北極海沿岸で繁殖し、冬もあまり南下しません。和名は、良質の羽毛(毛綿)が採取の対象となったことに由来します。戦前の北千島では「ガチョウガモ」とも呼ばれていたそうで、オスの嘴基部にあるこぶのためかもれません。道東では根室半島や野付、襟裳岬で7例の、いずれも単独の記録があります。最近では06年1月に稚内で観察・撮影されています。国内での記録はすべてオス幼鳥かメスです。今後も国内では最も見づらいカモの一つだと思いますが、釧路博物館や山階鳥研には千島列島産の標本が結構あるので、もうひと飛びしてくれることを願いたいものです。
 また、根室で2例の観察記録があるだけのホンケワタガモ(オオケワタガモ)や、国内未記録のメガネケワタガモとの出会いを夢見るのも、極寒の海を望遠鏡で眺める励みになるかもしれません。凍傷や顔面神経痛にはくれぐれもお気を付け下さい。


北洋産のケワタガモ・オス標本
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キタホオジロガモ
 アイスランドからアラスカにかけて、ホオジロガモより北で繁殖し、冬もあまり南下しません。ホオジロガモと似ますが、額が大きく盛り上がった、独特の頭の形をしています。北海道や岩手県で数例の記録があるだけの迷鳥で、「日本鳥類目録第6版」でも扱われていません。84年の3,4月に広尾町音調津やえりも町庶野でメス1羽が観察・撮影されているそうですが、残念ながら撮影者が亡くなられているため、写真の所在は不明です。本種については、「ホオジロガモとその仲間」の記事も合わせて御覧下さい。


(2011年1月4日   千嶋 淳)


十勝の海ガモ類(未記録種を含む)(前編)

2011-01-17 17:21:16 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
ビロードキンクロのオス 2008年2月 北海道幌泉郡えりも町)


日本野鳥の会十勝・会報「十勝野鳥だより173号」(2011年1月発行)より転載 一部を加筆・修正、写真を追加)

A. まずは常連 基本の5種


スズガモ
 ハジロガモ族に属し、厳密な意味での海ガモではないですが冬の海で見る機会が多いので、含めます。オスは白黒のボディ、メスは褐色の体に嘴付け根の白斑が特徴です。冬の漁港では最も普通で、小さな漁港でもたいてい入っていますし、大きな港では時に100羽以上の群れを形成します。漁港や河口周辺等波の静かな海域に多く、波の荒い外海ではほとんど見られません。春と秋には湧洞沼や長節湖等の海跡湖、十勝川下流沿いの河跡湖にも飛来し、帯広川下流や千代田新水路といった内陸部で見られることもあります。
 9月頃より飛来し、漁港では11~4月に多く観察できます。湧洞沼や大津漁港では夏に観察されることもあり、根室の風蓮湖や野付半島周辺では数百羽が夏でも見られますが、巣、卵、ヒナ等繁殖の証拠は得られていません。海ガモ類は性成熟に3~4年を要し、毎年は繁殖しない個体も多いので、非繁殖鳥が残っているのだと思います。


2011年1月 北海道広尾郡広尾町
右がオス。
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クロガモ
 冬の海岸で、「ヒー、ホー」と口笛のような声を聞いたらクロガモの群れが近くにいるはずです。オスは全身黒色の体に、嘴付け根の黄色いこぶが目に鮮やかです。10月頃より渡来し、海上や漁港で広く見られる、最も普通の海ガモ類です。5月くらいまでには概ね渡去しますが、おそらく非繁殖個体と思われる群れが夏期にも豊頃町大津や浦幌町昆布刈石等で観察され、時に大群になります(09年7月3日大津 900羽;「越夏群」の記事も参照)。また、渡り時期には内陸部で観察されることもあります(05年5月10日十勝川千代田堰堤上流3羽等)。釧路の阿寒湖では、1965年夏に幼鳥の記録があるとされますが、詳細や標本、写真等の有無は不明です。この記録や夏の観察例をもとに「北海道で繁殖」としている図鑑もありますが、上述の通り海ガモ類は非繁殖個体が普通に越夏するので、夏の記録の解釈は慎重になるべきでしょう。
 複数羽のオスがメスに寄り添って上半身を起こし、尾羽を立て「ヒー」と鳴いたり、体を伏せて高速でメスの傍を通り抜けるディスプレイを観察できることがあります。従来、一見メスのようでこぶの部分に黄色が混じるのはオス幼鳥とされてきましたが、そのような個体にオスがディスプレイしていることもあり、メスでもこの部分が黄色い個体もいるのかもしれません。
 北半球に広く分布する種で、ヨーロッパの亜種はオスの鼻こぶが小さく、黄色部は前方だけです。ヨーロッパ(大西洋)の亜種と北アメリカ(太平洋)の亜種を別種とする考え方が近年主流になりつつあり、国際鳥学会(IOC)もこの分類を採用しています。学名は前者がMelanitta nigra、後者がM.americanaとなり、日本に渡来するのは後者です。


2011年1月 北海道広尾郡広尾町
左がオス、右がメス。
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シノリガモ
 この鳥のオスの、派手な羽衣を見ると英名をHarlequin Duck(道化師ガモ)というのも肯けます。和名については、「晨鴨」という漢字から夜空のような紺色の地にいくつもの星(白斑)が点在する、海苔(海藻)を舐(音読みはシ)めるカモ等の説がありますが、正確には分かっていません。
 繁殖は河川上流部で行い、それ以外の時期を海で過ごすという生活史で、十勝川や札内川の上流域でも少数繁殖しますが、大部分は10~11月に渡来します。海上や漁港に広く分布し、岩礁海岸を好むため、十勝では広尾町黄金道路沿岸や浦幌町昆布刈石周辺で特に多く見られます。海ガモ類ではよく上陸する方で、岩礁や港の岸壁で羽を休めます。その際に脚の位置に注目してみると、マガモ等淡水ガモ類にくらべて後方にあるのが分かります。
 あまり鳴きませんが、クロガモのようなディスプレイを行いながら「ギッ、ギッ、ギッ…」と聞こえる声を発することがあります。
 海ガモ類は成鳥羽になるのに2年かかる種が多く、クロガモ等では最初の冬は幼鳥の雌雄の区別が付かない場合が多いですが、シノリガモは冬の早い時期から分かります。一見メスのようで、顔の白斑が多い、体が微妙に青みを帯びる等の個体がいたら、オスの若鳥です。
 非繁殖期は海上で過ごしますが、十勝川中流でのワシクルーズでは試験運行時も含めて3年連続で、少数が厳冬期にも観察されています。何故かメスや幼鳥ばかりなのですが、オス成鳥と生態が異なるのでしょうか?


2011年1月 北海道広尾郡広尾町
右がオス、左がメス
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2008年2月 北海道幌泉郡えりも町
オス若鳥。特徴は本文を参照。
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ホオジロガモ
 アイサ族に属する「真正海ガモ類」ですが、海上だけでなく、河川や湖沼など多様な水辺環境に生息します。10月中旬より渡来、5月中旬まで観察され、稀に越夏しますが、スズガモやクロガモのような群れは作りません(09年6月20日大津 1羽;本誌167号)。本種やその近縁種については、「ホオジロガモとその仲間」の記事も参照下さい。


ウミアイサ
 帯広でも馴染み深いカワアイサと似ますが、いくぶん小型で、オスではぼさぼさの頭が印象的です。10月より渡来し、海上や河口、漁港で観察されますが、十勝では冬の間はあまり多くありません。最も多いのは春先、4月上・中旬で、この時期には長節湖や湧洞沼、生花苗沼等の海跡湖に数十羽、時に100羽を超える大群で飛来し、採餌だけでなくディスプレイや交尾等多彩な行動を披露してくれます(「海跡湖のウミアイサ」の記事も参照)。沼の氷が解けると姿を消し、海上ではその後5月中旬頃まで見られます。また、カワアイサに混じって内陸部に飛来することが稀にあります(02年4月29日十勝川温泉 1羽など)。
 ディスプレイは、オスが顔と嘴を斜め前方に突き出したり、体をV字型に折り曲げたりする(淡水ガモ類の「反り縮み」に近い感じ)ものがあります。


2007年4月 北海道中川郡豊頃町
中央がオス。
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B. 出会うとちょっと嬉しい2種


ビロードキンクロ
 オスでは目の下にある半月状の白斑と、嘴の赤と黄色、黒いこぶが独特の顔付きを作り出すカモです。飛ぶと次列風切の白が遠くからでも目立ちます。カモ類やシギ類には、近縁種との識別が難しくても飛翔パターンですぐ分かる種類がいますが、本種もその典型といえるでしょう。
 9月下旬から10月に渡来し、北海道全体では比較的普通種ですが十勝では少なく、漁港や海岸で時折観察される程度です。釧路~東京のフェリーがあった頃には、3月下旬の大樹・広尾沖で数百羽の大群を何度か観察していますが、陸上からこうした大群を見たことはありません。釧路より東ではやや普通で、砂質の海岸を好むため、浜中町霧多布岬の内湾側(浜中湾)や別海町走古丹では群れを観察できます。それでも近年、渡来数が減少している可能性が指摘されています。
 英名はVelvet Scoter(ビロードのクロガモ)で和名と同じですが、米名はWhite-winged Scoter(白い翼のクロガモ)です。英語名というと世界共通な印象を持たれるかもしれませんが、イギリスとアメリカで名前が異なる種も少なくなく、それぞれが譲らないため、未だに統一は図れていません。アビの仲間を英名でDiver、米名でLoonと呼ぶのもそんな事情からです。
クロガモ同様、近年ではヨーロッパ(大西洋)亜種と太平洋(アジア・北米)亜種を別種と考える風潮が主流で、その場合の学名はそれぞれMelanitta fuscaM.deglandi、日本に渡来するのはdeglandiの亜種stejnegeriとなります。


2007年3月 北海道幌泉郡えりも町
メス。オスは冒頭の写真の通り。
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2007年2月 北海道広尾郡広尾町
オスの若鳥。全身が黒っぽくなって、嘴にも赤や黄色が出始めたが、顔にメスのような白斑の痕跡があり、体も茶色ぽい。
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コオリガモ
 冬や氷を連想させる白い体に、オスでは長く突出した尾羽が特徴的なカモ。英名はそのままLong-tailed Duck(尾の長いカモ;ちなみに本家(?)オナガガモはPintail(針尾))、米名はOldsquaw(老女)で、ビロードキンクロ同様、英米で名前が異なります。
 11月中旬から渡来しますが、十勝ではかなり稀でシーズンに数回、少数が海上や漁港で見られる程度で、稀に内陸部での記録もあります(帯広市十勝川 79年1月;十勝と釧路の野鳥)。道東や道北、特に厚岸以東の道東では普通で、霧多布や根室半島では漁港でもよく観察されるので、本種を見たい方には根室方面への遠征をお薦めします。冬の根室行きは決して楽ではありませんが、極北をイメージさせる姿やディスプレイ中にオスが発する「アッ、アオナ!」の声は、苦労して参じるだけの価値があるでしょう。
 着水の際、他のカモ類みたいに緩やかに降りず、水面へ垂直に落ちる様はウミスズメ類のようです。潜水が巧みで、翼を開いてさっと潜って行くのもウミスズメ類を思わせます。胸骨は海面に落ちる衝撃を受け止められる、特異な形をしているそうです。
 3ステージのややこしい換羽を行い、5月上旬には白い冬の姿とは間逆の、黒を基調とした夏羽に変わります。日本では見る機会は少ないですが、根室近海で渡去直前に集結した群れの大半が夏羽だったのを何度か見たことがあります。


2009年3月 北海道厚岸郡浜中町
手前がオス。
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2010年4月 北海道根室市
夏羽のオス(右)とメス。
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(後編へ続く)

(2011年1月4日   千嶋 淳)


ホオジロガモとその仲間

2011-01-16 23:09:16 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
ホオジロガモのオス 2007年3月 北海道中川郡幕別町)


日本野鳥の会十勝・会報「十勝野鳥だより170号」(2010年4月発行)より転載 一部を加筆・修正)


 ホオジロガモの仲間(ホオジロガモ属)は、大きさの異なる3種から構成されています。属名のBucephalaは「牛のような頭」の意味で、この仲間の頭の形をよく言い表しています。いずれも潜水して貝類や甲殻類を捕るカモで、クロガモ属(クロガモやビロードキンクロ)と類似点が多い一方、アイサ属にも近いと考えられています。日本では3種すべての記録があり、十勝へは2種が飛来するほか、残りの1種についても不確実な観察記録があります。

①ホオジロガモ
 国内で見られるホオジロガモ属の大部分は本種です。おにぎりのような三角形の頭部、英名Goldeneyeの由来となった黄色い目、それにオスでは和名の由来となった頬の白斑などが特徴的です。
 十勝へは冬鳥として10月中旬に飛来して5月中旬まで見られますが、数が多いのは12~4月上旬くらいまでです。漁港や沿岸の海上、大きな河川、湖沼(結氷期をのぞく)などに生息し、十勝川の中・下流や広尾町十勝港などでは数百羽にも上る大群が観察されることもあります。また、新得町岩松ダムや上士幌町元小屋ダムといった山間部の湖沼や河川に飛来することもあります。


ホオジロガモのメス
2008年1月 北海道中川郡幕別町
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ホオジロガモのオス若鳥
2010年12月 北海道広尾郡広尾町
メスに似るが、嘴が黒い、胸周辺が白っぽい、虹彩の金色が成鳥より暗いなどの特徴から、オスの若鳥と思われる。
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 十勝川ワシクルーズでは毎回数百羽の群れが乱舞し、参加者の歓声を集めていました。群れがボートの上空を通過する時、「ヒュルルル…」という口笛のような高音に包まれますが、これは声ではなく翼が空を切る音で、英語ではwhistle(口笛)と呼ばれるものです。ホオジロガモは越冬中ほとんど鳴きませんが、ディスプレイの時にはオスが「ギッ、ギィー」と聞こえる声をさかんに発します。メスも飛翔時に「ギャギャギャ」と聞こえる弱い声を出すことがあります。


群舞するホオジロガモ
2010年12月 北海道十勝川中流域
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 十勝川温泉の白鳥護岸では数羽のオスがハクチョウや他のカモとともに餌付き、特に水面から沈んだ餌を潜水して食べるのを得意としていました(「ホオジロガモ餌付く」「ホオジロガモ餌付く(その2)」の記事も参照)。水深が浅く、水も澄んでいるため、水中での行動も見ることができる貴重な機会でしたが、この冬(2009~10年)は護岸が安全上の理由で立ち入り禁止になり、餌やりの大部分が陸上で行われたため、ほとんど見ることができませんでした。来冬以降はどうなるでしょうか?
 ホオジロガモの観察で面白いものの一つにディスプレイがあります。1~3月くらいに数羽のオスがメスを取り囲んで、上述のような声を発しながら、頭を後ろに大きく反り返らせます。これはヘッドスローと呼ばれるディスプレイで、カモたちは必死なのでしょうが、傍から見ているとコミカルな感じがします。


ディスプレイに興じるホオジロガモ
2008年1月 北海道広尾郡広尾町
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②キタホオジロガモ
 アイスランドからアラスカにかけて、ホオジロガモよりも北で繁殖し、冬も繁殖地周辺にとどまり、あまり長距離の移動はしないといわれています。ホオジロガモによく似ていますが、額が大きく盛り上がった、独特の頭の形をしており、オスでは頬の白斑が三日月型をしているなどの違いがあります。
 日本ではこれまでに道内の根室市や上磯町、岩手県宮古市から観察記録がありますが、岩手県の記録以外は写真も無いようで、「日本鳥類目録第6版」にも掲載されていません。十勝では1984年の3または4月に広尾町の音調津漁港でメス1羽が観察・撮影されているそうですが、撮影者は既に亡くなられており、写真の所在も不明なため、不確実な記録と言わざるを得ません。多数のホオジロガモが渡来する十勝ですから、今後記録される可能性は十分にあると思います。冬の漁港や川べりで夢を見るのも、また楽しいものでしょう。

③ヒメハジロ
 この仲間では一番小さなカモです。オスは一見白黒のようですが、頭部の構造色は実に美しく、緑に紫にその色を変えながら輝きます。
 本来は北アメリカに分布するカモで、日本では1~数羽が年によって見られる程度の迷鳥です。北海道や東北など北日本での記録が大半ですが、昨冬(2009年)は兵庫県にも飛来して話題となりました。本来の生息地では内陸の湖沼や河川にも生息するようですが、日本での記録の多くは漁港や海上、海岸近くの湖沼からです。


ヒメハジロ(オス:右)とホオジロガモ(オス)
2009年2月 北海道根室市
オスの構造色の美しさは秀逸だが、残念ながら逆光のため白黒に見える。
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ヒメハジロ(メスまたは幼鳥)
2009年2月 北海道中川郡豊頃町
顔の白斑が大きい、胸が白っぽいなどからオス幼鳥の可能性があるが、滞在期間も短く、結論は出なかった。
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 十勝では1989年1月の初記録以来、豊頃町の大津漁港や十勝川河口、大樹町生花苗沼で少なくとも5例の記録があります。生花苗沼での雌雄の記録をのぞくとすべて単独での飛来で、滞在期間も短いものが多いですが、昨年11月23日に十勝川河口で観察されたオスはそのまま冬を越し、3月19日現在まだ観察されています(注:2009~10年にかけての情報)。道東ではほかに新釧路川、厚岸湖、風蓮湖周辺や根室半島などから記録があります。
 北海道ではホオジロガモと一緒にいることが多く、昨冬は根室半島で、今冬は十勝川河口で単独のオスが、ホオジロガモのメスに対して果敢にディスプレイしている姿を観察しました。哀しいかな、ホオジロガモにはまったく相手にされていませんでした。


ホオジロガモ(オス)の飛び立ち
2010年12月 北海道中川郡幕別町
川霧の濃かった寒い朝、1羽のオスが川面から飛び立つ。多くの潜水採餌ガモと同様、助走を伴う。
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(2010年4月15日   千嶋 淳)


海ガモ類の魅惑

2011-01-15 17:26:27 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
(シノリガモ・オスの正面顔 2008年2月 北海道幌泉郡えりも町)


日本野鳥の会十勝・会報「十勝野鳥だより173号」(2011年1月発行)より転載 一部を加筆・修正)


 陸域が氷雪に閉ざされ、鳥の姿が寂しくなる冬も、海は賑わっています。漁港の番人(?)カモメ類や沖合のウミスズメ類も魅力的ですが、冬の北の海を代表する鳥の一つに海ガモの仲間があります。何種類もの海ガモ類を、種によっては漁港内で間近に観察できるのは、国内でも北海道や東北北部等北日本の一部だけでしょう。そんな海ガモ類の魅力を今回の特集で紹介できたらと思いますが、そもそも「海ガモ」とは何でしょうか?

 実は明確な定義というものはありません。マガモやコガモの群れが、波の荒い外海で観察されることもあれば、クロガモやウミアイサが内陸部の河川に飛来することもあります。シノリガモに至っては、繁殖期は渓流、それ以外の時期は海上で過ごします。一般にカモ類はマガモ属やオシドリ等の水面採餌ガモと、ホシハジロやビロードキンクロ等の潜水採餌ガモに大別されます(この区分ももちろん厳格ではなく、マガモやヒドリガモが潜水採餌することもあれば、スズガモやホオジロガモが水面採餌しているのを観察したこともあります)。潜水採餌ガモのうち、主に広い湖沼や河口、内湾等にいる種類をBay Duck、波の荒い外海に生息する種をSea Duckと呼ぶことがあり、ハジロ類やホオジロガモの仲間は前者、クロガモやケワタガモの仲間は後者になります。Sea Duckにホオジロガモやヒメハジロを加えたものを、便宜的に「海ガモ類」と呼ぶことが多いです。これはちょうどアイサ族(*注1)と一致します。本特集では、このアイサ族から主に淡水で見られるミコアイサ、カワアイサを除き、冬は漁港に多いスズガモ、オオホシハジロ等を加えたものを「海ガモ類」と呼ぶことにします。


クロガモの雌雄
2011年1月 北海道広尾郡広尾町
メス(左)にオスがディスプレイを仕掛けている。
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 アイサ族の一般的な特徴としては、よく潜水し、そのため脚が体の後方に位置すること、潜水の際に翼を使うものが多いこと、主として北半球に分布していること等があります。体がずんぐりしていることや脚が後方にあることはハジロガモ族と同じで、いずれも潜水に対する適応ですが、両者の系統はそれほど近縁でなく、収斂(しゅうれん)進化(*注2)による類似と考えられています。


漁港の斜路に上陸したシノリガモ

2007年12月 北海道広尾郡広尾町
水面採餌ガモ(陸ガモ)類に比べて、脚が後方に位置する。
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 それでは、海ガモ類はいつ、どこに行けば見られるでしょうか?シノリガモは道内でも繁殖し、繁殖に参加しないスズガモやクロガモは越夏もしますが、種、個体数とも多くなるのはやはり冬(12~3月)です。海であれば大抵の場所で数種類を観察できますが、入門編としてお薦めするのは漁港です。漁港での観察の魅力は、何といっても鳥との近さです。岸壁に車を止めてじっとしていれば、すぐ目の前で見られることも珍しくありません。外洋と比べて波の影響も受けにくいので、まずは漁港で種類や雌雄、年齢、個体による差や行動をじっくり観察すると良いでしょう。慣れてきたら海岸や岬で、海上にいる鳥にも目を向けてみましょう。距離が遠く望遠鏡も必要ですし、防寒も厳重にしなければなりませんが、冬の北太平洋の荒波が砕け散る磯で、繰り返し潜水して餌を捕る海ガモの姿は、港内で見るのとはまた違った趣があります。珍鳥と出会う確率も、こちらの方が高いでしょう。
 観察の際は、淡水ガモ同様、餌の捕り方や求愛行動にも目を向けると楽しみが広がります。海ガモ類は潜水して餌を捕えるので、その瞬間は観察できませんが、大きな獲物は水面へ運んでから食べます。また、潜り方や餌を捕る場所は種によって違う場合もあります。求愛のためのディスプレイは儀式化が進んだものが多く、種によっても異なるので、こちらも見ていて飽きることがありません。厳寒の最中、求愛に勤しむ彼らの姿を見ながら、繁殖地の遠い極北を夢想してみるのも楽しい一時です。


コオリガモ・オスのディスプレイ
2009年3月 北海道厚岸郡浜中町
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ディスプレイするウミアイサ
2007年4月 北海道中川郡豊頃町
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 関東地方の内陸部で育った私にとって、図鑑で見る種々の海ガモ類は目に鮮やかで、それらに憧れて千葉や新潟の海へ赴いたこともありましたが、遠くの海上に少数が浮き沈みしている程度でした。多くの種類を手に取るように観察できる冬の北海道は、実に恵まれていると思います。海岸に出かけてみませんか?
 最後に、十勝で海ガモ類を観察しやすい場所をいくつか挙げておきます。①広尾町十勝港と黄金道路:「冬の十勝港~黄金道路(前半)」 「同(後半)」の記事も参照。②豊頃町大津周辺:大津漁港と十勝川河口、周辺海上で見られる。河口の氷上にゴマフアザラシが上陸することも。③浦幌町昆布刈石~厚内:海上にカモ類多く、アビ類やウミスズメ類も見られる。厚内漁港では近距離で観察可能。

*注1 族 Tribe:分類学上の属と亜科の間に置かれる単位。鳥ではあまり使われないが、カモ科ではガン亜科にフエフキガモ族とガン族、カモ亜科にツクシガモ族、マガモ族、ハジロガモ族、バリケン族、アイサ族、オタテガモ族の計8族が設けられている。互いに近縁のいくつかの属で、一つの族が形成される。
*注2 収斂進化:複数の異なるグループの生物が、同様の生態的地位において、系統と無関係に似通った形態を示すように進化する現象。例えば虫の翅と鳥・コウモリの翼。


クロガモ小群の飛翔
2009年11月 北海道苫小牧沖
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(2011年1月4日   千嶋 淳)