鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

トビのいない町

2008-02-24 12:19:28 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
トビ 2008年2月 北海道中川郡幕別町)


 今月の頭、所用で2日ほどオホーツク海に面したある町に出かけた。移動中久しぶりに目にしたオホーツク海を埋め尽くす流氷も印象的だったが、私にとって更に印象的だったのは、トビをまったく見かけなかったことであった。2日間という短い期間とはいえ、海岸や河川沿いの平地、丘陵地など、いかにもトビが好みそうな環境を巡り、オオワシやオジロワシは少なからぬ数見たにも関わらず、トビには出会わなかった。

流氷原
2008年2月 北海道北見市常呂町
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 以前、道北出身の友人から「道北ではトビは夏鳥」と聞いたのを思い出した。気になっていくつかの文献を調べると、道北だけでなく内陸部でも冬に一時的にいなくなる地方があること、またサハリンや南千島などでは季節的に漂行してくる鳥であることなどがわかった。そういえば、晩秋の根室地方で百羽以上のトビが、恰も渡ってゆくかのように上昇しながら西方へ飛んでゆくのを観察したことがある。十勝でも、きちんと数えているわけではないが、秋から冬にかけて、特に海岸部で数が増えるような気がする。北海道で標識されたトビが、本州で再確認された事例もある。もしかしたら今回訪れた町は、冬にトビが渡去してしまうエリアなのかもしれない。
 「所変われば品変わる」とは、よく大きく離れた地域間の違いに用いられる言葉であるが、僅か200㎞ちょっと離れた道内でも、こうした違いがあるのだから面白い。来月頭に同じ町を再訪することになっている。はたしてトビは戻って来ているだろうか、それともまだ不在のままだろうか。


トビ
2008年2月 北海道中川郡幕別町
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河口のトビ
2007年11月 北海道中川郡豊頃町
弱ったサケでも打ち上がるのか、この日の河口にはトビもカラスもカモメ類も多かった。
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(2008年2月24日   千嶋 淳)


潜り方

2008-02-23 21:26:27 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
潜水するビロードキンクロのオス 2008年2月 北海道幌泉郡えりも町)


 冬の北の水辺には、潜水の名手が多い。海岸や漁港では海ガモ類をはじめ、アビ類やウミスズメ類など、また内陸でも不凍水域があればホオジロガモやアイサ類、カイツブリなどを見ることができる。彼らはいずれも水中や水底といった他種が利用できない空間に巧みに進出し、そこで魚類や貝類を捕えるのに特化したグループであるが、その潜り方に着目すると、主に水面下での推進の方法と関連して幾つかのパターンのあることがわかる。
 まず、もっとも基本的なのは翼を閉じたまま跳躍して、頭から水中に飛び込むものである。この仲間の水面下における推進力は脚だ。最初の推進力を得るために、跳躍はしばしば放物線を描く。アビ類、カイツブリ類、ウ類、オオバンやスズガモ属やアイサ属、クロガモなど多くの潜水ガモ類がこれに属する。


シロエリオオハム(冬羽)
2006年3月 北海道厚岸郡浜中町
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ヒメウ
2007年12月 北海道幌泉郡えりも町
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スズガモ(上:メス、下:オス)
2007年12月 北海道広尾郡広尾町

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 次いで翼を半開きにしてそのまま潜水するもの。このグループの水面下での推進力は翼によって得られており、まさに水中を飛ぶという表現がふさわしい。脚は用いないため、潜水の時点で体後方に向けられている。ウミガラスやウミスズメなどのウミスズメ科が代表選手だが、コオリガモもこれに近い潜り方をする。


海上を飛翔するウミスズメ
2006年11月 八戸~苫小牧航路
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コオリガモ(オス)
2007年4月 北海道根室市
顔が白く、長いはずの中央尾羽も短いことから、若鳥か?
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コオリガモ(オス)の潜水の瞬間
2007年2月 北海道根室市
英名Long-tailed Duckの由来となった、長い中央尾羽は、対の右側が短い。事故か何かで抜けたのだろうか?
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 三つ目は前二者の中間ともいえるもので、水中での推進力は翼と脚の両方で、潜水時に翼は軽く開いている。跳躍を伴うことが多いが、その程度は種によりまたケースによりまちまちで、一般に最初のグループほどの勢いは無い。ビロードキンクロやシノリガモがこの仲間で、実見したことは無いがケワタガモの仲間もこれに属するらしい。また、厳密には翼と併せて推進力となる脚が水面下にある点で、コオリガモもこちらに属する(ウミスズメ類は脚を後方に向ける)のだが、跳躍無しで翼を半開きで潜るその方法は、ウミスズメ類により近く見える。マガモやヒドリガモなどの普通は潜水しない淡水ガモ類が、浅い水底の水草などを潜水して食べる場合は、これに近い潜り方をする。おそらく跳躍による第一の方法では、浮力がありすぎてすぐに浮上してしまうので、翼で勢いをつけるのであろう(「ヒドリガモの潜水採餌」「マガモの変則的採餌法」の記事も参照)。


シノリガモ(メス)
2008年2月 北海道幌泉郡えりも町
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 この仲間で面白いのがビロードキンクロ属で、ビロードキンクロとアラナミキンクロはこの方法で潜るのに、クロガモは最初の方法、すなわち翼を開かずに跳躍することによって潜水する。クロガモとビロードキンクロにみられる、環境の好みや習性上の違いは、潜り方の違いと関連しているのかもしれないが、残念ながら詳しいことは現時点ではわからない。また、コリンズのバードガイドでは、これら3種の潜り方の違いが図示されており、軽い跳躍を伴うアラナミに対してビロードは跳躍しないとなっているが、後者でも軽い跳躍を伴うことがあるのは冒頭の写真の通りである。ヨーロッパと日本のビロードキンクロは亜種が異なっており、潜り方の違いが亜種間の差なのか、時と場合によるのかは不明だ。


ビロードキンクロ(オス)
2008年2月 北海道幌泉郡えりも町
ヨーロッパや西アジアの基亜種fuscaは、東アジア産亜種stejnegeriでは赤と黄色の嘴の部分が、黄色である。
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 上記三種が主な潜水法であるが、カイツブリは少々特殊な潜り方をする。目の前にいたカイツブリが、音も無くスッと水中に消えてしまった経験をお持ちの方もあろう。これはカイツブリが、密生した羽毛の間にある空気を排出して、気嚢を空にするだけで潜水できるからである。カイツブリ類は全般にこの方法を行うとされるが、ミミカイツブリやアカエリカイツブリのような中・大型種では、普段の採餌には第一の方法(翼を閉じて勢い良く跳躍)を用いることが多く、人間や外敵の接近などで緊急に潜水する時にこの独特の方法を執るように感じる。また、カワアイサもカイツブリのように静かに水面下に消えてゆくことがあるが、こちらについてはもう少し観察を積むこととしたい。


潜水するカイツブリ
2006年12月 群馬県伊勢崎市
「モグリッチョ」の記事も参照。
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 遠くの波間に浮き沈みする海鳥の、潜る瞬間をじっくり観察するのは難しいが、鳥との距離が近く、波も穏やかな漁港や内水面なら手に取るように見ることができる。時には水中での行動も見える場合がある。冬の水鳥観察のオプションとして、是非お勧めしたい。


内陸の潜水手たち
2008年2月 北海道中川郡幕別町
頭の赤いのがホシハジロのオス。その右後方がクビワキンクロ・オス。他はキンクロハジロ
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(2008年2月23日   千嶋 淳)


裏の顔?

2008-02-21 20:38:43 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
タンチョウ 2007年2月 北海道広尾郡大樹町)


 タンチョウは、日本人に最も愛されている鳥の一つではないだろうか。古来から「ツルは千年」というように、おめでたい瑞鳥として親しまれて来た。毎年、正月にはタンチョウが登場する迎春CMを必ず見るし、前の千円札にもこの鳥は描かれていた。純白と黒の体に、頭頂部の赤が織り成す清楚な感じが好まれるのかもしれない。しかし、その気性は、出で立ちから想像されるほど優雅ではなく、むしろ裏腹に激しいものであることは案外知られていない。「イメージを壊すな」と怒られそうだが、そんな気性の激しさを物語る小話を二つ、紹介しよう。
                   *

 秋の日は釣瓶落としというけれどまさにその通りで、ついさっきまで遡上するサケを見ることができた川面は、一部が夕焼けの名残を反射して仄かに赤い以外一面の漆黒である。立冬間近の午後4時40分。吹き下ろす風は肌を刺すように冷たく、すぐそこまで来ている次の季節の存在を、有無を言わさず突き付けてくる。
 付近の畑での採餌を終えたタンチョウのつがいが、低空を飛んで帰って来た。岸近くの浅瀬に降り立ったつがいは、そのまま歩いて川の真ん中あたりを目指す。そのあたりの浅瀬では、既に5羽のオオハクチョウ(おそらく両親と3羽の幼鳥から成る家族群)が休んでおり、タンチョウもそこを目指しているようだった。


浅瀬で塒をとるオオハクチョウに接近するタンチョウ
2007年11月 北海道十勝川中流域
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 「大型水鳥が塒として好む場所は一緒なんだなぁ」と感心して眺めていたが、じりじりとハクチョウへの距離を詰めたタンチョウは、翼を広げて威嚇し、ハクチョウを攻撃し始めた。体の大きさでも数の上でもハクチョウが有利なはずなのだが、突然の攻撃に面くらい、かつタンチョウの剣幕に押されたのだろう。首を伸ばして応戦してみるも少しずつ、しかし確実に後退を余儀なくされ、結局流れのある深みに追い出されてしまった。


オオハクチョウを攻撃するタンチョウ
2007年11月 北海道十勝川中流域
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 これで終わりではなかった。タンチョウは踊り始めた。この踊りは、縄張り内に侵入してきた他の家族や若鳥と喧嘩して、勝利した時に見示すような、喜びの舞である。2羽のタンチョウは、ハクチョウを追い払ったことに満足しているようだった。


喜びの舞を踊るタンチョウと、最後の抵抗を示すオオハクチョウ
2007年11月 北海道十勝川中流域
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 タンチョウが舞っている間に、完全に諦めたのだろう。ハクチョウは夕闇の中に姿を消した。もう一度、初めから今宵の宿を探さなければならない。一方、タンチョウは先刻の闘争など何所吹く風とばかりの穏やかさで、1羽は羽づくろい、もう1羽は足元での軽い採餌と、着実に塒入りの準備を進めている。(11月6日)


就寝直前(タンチョウ
2007年11月 北海道十勝川中流域
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 厳しく冷え込んだ朝。オオワシやオジロワシがサケの死骸を求めて飛来するこの水辺も、半分以上氷に覆われた。それでも、ワシたちは氷の下から引きずり出したサケの、固くシバれた身を、強靭な嘴で引き裂きながら朝の糧としている。
 数羽のワシが集う浅瀬に、タンチョウの姿を認めた。成鳥2羽、幼鳥2羽の家族だ。月頭まで断続的に観察されていたつがいには子供が無かったので、他所から飛来したものと思われる。この寒さで餌が捕れなくなり、流浪するうちにここに辿り着いたのだろう。それにしてもオオワシ、オジロワシにタンチョウとは、何とも贅沢な光景ではないか!こうした光景を日常的に見ることができるのは、世界広しといえど道東の一部くらいではないだろうか。


贅沢な光景(オオワシタンチョウ
2007年12月 北海道十勝川中流域
両種とも分布は極東の狭い地域に限られ、日本を訪れる外国人バードウオッチャーにとっては憧れの的。
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 タンチョウの家族は、しばらく浅瀬で水中に嘴を差し込んで餌を探していたが、2羽の幼鳥と1羽の幼鳥が徐に、近くの中州にいたオジロワシの幼鳥に近付き始めた。オジロワシは徒ならぬ空気を察したのか、数mまで接近した時点で飛び去ってしまった。


オジロワシの幼鳥に近付くタンチョウ
2007年12月 北海道十勝川中流域
この直後にワシは飛び去った。
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 その後、今度は成鳥が先導する形で、少し離れた浅瀬の氷上でサケを食べているオジロワシ成鳥への接近を開始した。じきに3羽はオジロワシのすぐ脇で、ワシを取り囲む形になった。それでも、さすがは成鳥らしく、悠然とサケを食べ続けていた。ところが次の瞬間、成鳥が翼を広げてオジロワシに飛びかかった。飛び蹴りである。不意を衝かれたオジロワシは大慌てで逃げ出したが、タンチョウはなおも追撃の手を緩めず、オジロワシは完全に排斥された。


一連の襲撃(タンチョウオジロワシ
2007年12月 北海道十勝川中流域

成鳥が先導して3羽のタンチョウがオジロワシ・成鳥に接近中。
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3羽のタンチョウがワシを取り囲んだ。
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成鳥のタンチョウがワシを攻撃し、ワシは慌てて逃げ出した。
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逃げるオジロワシをタンチョウがなおも追う。
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 繁殖期でも自分の縄張りでもないのにずいぶん防衛意識の強いタンチョウだなと思っていたが、次の行動を見て、これが防衛目的の攻撃ではないことを理解した。もう1羽の成鳥も加わった4羽は、オジロワシの食べていたサケをつつき始めたのである。トウゾクカモメがミツユビカモメやアジサシを、またオオセグロカモメが他の海鳥類を襲撃して餌を奪うのはよく見るが、タンチョウが家族ぐるみでオジロワシを襲撃するという、スケールの大きな盗賊行為は初めての観察で、少々微笑ましいと同時に厳寒期に食料を確保することの大変さに思いを巡らせた。
 その日の内に、タンチョウの親子は姿を消した。(12月21日)


ワシの残したサケを食べるタンチョウの家族
2007年12月 北海道十勝川中流域
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(2008年2月21日   千嶋 淳)


ベニヒワとカワラヒワ二題

2008-02-16 20:35:56 | 鳥・冬
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All Photos by Chishima,J.
街路樹のナナカマドに飛来したベニヒワのオス 2008年1月 北海道帯広市)


 今冬は例年になくベニヒワが多いが、近縁種のカワラヒワもまた、多い冬のようである。こう書くと、大抵の図鑑には「北海道では夏鳥」、よくてその後に「少数が越冬」くらいしか書いてないから、怪訝に思われるかもしれない。十勝地方の平野部では本種は、10月中旬頃、繁殖していたものが集結するのか、北方からの通過個体も加わるのか、夥しい数の群れが各地で見られた後、一旦は大きく数を減じる。ところがその後、12月から1月くらいにかけて海岸や原野、河川敷等で十数羽からときに100羽を超える大群が見られるようになり、それが早春まで続くこともあれば、積雪等によって姿を消すこともある。いずれにしても、冬鳥と考えられる一群のカワラヒワが存在するのである。これらはベニヒワと違って毎冬渡来するのだが、今年は特にその数が多いように感じている。
 真冬のカワラヒワはやや大型で、特にオスの成鳥では三列風切外弁の白色が顕著な、亜種オオカワラヒワの特徴を示す個体が多い。ただ、捕まえて計測しているわけではないし、メスや若鳥では特徴がいまいち不明瞭なものも多いので、実際にどのくらいの割合がこの亜種なのかはわからない。ちなみに、亜種オオカワラヒワの繁殖地は、「日本鳥類目録 改訂第6版」によれば、カムチャツカから南は少なくともシムシル島までの千島列島ということになっている。北方の個体群(の一部?)が、寒波や積雪に押し出されるまで繁殖地付近にとどまるのは、ありそうなことである。


カワラヒワ(亜種オオカワラヒワ?)のオス
2008年1月 北海道十勝郡浦幌町
ハンノキに飛来した群れのうちの1羽。特徴は本文の通り。
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ベニヒワ
2008年1月 北海道十勝郡浦幌町
同じハンノキに飛来した群れの中の2羽。右側の胸が赤いオスの後方に、カシラダカの姿もある。
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 そのカワラヒワと、ベニヒワとの混群に、今冬は各地で出会う。混群はハンノキ群落に群がってその実を食べたり、雪原に降り立って活発に採餌しているが、雪原での場合をよく観察していると、カワラヒワは専ら地上で採餌しているのに対し、ベニヒワは無論地上でも採餌するが、枯れた草本にぶら下がって、残った実を食べることも多いのに気付いた。ただでさえ餌の乏しい厳寒の候。体重12~15gのベニヒワは、カワラヒワ(17~30g)より身軽なのを生かして、細い草の先まで採餌空間を広げて生き延びているのだろう。それだったらなぜわざわざ、一緒の群れになるのだろう?


カワラヒワベニヒワの混群
2008年1月 北海道十勝郡浦幌町
地上で採餌していた群れが、何かに驚いて付近の木に止まったところ。
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 その答えを示すような事象に、正月明けのある昼下がりに出会った。地上に草上に、忙しない食事の時間を送っていた2種の群れが、突然蜘蛛の子を散らしたように飛び立ち、密集した群れで逃げ惑い始めた。さてはと、少し離れた木から群れを見つめていたコチョウゲンボウに目をやると、まだいる。不思議に思っていたら別の方角からハイタカが1羽、音も無く、地上すれすれを飛んで来た。群れを形成して目を増やすことによって天敵の接近をいち早く察知し、あるいはまた数を増すことによって自らが捕食される可能性を下げているのであろう。


緊張の一瞬
2008年1月 北海道十勝郡浦幌町
本文も参照。

群れが一斉に飛び立った(カワラヒワベニヒワ)。
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高度を上げて旋回中。翼に黄色の帯が目立つのがカワラヒワ、そうでないのがベニヒワ
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ハイタカがやって来た!
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 1月下旬の大雪の直後、市内のナナカマドの街路樹は例年の如く鳥たちの群れで賑わいだした。真冬の街路に紅色の彩りを与えるこの木の実は、よほど美味しくないのか、有毒な成分でも含まれるのか、冬の前期には鳥からほとんど相手にされない。しかし、1月頃になると、食糧事情がいよいよ逼迫するのか、あるいは毒が和らぐのか、非常に多くの鳥が群がって、我先にと夢中で食べるようになる(「ナナカマド食堂の賑わい」の記事も参照)。
 そうした鳥たちの中に、ツグミやヒヨドリ、シメといった常連たちにくわえ、5羽ほどのベニヒワの姿があった。流石は当たり年だなどと感心してみたが、続いて、果たしてベニヒワのように小型で嘴も小さい鳥に、ナナカマドの実を食べることができるのだろうかという疑問が頭を擡げて来た。疑問は現場で解決しよう。


ツグミ
2008年2月 北海道帯広市
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シメ
2008年1月 北海道帯広市
体の後半部が重いせいだろうか、勢いを付けて体を下方に大曲させて実をついばみ取る。
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街路樹に飛来したベニヒワのオス
2008年1月 北海道帯広市
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 そのままじっと観察していると、やや緊張気味だったベニヒワも、警戒を解き始めた。そして、ナナカマドの実がたわわに実った枝先を離れ、太くて傾斜の緩い枝の根元近くにやって来た。ベニヒワはそこを上りながら、樹皮を熱心につつき始めた。なるほど!これらの枝先には大・中型の鳥たちが食い散らかした実の中身や皮が大量に付着しており、ベニヒワはそれを食べていたのである。大型種の糞も付着していたから、そこに含まれる種子も利用可能だったかもしれない。


採食中のベニヒワ・オス
2008年1月 北海道帯広市
枝に付着した他の鳥の食い滓をついばむ。文頭の写真も同様。
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 体の小ささを生かした、独自の冬の凌ぎ方を、カワラヒワとの混群での空間利用の仕方と合わせて感動した翌日、同じ街路にベニヒワの姿は無かったが、付近で今度は1羽のカワラヒワに出会った。
 カワラヒワはツグミやシメと同じく、枝先にぶら下がって、嘴を真っ赤に染めながら、ナナカマドの実を直接捕食していた。体サイズの違いが、ここにも反映されていると考えて良いだろう。カワラヒワを市街地の街路樹で観察したのは、実はこれが初めてであった。おそらく、枝先で実をついばむ採餌法だと、同じ方法を取るシメやキレンジャク、ツグミといったより大型の種とかち合った時に不利であり、それが街路樹にあまり飛来しない要因となっているのではないだろうか。


ナナカマドを食べるカワラヒワ(亜種オオカワラヒワ?)
2008年2月 北海道帯広市
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(2008年2月16日   千嶋 淳)