![1 1](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/25/72/2e1ef0e9ae383a317cc6edcc910cc53e.jpg)
All Photos by Chishima,J.
(シャチのオス成獣 以下すべて 2008年4~7月 北海道羅臼沖)
(日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより」163号(2008年7月発行)より転載 一部に加筆・修正)
③羅臼沖~世界遺産の海で海鳥・海獣三昧
尾岱沼から車で1時間余り北に走ると、そこはもう世界遺産・知床半島だ。冬のワシで有名な羅臼の町からは、根室海峡を隔てて国後島をすぐ眼前に望むことができる。この根室海峡は所によっては2000mを超える水深を有し、深海から浅海への湧昇、流氷に伴う栄養の流入が、類稀に豊かな海を作り出している。その豊かさを象徴するがごとく、季節ごとに色々な鯨類が姿を見せるため、近年ではそれらを対象とした、船によるホエールウオッチングが活性化しつつある。
海上より知床連山、羅臼市街(左下方)を望む
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その船に便乗して海鳥を見に行こうという寸法だ。鯨類の餌となるオキアミや魚類の多い海。当然、海鳥の影も濃い。春から夏の主役は、何と言ってもミズナギドリ類である。4月下旬、遠く南半球はタスマニアでの繁殖を終えたハシボソミズナギドリの群れが到着する。5月下旬から6月上旬にその数は極大に達し、海一面がミズナギドリで埋め尽くされるという。6月後半以降はよく似たハイイロミズナギドリも増えてくる。2種の識別は相当見慣れないと難しいが、この際そんなことはどうでもいい。南半球からはるばる太平洋を縦断してきた海鳥の群れが、目の前で空を切ってダイナミック・ソアリングをしている。それだけで十分感動的ではないか!ハシボソ・ハイイロら南のミズナギドリに対して、北のミズナギドリともいえるフルマカモメもこの海域では多い。日本では珍しい白色型も、ここでは比較的よく目にする。
ハシボソミズナギドリ
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ハイイロミズナギドリ
ハシボソとは翼下面の銀白色だけでなく、下雨覆の軸斑や嘴の長さ、太さ、飛び方などを総合して識別したい。
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フルマカモメ(暗色型)
日本近海ではこのタイプが大部分。
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フルマカモメ(白色型)
アラスカ近海やアリューシャン列島東部に多い白色型だが、羅臼では割とよく見られる。それでも数百羽に1羽程度だ。
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ミズナギドリに次いで多いのがウトウ。知床半島に繁殖地は無いが、対岸の国後島にはコロニーがあるのでそこから来ているのかもしれない。学名の種小名の由来となった「一本角」を是非とも確認したい。数はずっと少なくなるが、ウミガラス、ケイマフリ、ウミスズメなどは夏でも見られ、エトピリカやウミオウムが出たこともある。
ほかにも春にはカモメ類やアジサシ、アビ類、ヒレアシシギ類、夏にはハイイロウミツバメ、コアホウドリ、トウゾクカモメ類等が観察でき、昨年はアホウドリも記録されている。
ウトウ(夏羽)
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ウミスズメ(夏羽)
夏羽では眼後方の白色がかなり顕著になる。
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本来の目的である鯨類はと言うと、こちらも期待を裏切らない。ミンククジラ、イシイルカ、ネズミイルカ等は春先から、夏以降はマッコウクジラやツチクジラも姿を現す。最近ではシャチとの遭遇の頻度が増えてきている。幸運にもシャチの群れと出会えたら、その後の数十分は生涯忘れえぬ至福の一時となるだろう。好奇心旺盛な若者は船を偵察すべく近寄って来て、それを心配した大人たちも付き添って来る。結果船の右、左のあちこちで「ブシュッ」という音に続いてまず噴気、次いで鋭角的な背鰭が水面から現れ、直後に黒白のツートンカラーのボディが相次いで露出する。そのあまりの迫力に半ば放心状態、気が付けばカメラのシャッターを押すのも忘れているかもしれない。もっとも、そんな幸せの絶頂の最中に、船頭から突然「これ以上は行けない」と告げられることがある。そう、ここは紛れもない「国境の海」。日ロ中間ラインを超えることは決して許されないのだ。もちろんクジラたちは、そんなラインなどお構いなしに自由に往来している。それに比べて人間達のさもしいことよ…。
知床半島を背景に、噴気とともに浮上するマッコウクジラ
![9 9](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/28/8e/1974df608e7d13fc6e56babdb884cde4.jpg)
シャチの小群
![10 10](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/09/2a3024f41d8622f460504264ab525ea1.jpg)
満ち足りた気分で船を降りた後は、元気があるならギンザンマシコやクロジとの出会いを期待して知床峠まで足を伸ばしてみる手もあるし、旅の楽しみである温泉や食事に走るもまた良い。羅臼で海の幸と言うとホッケやウニが有名だが、地物のハモの蒲焼、天麩羅の丼やツブカレーを食べさせる店もあり、それらもまたお薦めである。
霧中を流れる川(ハシボソミズナギドリ)
道東地方特有の濃霧に覆われた海上を、ハシボソミズナギドリの大群が切れ間無く、それこそ川のように流れていた。
![11 11](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/16/7f/e9382d6fcd9f638682cbebd9211f7683.jpg)
<参考>
観光クルーズ はまなす http://www.rausu-cruise.com/
知床ネイチャークルーズ http://www.e-shiretoko.com/index.htm
ほか何社かある。
*夏の道東で船に乗る(後半)に使用した写真は、NPO法人北の海の動物センター主催の知床海洋調査で撮影したものである。
(2008年7月3日 千嶋 淳)