鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

夏の道東で船に乗る~定期観光船からの海鳥・海獣ウオッチングのすすめ(後半)

2008-07-23 14:58:36 | ゼニガタアザラシ・海獣
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All Photos by Chishima,J.
シャチのオス成獣 以下すべて 2008年4~7月 北海道羅臼沖)

(日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより」163号(2008年7月発行)より転載 一部に加筆・修正)

③羅臼沖~世界遺産の海で海鳥・海獣三昧
 尾岱沼から車で1時間余り北に走ると、そこはもう世界遺産・知床半島だ。冬のワシで有名な羅臼の町からは、根室海峡を隔てて国後島をすぐ眼前に望むことができる。この根室海峡は所によっては2000mを超える水深を有し、深海から浅海への湧昇、流氷に伴う栄養の流入が、類稀に豊かな海を作り出している。その豊かさを象徴するがごとく、季節ごとに色々な鯨類が姿を見せるため、近年ではそれらを対象とした、船によるホエールウオッチングが活性化しつつある。


海上より知床連山、羅臼市街(左下方)を望む
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 その船に便乗して海鳥を見に行こうという寸法だ。鯨類の餌となるオキアミや魚類の多い海。当然、海鳥の影も濃い。春から夏の主役は、何と言ってもミズナギドリ類である。4月下旬、遠く南半球はタスマニアでの繁殖を終えたハシボソミズナギドリの群れが到着する。5月下旬から6月上旬にその数は極大に達し、海一面がミズナギドリで埋め尽くされるという。6月後半以降はよく似たハイイロミズナギドリも増えてくる。2種の識別は相当見慣れないと難しいが、この際そんなことはどうでもいい。南半球からはるばる太平洋を縦断してきた海鳥の群れが、目の前で空を切ってダイナミック・ソアリングをしている。それだけで十分感動的ではないか!ハシボソ・ハイイロら南のミズナギドリに対して、北のミズナギドリともいえるフルマカモメもこの海域では多い。日本では珍しい白色型も、ここでは比較的よく目にする。


ハシボソミズナギドリ
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ハイイロミズナギドリ
ハシボソとは翼下面の銀白色だけでなく、下雨覆の軸斑や嘴の長さ、太さ、飛び方などを総合して識別したい。
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フルマカモメ(暗色型)
日本近海ではこのタイプが大部分。
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フルマカモメ(白色型)
アラスカ近海やアリューシャン列島東部に多い白色型だが、羅臼では割とよく見られる。それでも数百羽に1羽程度だ。
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 ミズナギドリに次いで多いのがウトウ。知床半島に繁殖地は無いが、対岸の国後島にはコロニーがあるのでそこから来ているのかもしれない。学名の種小名の由来となった「一本角」を是非とも確認したい。数はずっと少なくなるが、ウミガラス、ケイマフリ、ウミスズメなどは夏でも見られ、エトピリカやウミオウムが出たこともある。
 ほかにも春にはカモメ類やアジサシ、アビ類、ヒレアシシギ類、夏にはハイイロウミツバメ、コアホウドリ、トウゾクカモメ類等が観察でき、昨年はアホウドリも記録されている。


ウトウ(夏羽)
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ウミスズメ(夏羽)
夏羽では眼後方の白色がかなり顕著になる。
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 本来の目的である鯨類はと言うと、こちらも期待を裏切らない。ミンククジラ、イシイルカ、ネズミイルカ等は春先から、夏以降はマッコウクジラやツチクジラも姿を現す。最近ではシャチとの遭遇の頻度が増えてきている。幸運にもシャチの群れと出会えたら、その後の数十分は生涯忘れえぬ至福の一時となるだろう。好奇心旺盛な若者は船を偵察すべく近寄って来て、それを心配した大人たちも付き添って来る。結果船の右、左のあちこちで「ブシュッ」という音に続いてまず噴気、次いで鋭角的な背鰭が水面から現れ、直後に黒白のツートンカラーのボディが相次いで露出する。そのあまりの迫力に半ば放心状態、気が付けばカメラのシャッターを押すのも忘れているかもしれない。もっとも、そんな幸せの絶頂の最中に、船頭から突然「これ以上は行けない」と告げられることがある。そう、ここは紛れもない「国境の海」。日ロ中間ラインを超えることは決して許されないのだ。もちろんクジラたちは、そんなラインなどお構いなしに自由に往来している。それに比べて人間達のさもしいことよ…。


知床半島を背景に、噴気とともに浮上するマッコウクジラ
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シャチの小群
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 満ち足りた気分で船を降りた後は、元気があるならギンザンマシコやクロジとの出会いを期待して知床峠まで足を伸ばしてみる手もあるし、旅の楽しみである温泉や食事に走るもまた良い。羅臼で海の幸と言うとホッケやウニが有名だが、地物のハモの蒲焼、天麩羅の丼やツブカレーを食べさせる店もあり、それらもまたお薦めである。


霧中を流れる川(ハシボソミズナギドリ
道東地方特有の濃霧に覆われた海上を、ハシボソミズナギドリの大群が切れ間無く、それこそ川のように流れていた。
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<参考>
観光クルーズ はまなす http://www.rausu-cruise.com/
知床ネイチャークルーズ http://www.e-shiretoko.com/index.htm
ほか何社かある。


*夏の道東で船に乗る(後半)に使用した写真は、NPO法人北の海の動物センター主催の知床海洋調査で撮影したものである。


(2008年7月3日   千嶋 淳)


夏の道東で船に乗る~定期観光船からの海鳥・海獣ウオッチングのすすめ(前半)

2008-07-18 16:23:48 | ゼニガタアザラシ・海獣
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All Photos by Chishima,J.
ゼニガタアザラシ 2006年5月 北海道東部)

(日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより」163号(2008年7月発行)より転載 一部に加筆・修正)

 岬や島嶼を欠き、内海的な性質を示す十勝の海岸では、外洋性の海鳥や鯨類に出会う機会はそう多くない。沖合に出ればそれなりにいることは、釧路~東京航路での観察からも明白なものの、同航路が無くなってしまった現在、それを見る手だては無い。そこで、手っ取り早く海鳥を見るには、本州や離島との連絡フェリーを利用することになるのだが、そうした機会は頻繁にあるものではないし、また大型フェリーだと鳥との距離が遠くなるという欠点もある。今回は夏の旅行プランの一助にでもなればと思い、少し十勝を離れて道東で中・小型の定期観光船に乗って海鳥や海獣を堪能するコースを紹介する。
①大黒島~磯舟でゼニガタアザラシや海鳥を求めて
 帯広から車で東に3時間。カキやサンマで知られる厚岸の沖に浮かぶ無人島・大黒島の名前は、コシジロウミツバメやゼニガタアザラシの繁殖地として一度は耳にされた方も多いだろう。同島は現在、国の天然記念物に指定され、一般の上陸は厳しく規制されている。しかし、この島に近付いて、岩礁に集団で上陸するゼニガタアザラシを観察しようというツアーを、「厚岸味覚ターミナル・コンキリエ」が行っている。
 ツアーは港を出て、厚岸湾の海岸線を眺めながら大黒島に接近、ゼニガタアザラシの上陸場を観察して戻る2時間のコース。船は昆布漁に用いられる小型の磯舟で、舳先に波飛沫を受けながら海上を颯爽と跳ねてゆくそれ自体が非日常的で楽しい。メインターゲットはゼニガタアザラシであるが、島周辺の海上ではオオセグロカモメやウミウ、ウトウ、運が良ければケイマフリやエトピリカを見ることができる。コシジロウミツバメは数十万から百万というコロニーの規模に反して、昼間の島周辺にはほとんどいない(日没後、一斉に帰島する)。


岩礁上で憩うゼニガタアザラシ
2008年6月 北海道東部
推定16歳以上のオス(斑紋による個体識別から)。腹の下方に陰茎口が見えているほか、頸部も太い。
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オオセグロカモメ(成鳥夏羽)
2008年6月 北海道東部
陽光の気持ち良さに、繁殖中で多忙な成鳥も思わず微睡む。
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ケイマフリ(夏羽)
2008年6月 北海道東部
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 大黒島は外海にあるため、ちょっとでも波があると船を出すのが困難になり、残念ながら催行率は低い。「行けたらラッキー!」くらいの気持ちで臨もう。船が出なかった時は厚岸の海産物に舌鼓を打つも良し、そのまま霧多布や根室まで遠征するのも良いだろう。厚岸湖周辺に何本も走る林道では、コマドリやルリビタキ、クマゲラ、エゾライチョウ等が観察できる。また、ツアーは3日前までに予約が必要である。


黄昏に染まる大黒島
2007年8月 北海道厚岸郡厚岸町
夏の夕暮れ、厚岸湾より大黒島(中央)、尻羽岬(奥)を望む。昼と夜の間の、一瞬の穏やかな時間。
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<参考>
厚岸味覚ターミナル・コンキリエの体験ツアー http://www.conchiglie.net/tour02.cgi


②野付湾~ゴマフアザラシと野付半島の鳥
 風光明媚な観光地として名高い野付半島の付け根近く、別海町の尾岱沼から半島のトドワラまで定期観光船が出ている。以前は毎日数便が出ていたのだが、最近ではシーズン中(5~10月中旬)の日曜日に一便のみ運行しているようだ。
 船が出る尾岱沼漁港は魚市場の屋根でオオセグロカモメが営巣している、そんな場所だ。港を出て30分余りでトドワラに到着する途中、ゴマフアザラシの上陸場となっている砂州に接近する。ゴマフアザラシというと、流氷上で「ゴマちゃん」のような白い赤ちゃんを産むイメージが強いが、流氷上での繁殖が終わった夏から秋にかけては沿岸の砂州や岩礁に集団で上陸する。かつての北海道には各地にこのような場所があったらしいが、狩猟や海岸線の開発によって激減し、現在では野付湾をはじめ数か所だけになってしまった。アザラシは船の接近に慣れていてあまり逃げないので、思いのほか近距離で観察できる。内湾ゆえ海鳥は少ないが、下船先の野付半島はアカアシシギやタンチョウの繁殖地であり、草原性の小鳥も多い。7月下旬になると早くも戻りのシギ・チドリ類が姿を見せ、8月以降は種・個体数とも増加する。また、野付湾はコクガンの中継・越冬地としても知られており、10月には船上からもその姿が見られる。

ゴマフアザラシ
2006年7月 北海道野付郡別海町
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ゴマフアザラシ上陸場・遠景
2006年10月 北海道野付郡別海町
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アカアシシギ
2007年6月 北海道野付郡別海町
遠くの湿地で賑やかに鳴き交わしていた2羽は、直後交尾した。
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コヨシキリ
2007年6月 北海道野付郡別海町
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 アザラシ上陸場の砂州は、満潮時には水没してしまうため、折角なら観光船の運航時刻と干潮が重なる時期に訪れたい。下船後は港周辺の土産物屋や漁港の直売店で、目の前の湾から水揚げされるホッカイシマエビやホタテを購入したり、すぐ近くの「野付温泉 浜の湯」で汗と塩気を洗い流すのも魅力的だ。


トドワラ界隈2点
北海道野付郡別海町

2006年7月
かつての森林が地盤沈下などにより立ち枯れ、荒涼とした景観を醸し出す。
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2007年6月
干潟をキタキツネタンチョウが歩き、遠く観光船の発着する桟橋へ続く木道を望む。
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<参考>
別海町観光船 http://www.aurens.or.jp/~kankousen/kankousen.html


(後半へ続く)


(2008年7月3日   千嶋 淳)


働き者

2008-07-16 16:18:23 | 鳥・夏
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All Photos by Chishima,J.
コムクドリのオス 以下コムクドリはすべて 2008年7月 北海道帯広市)


 午後二時。北国らしからぬ暑さに包まれた市街地の小さな川では、昼頃まで囀っていたエゾセンニュウやノゴマもすっかり鳴りをひそめ、じっとこの酷暑に耐えているものとみえる。鳥や虫の姿を求めてほっつき歩いていた私もすっかり暑さにやられ、汗を拭おうと堤防の斜面に腰を下ろした。つい先頃巣立ったばかりらしいスズメの幼鳥が、時折付近のヤナギやオオイタドリの中から河原に向かって真直ぐに飛んで来て、水浴びや飲水を手早く済ませるとまた植生の中に戻って行く。
 「キュル、キュキュッ!」。倦怠に満ちた静寂を突き破って、一羽の鳥が弾丸のように飛んで来てヤナギの頂に止まった。白色の頭部に赤褐色の頬、それに翼のメタリックが美しいコムクドリのオスだ。口には数匹の昆虫‐ガガンボの類だろうか‐を銜えている。と、今までオオイタドリの葉の上にちょこなんと座していた、まだあどけない顔をした同じくコムクドリの幼鳥が大きな口を開けて、甘ったれた声で給餌をせびり始めた。オスはヤナギを離れてイタドリの裏側から姿を現し、雛の要求に応える。そして息をつく暇も無く、現れた時と同様、弾丸のような飛翔で姿を消した。


給餌(コムクドリ
餌を持って現れたオス(背後)に、幼鳥が大口を開けてそれをねだる。
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ガガンボの仲間(ホソガガンボ属の一種
2008年6月 北海道帯広市
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 数分後、今度は全身灰褐色のメスが、やはり口に虫を銜えて飛来した。今度の獲物は黒光りする堅そうな外骨格を持っていることから察すると、甲虫の一種のようである。それを慌ただしく雛の口に放り込むと、また虫探しの旅に出た。


餌くわえ2点(コムクドリ

メス。餌はガガンボ類?
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オス。こちらは甲虫類だろうか?
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コウチュウの仲間(ヒメコガネ・藍色型)
2007年7月 北海道帯広市
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 こちらも暑いものでしばらく腰を下ろして観察していたが、コムクドリの両親は2、3分に一回という高頻度で幼鳥に虫を運び続けていた。周辺に他の幼鳥は見当たらず、巣立ちまでこぎつけたのは1羽だけと思われた。3~7という本種のクラッチ(一腹卵数)を考えるとずいぶん少ない数である。この家族には一体どんな試練が降りかかったのだろうか。それを乗り越え、無事樹洞を出た一羽を慈しむかのように、2羽の親鳥はせっせと餌を運び続けている。
 観察を始めてから何回目の給餌だろう。雛への受け渡しを終えたメスが、珍しく背後のイタドリの茎に止まって一休みする素振りを見せた。さすがにこの炎天下で虫を探し、それを雛に運び続けるのは重労働なのだろう。だが、休息と見せかけたのも束の間、鋭く一声発すると川上へ飛び去った。この幼鳥が働き者の両親からの給餌を必要としなくなる頃には、盛夏の中に秋の気配が漂い始めることだろう。そう思うと昼下がりの淀んだ熱気に時々割り込む風が、不思議と涼しく感じられた。


束の間の一休み(コムクドリ・メス)
オオイタドリ群落のすぐ後ろ、堤防の上を車が走る。本州では山地の鳥だが、北海道では市街地近郊でも普通。
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コムクドリ・幼鳥
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(2008年7月16日   千嶋 淳)


呆れて物も…

2008-07-07 01:28:29 | ゼニガタアザラシ・海獣
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All Photos by Chishima,J.
ゼニガタアザラシ:通称‘コロちゃん’ 2007年3月 北海道中川郡豊頃町)


 このアザラシについては、もう書くことも無いかと思っていたのだが、残念ながら書かねばならない事態に遭遇してしまった。洞爺湖サミットを目前に控えて道内の各地で関連イベントが盛んであるが、十勝でも例外ではなく、今日は環境系のシンポジウムが市内であり、折角の機会なので聞きに行って来た。
 会場に隣接した建物では、シンポジウムと同じ団体主催による公募写真展も開かれており、少々早く着いたこともあって覗いてみた。写真展は市民からの公募によるもので、風景や動物等の写真を微笑ましく眺めていたが、1枚の写真の前で思わず固まってしまった。それは、「シリーズ「共生」より ジャレ合う」というタイトルで、砂浜に寝転がった子供に件のアザラシ( 「危険!」「剥離」「豊頃町へのメール」などの記事を参照)が口を開きながら乗りかかっているものだった。撮った人間は、ヒトとアザラシが触れ合っていることをもって「共生」と考えているようだが、こんなのは一歩間違えたら大事故につながりかねない、危険極まりない行為であるし、そもそも野生動物との付き合い方として間違っている。「共生」でも何でもない。
 シンポジウムの時間が迫っていたので一旦は会場を後にしたが、心の中のもやもやは晴れず、終了後再度展示会場に赴き、何人かいたスタッフに声をかけ、写真の行為が持つ危険性と、「豊かな十勝の自然」を謳い文句にしている写真展であのような写真を掲示するのはいかがなものかと説明した。彼らは最初狐につままれたようにキョトンとしていたが、私がしつこく食い下がると今度は「この写真展は公募なので、撮影者がどのような意図で写真を撮ったかは、事務局側には把握しかねる」と、逆ギレとも開き直りとも思える言動を始めた。これには正直呆れた。「では、例えば野鳥の営巣写真のように、明らかに動物にプレッシャーを与えていることが明らかな写真でも、公募だったら掲載するのか?アザラシの写真は、それと同じレベルかそれ以下のものだ。」と言ったが、先ほどと同様の開き直りに徹している。正直な気持ちとしては「表に出ろ!」という感じだったが、私の言動が熱を帯びてきたことを心配した家人に促され、とりあえず主催者側の会議に伝えていただくという約束を取り付けて、その場を引き上げた。


ゼニガタアザラシ
2007年4月 北海道中川郡豊頃町
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 ちなみに、写真展にはヒマワリの種に餌付けされたシマリスの写真もあった。市民が環境問題を考えるために集うという趣旨には大いに賛同するし、大掛かりな写真展と言う形でそれを行動に移しているという点も大いに評価できるが、あのような「自然に優しくない」写真を見抜くことができないで、公共の場所で展示してしまったのは真に残念と言うよりないだろう。写真は視覚的に訴えかける力も強いが、それがまた魔物でもある。インパクトのある写真を見たら、「自分もああいうのを撮りたい」と思うのが人の常である。あのアザラシの写真を見て「自分も…」と思う人が出ないこと、それを実行に移して事故が起きないこと、そしてそのためにアザラシが駆除されるような事態にならないことを、切に願う。


換毛後(ゼニガタアザラシ
2007年7月 北海道中川郡豊頃町
換毛直後のため、乾いても黒くて艶がある。前の写真はこの3カ月ほど前で、毛は摩耗して茶色っぽく見える。
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釣り人と共に(ゼニガタアザラシ
2007年12月 北海道中川郡豊頃町
このように近くにいても不用意な干渉をしなければ、諍いは起きない。
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(2008年7月6日   千嶋 淳)


Cackling Gooseについて

2008-07-03 21:04:13 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
シジュウカラガン(周囲はマガン 2006年4月 北海道十勝川下流域)


 一つ前の記事中で「Cackling Goose」について写真キャプションで簡単に解説したが、日本ではまだ馴染みが薄いと思われるので、もう少し紹介しておく。
 従来のカナダガンは主に地理的な分布と形態から、絶滅したasiaticaも含め12の亜種に分けられてきた。亜種間での形態の差異は著しく、最大亜種maximaの雄成鳥の平均体重は、最小亜種minimaのそれの4倍もあり、デイビッド・ラックはガンカモ類を例に進化の手ほどきを試みた「進化」の中で、「シジュウカラガンの亜種」として独立章を設け、その説明に費やしたほどである。
 近年、従来のカナダガンのうち大型で内陸性の、より南で繁殖するグループをCanada Goose, Branta canadensis、小型で北方のツンドラ地帯で繁殖するグループをCackling Goose, B.hutchinsiiの別種として取り扱う説が提出された。2グループの存在は形態のみならず、ミトコンドリアDNAの分析結果も支持している。また、隣接して分布するCanadaとCacklingの間に種間交雑がほとんどもしくはまったく無いと思われることが、やはりミトコンドリアDNAの解析から得られているという。
 この分類は、2004年にアメリカ鳥学会(AOU)が自国の目録の補遺で採用してアメリカでは一般的となり、イギリス鳥学会(BOU)も2005年にこれに従ったことから、現在欧米では2グループに分ける考えは主流になりつつあるようである。

デントコーン畑のシジュウカラガン(背後はヒシクイ
2007年11月 北海道十勝川下流域
足環からこの個体は、同年秋に北千島にエカルマ島で放鳥されたものとわかった。
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 この分類ではCanada Gooseは、基亜種のほかinteriormaximaparvipesなど全7亜種が含まれ、その分布域は北西端を除く北米一円に及ぶ。一方、Cackling Gooseはhutchinsii(本亜種がこのグループ中では最も古く記載されたため、種小名になった)、taverneriminimaleucopareiraの4現生亜種と、絶滅したasiaticaから構成される。このうち日本で記録があるのは、leucopareia(亜種シジュウカラガン)、minima(亜種ヒメシジュウカラガン)である。よって、上記分類に従えば日本に渡来しているのはCanada Gooseではなく、Cackling Gooseということになる。また、亜種英名は亜種シジュウカラガンがAleutian Cackling Goose、亜種ヒメシジュウカラガンがCackling Cackling Gooseになる。


シジュウカラガン(亜種ヒメシジュウカラガン?)
2007年4月 北海道十勝川下流域
右の個体は左の個体より明らかに小さく、嘴が短い、首の白い輪を欠く等の特徴から、亜種ヒメシジュウカラガンであるかもしれない。
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 種の和名としてはCackling Gooseがシジュウカラガン、Canada Gooseがカナダガンとでもいうことになろうか。以前からシジュウカラガンとカナダガンという和名が並列して使われてきて、若干の混乱も来していたので、上記分類に従って和名を使い分けるとちょうど良いかもしれない。ちなみに、「cackling」とは(めんどりが)コッコッと鳴く、(人が)キャッキャッと笑う、ぺちゃくちゃ喋る等の意味である。
 2種が別種ということになると、日本ではCanada Gooseの渡来記録は無く、各地の公園や御濠によくいるのは別種の外来種ということになる。今後はその区別のための努力と、それに基づいた対応が必要であろう。両種ならびに亜種間の識別については、David Sibley’s Website等に詳しいので、興味のある方はそれらを参照されたい。


シジュウカラガンの一群
2008年4月 北海道十勝川下流域
かつて千島列島で繁殖していた個体群は乱獲やキツネの導入により途絶えたが、日米露共同の復元計画によって放鳥された個体の渡来が、近年少しずつ増えてきた。
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Canada Gooseの1亜種(飼育個体;亜種不明)
2008年7月 北海道帯広市
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(2008年7月3日   千嶋 淳)