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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

十勝の自然11 ヒグマ

2015-06-09 23:27:51 | 自然(全般・鳥、海獣以外)

Photo by Chishima, J.
トドマツに付けられたヒグマの爪痕 2008年6月 北海道幌泉郡えりも町)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん)


 先日、帯広郊外の防風林で自然観察をしていて、春の草花や、以前にこのコーナーでもご紹介したクジャクチョウなどに目を奪われているうちに、地面に張り出した横枝に足を取られて、派手に転んでしまいました。痛む腰をさすりながら顔を上げると、目の前にはまだ湿ったヒグマの糞がありました。山に近いエリアとはいえ、畑の中の小さな林だったので、驚きました。
 冬眠明けのクマは、雪解けの早い場所を探しながら、フキやイラクサ、ザゼンソウ、ウドなどの植物を主に食べます。人間もそれら「山菜」を求めて、山野に繰り出し、ヒグマとの思わぬ出会いや事故が発生しやすい時期でもあります。人もクマも山菜に夢中になって周りが見えず、あるいは沢音などにかき消されて、お互い気付かないまま鉢合わせしてしまうケースが多く、山菜採りでの事故は、ヒグマの人身事故の実に2割を占めます。
 野山に入る時は熊撃退スプレー(アウトドアショップで購入できます)やナタを携行する、鈴やラジオなどで音を出す、クマの活動が活発な早朝や夕方を避ける、なるべく単独で行動しないなどを心がけ、クマにとっても人にとっても不幸な事故を起こさずに、アウトドア活動を楽しみましょう。


(2015年4月21日   千嶋 淳)


十勝の自然10 エゾアカガエル

2015-05-12 16:20:01 | 自然(全般・鳥、海獣以外)

Photo by Chishima, J.
エゾアカガエルと卵塊 2009年4月 北海道十勝郡浦幌町)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん)


 この時期、太陽の暖かさに誘われて散歩していると、水辺から「キャララ、キャララ…」と甲高い声が合唱のように聞こえてくることがあります。長い冬眠から覚めたエゾアカガエルが、産卵のため水辺に集まってきたのです。
エゾアカガエルは5~7cmほどの土色のカエルで池や沼、湿地などの水の中に卵を産み、山の方では雪どけでできた水たまりを利用することもあります。適切な環境があれば緑ヶ丘公園や農業高校の林など、帯広市街地周辺でも生息しています。
 昼夜問わずの大合唱に近付いてゆくと、カエルは鳴き止んで水に潜ってしまい、今までの大騒ぎが嘘のように静かになります。でも、しばらくじっと待っていれば一頭また一頭と顔を現し、大合唱が再開されることでしょう。数百から1000以上の卵が球状の塊となって産まれた卵塊(らんかい)や、もう少し遅い時期には小さなオタマジャクシも見られるかもしれません。
 エゾアカガエルは、学名をラナ・ピリカといいます。後半のピリカは、「美しい、きれい」を意味するアイヌ語から付けられました。昔はヨーロッパや朝鮮半島のアカガエルと同じ種類と考えられていたのですが、1991年に別種であることがわかり、新たに命名されました。早春を告げるこの身近なカエルは、世界でも北海道と北方四島、サハリンだけに分布する貴重な動物なのです。


(2015年4月13日   千嶋 淳)

十勝の自然8 エゾエンゴサク

2015-05-12 15:46:32 | 自然(全般・鳥、海獣以外)

Photo by Chishima, J.
エゾエンゴサク 2008年4月 北海道十勝郡浦幌町)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん)


 雪こそ消えたものの、まだ草枯れ木色の4月の林に足を踏み入れると、地面に色とりどりの花が咲いて、まるでお花畑のようになっていることがあります。アズマイチゲの白、キバナノアマナの黄色などにくわえ、ひときわ目を引くのが紫色や青色の、筒みたいな花を、茎の上の方にいくつも咲かせるエゾエンゴサクです。
 これらは、日当たりの良い早春の林の下で一斉に花を咲かせ、夏には葉や茎といった地上部分を枯らして、地中で休眠状態に入る「春植物」といわれる植物たちです。春の一時期のみ姿を現すことから、英語で「スプリング・エフェメラル(春の妖精)」とも呼ばれます。
 エゾエンゴサクの花粉を運ぶのは主に昆虫。マルハナバチの仲間をはじめ、多くの虫が花を訪れます。
 毒のあるケシの仲間には珍しく食用となり、花付きでサッと茹でて、おひたしやゴマ和え、酢の物などにします。


(2015年4月14日   千嶋 淳)

十勝の自然7 エゾユキウサギ

2015-05-12 15:10:22 | 自然(全般・鳥、海獣以外)

Photo by Chishima, J.
エゾユキウサギ 2012年4月 北海道中川郡豊頃町)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん)


 エゾユキウサギというと、2円切手にも描かれている純白の姿を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、夏には茶色の夏毛へと毛替わりします。今時分はちょうど毛替わりの時期で、茶色と白の混じった、雪解けの景色のような毛色の個体をよく見ます。
 本来は夜行性で、見る機会も少ないのですが、長い冬が終わり、繁殖に入ったこの季節は大胆になるのか、昼間に活動していることも少なくありません。森林性のものが多い日本の哺乳類の中では珍しく、河川敷や農耕地、伐採跡地といった開けた環境に生息します。
 あらゆる植物を食べるため、1970年頃には植えたばかりのカラマツ苗木への食害が問題になったそうです。ただ、その後は環境の変化や天敵のキタキツネが増えたことによって激減しました。もっとも、この10年くらいで少し持ち直してきたようで、最近は足跡や姿と出会う機会が増えたように感じています。
 イギリスからユーラシア大陸にかけて広く分布するユキウサギの1亜種で、学名をレプス・ティミドゥス・アイヌといいます。レプス・ティミドゥスは「臆病なウサギ」を意味し、最後のアイヌはアイヌに因んだものです。
 雪の解けた4月の原野に、残雪のようなウサギの姿を探してみませんか?


(2015年4月10日   千嶋 淳)

十勝の自然4 クジャクチョウ

2015-05-05 16:23:51 | 自然(全般・鳥、海獣以外)

Photo by Chishima, J.
クジャクチョウ 2014年9月 北海道河東郡音更町)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん)


 草木もまだ芽吹かぬ4月上旬、住宅地内の空き地を、あるいは雪の残る林道をひらひらと舞う蝶に出会うことがあります。彼らは成虫のまま越冬した蝶で、擦り切れたボロボロの翅(はね)が冬の厳しさを物語っています。シータテハやルリタテハなどタテハチョウの仲間が多く、その中でもひときわ美しいのがクジャクチョウです。
 4枚に翅のそれぞれに水色や黒の目玉模様を持ち、鳥のクジャクの羽のように見えることからその名があります。この目玉模様は、鳥などの天敵から身を守る効果があるようです。
 北海道を含む東アジアの亜種の学名は、イナキス・イオ・ゲイシャといいますが、一番最後(亜種小名といいます)のゲイシャは、鮮やかな翅の模様を芸者に模したものです。 
 幼虫はイラクサやホップの葉を食べて育ち、成虫はいろいろな花の蜜や樹液を訪れます。庭先やちょっとした空き地でも簡単に見ることができるので、雪景色や枯れ草ばかりの風景に飽きたら、この目も覚めんばかりに鮮やかな蝶を探してみませんか。
 写真は秋に撮影したので周囲が緑ですが、4月の荒涼とした景色の中で見ると、美しさが一段と際立ちますよ。


(2015年4月9日   千嶋 淳)