All Photos by Chishima, J.
(飛び立ち間際のウミスズメ夏羽 以下すべて 2014年5月 北海道十勝沖)
春の海は不安定で、周期的に通過する低気圧や前線の影響を受けて風や波も強くなりがちです。4月の調査は、予報では良好だった海況が、いざ港に集まってみると風が強く、そのまま中止となってしまいました。続く5月も悪天候による延期を経て予備日に港へ赴くとやはり強風…。5月だけで三度目の挑戦となる漁港への道中では「二度あることは三度ある」、「三度目の正直」といった言葉が脳裏を過ります。かくして到着した漁港は、所々に雲はあれど素晴らしい青空で風も穏やか。午前7時、岸壁のキョウジョシギ小群に見送られながら出港した直後は、うねりが少々残っていましたが時間とともに治まり、場所によっては空の青さや白い雲を水面に映す、鏡のような凪となりました。陸地方向はやや靄がかって日高や阿寒の山並みは望めなかったものの、本格的な霧の季節の前に5月の海の美しさを満喫できたのは幸いでした。
鳥は、昨年5月中旬に3万5千羽近くを記録したハシボソミズナギドリは、単独から最大でも50羽程度の群れが散見された程度でした。春の十勝沖ではオホーツク海や根室海峡のような濃密な索餌群は見られず、ひたすら移動モードなので、大群と出会えるかはタイミングや群れの通過位置といった偶然に左右される部分が大きいのでしょう。ミズナギドリの仲間では、フルマカモメが例年の同時期より多い印象でした。アホウドリ類はごく少数のコアホウドリのみで、まだまだこれからといったところ。沖合の所々を川のように流れる潮目ではヒレアシシギ類の疎らな群れが採餌に勤しんでいました。アカエリはもちろんハイイロも多く、繁殖を目前に控えた麗しい夏羽を堪能しました。
沿岸部にウトウが多く、ウミスズメやハシブトウミガラスも見られました。参加者の方が「ウミスズメがいる」と教えてくれた鳥を双眼鏡に入れると後頭部の白が目立ちます。「この時期のウミスズメは頭白いんだよね」などと言いながら記念に数枚撮影し、液晶画面を見て我が目を疑い、驚きのあまり声を出しそうになりました。少し上向きで長めな青灰色の嘴、白の食い込みの無い顔の黒色部、後頭部を広く覆う白色部。これらの特徴は紛れもなく、カンムリウミスズメ生殖羽を示唆しています。世界中で日本近海の黒潮・対馬暖流域でのみ繁殖する、この小型の海鳥が7月上旬から北海道近海に現れるのは、これまでの調査でわかっていましたが、5月に見るとは夢にも思っていなかったので本当に驚きました。多くの繁殖地で5月頃にヒナがふ化し、この時期はまだ家族群で生活しているでしょうから、非繁殖鳥か早々と繁殖に失敗した鳥なのでしょうか。こうした意外な出会いがあるのも、調査を続けてゆく醍醐味の一つです。
カンムリウミスズメ・生殖羽
興奮冷めやらぬまま、テトラポッドで休むキアシシギやミツユビカモメを観察しながら帰港。いつものように番屋で鮭のチャンチャン焼きや蛸刺し、煮ツブなどの魚介類をいただきながら歓談し、適宜解散しました。度重なる日程変更にも関わらず参加いただいた皆様は、どうもお疲れ様でした。日程変更で乗船できなかった方は、またの機会をお待ちしております。
確認種:スズガモ シノリガモ クロガモ アビ シロエリオオハム コアホウドリ フルマカモメ ハイイロミズナギドリ ハシボソミズナギドリ ヒメウ ウミウ キアシシギ キョウジョシギ アカエリヒレアシシギ ハイイロヒレアシシギ シギ科の一種 ミツユビカモメ ウミネコ オオセグロカモメ ハシブトウミガラス ウミスズメ カンムリウミスズメ ウトウ トビ ハシブトガラス ムクドリ ノビタキ 海獣類:鰭脚類の一種
ハイイロヒレアシシギのメス夏羽
(2014年5月27日 千嶋 淳)
*十勝沖調査は、NPO法人日本野鳥の会十勝支部、漂着アザラシの会、浦幌野鳥倶楽部が連携して行っているものです。参加を希望される方はメール等でご連絡下さい。