鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

残暑(9月19日)

2008-09-27 23:33:54 | 鳥・秋
1
All Photos by Chishima,J.
水浴に訪れたベニマシコの幼鳥(手前)とアオジ 以下すべて 2008年9月 北海道中川郡幕別町)


 今年の7、8月は真夏らしい日が少なく、少々寂しい感のあった十勝地方。9月に入ってから暫くは暑い日が続いた。本格的な夏の訪れを意識しないうちに残暑になってしまったというわけだ。この日も朝から気温がぐんぐん上がり、昼近くには9月も折り返した後とは信じ難い暑さに包まれた河原では、鳥たちもすっかり動きを潜めてこの熱気をやり過ごしているかに思えた。
 そろそろ帰ろうかと通りかかった河川敷の一か所に、白昼とは思えないほどの小鳥が屯していた。どうしたのだろう?未舗装道路の端に車を止め、流れ出る汗に耐えながらしばし観察していると、謎は解けた。鳥たちの目当ては道の中央部にある水たまりだった。このところの少雨・好天で、水場に窮していたのだろう。観察していた30分ばかりの間にも、ハシブトガラやシジュウカラ、アオジ、ベニマシコ等が代わる代わる訪れては、水浴びや飲水を行っていた。


アオジ
2


水浴び(ベニマシコ・幼鳥)
冒頭の個体より腰等の赤みが強い。オス?
3


 通常、水場でのこうした行動は朝夕に見られることが多いのだが、この日の場合、余りの暑さに耐えかねて、涼を求めて水場へやって来ているかのようだった。事実多くの鳥は、口を開いて暑さに喘ぎながら、水場での時間を過ごしていた。
 面白かったのは、周囲への警戒の度合が種によってかなり違っていたことだ。水場での水浴や飲水は生命維持の上で不可欠な行動ではあるが、開けた場所に出てきている上に水浴でもしたら周囲がよく見えなくなる、危険と隣り合わせの行為でもある。この危険行為に際して最も大胆なのは、ハシブトガラであった。彼らは周囲の灌木や草の上から水場に一気に飛んで来て、用事を済ますとさっさと河畔林に帰って行く。次はアオジであるが、こちらは直に飛来することはせず、叢の中から地面をホッピングして周囲を窺いながら近接して来る。この時点で危険を察知すると叢に引き返してしまい、再出発となる。ベニマシコはアオジがひとしきり水浴して危険が無さそうだとわかると、同じく叢の中から地上をやって来る。しかし、一度夢中になると周囲が見えなくなるタイプのようで、アオジが引き揚げた後もずっと水浴に興じているから、これではどっちが安全なのか…。シャイな筆頭はノゴマだ。やはり叢の中から、長い脚で跳躍しながら現れるが、少しでも気に入らないと脱兎の如く戻ってしまう。


アオジの水浴
顔をどっぷり水に浸しての入浴は、無防備の一瞬でもある。
4


共同浴場(ハシブトガラ(左)とベニマシコ・幼鳥)
5


 そんな小鳥たちの仕草を微笑ましく眺めていたが、ブラインド代わりの車中の暑さに耐えきれず、また恥ずかしがり屋のノゴマにも水浴びをさせてあげたく、正午少し前に撤収。後にこの日の帯広の最高気温は、正午の28.1℃であったことを知る。


ノゴマ・オス(背後はハシブトガラ
6


                    *
 厳しい残暑もこの日までだったようで、翌日は掌を返したように爽やかな秋晴れ。そこから幾度かの雨を経て、すっかり涼しくなった今日の夕方、犬の散歩で外に出た私の頬を突き刺した冷たい風は、既に冬の気配を纏っていた。


(2008年9月27日   千嶋 淳)


帯広でのインドガンの記録

2008-09-15 00:24:43 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
Img_0422
Photo by Chishima,J.
インドガン(上野動物園の飼育個体) 2006年9月)


 インドガンは中央アジアからインド方面に分布するガン類で、日本では千葉県や長野県、小笠原諸島などから記録があるが、本来の分布域から大きく離れていること、各地の動物園で飼育されていることなどから、「日本鳥類目録第6版」では「自然分布とするには疑問がある」として日本産鳥類に含めていない。「フィールドガイド日本の野鳥 増補版」には本種の記録の中に、「1984年5月帯広」が掲載されている。この記録について数年前から興味を抱き、当時の野鳥の会会報や鳥類リストを調べてみたが、それらしい事例に出会うことができず、謎のままだった。最近になって当時帯広で鳥を観察していたAさんから、その顛末と思われる話を聞くことができたので、紹介しておく。
 結論から先に申し上げると、帯広のこの記録は「篭脱け」に類するものである。Aさんによれば、帯広動物園内を流れる川の、園内部分を囲っていた網柵の一部が破れていたため、園内で飼育されていたインドガンとエジプトガンが園外でも観察されたことがあり、これが1984年前後のことだったという。したがってフィールドガイドの記録は、園外に逸脱した個体を観察した誰かが野鳥の会本部に報告したか、何らかの形で伝わって同書の増補版に掲載された可能性が高い。


(2008年9月15日   千嶋 淳)


オホーツクの秋風(9月8日)

2008-09-14 23:24:18 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
Photo
All Photos by Chishima,J.
サンゴソウ(アッケシソウ)群落中のエリマキシギ・幼鳥 2008年9月 北海道網走市)


 網走での仕事は思いの外盛り沢山で、滞在中に鳥見の時間を作ることは叶わなかったが、最終日は少し早い時間に切り上げて郊外を目指した。狙いは今を盛りと色付いたサンゴソウ(アッケシソウ)の群落とその塩性湿地で羽を休めるシギ・チドリたちである。程無く到着した有名な群落は、平日の午後にも関わらず、かなりの数の観光客で賑わっていた。殆どが大型バスからの客なので団体行動で喧しく、それに追い打ちをかけるのがエンドレスに流れる「ご当地ソング」。その曲自体は嫌いではないのだが、今ここで聞きたくはない。そんな喧騒の中だから、鳥もハクセキレイくらいしか見当たらない。

サンゴソウ(アッケシソウ)の群落
2008年9月 北海道網走市
塩性湿地に生えるアカザ科の植物で、秋に色付くのは葉の部分。
Photo_2


 絵に書いたような日本の観光地の姿に聊か幻滅し、少しばかり場所を移した。同じ湿地の別の場所だが、こちらは訪れる人も無く、車を止めて窓を開けると沖合からの心地良い涼風が潮騒やカモメの鳴き声を運んで来る。大声での会話やステレオタイプな音楽よりも、この場に相応しいBGMはちゃんと存在するのだ。
 目が慣れてくると、近くのサンゴソウ群落の中で餌を漁る10羽ほどのトウネンの姿が見えてきた。シギの中の最普通種でも、ピンク色の絨毯の中で見るとまた違った感じで新鮮に感じる。湿地の先に広がる湖面に群がるウミネコの周辺には、数はまだ少ないもののユリカモメの姿もある。その先の上空を両脚にしっかりと魚を掴んだミサゴが横切り、奥ではまた別のミサゴが停空飛翔(ホバリング)しながら水中に魚影を探している。


サンゴソウ(アッケシソウ)の背後に(トウネン・幼鳥)
2008年9月 北海道網走市
Photo_3


ミサゴのホバリング
2007年10月 北海道中川郡豊頃町
Photo_4


 「カハハン、ガハハン」。弱々しいが雁の声を聞いた気がした。声のする方に必死に目を凝らせば、かなり遠方を飛んで行く2羽のヒシクイ。今年もまた渡って来た。シーズン初めてのガンを迎える感慨は、他の渡り鳥では味わえない一種独特の感情であると言って良い。
 ふと生き物の気配を感じて双眼鏡から目を離す。すぐ目の前のサンゴソウ群落から、エリマキシギの幼鳥が長い首を伸ばしている。人の気配は感じているようで若干警戒気味だったが、魅力的な餌場なのかじきに警戒を解いて採餌に興じ出し、どんどん近付いて来て、最終的にはカメラのファインダーに収まらないくらいになってしまった。


エリマキシギ・幼鳥
2008年9月 北海道網走市
Photo_5


 再び雁の声を聞いた気がした。しかし姿は見えないし、あまりにも幽かだった。先刻聞いた音が、瞼裏の残像の如く脳内で再生されているのか。意識を再びエリマキシギに集中させ始めた私の耳に、前よりもはっきりとヒシクイの声が飛び込んできた。しかも1羽や2羽の声ではない。群れだ!
 声は湿地先の湖面の、その遥か沖から聞こえてくる。程無くして120羽前後の群れがこちらに飛んで来るのを発見した。どうやら飛翔コースから察するにオホーツク海から陸地に入ったばかりのようだ。もしかしたら今まさに海を越えて来た群れなのかもしれない。数分後、頭上に到達した群れは進路を変更し、海岸線と平行に飛び、やがて彼方の空に溶けて行った。オホーツク海沿いに幾つもある湖沼のどれかで、渡りの疲れを癒そうというのだろうか。


海上を飛んで来た(?)ヒシクイの群れ
2008年9月 北海道網走市
最上部には少数のカモ類が混じっている。
Photo_6


 余韻に浸りきっている頭上を、今度はオナガガモの小群が通過した。まだまだ日差しは強く気温も高いが、自然界では確実に次の季節が主役になりつつある。
 帰路、午後6時過ぎだというのにすっかり暗くなった十勝の田舎道を、ドロノキだろうか、落葉が何枚もはらはらと舞っていたのが印象的であった。


ヒシクイ(亜種オオヒシクイ)の飛翔
2008年9月 北海道十勝郡浦幌町
これは記事の翌日に十勝で撮影したもの。
Photo_7


(2008年9月14日  窓の外に十五夜の月を眺めながら 千嶋 淳)