鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

ヒドリガモの潜水採餌

2006-03-29 10:50:18 | カモ類
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Photo by Chishima,J. 
潜水後に羽ばたくヒドリガモのオス 2006年3月 北海道帯広市)

 カモ類は、その餌のとり方や行動様式から「淡水ガモ」と「潜水ガモ」の2つに大別される。淡水ガモは水面採餌ガモ、もしくは陸ガモとも呼ばれ、昼間は主に河川や湖沼といった内水面で休息し、夜間に湿地や水田などで植物質の餌を中心に食べる。そのため、脚は歩行に適した体の中央近くに位置し、体は細長く、遊泳時は露出部分が多いため、尾羽は水面よりかなり高い位置にある。一方、潜水ガモ、あるいは海ガモは脚が体の後端付近にあって歩行は苦手だが、潜水に長けている。また、体はずんぐりめで首は短く、遊泳時の尾羽は水面すれすれか僅かに上で、沈んでいる部分が多い。得意の潜水で、貝類や魚類、水草などを捕食する。
淡水ガモ(カルガモ
2006年3月 北海道帯広市
脚は細長めの体の中央付近にある。
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Photo by Chishima,J. 

潜水ガモ(ホシハジロ・オス)
2006年2月 東京都台東区
体はより水中に没し、写真ではわかりにくいが脚は体の後方にある。
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Photo by Chishima,J. 

 ヒドリガモは典型的な淡水ガモに属するが、マガモやコガモにくらべると昼間にも水面で何かをついばみながら採食していることが多い。カモ類の生態や形態から、その社会の類型化を試みた信州大学(当時)の羽田健三氏も、淡水ガモを「陸上及び水面採食型社会」とした上で、その中のヒドリガモ、ヨシガモ、ハシビロガモを昼間、水面採餌することの多い「ヒドリガモ型社会」と細分している(「内水面に棲息する雁鴨科鳥類に於ける生態・Kineto-adaptation 並びに Allometry に関する研究Ⅱ.雁鴨科鳥類集団の社会生態学的研究‐すみわけ構造の解析を中心として‐」1955年)。水面のほかにも、陸上で草を引きちぎったり、海の浅瀬や干潟などで海藻をついばんだりと、ヒドリガモは昼間にも活発に採餌する。

水面で採餌するヒドリガモのつがい
2006年3月 北海道帯広市
手前がオス。水面から何か小さなものをついばんでいる。
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Photo by Chishima,J. 

オカヨシガモのつがい
2006年3月 北海道帯広市
左がメス。羽田論文で言及されてないのは、当時は迷鳥なみに稀だったからだろう。
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Photo by Chishima,J. 

ハシビロガモ(オス・若鳥)
2006年3月 北海道帯広市
水中からプランクトンを縁の板歯で濾して食べるのに適した嘴をしている。
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Photo by Chishima,J. 

 そのヒドリガモが時として潜水して餌をとることがある。ほかの多くの淡水ガモも物理的に水に潜れないわけではなく、たとえば猛禽類に襲われた時には潜ることによって難を逃れようとするし、水浴びの勢い余って水中に没していることも珍しくはない。ただし、ヒドリガモの潜水採餌は自発的に餌を求めて潜水する点で、それらの受動的・機会的な潜水とは性質を異にしている。
 3月の穏やかな昼前、市内の小さな川では10羽ほどのヒドリガモが潜水採餌に興じていた。水面から水中を覗き込むように首を水面につけると、翼をすぼめて一気に潜水する。水深は1~2メートルにすぎないものの、生来が潜水に適していない形態のため、こうして勢いを付けないと水底までたどり着けないのであろう。程無くして潜ったのとほぼ同じ地点から浮かび上がった(この辺りも水中を自由自在に動き回る潜水ガモとは異なる点である)嘴には、一束の水草がくわえられている。ひとしきり食べて満足した後は羽ばたきによって付着した水滴を払い落とすと、すかさず次の水底を目指していた。

ヒドリガモの潜水
2006年3月 北海道帯広市
キンクロハジロなどの放物線を描いて飛び込む潜り方とは異なり、コオリガモやウミスズメ類のように翼をすぼめて潜水する。
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Photo by Chishima,J. 

水草をくわえて浮上したヒドリガモのメス
2006年3月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J.

 ヒドリガモの潜水採餌で印象深かったのは、数年前に群馬の実家で観察した事象である。実家の私の部屋は川を見下ろす二階にあって、冬の帰省時にはそこから日がな一日カモを眺めるのを日課としているが、ある12月の午後、多数のヒドリガモが活発に潜水して水草を食べているのに気が付いた。それまでの観察から、このヒドリガモたちは日没後索餌に出かけるのは分かっていたので、不思議に思っていたところ、その晩から明朝にかけては関東の平野部では珍しいほどの大雪であった。あたかも、天候の崩れを予見したヒドリガモたちが、夜間の索餌の代替として午後の活発な潜水採餌を行なっていたように思えて、妙に感心したものだ。

川底からとってきた水草を食べるヒドリガモのつがい
2006年3月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

(2006年3月28日   千嶋 淳)


餌付けに関するコメント

2006-03-28 15:34:33 | 鳥・一般
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Photo by Chishima,J. 
市民から餌をもらうオオハクチョウ 2005年11月 北海道帯広市)

 少し前に「矛盾」という記事の中で、撮影目的の餌付けに批判的な内容を書いたところ、「bota」さんから「鳥における餌付けの悪影響は何だろう?」という提起をいただき、私見を若干コメントに付した。その後、「速」さんと「のっぱら研究所」さんから相次いで餌付けに関するコメントをいただいた。どちらも重要な情報と示唆を含んでいるものであり、コメント欄に付記しておくのはもったいないと考え、ご両人の許可を得てここに掲載することにした。長文になるが、鳥に関心のある人はぜひ一読していただきたい。(千嶋 淳)
まずは、速さんのコメント(2006年3月24日)

「餌付け問題で特にハクチョウ類に絞りますが、厚岸の事例を水鳥館の方から聞いて問題視しないといけないと思いました。厚岸湖はハクチョウの越冬地であり、大半のハクチョウは主に湖の水草だけで過ごすことが出来ています。しかし、餌付いた一部のハクチョウが人の餌を当てにするようになって水草を食べなくなり、結果、飢えて街中をさまよい、餓死する個体が出た(増えた)ため餌付けを止めたそうです。
餌付けた人は好意と思って餌付けたのに、十分な餌が随時与えられなかったため起こった事故で、逆に仇になりましたね。
そして、ハクチョウを死なせたのは誰の責任かと問われても、今の日本の法律では誰も罪がありません。自己責任がいることを認識していないと駄目ですね。
給餌自体不自然かもしれないが、一般市民が野鳥に関心をもってくれる場としてあってもいいかと思います。強引に今まで定期的に餌をおいていた給餌場止めろというのは個人的にしんどいし、僕も(調査等で)利用しているのでなんともいえない。ただ、鳥が体内で分解できないと言われている油を使ったお菓子やパンは避けたほうが良いだろうし、そのあたりは餌を置く人、あげる人とうまく話し合ってお互い理解を深め、より関心を持っていけるでしょうね。」

パンをくわえて飛ぶオナガガモ(メス)
2006年3月 北海道河東郡音更町
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Photo by Chishima,J. 

続いて、のっぱら研究所さんからのコメント(2006年3月26日)。

「餌付けが自然にこういう悪影響がある→だからやってはいけない。
と言う論法になりがちなんですが、ちょっとまてよ。
悪影響がない → やってもいい。
ということなのかな? と時々思います。
なぜ「やる」ことが前提になっているのかなと。
「やらない」が前提であって、じゃあ「やる」ことが必要な場合とは何だろう? という発想でないと、この問題は整理しにくい面があると思います。
             *
んでは、「なぜ人を殺してはいけないといわれるか?」
それは「人は人殺しをすることがあるから」だと言われることがあります。
人はなぜ野の鳥に餌をやるのか?
それは人間に備わっている衝動だろう。と思います。
だからさまざまな家畜家禽が生まれ、利用されているのです。
その衝動は例えば他の衝動欲望と同様コントロールされるべきだと考えます。何のために?「より自然に適応した人間社会の構築のため」でしょう。
どのようなシーンでどのようにコントロールされるべきか、それは他の自然との問題と同様でしょう、自然の理(ことわり)に軸足を置いて、どのような形態をとればより人間社会の仕組みに取り入れられやすいのか、方法論を検討することでしょう。
何の問題でも同じですが、餌付け問題については、社会的論議をおこなうことがまず必要と考えます(水際でごちゃごちゃもめるだけでは長期的に見てあまり意味がない)。全国的な公開論議の場を作るべく、積み上げていくことでしょう。
例えばこのような場で餌付け論議がはじまったのは、ここ5年位のことで、盛んになったのは去年くらいからだと思います。
美唄の宮島沼では餌付けの社会的論議が始まっています。しかし(財)日本野鳥の会はまだ腰がひけてるという状態です。

餌に群がるユリカモメ
2006年2月 東京都台東区
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Photo by Chishima,J. 
             *
餌付けの問題点は、しばしば「健康問題」と置き換えられることがありますが、よく観察してみると、
餌のありかの「集中」
鳥の居場所の「集中」
が大きな問題を占めているように思われます。
環境省北関東地区自然保護事務所のミヤコタナゴのコーナーを見てください。担当者から相談を受けたことがあります。白鳥への餌は冬に集中します。そして春にその汚れがどっとミヤコタナゴの生息する小川に流入し、産卵の相手の二枚貝が生息できなくなり、この天然記念物は絶滅の危機にあります。
白鳥に餌をやっている人はそれを知っています。

娯楽に基づく餌付けとは言い換えると
 「  差   別  」  
です。
「マガモのようなどこに出もいる人気もないような生き物を調べているなんてお金の無駄だ」とは白鳥おじさんの弁です。餌付け場に来やすい鳥と来にくい鳥がいます。結局、人間に近づきやすい生き物をさらに近づけているにすぎません。環境教育上の意義を唱える人もいますが、少なくとも観光・娯楽・趣味の私設・エサ場についてはそういうものはほとんど薄い。
エサを年間1トン自然界に放出するのと、生ゴミを年間1トン自然界に放出するのと何が違うのでしょうか?
私が「俺はバクテリアがかわいいんだ!」といってそこら中ゴミをまき散らしても良いってことでしょうか?
結局見た目がよけりゃあエサやってるだけのことでしょう。差別です。ブスはどうでもいいってこと。
多くの生き物に平等なのは自然を取り戻すことです。

鳥の集中ですが、このことによって感染症の危険が高まるということはもうご存知だと思います。この状況は生息適地が限られ、一つの沼に集中することによって引き起こされえます。昨年5月末に中国青海湖でハクガン(インドガン?)とズグロカモメが1000羽以上、今年に入って北アメリカでハクガンがやはり1000羽以上、西欧では数十羽単位で各所で死んでいます。これはH5N1インフルエンザですが、他に数十種類の感染症があります。
この生息環境の減少の中で餌付けしたらどうなるか?
堆積した水鳥の糞の上を、水鳥だけではなく、カラス、スズメ、ドバト、人間、キツネ、野良犬、等々が歩き回ります。ひどい場所は鶏小屋くさい。
感染症の危険を高めるのは当たり前、今起きてないのがラッキーなだけです。
人間はうがい、手洗いができます(靴底も洗った方が良い)。鳥は、それができないんですよ。
世界的な感染状況については、
鳥インフルエンザ http://ai.cloverlife.net/
鳥インフルエンザ海外直近情報集 http://homepage3.nifty.com/sank/
を参照してください。基本的には人間への感染を心配しているページですが、状況を読むには役に立ちます。
それから「自然観察の部屋」「自然大好き」で検索されると身近な餌付け問題の観察や考え方に触れるコーナーがあります。

ズグロカモメ(若鳥)
2006年2月 千葉県習志野市
背後はダイゼン
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Photo by Chishima,J. 

ハクガン
2005年4月 北海道十勝川下流域
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Photo by Chishima,J. 
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街の郊外にあるわき水のきれいな池。
わき水なので凍らないから、冬はカモが20羽くらい越冬していたようです。しかし、7年ほど前からほとんど飛来しなくなったようです。
市街地の冬季のカモ数は増えているようにみえました。つまり「餌付けで鳥を集める」ということは「元いた場所から人力で鳥を奪っている」ということです。生態系の中でカモはかなり大きな鳥です。
それが奪われるということは大きな損失です。元いた場所から見てみれば「殺された」のと同じ結果を招いているわけですから。

マガモ(オス)
2006年3月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

ペットは、死んだらちゃんと埋葬するまで面倒を見なければいけません。責任があります。
野生動物へのエサやりは、人間の都合の良い時だけ相手をすればいいのです。そして、責任を取らなくてもいい(ことになってしまっている)のです。
餌付けとは 無 責 任 です。ペット飼いなさい。

自分の職場の横の車道で、なぜかエゾリスがよく交通事故死する場所があり、そこにヤナギが立っていました。リス殺しの木かな?と思って、ある日やはりまだ暖かい事故死体を持ったまま木をのぞき込むと、その裏の車庫に大量のエサが備蓄してありました。
近所の公園に昔から餌をあげていたおじいさんでした。曰く「リスがそこでよく死んでいるのは知っていた。でもえさ台にエサはやりたい」
餌付け人の心理が分かった気がしました。それが原因でリスが死んでもリスに餌をあげたい。熱心な人の多くは
「  依  存  症  」
なんじゃないかと思います。
他にもハクチョウの言葉が分かるだの何だのと「俺様宗教」化している人はずいぶん見ます。
このような人を直接説得するよりも、マスコミが良いことだと思って報道したり、真似したり、観光地化することを防ぐ方が効率が良いと思いますね。

エゾリス
2006年2月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

肝心の野鳥の会や、環境省はまだ当てにはならないので、地域ごとに論議を高めていくしかありません。新聞投書もしつこくやりましょう。私の地方では少なくともローカル記事で餌付け礼賛は出なくなりました。
「コントロール」です。選択肢には禁止もありますが、コントロールすることの方が知恵が出るように思います。できないなら禁止でしょう。
小鳥の餌台については、野鳥の会のガイダンスがあるのでそれをルールとすればよいと思います。
他の件についてはルールがなさすぎます。」

餌台にて(ゴジュウカラ
2006年3月 北海道根室市
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Photo by Chishima,J. 

給餌場のコハクチョウ
2006年2月 群馬県館林市
周囲にはオナガガモが高密度に群れる。
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Photo by Chishima,J. 

(2006年3月28日)


早春の海辺

2006-03-25 12:38:26 | ゼニガタアザラシ・海獣
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Photo by Chishima,J. 

波を避けて体をそらすゼニガタアザラシ 2006年3月 北海道東部)

 「ヒィー、ホー」。海上からの生暖かい風が、少し沖にいるクロガモの群れの声を、岸にいる私の耳元まではっきりと運んで来るくらい、太平洋は凪いでいた。それでも、時折思い出したように白い波が磯を洗うと、惰眠を貪っていたゼニガタアザラシたちは一斉に体をそらし、それを避けようとする。海が生活の本拠地であるアザラシが濡れるのを嫌がるというのも可笑しな話ではある。ここは北海道東部の沿岸にある、ゼニガタアザラシの上陸場。
クロガモ(オス)
2006年3月 北海道中川郡豊頃町
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Photo by Chishima,J. 

 ゼニガタアザラシは、流氷上で白い幼体毛に覆われた子を産むことで有名なゴマフアザラシなどとは異なり、岩礁上で出産・育児を行い、一年を通じて岩場に上陸して休息する。アザラシは好奇心旺盛な水中での姿とは対照的に、陸上では非常に臆病な動物で、人間や船の気配を察知しただけで海に逃げ込んでしまう。したがって、このような上陸場は無人島や、沿岸でも人間の接近しづらい場所に位置することになる。
 この場所とて例外ではない。夜半から朝方の雨で緩くなった雪は、私の足にしつこく纏わりつき、行く手を阻む。カラ類やゴジュウカラの陽気な歌に励まされながら森や原野の中を歩くこと一時間近く、ようやく海岸線に到達した。それでも、眼下に100頭ほどのアザラシの上陸を認めると、今までの疲れも一気に吹き飛ぶ。

ゼニガタアザラシの上陸集団
2006年3月 北海道東部
岩礁の上では意外と保護色になっているのが分かる。
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Photo by Chishima,J. 

 慎重に距離を詰める。一見、眠り込んでいるように見えるアザラシたちも、よく見ると常に誰かが警戒に当たっており、異変を感知すれば即座に海に飛び込む‐それが群れを形成する利点の一つでもある‐。また、岩の上で燦燦と注ぐ陽光に羽を広げているヒメウたちが一斉に飛べば、何が起きたか分からないアザラシたちも連鎖反応的に逃げ出してしまう。

休息中のゼニガタアザラシ
2006年3月 北海道東部
皆気持ちよさそうに寝入っているが、手前左端の個体は警戒に当たっている。
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Photo by Chishima,J. 

ヒメウ
2006年3月 北海道東部
写真は漁港に入ってきた個体。
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Photo by Chishima,J. 

 なんとか観察に十分な距離を確保すると、まずはカウントを行なう。100頭を少し超える数だが、数頭のゴマフアザラシも混じっている。本来はオホーツク海の流氷上で繁殖している時期であり、今ここで上陸しているのは前年生まれの幼獣や3、4歳の亜成獣など、繁殖に関係しない若者が大半だ。続いて、性別やおおまかな齢階級(成獣か幼獣か)など、集団の構成を調べる。ゼニガタアザラシが上陸場によく現れる繁殖期(5月頃)から換毛期(8月頃)の生態はある程度明らかにされているが(それでも海の獣ゆえ謎は多い)、冬季間の生活はあまりにも分かっていない。オスは上陸場周辺にとどまり、メスは索餌回遊に出て上陸場にはあまり顔を出さなくなるというのが定説だが、メスも一年中上陸場の周りにいることを示唆する観察もあり、判然としない。何がしかの洞察を得るためには、このような地道な情報を、たとえ少しずつでも蓄積してゆくしかない。

ゼニガタアザラシの上陸場に現れたゴマフアザラシ
2006年3月 北海道東部
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Photo by Chishima,J. 

 アザラシの生殖器は、海中での水の抵抗を少なくするため体内にあるので性別の確認は難しいが、それでも、慣れてくるとある程度の数は分かるようになる。どうやら、この集団は少なからぬメスを含んでいるようである。とするとメスが冬に回遊に出るというのは…、いや待てよ、いま目の前に上陸している集団自体が回遊してきたものだとしたら…。どうやら、取り組むべき課題は多いようだ。幸い、ゼニガタアザラシの斑紋のパターンは個体ごとに異なり、それは終生変わることはない。これをうまいこと利用しての個体識別が進めば、何か言えるようになるかもしれない。
 5月上・中旬の出産の時期までにはまだ二ヶ月ほどあるが、不自然に下腹部の膨らんだ妊娠メスも何頭か確認した。道東の3月はまだまだ冬の延長、一度嵐が来れば3日や4日時化が続くことも珍しくない。そんな時化の間の僅かな凪に、お腹の子を気遣うかのごとく上陸して休息をとるメスたちの姿に、私は季節の確実に変わりつつあることを感じ取らずにはいられなかった。

ゼニガタアザラシ
2006年3月 北海道東部
体に対して下腹部の膨れた中央手前の個体、そしておそらくその右側の個体は妊娠メス。
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Photo by Chishima,J. 

呼びかけ(ハシボソガラス
2006年3月 北海道東部
いち早く雪の解けた崖で、1羽のカラスが曇天ながら穏やかな海に、何かを呼びかけるように鳴いていた。
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Photo by Chishima,J. 

(2006年3月24日   千嶋 淳)


我が家のアカミミガメ

2006-03-21 11:14:29 | カメ
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Photo by Natsuko. 
 うちにはそれはそれは大きなアカミミガメがいます。
このカメがうちに来たのは去年の秋、母が働いているとある飲食店の池で採取した個体です。
池の水抜きをしていたところモゾモゾと土が動いたそうな・・・
それがうちのアカミミです。

夏に怪しいカップルが池でゴソゴソしているのが見られており、その後からカメの目撃が相次ぎ、突然姿が見られなくなった、と思ったら池の中で寝ていたのですね。
しかし、北海道の冬、きっとあのままだったら凍死していたことでしょう。。。
ただ、ある公園の池ではすでに何頭ものカメが越冬しているのが確認されていることから、北海道自体、カメが生息できない訳ではなさそうです。ただブラキストン線という海峡により本州から隔てられているため、カメなど多くの爬虫類が自然分布していないだけなのです。
それなのにとうとう・・・。本州でも実家のドブ川なんかではクサガメ少し、アカミミいっぱい、イシガメ見たことない。っという感じで日向ぼっこしていたけれど。。。

北海道・・・カメがいないのが良いのだ!

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Photo by Natsuko. 
ちょっと上陸場が狭いんですけど~

ミシシップアカミミガメ
北アメリカから南アメリカにかけて広く分布するスライダータートルの1亜種。
ペットとして世界的規模で流通している。
国内には昭和30年前後に輸入が始まり、40年代前半から野外での採取が報告される。昭和50年にサルモネラ菌の保菌率が高いことがマスコミに報道されたことから、野外に大量に捨てられる。(その他のカメ類を含め、サルモネラ菌は多くの動物が持っている。とくに危険視する必要はない)
塩分への抵抗力もあり、環境への適応力が強く、世界中で帰化が確認されている。

参考図書
日本動物大百科 5 両生類・爬虫類・軟骨魚類.pp.61.平凡社,東京.

(2006年03月21日 Natsuko)


海ワシ?山ワシ?

2006-03-19 03:08:44 | 猛禽類
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Photo by Chishima,J. 
オオワシ亜成鳥の飛び立ち 2006年3月 北海道根室市)

 少数のオジロワシは北海道で繁殖・越夏するが、大部分の個体とオオワシは冬期に北方より飛来する。流氷の根室海峡でスケトウダラ漁船団のおこぼれに群がったり、海辺で海ガモ類を捕らえたりしている姿は、これらの鳥を「海ワシ」と呼ばせるのにふさわしい光景といえる。
オジロワシ(成鳥)の飛翔
2006年3月 北海道根室市
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Photo by Chishima,J. 

 ところが最近、風蓮湖など氷下漁業が盛んでその恩恵に預かれるような地域を除くと海の近くで見られる海ワシ類の数が少ないような気がする。十勝でも渡来後しばらくは海岸部や十勝川下流域で力尽きたサケなどに付いているが、それらが減ってくる冬の後半にさしかかると、ワシに出会う機会もぐっと少なくなる。

オジロワシ(若鳥)
2006年3月 北海道十勝川中流域
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Photo by Chishima,J. 

 その一方で、同じ時期に山間部で見かける「海ワシ」の数はずいぶん増えてきたようだ。流氷や砂丘海岸ではなく、針広混交林やダム湖を背景に飛ぶオオワシやオジロワシの姿に、最初は違和感を覚えたものだが、近年では当たり前の風景になってきた。こうなるとこれらは海ワシなのか、それとも山ワシということになるのか少々複雑だが、これらの個体の主要な餌資源はエゾシカである。

山間を飛ぶオオワシ(若鳥)
2006年3月 北海道
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Photo by Chishima,J. 

エゾシカ
2006年3月 北海道根室市
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Photo by Chishima,J. 

 エゾシカは急激な個体数の増加による林業や農業への被害が各地で問題となっているが、それらを反映した狩猟・有害獣駆除による残滓や越冬中の餓死個体の増加は、ワシたちに厳しい冬の間の食糧を提供することになる。厳冬期にも関わらず豊富に供給される動物性タンパク質に目をつけたのは海ワシ類だけではないようで、ワタリガラスも山間部へ多数飛来しているし、土着のクマタカもシカ残滓を利用しているそうである。

ワタリガラス
2006年3月 北海道
「コア…」、甲高い声が谷間に響くと2羽のくさび形の尾をしたカラスが現れた。
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Photo by Chishima,J. 

クマタカ(成鳥)
2006年3月 北海道
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Photo by Chishima,J. 

 これだけで終わってくれれば、ふんだんに利用可能な餌生物をめざとく見つけ、習性を変化させた野生動物の逞しさともいえるのだが、残念ながらそうはいかなかった。有名な鉛中毒の問題である。すなわち、残滓の中に残留している銃弾の鉛により、ワシたちが中毒を起こし、無視できない数が死んでいる問題である。鉛弾の使用規制や残滓の回収強化などの策が講じられてはいるが、根本的な解決にはまだ時間と努力が必要なようだ。
 1980年代には知床のスケトウダラ漁業という人間活動に依存していた海ワシたちは、1990年代の水揚げ量減少という人間側の都合によって各地に分散するようになり、その過程で山間部の越冬地においてやはり人間活動によって生じたシカ残滓を発見し、結果鉛弾という人間側の事情により死亡する事態に至っている。その精悍な顔つきから、自然界における孤高の存在的なイメージで見られることがあるオオワシやオジロワシも、現代の日本では人間の動きに大きく影響されながら冬を越している。

オオワシ(成鳥)
2006年3月 北海道
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Photo by Chishima,J. 

オジロワシ(若鳥)
2006年3月 北海道根室市
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Photo by Chishima,J. 

(2006年3月19日   千嶋 淳)