鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

ウミネコのパトロール

2016-10-31 23:13:07 | 海鳥

Photo by Chishima, J.
サケ釣りの竿の間に急降下するウミネコ 2016年10月 北海道中川郡豊頃町)

 海岸で子どもたちと遊んでいるとウミネコとオオセグロカモメ、特に前者が海岸線伝いに頻繁に飛んでいる。時期が時期だし移動中なのかなと思っていたが、そのうち双方向へ同じくらい動きがあることに気付いた。どうやら複数のウミネコが海岸を行ったり来たりしているようだ。

 この時期、十勝の海岸にはアキアジ(サケ)釣りの竿が林立する。そうした竿が林立する場所になると飛翔速度を落とし、ホバリング的な飛翔(完全なホバリングではない)を繰り返して時に地上へ急降下する、カワセミの真似事みたいなことをしていた。浜からの投げ釣りにはサンマやイカの切り身を餌として用いるらしい。それらの破片か、釣り人の食事の残骸でも落ちているのだろうか。急降下後に何かをついばむのを何度か見たが、距離があって餌も小さそうで何かは結局わからずじまいだった。

(2016年10月30日   千嶋 淳)

161030 十勝川下流域ファミリー鳥見

2016-10-31 22:35:52 | 鳥・秋

Photos by Chishima, J.
沼の周辺を乱舞するガン類 以下すべて 2016年10月 北海道十勝川下流域)

 久しぶりに家族で十勝川下流へ鳥見に出かけました。幼児2人連れなので現地にいたのは2時間程度、その間も砂浜で棒倒しをしながらなど横目での鳥見でしたが、数百羽のハクガンやシジュウカラガンをはじめとするガン類の乱舞は圧巻でした。何人かの知り合い(地元以外の方とも)と出会い、立ち話できたのも楽しかったです。

マガン(左)とヒシクイ(亜種オオヒシクイ


 十勝川下流域のガン類は11月中旬を過ぎると続々南下するので、今がまさに見ごろです。よく問い合わせを受けるのですが、このエリアのガン類は十勝川本流の人がアクセスできない場所などに分散してねぐらを取り、観察地として有名な三日月沼、幌岡大沼などに日の出・日の入り時に行っても伊豆沼や宮島沼のような光景は見られません。それらはあくまでも昼間の休息地で、早朝から夕方まで農耕地(デントコーン畑、コムギ畑、牧草地など)での採餌と湖沼での休息を数時間おきに繰り返します(オオヒシクイは水域でも頻繁に採餌します)。その出入りの時にはこのような乱舞を目の当たりにできます。ですから、沼にいない時は周辺の農耕地を探してみると良いでしょう。ただし、牧草地も含め農地への立ち入りは絶対に控えて下さい。沼の近くで読書でもしながら戻って来るのを気長に待つのも手です。

ヒシクイ(亜種オオヒシクイ:右)とシジュウカラガン


 タンチョウやオジロワシはほぼ確実に見られ、11月に入ればオオワシも姿を現わし、11月前半までなら本気を出せば一日で70~80種の野鳥を見るのも難しくありません。ファミリーで、また出張などの移動の際にも十勝川下流域の鳥たちをお楽しみ下さい。

確認種:ヒシクイ マガン ハクガン シジュウカラガン オオハクチョウ オナガガモ クロガモ ドバト タンチョウ ウミネコ カモメ オオセグロカモメ トビ オジロワシ ノスリ コゲラ ハヤブサ ハシボソガラス ハシブトガラス ハシブトガラ ヒガラ シジュウカラ ヒヨドリ カワラヒワ カシラダカ オオジュリン (沼のチェックやスコープなし)

ハクガンを含む群れ
やや距離はあったものの半年ぶりの再開に胸も高鳴る。


(2016年10月30日   千嶋 淳)

十勝の自然83 ユリカモメのご馳走

2016-10-31 22:07:36 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
サケの卵を摘み取ったユリカモメ 2015年10月 北海道十勝川中流域)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年10月26日放送)

 毎秋、遡上するサケを追って、河口から50km近く離れた幕別町の十勝川千代田新水路にも多くのカモメ類が飛来します。多くは一年を通じて漁港や海岸で見られるオオセグロカモメですが、この時期には小型のユリカモメも少なくありません。カムチャツカ半島などで繁殖して本州以南で冬を越す、ハトとカラスの中間くらいの大きさのカモメで、北海道を春と秋、渡りの途中に通過します。赤やオレンジ色の細い嘴と足がよく目立ちます。

 新水路で観察しているとユリカモメは、中洲付近の浅瀬で死んだサケの肉や内蔵を食べるオオセグロカモメとは異なる餌の取り方をしているのに気付きます。何羽もが川の上をひらひらと舞いながら水中を伺い、ある一点から水面に向かって勢い良く飛び込みます。飛沫が上がり、力強く伸ばした翼や尾羽以外の体は水面下へ消えます。それも束の間。わずか数秒で再び豪快な飛沫を伴って飛び立った姿は、餌を捕まえたようには見えません。しかし、写真に撮って検証すると、嘴には小さなオレンジ色の球がくわえられています。サケの卵、イクラです。

 サケの死体は、ユリカモメの細い嘴には不向きなのでしょうか。あるいは食べたくても大型のオオセグロカモメに力で劣り、追い払われてしまうのかもしれません。身軽な体を活かした機敏な動きで川底に飛び込み、イクラをついばむのが、いつの間にか新水路では一般的となっていました。

 タンパク質や脂質に富むイクラは、繁殖地からの長旅を経て、更に南まで渡るユリカモメにとって、この上ないご馳走でしょう。イクラを心待ちにし、その恩恵に預かっているのは人間だけではなかったのです。

(2015年10月25日   千嶋 淳)


十勝の自然82 進化をめぐる二三の誤解

2016-10-29 14:15:05 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
アミメキリンの親子 2015年8月 北海道帯広市おびひろ動物園) 

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年10月21日放送)

 昨日ご紹介したカケスとドングリのように、一つの生物の変化が引き金となって別の生物も変わってゆくことを共進化(きょうしんか)といいます。共進化は生物間の複雑な相互作用をわかりやすく説明し、ユニークで面白いので、観察会や講演でも時々ネタとしていますが、進化について一般の方々の中に誤解の多いことをしばしば実感させられます。

 最も多いのが進化に目的があるという誤解。カケスとドングリの例ですと、ドングリがカケスに自身を運ばせて分布を広げる「ために」進化したと勘違いされがちですが、現在の関係はあくまで「結果」であって、それを目的に進化が起こったわけではありません。昔は軟らかいドングリや赤いドングリだって存在した可能性があります。しかし、それらは地面へ貯えるのに適していなかった、動物が好む味でなかったなどの理由で子孫を残すことができず、絶滅してしまったかもしれません。いま繁栄している生物の裏には、その何千、何万倍もの、化石すら残さず消えて行った系統があるのです。

 それと関連して、キリンが高い所の葉を食べるために何世代もかけて首を長くしたというような、親が獲得した有利な形質が遺伝しながらの進化もよくある誤解です。後天的に獲得した形質が遺伝しないことは科学的にも確かめられており、ダーウィンに始まる現代の進化論では、遺伝子の突然変異と自然選択(自然淘汰とも呼びます)が進化の原動力で、それらは偶然に左右される、目的や方向性のないものと考えられます。

 また、繁殖や闘争、その過程で時に見られる自己犠牲的な行動は「種の保存のため」というのも誤解です。多くの進化学者が自然選択の単位は種などのグループではなく、個体、ひいては遺伝子であり、一見利他的な行動も実はそれらを通じて自己の遺伝子を少しでも残そうとしているにすぎないとの説に同意しています。

 もっとも、進化には未解明の部分が多く、新しい発見や理論も相次いでいますから、今日のお話自体が数十年後には誤解となっているかもしれません。

(2015年10月20日   千嶋 淳)

十勝の自然81 カケスとドングリ

2016-10-28 08:53:49 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
ドングリをくわえて飛ぶカケス(亜種ミヤマカケス 2015年10月 北海道中川郡池田町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年10月20日放送)

 山から降りて来たカケスを、最近は平地でもよく見かけます。ハト大のカラス科の鳥で、赤茶色の頭や翼の青い部分の美しさは、とてもカラスとは思えないものの、「ジェージェー」というしわがれた声を聞くと確かにカラスの仲間と納得することでしょう。ちなみに英語でカケスは「Jay(ジェイ)」と言い、しわがれた鳴き声に由来する名前です。

 秋のカケスはカシワやミズナラのドングリが大好物。丈夫な足で実を抑え、嘴で堅い外側の皮を破って軟らかい中身を器用に食べます。種子を含む中身は鳥の体内できれいに消化されてしまい、植物には何のメリットも無いように思えます。

 ところがこの時期、カケスをよく見ていると、実際に食べるのと同じか、それ以上の努力を貯食(ちょしょく)に費やしています。口いっぱいに頬張ったドングリを、地中浅く埋めて枯れ葉をかけ、厳しい冬を乗り切る食糧とするのです。貯える数は多い時で1日300個、シーズン通しては4000個に達するといわれます。

 埋められた中には、鳥が死んでしまったり放置されたりして食べられず、そのまま春を迎え発芽するものもあります。これがドングリ側の狙い。従来、地上に実を落とすことでしか種子を広げられないと考えられていたドングリは、カケスに運ばれることで「翼のある種子」となって、50m~5kmと自身では不可能な距離まで分布を広げます。また、乾燥に弱いドングリは地上に落ちただけではうまく発芽できず、軽く埋められることで乾燥から免れるとの説もあります。

 こうして、ミズナラやブナと共生関係にあるリス、ネズミなど種子食の動物たちの中でも、空を飛んで種子を遠くまで運ぶカケスは、知らず知らずに森づくりに貢献しています。

(2015年10月19日   千嶋 淳)