鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

キマワリ

2006-02-28 21:33:10 | 鳥・一般
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Photo by Chishima,J. 
キバシリ 2006年2月 北海道帯広市)

 「キマワリ」とは多くの地方でゴジュウカラを指すようだが、群馬県の一部ではゴジュウカラは「キネズミ」と呼び、「キマワリ」の名をキバシリに当てているそうである。本種の行動をよく体現した、粋な名前だと思う。たしかに、キバシリが木の幹を上下している様を見ていると、木を走るというよりは幹の周囲をくるくる回りながら上下しているような印象を受ける。
 高校時代、この小さな鳥に憧れて群馬県北部の山岳地帯に広がる針葉樹林を歩いたものだが、会えずじまいだった。今思えば鳴き声くらいは聞いていたのかもしれないが、深いコニファーの森奥に住む隠者的なイメージに思いをますます募らせた。
 ところが、北海道に来たら平野部の林にも普通に分布しているのに驚いた。同じような例は他の種でもあり、本州中部以南だったら山地や高標高地で見られるアカゲラ、ノビタキ、アカハラ、ゴジュウカラ、ホオアカ、アオジなどが平野部でも普通に繁殖している。かといってモズ、シジュウカラ、ホオジロ、スズメなど本州の平野の鳥がいないわけではなく、同じような場所に生活している。これは、高緯度に位置する北海道では鳥類の垂直分布が本州よりも下降し、結果として山地の鳥が低標高地で平野の種と混在するという圧縮された形を示すからである。この圧縮された垂直分布は、国内では北海道にのみ分布・繁殖する種のいること(エゾライチョウ、ヤマゲラ、センニュウ類など)や本州以南では冬鳥の種が繁殖していること(オオジュリン、ベニマシコ、シメなど)などと併せて、北海道の鳥類相の重要な特徴である。

ノビタキ(メス)
2005年6月 北海道十勝郡浦幌町
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Photo by Chishima,J. 

ホオアカ(オス)
2005年6月 北海道中川郡豊頃町
草原には普通の歌い手であったが、近年見る機会が減少しているように思うのが心配である。
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Photo by Chishima,J. 

アオジ(オス)
2005年6月 北海道帯広市
繁殖期の北海道の平野部ではおそらくもっとも個体数の多い種で、私のいた大学ではスズメ呼ばわりされていた。
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Photo by Chishima,J. 

繁殖地(上)と越冬地(下)のオオジュリン
上:2005年6月 北海道中川郡豊頃町
下:2006年2月 千葉県船橋市
緑の草原で高らかに歌っていたオスも、冬はヨシ原でひっそりと採餌する。

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Photo by Chishima,J. 

 北洋からの寒冷な親潮に洗われる根室・釧路の沿岸域では、垂直分布の下降はさらに顕著になる。6月、海岸線まで広がる針葉樹の森に足を踏み入れると、そこはルリビタキ、コマドリ、キクイタダキ、ウソなどの鳴き声で溢れかえっている。メボソムシクイの不在を除けば、さながら本州中部の亜高山帯のようである。しかし、海霧とともに飛来したオオセグロカモメの物悲しい声によって束の間の錯覚は打ち破られ、そこが海抜0メートル地点であったことを思い出す。

ルリビタキ(オス)
2006年2月 群馬県太田市
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Photo by Chishima,J. 

オオセグロカモメ(成鳥)
2006年2月 北海道幌泉郡えりも町
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Photo by Chishima,J. 

 北海道に来て、垂直分布の下降によって身近になった鳥がいる一方で、会えなくなってしまった鳥たちもいる。夏のサシバ、コアジサシ、サンコウチョウや冬のジョウビタキ、シロハラなどがその典型であるが、関東人の僕にとって最も寂しいのはオナガの「ギューイ!」という喧騒が近所から消えたことである。

オナガ
2006年2月 群馬県伊勢崎市
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Photo by Chishima,J. 

(2006年2月27日 千嶋 淳)


マガモの越冬スタイル様々

2006-02-25 21:32:58 | カモ類
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Photo by Chishima,J. 
マガモのつがい 2006年1月 北海道帯広市)

 マガモは、ここ十勝ではもっともありふれたカモ類であり、一年を通して観察可能だが、その数は季節によってかなり異なる。春の渡りが一段落した後、各地の水辺に分散して繁殖していたマガモは、7月末から8月にかけて巣立ったばかりの幼鳥も含んだ群れで湖沼や河川に現れるようになる。その後、10月頃にはおそらく北方からの群れが大挙して押し寄せ、場所によっては数千羽規模の大群が見られるのもこの時期である。しかし、11月下旬の湖沼の結氷に合わせて、大部分の個体がより南方へ渡去してゆく。
 ただ、一部のマガモは南下しないで厳寒の十勝の地で冬を越す。そうしたものの中でもっとも多いのは、市街地やそれに近い河川の、主にハクチョウを対象とした給餌場に居ついているものである。このような場所は容易に餌が得られることにくわえて、人の近くにいることによって、オオタカやオジロワシなどの捕食者から身を守る機能も提供するだろう。最近では、ハクチョウは入らないほど小規模だが温排水で冬でも凍らない小池などでカモに餌を与える場所も増えてきており(個人の庭など私有地の場合が多い)、そうした場所もマガモで賑わっている。

オジロワシ(成鳥)
2005年11月 北海道十勝郡浦幌町
海岸部に多いが、サケや水鳥類を求めて河川沿いに内陸に入る個体もいる。
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Photo by Chishima,J. 

 先日十勝川の中流にある堰堤に出かけた。季節がら水面の大部分は結氷しており、水鳥はたいして期待していなかったのだが、堰堤が流れ落ちて流れの速くなっている部分に30羽ほどのマガモの姿を認めた。最初は休息しているだけだと思ったのだが、よく見ると堰の「壁」となっている部分にしがみつきながら、水底から何かを採餌している個体もいるのに気づいた。僅か数キロ上流にはハクチョウの餌づけで名高い観光地があり、そこでは数百羽のマガモが人間から餌をもらっているというのに、この少数のマガモが随分慎ましやかに見えた。

堰堤のマガモ
2006年2月 北海道十勝川中流域

堰堤下で休息する群れ
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落下部分で採餌する2羽
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Photo by Chishima,J. 

 冬期の十勝海岸には海上でマガモを観察できる場所が数ヶ所ある。クロガモなどと波間に浮き沈みしているその姿は、市内の給餌場で見るのとはまったく趣を異にしており、野性味に溢れている。昼間はひたすら波に揺られながら寝ているだけなので、夜間これらの個体が潮間帯など周辺で採餌しているのか、沢沿いに内陸まで入るのか明らかでないが、各地点とも数十羽しか見られないということは、環境の厳しさ‐それ以上の数はそこでは養えない‐を意味しているのだろう。

海上で休息するマガモの一群
2006年1月 北海道広尾郡広尾町
手前と最左はクロガモ
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Photo by Chishima,J. 

 こうしてみてみると、マガモという一つの種をとっても一年中同じ場所にとどまる個体、長距離の渡りをする個体などがいて、さらにこの十勝で冬を越す個体だけ考えても様々な生活スタイルのあることがわかる。堰堤や海上で越冬する、いわゆる少数派の出自やメンバーの安定性、採餌場所やそのような生活様式を持つことの利点などは興味深い疑問である。もっとも、給餌場で人から餌をもらって楽しているように見える「多数派」のマガモたちの大部分も、日没とともにそこを飛び立って索餌に出かけてゆくようなので、この凍てつく大地で一冬越すというのはやはり大変なことであるに違いない。

マガモの飛翔
2006年2月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

帯広近郊で越冬するカモ類

コガモ
2006年2月 群馬県前橋市
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ヒドリガモ
2006年1月 北海道帯広市
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オナガガモ
2006年1月 北海道河東郡音更町
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キンクロハジロ
2006年2月 北海道帯広市
最奥はマガモ
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ホオジロガモ(オス)
2006年1月 北海道河東郡音更町
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ミコアイサ(オス)
2006年2月 北海道帯広市
周囲はマガモ
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Photo by Chishima,J. 

(2006年2月21日   千嶋 淳)


ナナカマド食堂の賑わい

2006-02-24 23:56:28 | 鳥・冬
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Photo by Chishima,J. 
ナナカマドから飛び立つツグミ 2006年2月 北海道帯広市)

 ともすれば寂しい感傷を引き起こしそうになる秋の街角を、紅葉で色鮮やかに染め抜いた街路樹のナナカマドは、秋の深まりとともに葉を散らしてゆくが、それだけでは終わらない。葉と同じく鮮やかな赤色の実は初冬の街路を彩り、降雪後には青空と白い雪を頂いた朱色の実の対比が、冬の北海道の美景の一つを演出する。

 初冬の街角には欠かせないナナカマドの実であるが、美味しくないのか、それとも有害な成分でも含まれているのか、この時期の鳥たちにはほとんど見向きもされない。12月上旬はまだ多くの鳥がより北方や山地にいるので、市街地にいる鳥自体が少ないのも事実であるが、晩秋あたりからいち早く街を賑わすヒヨドリでさえも、この時期のナナカマドにはまず寄らない。

ヒヨドリ
2006年2月 東京都江戸川区
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Photo by Chishima,J. 

 それが新年を迎え、正月気分も抜ける頃からヒヨドリやツグミで賑やかになってくる。熟成を経て美味しくなるのか、あるいは有害な成分が分解・減少して晴れて可食になるのか、はたまた実自体には何の変化もないが餌が乏しくなってきて背に腹は変えられぬという事情なのかは分からないが、とにかく掌を返したように彼らはナナカマドの実を摂食し始める。ツグミは年により渡来数が著しく異なるが、今年のように渡来数の多い年には町中ツグミだらけという状態になる。そして、これも年によって状況の変化が激しいが、概ね1月下旬から2月上旬、レンジャクの群れが加わると、ナナカマド食堂は最盛期を迎える。

ツグミ
2006年2月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

キレンジャク
2006年2月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

 10日ほど前、家の近所の長さ数百メートル程度のナナカマド並木は、200羽前後のツグミをはじめ、80羽ばかりのキレンジャクと数十羽のヒヨドリで大混雑の様相を呈していた。   その時点ですでにかなりの量の実が食われていたために、鳥たちの食事法の一工夫を観察するのは、なかなかに面白かった。キレンジャクはツグミやヒヨドリに比べると体が軽いので、それらの止まれない細い枝先などで一生懸命バランスを取りながら、まだ残っている実を採餌していた。ツグミにはそのような細かな芸当はできないため、また別の食べ方を編み出していた。実が生っている細い枝先の下の、やや太い枝から狙いを定めて飛び上がり、実をくわえとって下の枝に帰ってきて食べるという「ジャンプ式採餌」である。また、ツグミは通行人の隙を見計らっては、地面に落ちた実を回収することにも余念がなかった。

バランスを取りながら(キレンジャク
2006年2月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

ツグミの「ジャンプ式採餌」
2006年2月 北海道帯広市

狙いを定めて…
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えいっ!
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ゲット!
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やっと食べられる
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Photo by Chishima,J. 

 これは面白い場所が近所にできたわいと喜んだものの、直後風邪に倒れ、観察は一週間近い断念を余儀なくされた。そして回復して数日前、ナナカマド並木を再訪すると、木は一見してほかの冬枯れの街路樹と区別がつかないまでにきれいに実がなくなり、あとには僅か20~30羽のツグミと膨大な量の食べかすが残されているだけだった。いくらたわわに実った実とはいえ、数百羽の鳥が終日寄ってたかって食べていたのでは、そう長くはもたない。かくしてナナカマド食堂「1店舗」あたりの賑わいは短く、鳥たちは2号店、3号店を求めて市内のほかの通り、あるいはほかの地域へと移動してゆくのである。

雪の降る日も…(キレンジャク
2006年2月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

(2006年2月19日     千嶋 淳)


人馴れしたカワアイサ

2006-02-23 23:06:34 | カモ類
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Photo by Chishima,J. 
カワアイサのオス 2006年2月 北海道帯広市)

 カワアイサは大型のカモ科鳥類で、日本では本州以南に冬鳥として渡来する(南西諸島ではまれ)ほか、北海道では繁殖するものもあり、一年を通してみられる。湖沼や河川、浅海などで潜水して魚類を捕食するため、それに適した流線型の体や細長くて鉤状の嘴を有しており、系統的に縁が無くても生活上の要求が近似するがゆえに形態が類似する収斂(しゅうれん)進化の実例として、ウ類とよく対比させられたりもする。

カワウの飛翔
2006年2月 群馬県前橋市
嘴や首、体型などがアイサ類に似るが、ウはペリカン目、アイサはカモ目で、系統的な関係は遠い。
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Photo by Chishima,J. 

 群馬にいた時分、冬鳥の本種を観察するには利根川の川原や大きめのダム湖など「それなりの」場所へ出かけたものだ。しかも、たとえば利根川原などでもほかの多くのカモ類がいる中州や流れの緩やかな淵ではなく、決まって流れの早い瀬で1~数羽が赤城おろしの吹きつける川面で潜水を繰り返すその姿は、人間社会とはかけ離れたストイックな存在を思わせるものがあった。

急流を泳ぎ下るカワアイサのメス
2006年2月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 


 十勝に来てから、カワアイサは身近な鳥の一つとなった。十勝川や札内川をはじめ河川が多く、営巣可能な樹洞を持つ木もそれなりにあるからだろう。真夏の候、涼を求めて仲間と組んだ手作りの粗末な筏での川下り。水面を一目散に駆けてゆく換羽中(=飛べない)のカワアイサの一群に歓声(蛮声?)を上げたこともあった。それでもやはり、人間の生活圏とは一線を画した「河川の鳥」のイメージが強かったように記憶している。

川面を一列に飛翔するカワアイサの小群
2005年10月 北海道十勝川中流域
十勝川や札内川の中流域ではマガモとならんで、あるいはそれ以上に数の多いカモ類。
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Photo by Chishima,J. 

 それが1990年代の後半くらいからだろうか、市街地の河川や都市公園の池など人の近くにも現れるようになった。街中の水辺で付き物なのは人間に餌付けされたカモ類(十勝ではマガモやカルガモの場合が多い)だが、最初はそれらとはやや距離を置いて居心地の悪そうにしていた本種も、じき人から餌をもらうようになっていた。このような場所で人からもらう餌というのは、勿論パンや米である。潜水して魚を捕えるはずのカワアイサが人の手からパンをもらっている!そのこと自体かなり衝撃的だったが、当初それを行なうのは特定の1~2個体で餌のもらい方も人の足元に密集するマガモ、カルガモ軍団の背後の水面で余剰の餌を控えめに食べていたのが、いつの間にか人間の投げたパンを直接キャッチする大胆な個体も現れるようになった。さらに、本来は潜水向けに体の後方に付いた脚で陸上を不器用に歩きながら、マガモなどと同じく人間の足元で餌をせびる行動を見せるようになるまでに、そう時間はかからなかった。あたかも海水で芋を洗う行動がニホンザルの集団に広まるような感じで、人馴れしたカワアイサの数は増加し、初期にその行動がみられた場所では多い時で10羽近くが餌付けに依存しているし、市内各地の小河川や池でも、とりわけカモ類の餌付けを行なっている場所では、本種の姿は普通である。

カモの給餌場に現れたカワアイサのオス
2006年2月 北海道帯広市
周囲はマガモ
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Photo by Chishima,J. 

同じくカワアイサメス
2006年2月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

給餌場の水鳥たち
2006年1月 北海道河東郡音更町
オオハクチョウとカモ類(マガモ・ヒドリガモ・ホオジロガモ)が写っている。かなりの数が人間による餌づけに依存して越冬している。
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Photo by Chishima,J. 

 それでも落陽の残照に一抹の暖かさが感じられる早春になると、つがいで過ごす時間が増加し、繁殖期までには姿を見せなくなるのだから、したたかなものである。まったく野生の鳥というのは、人間に生活を脅かされながらも、否だからこそ人間をよく観察しているのだと思う。帯広近郊のカワアイサの「都市鳥化」は、今後どこまで進んでゆくだろうか。

海上を飛翔するカワアイサの群れ
2006年1月 北海道中川郡豊頃町
本種は大きな群れを作ることは少ないが、晩秋から初冬にかけて、結氷直前の湖沼や波の穏やかな海上などで、数百羽にものぼる大群を形成することがある。
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Photo by Chishima,J. 

カワアイサ(オス)の飛翔
2005年4月 北海道十勝川中流域
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Photo by Chishima,J. 


(2006年2月15日   千嶋 淳)


散歩道

2006-02-17 08:14:44 | 鳥・冬
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Photo by Chishima,J. 
ヒヨドリ 2006年1月 北海道帯広市)

 冬の室内作業で鈍ってしまった体を戒めるのと新しいカメラの試写を兼ねて、このところ近所の川べりを1,2時間歩くのを慣わしとしている。この川は以前カケスのエピソード(「オ、オソーイ!」)で登場した売買川なのだが、カケスの人真似に抱腹絶倒した地点よりはずっと下流で、住宅地の中に位置するため、残念ながら見られる鳥は種・数ともずっと少なくなる。それでも、身近な小鳥たちの厳冬期の暮らしぶりに親しむには十分素晴らしい場所であることを、日々の散歩を通じて実感しつつある。


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冬の散歩道
2006年1月 北海道帯広市
長靴やクロスカントリー・スキーの跡、キツネやイヌの足跡が、堤防伝いに雪原を進んでゆく…。
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Photo by Chishima,J. 

 ある晴れた朝、いつものように歩いていると、ほとんど凍結した川面と河畔のヤナギの間を何羽ものヒヨドリが往来しているのに気付いた。怪訝に思って観察していると、水浴びであることが分かった。その下には滔々と水が流れる川の、氷に開いた微小な穴を利用しての水浴なので、まるでカワセミが魚を捕らえる時のように勢いよく水に飛び込み、体を一震わせしては河畔の木に舞い戻る。「烏の行水」ならず「ヒヨドリの行水」である。最高気温が0℃を超えることのない、真冬日の続く日々の出来事であったが、どんなに寒かろうと己の羽毛を維持するために、僅かな水面を見つけ出して水を浴びる健気さに驚嘆と感動を覚えた。

ヒヨドリの水浴び
2006年1月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

 同じヒヨドリたちが、今度は数本のヤマモミジの木で「ヒィーヨ! ヒィーヨ!」と賑やかに鳴き合っていた。最初はただ偶然そこに居合わせただけと思ったのだが、そうではないらしい。あるものは木の股に止まり、また別の個体はホバリング(停空飛翔)をしながら樹幹の特定の部分をついばんでいる。別に実がなっている訳でもない、ただの木の幹である。一体何をしているのかと改めて注視してみると、どろっとした液状、或いはそれが凍結したものがべっとりと付着して、照り輝いているのを認めた。どうやら樹液を舐めているものと思われる。確かに、ただでさえ餌が不足しがちな厳冬期に、糖分を豊富に含んだ樹液は滋養に満ちた魅力的な食材だろう。元来ヒヨドリは甘いものが大好物で、餌台等でも砂糖水やオレンジジュースを好んでやまない。

樹液(?)をついばむヒヨドリ
2006年1月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

 そういえば周辺にはいつもカラ類も多いなと思って注意を払っていると、カラ類も皆樹液の恩恵に預かりに来ているようだ。最初は樹幹の内部で越冬している昆虫等を捕食しているのかと思ったが、特に樹皮を剥ぐような素振りも見せず、むしろホバリングを巧みに駆使しては表面から何かをついばむか、こそぎ取っているようにしか見えない。「樹液レストラン」は大寒の候でも温暖な地域へ移動せず、凍てつく極寒の大地で頑張っている小鳥たちにとって、一種のオアシス的存在といったところか。もっとも、樹幹から出ている液体が樹液であることは確認していないし、葉も完全に落としたこの時期の木が、果たして鳥たちを賄うのに十分な量の樹液を分泌できるのだろうかという疑問は未解決であるが。

シジュウカラ
2006年1月 北海道帯広市
人間の生活圏にもっとも近いカラ類で、住宅地でも普通。
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Photo by Chishima,J. 

ハシブトガラ
2006年1月 北海道帯広市
河畔のヤナギ林など明るい林に多い。
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Photo by Chishima,J. 

 散歩道の常連の中には、「樹液レストラン」の常連ではない顔ぶれもいる。その筆頭はゴジュウカラだろうか。いつも木の実を樹皮の間に、のみのような嘴で打ちつけて貯食することに余念がない。見ている限り、日中のかなりのエネルギーを貯食に費やしているようだが、ああやって隠された実のうち、どれほどが後に本人の口に入るのか甚だ不思議である。エナガはあまりに忙しくて、常連か否かの判断もできかねている。いつも群れで突如として現れた彼らは、その愛らしい顔も相まってこちらが見とれているうちに、出現時と同じくいつの間にか気配すら無くなっているのが常である。

ゴジュウカラ(亜種シロハラゴジュウカラ)
2006年1月 北海道帯広市
貯食中の1枚。本州以南では山地の鳥だが、こちらでは平地でも普通。
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Photo by Chishima,J. 

エナガ(亜種シマエナガ)
2006年1月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

アカゲラ(亜種エゾアカゲラ 雌)
2006年1月 北海道帯広市
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Photo by Chishima,J. 

(2006年1月28日   千嶋 淳)