All Photos by Chishima,J.
(ハシブトガラス 2008年12月 北海道十勝郡浦幌町)
「カラスは何色?」と尋ねられれば、大方の人は即座に「黒」と答えるだろう。そして、心の中では「黒に決まってるじゃないか、何を聞いてるんだ」と思うかもしれない。しかし、文頭写真のハシブトガラスをよく見ると、背から翼にかけて紫、緑、青色の光沢を帯びているのに気付くはずである。これは、構造色が光の加減で見事に発現したものである。
鳥の羽色は、羽毛内に含まれる色素によるものと、羽毛の微細な構造に光が当たって干渉や屈折が起こることによって生じる色、ならびにその両者が組み合わさったものから成るが、後2者は「構造色」と呼ばれる。構造色は青、緑、紫系の色に多く、カワセミのコバルトブルーやオオルリの濃青色、ブッポウソウの緑色光沢などは、いずれもそれである。光の働きによって生じる色であるため、光の当たり方や強さによって、まったく異なった色に見える。マガモのオスの頭部が、晴天の順光下では緑色なのに、逆光や曇天の下では黒っぽく、あるいは紫がかって見えるのは、鳥を見ている人間なら覚えのあることだろう。また、羽毛の微細構造であるため、それらが壊れてしまうと色は出ない。長期間飼育下に置かれたオオルリのオスは、鳥かごによる摩耗で微細構造が物理的に破壊され、黒っぽくなってしまうという。
オオルリ(オス)
2007年5月 北海道帯広市
マガモ
2008年12月 北海道帯広市
手前のオス(「反り縮み」ディスプレイの最中)は、光が当たって顔の緑色光沢が大変目立つ。
マガモ
2008年3月 北海道河東郡音更町
左はオスの生殖羽だが、逆光・日陰のため顔は黒っぽく見える。
これからの季節、構造色を身近に体感できるのはやはり水辺だ。日々生殖羽に近付き、鮮やさを増してゆくカモ類のオスが格好の観察対象となる。上述のマガモはもちろんのこと、ヨシガモやハシビロガモ、コガモなどの緑色はわかりやすいし、それらがいなければカルガモ、ヒドリガモなど青・緑色系の翼鏡を持つカモ類でもよい。下の3枚の写真は、いずれも同じ日の同一時間帯に撮影した、同じヨシガモのオスである。しかし、特に顔の色は光の当たり具合によってまったく異なって見える。ある角度ではマガモのような緑色であり、光の射さない状態では黒色である。そして光の入射角度が異なると、顔の半分以上がワインレッドのような紫色を呈する。
このような変幻自在の自然界の妙に感心するのも、鳥たちと付き合う魅力の一つであろう。鳥見の楽しみは、珍鳥を追いかけ、ライフリストを増やすことばかりにあるのではない。
ヨシガモ(オス)3変化
2007年2月 北海道中川郡幕別町
(2008年12月31日 千嶋 淳)