鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

意外にも保護色

2009-05-19 12:29:56 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
オシドリのオス(左)とメス   以下すべて 2009年4月 北海道十勝管内)


 年度末から抱えていた幾つかの仕事を、年度が変わった後も「3月4X日」な気分で続け、それらが漸く一段落した頃には季節はすっかり巡ってしまっていた。エゾアカガエルにしてもそうだ。何度かあの陽気な高音を耳にしていたが、気が付けば産み付けられた卵塊はオタマジャクシとなり、成体はすっかり姿を消していた。それでもカエルを見なければ春を飛ばして初夏になってしまうとばかり、山中の池に出かけて行ったのは明日からもう五月という暖かい、というより少し暑い日の午前中だった。
 池の周りでは、到着したばかりのエゾムシクイやセンダイムシクイが高らかに囀っていた。「はや此処も初夏か」と焦ったが、寒冷なため平地より繁殖ステージの遅いこの池では未だ多くのカエルが恋の季節を謳歌していた。突然の闖入者にしばし静寂に包まれた池も、十分もすれば彼らの歌声で満たされ、隠れ家から姿を現したカエルがあちこちで抱接し、或いは諍い合っている。取り戻された喧噪の傍らで、私はしばし時を忘れ、観察と撮影を続けた。

エゾアカガエル

卵塊上の2頭
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抱接中
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 昼も近いことを腹の知らせで知り、引き上げることを決めた。林道の所々に黄色の鮮やかさを失いかけたフクジュソウが頭を垂れている。カエルとは別の池の水面に、オシドリのオスの姿が1羽あった。この池は数年前に、数羽のオシドリによる争いやディスプレイという興味深い行動を観察した場所でもある。そっと車を止め、彼の動向を見守る。繁殖を目前に控えた今、彼の羽衣は橙色を基調とした派手やかさに満ち、銀杏羽も立派なものである。
 彼が上陸した。と、別のオスが付近から飛び去った。上陸したオシドリの先には1羽のメスの姿。2羽は合流し、湖岸に積もった落葉を踏みしめて歩き始めた。その時驚いたのは、先程水面ではあれほど目立っていたオスが、褐色の枯葉の中では意外にも浮き立っていないことであった。2羽はますます歩を進める。オスの体の半分が付近の木や岩の陰に入り、残り半分を、昼過ぎの太陽が照らす。光に射られた脇の淡い橙色は背後の枯葉と同化し、より鮮やかな色彩の部分は上手いこと陰に隠されている。見事だ。その後湖岸の斜面を登って行った時には更に背景と溶け込み、とっくに景色の一部と化しているメスと合わせて、知らなければ気付かずに通り過ぎてしまうだろうくらいであった。


林床のオシドリ・オス
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斜面を登るオシドリのオス(左)とメス
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 自然界においては一見派手すぎる生殖羽のオシドリのオスが、常緑照葉樹林に被覆された水面に入り込むと思いのほか目立たないのは、観察したこともあり知っていた。しかし、下草も葉による隠蔽も無い北海道の春の森で、かくも見事な保護色を呈することには感心せざるを得なかった。自身の繁殖成功を重視するあまり、一見生存とは逆方向に進化してしまったかに見える派手な羽衣も、実は長い種の歴史の中では生存者の遺伝子を受け継いだものなのである。


オシドリ(オス)
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(2009年5月12日   千嶋 淳)


洋上観察会

2009-05-08 14:01:51 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
ハシボソミズナギドリ 以下すべて 2009年5月 北海道十勝郡浦幌町)

日本野鳥の会十勝支部ブログ2009年5月7日より転載)

 この連休は花見やそれにかこつけた宴で、グータラな日々を送ってました。その間にも季節は着実に初夏に向かっているようで、近所の高台ではエゾヤマザクラの薄紅色と新緑が織り成すコントラストが目に眩しいです。そんなグータラな日々の中、5月3日は浦幌野鳥倶楽部が主催する、洋上観察会に参加させていただきました。この観察会は、普段は釣り船として客を乗せている船をチャーターして20㎞くらい沖まで出してもらい、陸からは観察しにくい海鳥を観察しようというイベントです。去年も同じ日に行われ、やはり参加させていただいたのですが、濃霧と高波のため、ほとんど鳥を見ることもなく、途中で引き返すことになってしまいました。


 
 朝、港に集まると去年のような霧も無く、波も穏やかなようです。地元浦幌のほか池田や幕別、清水などから集まった有志8人を乗せた船は、沖を目指します。出港すると間もなくウミスズメやシロエリオオハムなど、普段は海岸から望遠鏡を使わなければ観察できないような鳥が間近に出現し、一同の期待は高まります。
 この後、およそ4時間に渡って海上で鳥を探しました。結論から言うと、鳥影は薄めで、船頭さんからも「こんなにコアホウドリが少ないのも珍しい」とまで言われてしまいました。それでも、いつもは点のような距離でしか観察できない海鳥を、近くで観察できたのだから、十分楽しい航海でした。この日多かった鳥の一つは、ハシボソミズナギドリでした。本種が時々形成するような、雲のような大群には出会えなかったものの、数十~百羽ほどの群れが何度も舳先を横切り、その度甲板は歓声に包まれました。この小型のミズナギドリは、初夏の道東沖では数多く見ることができる海鳥ですが、実は南半球からの長距離旅行者です。オーストラリアのタスマニア周辺で、南半球の夏(=北半球の冬)に繁殖し、北半球の夏(=南半球の冬)を北太平洋やベーリング海、オホーツク海など栄養豊富な北の海で過ごすために、はるばる赤道を越えてきたのです。
 この日目立ったもう一つの鳥は、カモたちでした。それも海ガモではなく、いつもは川や沼にいるカモたちです。ヒドリガモやコガモ、マガンなどが編隊を組んで海上を飛んで行く姿を、何度も見かけました。朝に十勝を飛び立った彼らは、夕方までにどこまで飛んで行くのでしょうか?
 昼に陸に戻った後、鮭のチャンチャン焼きや北寄貝の刺身、灯台ツブの煮付など地物の魚介類を頂きながら、鳥談義に花を咲かせた後、解散しました。船頭さんの話では、夏にはイルカ(カマイルカでしょうか?)の大群が見られることもあるとのことで、その時期に沖に出てみるのも楽しそうです。海の鳥や獣は、陸のそれらに比べていつ、どこに何がいるといった基本的な情報すらわかっていないものが多くあります。今後このようなイベントが各地で盛んになり、そうした基本的な情報が蓄積されてゆけば北海道の海鳥・海獣の保護にも役立つのではないかと思います。

この日、海上で観察された種類は、以下の通りでした。

鳥:アビ、シロエリオオハム、コアホウドリ、ハシボソミズナギドリ、ウミウ、ヒメウ、マガン、コガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、スズガモ、クロガモ、シノリガモ、トウゾクカモメ、ユリカモメ、オオセグロカモメ、ワシカモメ、シロカモメ、カモメ、ウミネコ、ハシブトウミガラス、ウミスズメ、コウミスズメ、ウトウ。獣:アザラシ類(種不明)。


ウミスズメ
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コアホウドリ
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 最後になりましたが、忌野清志郎さんのご冥福を、心からお祈り申し上げます。

(2009年5月7日   千嶋 淳)


狭間

2009-05-02 14:15:03 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
ミコアイサのオス(右下)に襲いかかる2羽のオジロワシ 2009年4月 北海道十勝川下流域)


 沼面を渡る暖かい風が、心地よく頬に吹き付ける。愈々芽吹き始めたヤナギの枝上で、アオジが朗々と歌を奏でる。時折思い出したように、風はアカエリカイツブリの求愛の歌を運んで来る。大地が褐色から淡い緑を帯び始めた4月下旬、一年で最も心躍る季節でもある。突然、沼のあちこちでカモが舞い上がった。コガモ、ヨシガモ、キンクロハジロ、ミコアイサ…、こんなに居たのかというくらい水面から、抽水植物群落の中から、飛び出して来る。ただならぬ気配に周囲を見渡すと、水面に1羽のオジロワシの成鳥が浮かんでいるのに気が付いた。
アオジ(オス)
2009年4月 北海道中川郡池田町
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 獲物を捕らえたのか?沼全体を包んだ緊張感が、私の神経をも鋭く刺激する。数十秒後、飛び立ったオジロワシの脚には何も掴まれていなかった、どうやら、際どいところで難を逃れたようだ。近くの水面に、オスのミコアイサが浮かび上がった。狙われたのは彼だったのか。と、オジロワシは反転し、再度ミコアイサに突撃する。ミコアイサは慌てて潜る。また浮上したミコアイサに、今度は別方向からオジロワシが急降下をかける。オジロワシは2羽いたのだ。2羽のワシは、ミコアイサに対して執拗な攻撃を加える。ミコアイサは潜水することによってそれを逃れるのだが、オジロワシは2羽で代わる代わる、浮上した瞬間に襲いかかるものだから、いくら潜水の名手といえど浮上の間隔は短くなる。
1羽のオジロワシが水中に飛び込んだ。そのままじっとしている。捕まえたか?しかし、飛び立ったワシの脚にミコアイサの姿は無かった。どうやら巧みな潜水技術で、ワシをかわしたらしい。2羽によるアタックが再開される。ミコアイサが浮上する度、これでもかというくらいの急降下。更に数回の、水面への飛び込みがあって、死の気配を嗅ぎつけたトビまでも周囲を旋回し始め、もはや形勢はオジロワシに傾いたかと思われたが、ワシの1羽が沼から飛び去り、次いで沼畔のヤナギで羽を休めたもう1羽もいなくなった。過剰な潜水で疲弊したミコアイサは、羽ばたきと水浴びを繰り返していた。攻撃開始から10分弱、水面への飛び込みはオジロワシにとっても結構な負担だったようで、ミコアイサは一命を取りとめた。


生死を賭した闘い(オジロワシミコアイサ
2009年4月 北海道十勝川下流域

ミコアイサに狙いを定めるオジロワシ。
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ミコアイサは潜水してワシの攻撃をかわす。
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1羽が水中に飛び込んだ。
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トビ(上)が加わって、「死」が迫って来る瞬間。
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 10年以上前になるが、冬に根室の落石港で同じような状況で、ウミアイサのメスが狩られたのを観察したことがある。その時も2羽の成鳥のオジロワシは、浮上して来るウミアイサに、代わる代わる執拗な攻撃を加え続けた。初めは長かった潜水間隔が短くなり、ウミアイサの体力が消耗してゆくのがこちらにも感じられた。30分ほど経ったろうか、頻繁に浮上するようになったウミアイサはオジロワシの頑強な脚に掴まれ、そのまま防波堤の上で解体・捕食された。


ウミアイサ(メス)
2009年2月 北海道目梨郡羅臼町
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 この2例を鑑みると、ミコアイサは助かったのにウミアイサは命を落とした。そのことに、自然界での生と死というものは本当に紙一重で、ちょっとしたタイミングや条件の違いでどちらにでも傾くものなのだなという思いを抱かざるを得ない。平静を取り戻し始めた沼縁で、渡って来て日の浅いノビタキのオスが高らかに歌っている。紙一重の脆弱な世界の中で、私も彼も今は確かに生きている。


歌うノビタキのオス
2009年4月 北海道中川郡池田町
背後にはまだ真っ白な日高山脈。
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*上記2例でのオジロワシ成鳥2羽は、つがいと考えられるものの、本種は配偶関係に無い複数羽が共同で狩りをする場合もあり、実際今年3月には若鳥3羽が共同でオオセグロカモメを攻撃するのを観察しているため、断定はできない。


(2009年5月2日   千嶋 淳)


沖縄本島での7日間~やんばるエコツアー+αな日々(後編)

2009-05-02 10:47:08 | 
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All Photos by Chishima,J.
ヒカンザクラの花にやって来たメジロ(亜種リュウキュウメジロ) 2009年1月 沖縄県国頭郡国頭村)


(文章は、日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより」166号(2009年4月発行)より転載、一部加筆・修正前編中編

1月24日:午前6時半、早朝探鳥会へ。冬の沖縄の朝は遅く、まだ真っ暗である。やんばるの森へ向かう道中、空が白んでくる。ヤンバルクイナが見れそうな場所を中心に数か所を回ったが、どこへ行ってもバスを降りると頗る寒い。凍えるほどだ。最初はオーバーな格好に見えたOさんの、十勝と同じ緑のダウンコートが、実は一番の勝者であった。ヤンバルクイナは一部の人が一瞬見ただけだったが、シロハラクイナやリュウキュウハシブトガラス(この固有亜種のカラスは、中・南部では非常に見づらい)を堪能した。一旦宿に戻り、泡盛片手の朝食後、再度やんばるの森へ。相変わらず寒い。それでもメジロ(亜種リュウキュウメジロ)やヒヨドリ(亜種リュウキュウヒヨドリ)が、ヒカンザクラの濃いピンク色の花に群がっているのを見ると、あぁ此処は南国なのだなと実感する。
ハシブトガラス(亜種リュウキュウハシブトガラス)
2009年1月 沖縄県国頭郡金武町
九州以北の亜種に比べると、かなり小型である。八重山諸島の亜種オサハシブトガラスは、更に小さい。同一種内の亜種は北に行くほど大型化するという、ベルクマンの法則に合致する。
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 やんばるの林道は立派だ。これは褒めているのではない。林道の規模を遥かに超えて、舗装・拡幅されている。この国はどこかで金の使い道を誤ってしまったようだ、だからこそ、今回のような大人数のバスツアーでもアプローチできるのは皮肉な話である。昼食は、大宜味村で香友会会員の金城笑子さんが営む「笑味の店」で、伝統的な地元の食材をアレンジした「長寿膳」を頂く。金城さんから料理の説明を受けながら、地元のシークワーサーを随所に生かした料理の数々に、大きな御膳も瞬時に参加者の胃に収まっていく。午後は芭蕉布の里として名高い喜如嘉を訪れる。イグサなどの湿田が広がる、どこか懐かしい感じのする田園地帯だ。今回のもう一人のガイドである、野鳥の会本部の安西英明さんがリュウキュウヨシゴイを見つけ、皆で観察する。安西さんはどこでもいち早く鳥を発見し、それをただ見せるだけではなく、ユニークなトークで生態系やその保護にまで熱く語られ、一同は安西ワールドに惹き付けられた。喜如嘉の後は、久高さん方の活動の拠点となっている、「やんばる学びの森」に移動。樹冠部がブロッコリーのように広がる照葉樹林の中に設置されたトレイルを歩きながら、森やそれを取り巻く活動についてレクチャーを受ける。ここでは、姿こそ見れなかったものの、ヤンバルクイナやノグチゲラ、アカヒゲの声を間近に聞くことができた。
 日没を迎え宿に戻り、昨夜と同じく居酒屋「シーサーズ」へ。ここの料理は本当に美味しい。当然酒も進むが適当なところで切り上げる。今晩は、森へのナイトツアーが待っているのだ。森では久高さんが事前に見つけておいてくれた、樹上で休むヤンバルクイナを見に行った。驚かさないため、2班にわけて見学に行ったところ、先発部隊はしっかり見れたようだが、僕の加わった後発隊では、木から下りる後姿を一瞬見られただけだった。こればかりは野生の生き物を対象としている以上仕方無い。一度に大勢が見に行って、塒を放棄されるより余程良い。何しろまた行くための、口実ができたではないか。宿に戻ったら近所の寿司屋へ繰り出そうかなどと、一部飲兵衛の間で囁いていたのだが既に閉まっており、おとなしく眠りに就いた。


「長寿膳」の解説をされる金城さん
2009年1月 沖縄県国頭郡大宜味村
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イグサ畑の中のリュウキュウヨシゴイ(メス)
2009年1月 沖縄県国頭郡大宜味村
国内では南西諸島だけに生息する本種は、広く東南アジア方面まで分布する。このような分布パターンは、ムラサキサギ、リュウキュウツバメ、キンバト、シロハラクイナなどにも共通する。
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やんばるの照葉樹林
2009年1月 沖縄県国頭郡国頭村
イタジイを中心とする亜熱帯照葉樹林。
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1月25日:泡盛を片手に朝食(ごく一部のメンバーだけです、念のため)後、ホテル発。途中、許田の道の駅で土産を買ったりして、東シナ海を右手に見ながら国道58号線を南下する。午前9時過ぎ、金武に到着。相変わらず鳥が多く、見ていて飽きることが無い。続いて目指すは、那覇市の漫湖干潟。ここはペリー提督が来航した時代にはたいそう風光明媚な土地だったらしいが、現在では住宅地やビル街に囲まれ、何本もの橋が湖面を横断している。まず環境省の水鳥・湿地センターを見学し、標本や展示、映像等を通して干潟について学んだ。次いで干潟に出る道を歩き、マングローブや干潟を間近で体験すると同時に、ズグロカモメ、ダイシャクシギ等を観察できた。Iさんの友人の方(沖縄在住)に、御自身で作っているというサトウキビを頂き、移動のバスの中で齧ってみる。確かに甘い。そうしているうちに次の目的地、那覇の「てんtoてん」に到着していた。この、沖縄らしい入り組んだ住宅地の中にあるお店で昼食。木灰すば(沖縄そば)、古代米おにぎり、田イモを使った料理など、そのどれもが美味しかった。当然ビールも進む。食事後は今回の目玉の一つ、沖縄に古くから伝わるものの近年は途絶えていたという、ブクブクー茶の登場。香友会沖縄支部長の安次富順子さんに立てていただいたお茶を賞味する。相次ぐ豪華メニューにしばし時を忘れ、しかし飛行機の時間は着実に迫っており、クロツラヘラサギの観察は諦めて空港へ急ぐ。この辺りから、ようやく馴染んできた沖縄を離れる寂しさと、鞄に残っていた泡盛の処理を兼ねて飲み続け記憶が曖昧であり、これ以上詳述できないのが残念である。何はともあれ無事帯広に戻って解散し、ツアー前を含めると一週間の旅程は終了した。


ズグロカモメ(冬羽)
2009年1月 沖縄県豊見城市
九州や沖縄では干潟や河口で普通に見られる本種も、世界的には東アジアに数千羽が生息するだけの希少種。
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ブクブクー茶
2009年1月 沖縄県那覇市
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 ツアーへの参加は、費用の問題もあって直前までかなり悩んだが、やはり参加して良かった。「2泊3日で10万円は高いのでは」と言う人もいた。確かに、個人旅行で行けばツアーよりはかなり安く抑えられるだろう。しかし、今振り返ってみると久高さんや安西さんのような、長年地元で活動されてきた方にしかできないガイドを受けれたこと、長寿膳やブクブクー茶といった伝統食に出会えたことなど、個人旅行ではできえぬ経験をできて、参加費はむしろ安かったくらいではないかとさえ思っている。こうして文章を綴っていたら、琉球での濃密な日々が脳裏を過り、感傷的な気分になってきた。泡盛はまだ残ってたかなぁ…、ロックで一杯飲ろうかなぁ、遠くない再訪を夢見ながら。


鳥見に興じる参加者たち
2009年1月 沖縄県国頭郡国頭村
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(完)


(2009年4月10日   千嶋 淳)


沖縄本島での7日間~やんばるエコツアー+αな日々(中編)

2009-05-01 14:27:37 | 
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All Photos by Chishima,J.
アミハラ(シマキンパラ) 2009年1月 沖縄県普天間市)


(文章は、日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより」166号(2009年4月発行)より転載、一部加筆・修正)

(前編はこちら


1月22日:夕方那覇に到着するTさんを迎えに行くため、途中にある普天間市の大山田イモ畑で探鳥。この日は朝から晴れ、気温も上がり、25℃近くまで達したらしい。そのため、寒冷地仕様になっていた僕の体は、すっかり参ってしまった。セッカが賑やかに囀り、足元からはタカブシギやヒバリシギが飛び出すのだが一向に調子が出ない。とうとう田んぼの一画にへたり込んでしまった。そんな僕の周りで、帰化鳥のアミハラ(シマキンパラ)が、採餌や水浴びに勤しんでいる。大学時代、図鑑にも載っていなかったこの小鳥を一世一代の珍鳥と思い込み、安くはないリバーサルフィルムを随分投入したことを、懐かしく思い出す。付近の普天間基地から飛来する米軍のヘリコプターに白昼夢を破られ、流石にいつまでもへたっている訳にもいかず、那覇を目指す。

 カーラジオは、ホエールウオッチングをしきりに宣伝している。かなりの高確率で出会え、遭遇できなかった時には次回乗船が無料でできるとの話。ウオッチング対象は、座間味沖にこの時期回遊して来るザトウクジラ。北海道ではそうそう出会える種類ではないし、大きいだけにブリーチングは豪快なので、出会えれば一生の思い出となることは間違いない。今後のツアーの行程に組み込んでも良いかもしれない。ただ、それらのツアーは本島から日帰りで行くものであり、エコツアーの理念を考えれば、島に宿泊してそこから見に行くのが本筋かもしれない。
空港でTさんと合流し、ますは三角池を再訪した。アボセット(ソリハシセイタカシギ)を観察しておこうという魂胆だ。此処にはやや遅れて、空港でお会いしていたIさんも到着され、十勝支部としての最初の観察会といえるものになった。しかし、我々は途中で辞さねばならなかった。北部の名護まで移動し、F夫妻と飲むことになっていたからである。F夫妻はともに畜大ゼニ研(ゼニガタアザラシ研究グループ)出身で、かつて調査の苦楽を共にした仲間。久しぶりの再会となったのだが、嬉しいことにその間、彼らは2人から3人になっていた。1歳少々ながらオヤジによく似た顔つきの男児を眺めつつの宴は、日にちが変わり僕が半ば意識を失うまで続いた。泡盛のボトルは2本目に突入していた。


ウグイス(亜種不明)
2009年1月 沖縄県沖縄市
沖縄本島に生息するウグイスは、長らく亜種リュウキュウウグイスとされてきたが、近年の研究ではリュウキュウウグイスは越冬個体群で、繁殖しているものは、絶滅したダイトウウグイスと同じ亜種である可能性が示唆されている。
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オリオンビール
この三つ星のジョッキを、何度掲げたことだろう…
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1月23日:名護からやんばる方面を目指す。前日へたり込んだほどの暑さが嘘の様に寒い。途中、幾つかの林道に踏み込むもとにかく寒く、生き物の気配が希薄である。しかも、時折本格的な雨がちらつく絶望的な状況。こうなったら下手に野外でじたばたするよりも、この地域にある博物館や生き物に関する施設を見学しようという結論に至り、実践に移す。環境省のやんばる野生生物保護センターを皮切りに、国頭村安田地区のヤンバルクイナシェルターの実況施設、東村にある「山と水の生活博物館」等を見学。東村の博物館にはジュゴンの全身骨格標本があり、屋外ではリュウキュウイノシシの生体が飼育されているなど、哺乳類好きにとっては堪らない内容となっている。この後訪れた本部町立博物館では、1970年に尖閣諸島で捕獲されたワタリアホウドリの、2羽の内の1羽が待っていた。標本が収蔵されているという情報はあったのだが、それが公開されているのか否か、まったくわからない状態での「突撃」だった。結果、1羽の本剥製が何の惜しげもなく展示されていた。他にもコグンカンドリやカイツブリの淡色個体等の標本が、訪れる人も無い展示室の中にぽつねんと陣取っていた。ここに限らず日本の博物館、特に地方のそれは、自らが持っている標本の価値を十分生かし切れていなすぎると思う。
 17時過ぎ、名護市内でレンタカーを返却し、合流地点の許田・道の駅へ。M氏からの電話では空港到着後、アボセットを観察して到着にはまだ時間がかかるとのこと。道の駅にはどうしたことか、酒販売コーナーだけでなく鮮魚店まである。沖縄の遅い夕暮れに感謝しながら、ビールと泡盛で鮪刺を平らげたのは、当然のことと言わねばなるまい。18時頃、無事ツアー本隊と合流。総勢20人以上となったバスは、国道58号線を一路北進する。国頭村辺土名に位置する「ホテルみやしろ」に着く頃には、陽もとっぷりと暮れていた。玄関には「歓迎 日本野鳥の会十勝支部御一行様」の張り紙。このレトロな感じのホテルは、4階まで階段しか無かったり(しばしばアルコールを体に循環させるのに役立ってくれた)、風呂の水が出なかったり不便な点もあったが、それでも本土資本のリゾートホテルに金を落とすよりはここを拠点にして良かったと思う。荷物を放り込み、一同は近所の居酒屋「シーサーズ」に繰り出す。オリオンビールやシークワーサージュースで高々と乾杯した後は、お任せで出して貰ったラフテー(豚の角煮)やグルクン(魚)の唐揚げ、ソーミンチャンプルーなどの沖縄料理に舌鼓を打ちながら、恒例の自己紹介で盛り上がる。ホテルに戻り、今回のガイドで野鳥の会やんばる支部副支部長・写真家の久高将和さんのスライドショー。数々の美しい写真とともに、独自の視点でやんばるの自然が抱える問題点や、地域の文化にまで踏み込んでゆく氏のトークは、個人的には今回のツアーの、一番のハイライトであった。通りすがりの旅人では、決して知ることのできない情報や見ることのできない視点、何よりも豊富な経験や知識に裏打ちされた話を、翌日以降の現地案内も含めて聞くことができるのは、このツアーの何よりの魅力ではないだろうか。


ヤンバルクイナへの注意を呼びかける看板
2009年1月 沖縄県国頭郡国頭村
その少ない生息数に反して、輪禍に巻き込まれるヤンバルクイナは後を絶たない。
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ワタリアホウドリの標本
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ホテルにて
2009年1月 沖縄県国頭郡国頭村
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久高将和氏のスライドショー
2009年1月 沖縄県国頭郡国頭村
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(続く)


(2009年4月10日   千嶋 淳)