鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

十勝の自然73 帯広に「自然」はあるか

2015-12-16 21:56:24 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
上空から望む冬の十勝平野と日高山脈 2010年1月)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年9月30日放送)


 先日の新聞に、帯広市が若者や転出入者を対象に実施した、住み心地に関するアンケート結果が掲載されていました。畜大生や高校生、転入者、転出者いずれのカテゴリーでも住みやすい理由の第1位に「自然環境が良い」が挙げられ、畜大生では実に7割を超えていました。確かに、「帯広は緑が豊かで素晴らしい」、「どこまでも大平原が続いているね」などと、観光客の方もよく仰います。
 しかし、帯広周辺の自然環境は本当に豊かなのでしょうか?今からおよそ120年前の1896年、帯広市街地の緑地面積は75%でしたが、第二次大戦後の1948年には2.3%まで激減しました。その後、少し回復したものの、近年では3.3%、市街地に隣接した大正地区でも5%に過ぎません。これは名古屋や大阪など、本州の大都会と比較しても非常に低い値です。森林が伐られたのは農地への転換にくわえ、燃料としての利用や革なめしに使うタンニン抽出のためでした。
 帯広周辺の自然の乏しさは冬に、帯広空港を離着陸する前後の飛行機から見るとよくわかります。一列の防風林や小さな林が点在する以外、平野の大部分は雪原です。雪原の正体は畑。これが夏には十勝平野を緑豊かな場所に見せていたのです。帯広・十勝の「自然」は、畑や防風林の「緑」だったのです。
 もちろん、畑と防風林がパッチワーク状に織り成す農村景観と、そこが産み出す農産物の数々は、世界に誇る価値のあるものに間違いありません。ただ、それと十勝平野の自然の良好さは別次元で考えるべきことを、念頭に置いておく必要があるでしょう。
 それでも、市街地にも近い稲田地区や帯広の森周辺は現在でも良好な自然環境を残し、そこでは市民を主体とした活発な保護活動も行われています。こうした活動への多くの市民の参加を通じて保全の機運が高まり、生き物たちが互いに移動可能な緑地の再生・創造が進めば、自然環境豊かな、愛すべき郷土として実を結ぶ日が、きっと来ると信じています。


(2015年9月26日   千嶋 淳)

十勝の自然72 アサギマダラ

2015-12-16 21:48:57 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
アサギマダラ 2014年9月 北海道室蘭市)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年9月29日放送)


 長距離の渡りや回遊をする動物といえば、北極と南極を毎年往復するキョクアジサシに代表される渡り鳥や、カリブー、クジラなどの大型哺乳類を連想される方が多いでしょう。ところが、昆虫の中にも何千kmもの距離を渡る種がいるのです。アサギマダラです。
 アサギマダラはタテハチョウ科に属する、翅(はね)の模様が鮮やかな大型のチョウ。翅の内側は水色を帯びた白っぽい半透明の色で、ごく薄い青緑を指す古語の浅葱(あさぎ)が名前の由来となっています。翅のこの部分は鱗粉(りんぷん)が無いため、捕獲して日時や場所を細かいマジックインキなどで記入して放し、移動を調べることができます。その結果、日本本土から秋に南西諸島や台湾まで1000kmを超える渡りを行うチョウのたくさんいることがわかりました。10月に和歌山県で放されたチョウが、3ヶ月足らずの12月に2500km離れた香港で捕獲された事例もあるほどです。
 主に関東地方より西に生息しますが、夏から秋にかけては強い南風や台風に運ばれて北海道まで達するものもあります。函館近郊でマーキングされたチョウが2ヶ月後に山口県で再捕獲されたケースもあり、北海道まで来てしまっても無事に戻ることができるようです。十勝ではきわめて稀ですが、中札内村や音更町で8、9月を中心に記録があります。数年前、音更町の十勝が丘展望台でタカの渡りを観察していると、1頭のアサギマダラがひらひらと、南へ向かって飛んで行ったことがありました。
 そういえば本州などでも、タカが多く渡る峠や岬でアサギマダラをよく見かけます。日本列島を南下し、最終的に南西諸島や大陸まで渡るのはタカと一緒で、彼らにだけ見える、地形や風の良い、渡りに適したルートが存在するのかもしれません。そんなことに想像をめぐらすと、何かワクワクしてきませんか。


(2015年9月17日   千嶋 淳)

十勝の自然71 秋のカモ類‐エクリプス

2015-12-14 16:50:53 | 十勝の自然

Photo by Chishima,J.
コガモ 2007年11月 北海道帯広市)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年9月28日放送)

 秋が深まると、池や川といった水辺はカモをはじめとした水鳥で賑わい始めます。カモの仲間にはマガモやカルガモなど北海道で繁殖するもののほかに、コガモ、ヒドリガモなどロシア北部で繁殖して秋から冬に渡って来る種があり、たとえば秋冬の帯広川下流では10種以上のカモ類を見ることができます。

 しかし、冬から春にかけて見られる緑や赤茶色、白黒などの派手な羽色、あるいは長い尾羽や飾り羽を持つオスのカモはこの時期見ることはできず、皆メスのような地味な茶色や黒っぽい色をしています。秋のカモはメスばかりなのでしょうか?もちろん、そんなことはありません。

 繁殖を終えたオスのカモは、羽の生え換わりによってメスとよく似た地味な羽色になるのです。派手な羽色や飾り羽はメスを惹きつけ、自身をPRするのには良いのですが、自然界ではいささか目立ちすぎてしまいます。くわえて、この時期のカモは翼の羽を一斉に生え換えるので、一時的に飛べなくなり、目立ってしまうとタカやキツネといった天敵に狙われた時、非常に危険です。そのため、次の繁殖へ向けた活動が始まる冬の初めまではオスもメスと似た地味な羽色になり、これを「エクリプス」といいます。「エクリプス」とは本来、英語やラテン語で、日食、月食、または輝きを失うことを意味する言葉です。

 メスにモテて子孫を残すためには派手な色彩やディスプレイが必要な一方、捕食者に見つからずに生き延びるには極力目立たない方が良い。水面に浮かんで呑気に惰眠を貪っているだけのようなカモのオスも、相反するジレンマに悩みながら懸命に生きているのです。


(2015年9月17日   千嶋 淳)

150930  渡り観察(池田町)

2015-12-11 16:56:47 | 鳥・秋

Photo by Chishima, J.
ヒシクイ(亜種オオヒシクイ  2015年9月 北海道中川郡池田町)


確認種:ヒシクイ(亜種オオヒシクイ)3 ガン類12 マガモspp.70 ドバト アオサギ タンチョウ トビ オジロワシ1 オオタカ2 ノスリ1 コゲラ アカゲラ カケス ハシボソガラス ハシブトガラス ハシブトガラ コガラ シジュウカラ ヒヨドリ メジロ ゴジュウカラ トラツグミ ビンズイ カワラヒワ シメ ホオジロ アオジ ホオジロsp.1

*展望台へ行く途中の林道でトラツグミ1
*昨日までいなかったコガラが数羽。山から降りてきたか?
*シメが群れで動き始めた。
*ホオジロsp.はカシラダカより強く、アオジよりは低い地鳴き。サイズは 普通で色は不明。


(2015年9月30日   千嶋 淳)

150929 渡り観察後半スタート(池田町)

2015-12-11 16:50:43 | 鳥・秋

Photo by Chishima, J.
風に乗るノスリ 2015年9月 北海道中川郡池田町)


 朝方の冷え込みが厳しい予報だったため、ツグミなどの冬鳥を狙って夜明け直後から展望台に上ったのですが、風が強く、小鳥は低調でした。それでもアトリを初認し、シメやカラ類が群れで動いているのも観察できました。

 水鳥の移動も盛んで、ガン類やカモ類、カワウが続々渡りました。カワウは4群41羽が通過し、40羽はオホーツク方面からの移動と思われる動きでした。

 猛禽はノスリやハイタカがぱらぱらという感じで、風の更に強まった9時頃からは渡りを諦めたらしいノスリがそこかしこでホバリングや採餌に勤しんでいました。

 夜明け直後の冷え込みや風の冷たさは完全に初冬のもので、時折姿を現す東大切のウペペサンケやニペソツの頂部は雪を抱いていました。

 渡り観察もいよいよ後半戦に突入です。


確認種:ヒシクイ7 マガン13 マガモ10 コガモ2 カモ類(カワアイサ?)10 ドバト キジバト アオバト カワウ41 タンチョウ ハチクマ1 トビ オジロワシ2 ハイタカ7 オオタカ2 ハイタカ属sp.1 ノスリ15 コゲラ アカゲラ チゴハヤブサ2 カケス ハシボソガラス ハシブトガラス ハシブトガラ ヒガラ シジュウカラ ヒバリ ヒヨドリ メジロ ゴジュウカラ ツグミsp. ハクセキレイ ビンズイ アトリ カワラヒワ ベニマシコ シメ ホオジロ アオジ


(2015年9月29日   千嶋 淳)