鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

カンムリウミスズメ(その1) <em>Synthliboramphus wumizusume</em> 1

2011-11-30 23:01:07 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下1点(ウミスズメ)を除きすべて カンムリウミスズメ 2010年7月17日 北海道十勝郡浦幌町)


 種小名が日本語の誤記であることから窺えるように、日本近海の固有種。太平洋側は伊豆諸島以西、日本海側は石川県七ツ島を北限とする温暖な海域で繁殖する。道東では2000年代前半以前は、1954年7月に釧路沖東南東150マイル(そこが「道東」の範疇に含まれるかは疑問であるが)で採集された標本以外は、少数の目視記録がある程度だった。ここ数年、各地から観察記録が相次ぎ、7~10月に定常的に来遊していることは間違いない(「カンムリウミスズメ」の記事も参照)。7月に現れる頃には、このような目先の白い非生殖羽の個体ばかりである。5月頃に繁殖地を去った後に移行していると思われる。一連の写真は同一個体で、非常に濃い霧の中で撮影したものを補正しているため、色調等が実際のものと少々異なるかもしれない。
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体下面の白が広範囲に見えるのは、脇の羽毛が背側を覆っているため。1~数羽で出現することが多く、ウミスズメのような大きな群れは見たことがない。北海道近海への来遊数はまだまだ未知だが、夏~秋の重要な生息域となっている可能性がある。2羽での出現も多いが、それらの個体間関係は不明。


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ウミスズメの肉色で太めの嘴とは異なる、細くて青灰色の嘴は、顔と同様目視でも有用な手がかりとなる。これらのように特に斜め後方から見た時、嘴の長さは顕著で、上向きに見えることもあり、濃霧や逆光といった色、模様の見えない悪条件下ではマダラウミスズメと誤認される恐れがある。実際、本種の写真をマダラとして掲載している印刷物を見たことがある。本種の非生殖羽に関する情報が乏しかった頃には、顔の白さからコバシウミスズメの非生殖羽と混同されることもあったかもしれない。


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後ろ姿。ウミスズメも生殖羽では眼の後方に白いラインが出る。多くの図鑑にあるよりも白色部は遥かに大きいが、糸状であり、本種のように房状ではない(下記の参考画像を参照)。また、ウミスズメで眼後方からの白色が大きくなるのは4~6月であり、本種の出現時期にはさほど顕著でない場合が多い。上面の青灰色はウミスズメより本種でより淡色で、発見の手がかりにもなる。


(参考画像)ウミスズメ生殖羽の飛翔
2011年5月23日 北海道厚岸郡浜中町
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最後は再びカンムリウミスズメ。


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(2011年11月30日   千嶋 淳)

*一連の本種の写真は、日本財団の助成による十勝沖での海鳥調査での、またウミスズメはNPO法人エトピリカ基金の調査での撮影。


クロガモ(その1) <em>Melanitta nigra americana</em> 1

2011-11-29 21:34:12 | 海鳥写真・アビ目、カイツブリ目、カモ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて クロガモ 2011年1月23日 北海道十勝郡浦幌町)


 ヨーロッパ産の基亜種と北米産の亜種americanaから成り、日本へは後者の亜種が渡来する。近年ではそれぞれを独立種として扱う風潮も強く、その場合日本の個体群はM. americanaとなる。道東では冬鳥として10月から5月くらいまで海上で普通に観察されるほか、越夏するものも少なくない(「越夏群」の記事も参照)。概して砂質海岸の海上に多いが、ビロードキンクロほど同環境への依存度は高くない印象がある。1965年に阿寒湖で幼鳥の観察記録があるというが詳細は不明で、確認できる写真等の所在も不明である。

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翼開長は70~84cmで、ウミガラス類より少し大きく、大きい個体はアカエリカイツブリともオーバーラップするが、翼の拍動が早いためかそこまで大きな印象は受けない。丸みを帯びた頭部や腹部等独特のシルエットにくわえて、オスでは嘴基部の黄色い瘤、メスではツートンカラーの顔のパターン等が見えれば識別は容易。遠距離や逆光という悪条件下では、他のカモ類やウトウと見間違えることがある。また、しばしば他種と混群を形成するので注意が必要である。


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♂の飛翔。このような順光下では、嘴基部の黄色と全身の黒色によって識別はたやすい。初列風切の下面と上面外縁は銀白色で、飛翔時には遠距離からでも割とよく目立つ。


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♀の飛翔。大雨覆と次列風切の先端は白いが、これは近距離でもほとんど目立たない。最大の特徴は、頭頂部から後頸にかけての黒褐色とそれ以外の顔の淡色が作り出すコントラスト。初列風切の銀白色は♂ほどではないが、やはりよく目立つ。本個体の嘴は全体的に黒い。嘴基部に黄色の入る♀のような個体を、♂幼鳥とみる向きもあるが、そのような個体へのディスプレイやつがい形成を観察しており、♀でも個体によっては(例えば老齢個体)黄色が出るのかもしれない。


(2011年11月29日   千嶋 淳)


オオミズナギドリ(その1) <em>Calonectris leucomelas</em> 1

2011-11-28 16:01:42 | 海鳥写真・ミズナギドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて オオミズナギドリ 2010年10月8日北海道十勝郡浦幌町)


 一連の写真は同日、同海域での撮影だが、個体は別。厳冬期を除き日本近海ではあまねく普通であるため、鳥屋からもありがたがられないが、世界的には日本周辺でのみ繁殖する。道東海域には繁殖期の後半に当たる8~10月に出現する。「白と黒の」という種小名の通り、暗色の上面と白色の下面のコントラストが顕著。


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上面の飛翔。頭部は斑状だが、光が強くて遠い条件下では白く見えることもある。背や肩羽、雨覆、上尾筒等の各羽は外縁が淡色で、鱗状を呈する。


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斜め正面からの上面。嘴は淡い灰色~ピンク色で、ハシボソやハイイロの黒色や、アカアシの明瞭なピンク色とは異なる。管鼻はミズナギドリ類に典型的なように、嘴基部に対となって開口する。


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飛翔の下面。風切や、初列雨覆の軸斑を除くと白色で、かなり白い印象を受ける。上面が見えない条件では、オナガミズナギドリやミナミオナガミズナギドリとの識別に困る時がある。両種とも下雨覆は全体的に白っぽく、本種のような軸斑は不明瞭。また、オナガミズナギドリでは翼下面の前縁が暗色である。


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日によってはかなり接岸し、海岸や河口から観察されることもある。台風や時化の後に内陸で保護されることがある。


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飛び立ち直後。このように脚を出している状況では、脚のピンク色も識別に有用である。上下ツートンカラーでピンク色の脚を持つミズナギドリ類で、日本近海で記録のあるものとしては他にシロハラアカアシミズナギドリがある。


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海上に浮いている姿。他のミズナギドリ類と見誤ることは少ないが、ウミネコ等カモメ類と紛らわしいことがある。


(2011年11月28日   千嶋 淳)


オオミズナギドリとハイイロミズナギドリ(その1) <em>Calonectris leucomela

2011-11-26 14:17:55 | 海鳥写真・ミズナギドリ目
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All Photos by Chishima,J.
オオミズナギドリ(右)とハイイロミズナギドリ 以下すべて 2010年10月8日 北海道十勝郡浦幌町)


 飛び立ち直後。サイズは近いが、嘴や脚、顔、体下面の色などが異なるため識別は容易。ハイイロは下初列雨覆の軸斑がやや不明瞭な個体だが、嘴や頭部の特徴、全体的なプロポーションなどはハイイロを示唆している。両種とも8~10月の釧路以西の道東太平洋海上では卓越するミズナギドリ類。10月頃より日によってはフルマカモメも優占し、10月末までにオオミズナギドリはこの海域から姿を消す。ハイイロは年によっては11月末までそれなりの数が見られる。

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 海上に浮かぶ4羽のオオミズナギドリの、最左個体の左側にハイイロがいるが、オオミズナギドリとの重なりや波による隠れで、頭部のみ見えている。両種ともこの海域では魚類を多く食べていると思われ、普通に同所的に見られる。ハイイロは夏から秋にかけて、しばしばウトウとも同じ海域で卓越する。


(2011年11月26日   千嶋 淳)


アホウドリ(その1) <em>Phoebastria albatrus </em>1

2011-11-25 21:32:25 | 海鳥写真・ミズナギドリ目
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All Photos by Chishima,J.
以下すべて アホウドリ幼鳥 2011年8月25日 北海道十勝郡浦幌町)


 当年生まれの幼鳥で、ピンク色の嘴を除く全身が黒褐色である。脚も基部はピンク色になりつつある。道東海域へは5~11月に出現し、記録は近年増加傾向にある。十勝では1996年9月に浦幌町厚内沖で観察記録があるだけだったが、2011年8、11月には同沖で各1羽が観察・撮影され、同年5月には2羽の目撃記録もある。記録の増加は個体数回復を反映したものと考えられる。


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嘴はピンク単色ではなく、先端部は淡い水色を呈する。


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正面顔。アホウドリ類の管鼻は、嘴基部の上部に開口するミズナギドリ類とは異なり、嘴の左右に一つずつ開口する。


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背後はクロアシアホウドリ。大きさや嘴の色、形状の違いに注目。


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着水前。脚は基部でピンク色だが、水掻きを含む全体はまだ黒っぽく、遠距離では目立たないかもしれない。翼上面では初列風切羽軸の白色が目立つ。


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飛び立ち。光線の関係か、脚の淡色はより顕著。右脚に金属リングが装着されている。伊豆諸島鳥島産と思われるが、残念ながら番号は読めず。


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飛び立ちの後ろ姿。脚は暗色に見え、嘴も隠れて見えないことから、この角度では識別は難しいかもしれない。


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飛翔。嘴のピンク色や初列風切羽軸の白色が目立つ。体、特に頭部周辺の色は黒みの強い褐色で、灰褐色のクロアシアホウドリとは一線を画している。


(2011年11月25日   千嶋 淳)