鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

コミミ狂騒曲

2008-01-24 13:35:28 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
コミミズク 以下すべて 2008年1月 北海道十勝管内)


 十勝海岸の何ヵ所かには、冬になるとコミミズクがやって来る。彼らの渡来数は他の多くの冬鳥同様、年による変動が大きく、殆ど見かけない年もあれば、そこらじゅうで出会う冬もある。今年はどうやら後者のようで、特にその内の1ヵ所には10羽前後が年末から姿を現し、日中から活発に動き回っては我々観察者の目を楽しませてくれている。そんな魅力的な場所には、当然それを見たり写真に収めようとする人が押し掛ける訳で、多い日には20人以上がコミミズクにカメラや双眼鏡を向けている。幸いコミミズクはそれに臆することも無くハンティングを続けているが、彼らを取り巻く人の行動の中に、理解に苦しむ物があったのも事実である。

コミミズク
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 その最たるものが人工の止まり木。コミミズクのいる海岸は元々地元の生活とも密接に結びついた場所だったので、朽ち果てた杭や柵が多く、恰好の止まり場所になっていた。しかし、それらはかつての人工物であることを忘れさせるほど周囲の景観に紛れていたので、それが不満だったのか、より高く突出した杭が目立ち始めた。そうした杭の根元は流木や紐で結ってあり、写真を撮るために意図的に設置されたことは明白だった。


止まり木1(コミミズク
不自然な高さに突出した流木の根元は、また別の流木に補強されている。
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 止まり木を設置したところで、越冬中のコミミズクの生態に負の影響を与えることは無いだろう。コミミズクはむしろ積極的にそれを利用している。しかし、原生花園の中の人工物は私には非常に不自然に感じられた。私はコミミズクももちろん好きだが、この場所とそこが四季折々に作り出す景観、それらが複合して織り成す荒涼感が好きで足繁く訪れているので、そのような人工物を設置されることに対しては、生理的な嫌悪感を覚える。そもそも、そうした「やらせ」で撮った写真は、いくら当該部分が写りこまないようにしたところで、ある程度鳥を知ってる人が見ればわかってしまうのに、何故そこまでして撮ろうとするのだろうか。


止まり木2(コミミズク
この個体も激写されていたが、自然を知っている人が見たら不自然極まりないのは明らか。
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 「自己満足」だと言われれば、「生理的な嫌悪感」という主観的な反論は成り立たないかもしれない。なのでもう少し客観的な反論をするなら、当該海岸の植物群落はその希少性から天然記念物に指定されている。海岸の入り口にはそのことを明記した看板があり、植物の採集や植物(群落)の中での休憩や食事とともに「環境を破壊する一切の行為」が禁止されている。そして、「原形を損傷、破壊した者は相当の処罰を受ける」と結んでいる。元々存在しなかった杭を、周囲の植生を踏みにじって立て、更にそれを周辺の自然物で補強する行為は、原形の損傷、破壊以外の何物でもないのではなかろうか。


止まり木3(コミミズク
最初立ち枯れたセリ科かと思ったが、下部は紐で周囲の草木や石に結ばれていた。
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天然記念物の看板
環境を破壊する一切の行為は禁止されている。警察も街中で善良な市民の自転車を止めるようなことばかりしてないで、こういう場所で不心得者を取り締まって欲しいものである。
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 それと関連して目に余ったのが植生の踏み荒らし。海岸は道以外の場所はハマナス等を主体とする植生に覆われているのだが、そこを踏みにじってコミミズクに近付いたり、人工物を設置しに行く人が多かった。あまりにも心苦しいので注意したこともあった。注意された人の方は、初めの方は憮然としながらも事態を理解すると大抵自らの行為を改めてくれた。自分の行為の影響について考えが及んでいないものと思われる。


撮影会(コミミズクヒト
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 植生への蹂躙で最悪な行為を目撃したのは数日前だった。4人ほどが、50mも歩けば脇道があるにも関わらずハマナス群落を踏み荒らし、更には止まっているコミミズクを追いかけまわしているのには我が目を疑った。そのうちの一人はカメラを持っておらず、機材を持った他の三人を先導する形で砂丘を踏み躙っていた。その後、その人物は帯広在住の「ガイド」で、主にカメラマン相手に野生生物を案内している者だと居合わせた知人から聞いて、今度は我が耳を疑った。「ガイド」!?自然観察におけるガイドとは、自然に対する影響を緩和しつつその魅力を紹介し、観察者に貴重性や保全の必要性を覚醒させるのが役割ではなかったのか。そのガイドが率先して植生を踏み躙っている!「ガイド」だとは聞いて呆れる!そのような欺瞞に満ちた醜悪な行為はいずれ白日の下に晒され、自然を荒らしたいだけ荒らしてきた不心得な輩はその信用を失墜させ、天誅が下ることだろう。


低空から進入して来るコミミズク
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 深夜に酒を煽りながら書いた文章ゆえ、怒り心頭かつ支離滅裂な文章になってしまった。まあいい。今日からの大雪は、あの原野にも天然のバリケードを構築し、コミミズクたちを南に去らせることだろう。そうしたら平静を取り戻した雪原に身を横たえ、潮騒を聞きながらもう一度この問題に思いを巡らせてみたい。


夕焼けの中で(コミミズク
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対面(コミミズク
角を曲がったら目の前にいた。止まっているのは朽ち果てた昔の柵。風化した木目は、最近設置された人工杭と比べて周囲に馴染んでいる。
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(2008年1月24日   千嶋 淳)


意外な獲物

2008-01-19 00:47:29 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
真冬にエゾアカガエルを捕食するカワアイサのオス 2007年12月 北海道中川郡幕別町)


 2007年も押し迫った12月21日の昼前、郊外の河川でカモ類を観察していた。少し前に上流で1羽のマガモ属を捕えたミンクが引き起こした混乱は時間とともに収束しつつあり、下流側ではキンクロハジロやホシハジロが潜水を開始した。緩やかな流れのため厳冬期でも結氷せず、水草や魚が豊富な淀みもあるこの場所では、少なからぬ潜水ガモ類やカイツブリが越冬している。そういえば以前、ヒドリガモの小群が水草への活発な潜水採餌に興じていたのもここであった(「ヒドリガモの潜水採餌」を参照)。

 潜水組には数羽のミコアイサも含まれていた。渡来直後は皆メスのように見えたこのアイサも、12月に入ってオスは独特のパンダ顔を呈するようになって来ている。メスか幼鳥と考えられる褐色と灰白色の1羽が浮上した直後、1羽の既に美しい生殖羽を概ね獲得しているオスのカワアイサがこれを攻撃し、執拗に追いかけ始めた。彼らと私の間には草本のカーテンが引かれ、写真は撮れなかったが双眼鏡で確認したところ、ミコアイサが嘴にくわえている魚が狙いらしかった。不意を突かれた体の小さなミコアイサはこの戦いでは圧倒的不利を示し、すぐカワアイサに獲物を奪われてしまった。


ミコアイサのオス(上)とメス(下)
2008年1月 北海道中川郡幕別町

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 奪った獲物はよほど活きが良いのか、カワアイサの魚食に専門化した嘴に挟まれてもビチビチと暴れており、食するのに苦労しているようだった。この隙に私は草の遮蔽の無い地点へ移動し、数カットを撮影した。カワアイサは基本的に憶病な鳥だが、以外に神経の図太い一面も持っており、近年では一部の個体が都市公園の池や市街地の河川など水鳥への給餌が行われている場所で、オオハクチョウやマガモ、カルガモに混じって人の手から餌をもらっている(「人馴れしたカワアイサ」の記事も参照)。そして、そうした場所では気の強さも発揮し、大型の体躯を活用して同種や異種の他個体から餌を略奪する姿もしばしば観察されている。しかし、給餌されていない自然な場所での、またミコアイサへの略奪行為は初めての観察だった。最初は活きの良い獲物を持て余し気味のカワアイサだったが、一分と経たぬ内にしっかり飲み込んでいた。


エゾアカガエルをくわえるカワアイサ・オス
2007年12月 北海道中川郡幕別町
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給餌場での追撃(カワアイサほか)
2008年1月 北海道帯広市
人の与えたパンをくわえて逃げるマガモのオス(右)を、同種やカワアイサのオス(左)、カルガモが追う。手前にはオオハクチョウの姿も。
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 帰宅して画像を眺めていると、更なる驚きに突き当たった。「魚」と思っていた獲物は、実はエゾアカガエルだったのだ。変温動物のエゾアカガエルは11月頃から冬眠に入っており、現在は冬眠中のはず。観察当日の帯広の気温は最高0.4℃、最低-12.3℃と、同日の平年値(最高0.1℃、最低-10.3℃)と比べて低くはあっても高くはなく、暖かさに釣られてカエルが出てきたとは考えにくそうである。冬眠場所はよくわかっていないようだが、池の底や岸沿いの川底と考えられている。今回の観察は、まさに岸に近い、それもミコアイサが潜って捕って来れるような川底で越冬していることを示唆するものであり、冬眠を妨害された挙句直接捕まってはいない相手に食われたカエルには気の毒だが、興味深いものであった。


繁殖期のエゾアカガエル二態
2007年5月 北海道上川郡新得町

卵塊上の(おそらく)雌雄
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頬を膨らませて鳴くオス
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追記:カワアイサによるミコアイサへの襲撃はその後も続いているようで、本日(1月18日)も同じ場所で魚(ハゼ科?)を持って浮上したミコアイサのメス?をしつこく追い回すカワアイサ・メスの姿が観察された。もっともミコアイサは前回のように易々とは獲物を渡さず、潜水を繰り返して逃げ切り、無事に捕食した模様だった。何度も襲われるうちに回避の術を身に付けたのだろう。裏を返せばミコアイサにとってのこの場所は、カワアイサに攻撃されるリスクを冒してでも効率的な採餌のできる魅力的なスポットといえる。


ミコアイサ(オス幼鳥?)
2008年1月 北海道中川郡幕別町
一見メスぽい体色だが、頭部の褐色が黒っぽく、その中に白い羽毛が点在していることからオスの幼鳥かもしれない。
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(2008年1月18日   千嶋 淳)


大当たり年

2008-01-13 22:44:49 | 鳥・冬
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All Photos by Chishima,J.
ベニヒワのオス 以下3枚目を除きすべて 2008年1月 北海道広尾郡広尾町)


 一面の銀世界を遅い朝日が射る。立ち枯れたアザミやマツヨイグサ、ヨモギ類などの草本の節々に付着して凍てついた水分がそれを受けてきらきらと輝く。少し前までは物悲しい初冬の褐色だったこの荒野も、雪を纏った今では眩しいばかりの明るさに包まれている。枯草の茎や葉先、また周辺の地上で小さい物がごそごそ動いている。双眼鏡を当てると、白い体に紅色の額、それに雄では胸部の対比が美しいベニヒワの群れだ。黄色い嘴を乾いた実の中に刺し込んで、また地上に落ちた種子をついばみながら、朝の採餌に勤しんでいる。
雪原の中の群れ(ベニヒワ
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 何かに驚いたのか、群れが一斉に空中に躍り出た。密集していた群れは予想以上の規模で、500羽は下らないようだ。「ジュジュジュジュ…」と賑やかに鳴き交わしながら、この一角を旋回すること数回。身を屈めて気配を隠していた私の上に覆いかぶさるように降下してきた。上記の声にくわえ、「サァー、サササ」という羽音‐おそらく1羽だったら耳元でも聞こえないほどの微音なのだろうが、500羽分のそれは立派な音を形成している‐が凛々たる冷気を鋭利に切り裂いて降り注ぐ。群れは少し先に降りた。紅色が先ほどにも増して鮮やかに目に飛び込んでくる。やはり、この極北からの使いには雪の原野が似合う。


群舞(ベニヒワ
2008年1月 北海道中川郡幕別町
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 こう書くと、冬の北海道の風物詩のように思われるかもしれないが、実はこんな光景を目にしたのは11年ぶりのことである。冬鳥は一般に年による渡来数の増減が著しく、それが特に顕著なのがベニヒワである。今年はちょうど当たり年のようで、十勝地方の平野部では11月上旬から目撃情報が聞かれ始め、11月後半以降は方々に群れが出現している。前回多かったのは1996‐97年の冬だった。その間も来なかったわけではない。ただ、少数が時折見られた程度で、あちこちで大群がという状況は11年ぶりといってよい。


食事中(ベニヒワ・メス)
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 それ以前に多かったのはいつだろう?気になっていくつかの文献を調べたところ、十勝地方では1986‐87年、1983‐84年、1977‐78年の冬に多かったことがわかった。1983‐84年を除くと、綺麗に10年前後の周期で大渡来を繰り返しているようだ。それ以前の情報は残念ながら発見できなかったが、北海道の対岸ともいうべきロシアの沿海地方では1946‐47年に非常に多かったそうである。やはり、10年前後の周期で大南下が起こるのだろうか。


ベニヒワ(メス)
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 このような大当たり年が何によって引き起こされるのかは、実はよくわかっていない。繁殖地での繁殖成績が良好で、個体数が増大した結果渡来数が増加した、もしくは例年の越冬地で餌が不足気味のため大幅に南下したかのどちらか、またはその両方と考えられている。北米大陸では、餌となるトウヒやカバノキ類があまり実を付けない年に、ベニヒワやギンザンマシコなどのアトリ科鳥類やムネアカゴジュウカラなどが大挙して南下するようである。北海道に渡来するベニヒワの繁殖地と考えられる、カムチャツカやユーラシア大陸北部のタイガやツンドラ地帯ではどうなのだろうか。


採餌中の小群(ベニヒワ
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 いずれにしても、過去の記録から察するに、次にこのような鳥景をと出会えるのは10年前後先と考えるのが妥当だろう。この冬は、雪原に舞う白と紅の対比、その美しさ、大群の迫力をしっかりと瞼と脳裏に焼き付けておくことにしたい。


ベニヒワ(メス)
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(2008年1月13日   千嶋 淳)


遭遇2(オジロワシ編)

2008-01-11 20:11:33 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
オジロワシ若鳥に挑みかかるキタキツネ 以下すべて 2007年12月 北海道十勝川流域)


 雪氷によって陸地と繋がった中洲の水際で、1頭のキタキツネがサケの屍を貪り食っていたのは、日々凍(しば)れの厳しくなる12月中旬の朝のことだった。水際から10mほど離れた浅瀬と、そこに打ち上がった流木では、3羽のオジロワシがそれをじっと見ている。もしかしたらさっきまで、彼らのうちの誰かが浅瀬から引き上げて食べていたのかもしれない。キツネの周囲に、僅かな隙を盗んで一片の肉切れでもせしめてやろうと、10羽以上のカラス(ハシボソ・ハシブト両方)が群がっているのは、厳冬の苛烈な食糧事情を物語っている。

ある朝の川岸(オジロワシキタキツネハシボソガラスハシブトガラス;以下カラス類は略)
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 別のオジロワシがやって来て、水際のすぐ近くに降り立ったのを気にしたのか、キツネはサケを水際から数m内陸側に運ぶと、そこでまた食べ始めた。すると、見る見る内に浅瀬のオジロワシたちも飛んで来て、水際では3羽のオジロワシの若鳥が、新たにサケの屍を見つけて食べ出した。しばらくは、キツネは食事に専念し、ワシは自分たちで小規模な争いを時折するものの、大事には発展せず、静かな朝の時間が流れた。


平和な朝食(オジロワシキタキツネ
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 キツネはサケを大方喰い尽すと再び水際を目指した。その際、サケを食べていた2羽のオジロワシ(厳密には1羽が食べ、もう1羽は隙を狙っている)は、サケを残して徒歩で数m後退した。キツネはサケに興味を示して吻を近付けたが、この際食べていたのか、臭いを嗅いでいただけなのかは距離があってわからなかった。1羽のオジロワシが意を決したように接近して両翼を広げると、キツネはあっさりサケを明け渡し、水際で飲水を始めた。どうやら初めからこれが目的だったらしい。おなかも膨れて満足していたのかもしれない。


撤退と奪還(オジロワシキタキツネ

後方に怯んだ隙にキツネがサケに興味を示した。
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1羽が奪い返すと、キツネはあっさり川へ水飲みに。
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 ひとしきり水を飲んだ後、今度はまた内陸に向かって歩き出した。1ヵ所に固まっていた3羽のオジロワシは、再度徒歩で(1羽はサケを掴んだまま)逃げた。しかし、元からその場所でサケを食べていた1羽は退かず、残った。そのことがキツネの気分を害したのか、はたまた悪戯心を刺激したのか、キツネはオジロワシに吠えかかった。実際には声は確認していないが、写真(冒頭のもの)を見ると大きく口を開けている。オジロワシは退くかと思いきや両翼を広げてこれに抵抗し(ワシも鳴いているようだ)、キツネは一瞬怯んだ。そしてごく短い対峙の後、キツネは思い出したように岸へ歩き始めた。


対決2(オジロワシキタキツネ
冒頭写真の次の瞬間。オジロワシが反撃に転じ、キツネは怯む。
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 途中、何ヵ所かの開水面で水を飲みながら戻って来たキツネは、リラックスした表情で小用を足すとそのまま河川敷に消えた。オジロワシたちは、さも「昔からここで食べてました」的な面構えでサケに夢中。僅かに高くなったお日さまの努力の賜物か、少しだけ寒さが和らいだようだ。


氷の割れ目で水飲み(キタキツネ
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リラックスして排尿(キタキツネ
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(2008年1月11日   千嶋 淳)


遭遇

2008-01-09 19:26:32 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
コミミズク 以下すべて 2008年1月 北海道十勝管内)


 陽は少し前に沈んだが、残照が仄かな茜色の世界を作り出している。うっすら雪を纏った砂丘の奥には、細波の一つも無く凪いだ海。その海で昼間賑やかだったクロガモの「ヒー、ホー」もすっかり止み、周囲は穏やかさと静寂に包まれている。砂丘で朽ちかけている、いつかの木杭の上に佇むコミミズクが1羽。否、佇んでいるというのは人間の勝手な解釈で、実は全神経を集中させて餌のネズミが移動する音を探ろうとしているのが、頻繁に顔の向きを変えていることからも窺える。
 前方から別のコミミズクが飛んで来た。杭にいた個体の目付きが鋭くなり、「ギャァー」という警戒声が発されると、新参者はあっけなくUターンして去った。しばし後、同じ方向から今度は1頭のキタキツネがとぼとぼと歩いて来る。杭の上のコミミズクは、只でさえ大きく黄色い目を見開き、注目しているが、キツネはそれを知ってか知らずか、相変わらず低速で、ほの暗い砂丘を近付いて来る。コミミズクの背後を通り抜けた直後、強力な視線を感じてか、キツネはその歩を止めた。2つの肉食動物の眼差しが交差した瞬間は、おそらく数秒だったのだろうが、見ていた私にはとても長く感じられた。キツネが何事も無かったように歩き始めると、この空間を支配していた緊張は瓦解し、コミミズクも探餌を再開した。


出会いの一部始終(コミミズクキタキツネ

コミミズクは気にしているが、この時点ではキタキツネはまだ見ていない。
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4つの瞳がじっと見つめ合う、緊張の瞬間。
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キタキツネが歩き出し、緊張が解れた。
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 不思議な出会いから数分、ネズミの気配を察知したのか、あるいは飛翔しながらの探餌に切り替えるのか、コミミズクは杭から飛び立って、灰黒色の夜の帳が降りかけている原野に消えた。先刻のキツネも、今頃雪中のネズミに向かって跳躍しているのかもしれない。


飛び立ち(コミミズク
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(2008年1月9日   千嶋 淳)