鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

天然記念物に出会うツアーやってます

2010-03-19 12:54:15 | 春の鳥
久々になつこが記事を書かせていただきます。宣伝ですがよろしくお願いします。

日本野鳥の会十勝支部では今天然記念物に出会うバスツアーを実施しています。
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これから北に向かうマガン達

元々湿地だった十勝川下流域は知る人ぞ知る野鳥の楽園です。特に秋と春の一時期には天然記念物の鳥が5種も同時に見られる贅沢な場所です。大空を舞うワシ、農耕地を優雅に歩くタンチョウ、そして1万羽を超すガンの群れとの出会いが期待できます。
せっかく十勝にいる天然記念物の野鳥達を見たことがない人が十勝以外はもちろん十勝管内の人でも多いのではないでしょうか?
タンチョウといえば根室・釧路、ガンといえば美唄と思われていますが十勝ではそれらを同時に見ることができます。
また、まだ十勝に残っているワシ(オジロワシ、オオワシ)に会えるかもしれませんよ。

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求愛ダンスをするタンチョウ

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まだ凍ってる沼の上にたたずむオジロワシ


料金1人:高校生以上5,000円、中学生2500円、小学生以下無料
実施日:3月28日 4月4,11日(各日曜)  人数:最大20名程度(要予約)
集合場所・時間:帯広百年記念館9:00、十勝川温泉9:30(その他の場所応相談)
解散予定時間:十勝川温泉16:00、帯広百年記念館16:30
連絡先:080-1187-8828(千嶋)FAX:015-572-7883
主催:日本野鳥の会十勝支部 共催:アークコーポレーション
※昼食持参 ※料金の一部は十勝の野鳥を守るための活動に使われます
※参加者が少ない場合はバスではなく車になることもあります。

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雪から顔を出した牧草地や小麦畑に群がるガン、ハクチョウ達
とてもほのぼのとして良い光景ですがこれが農家さん達を悩ませてしまう食害にもなっています。

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見れるかも?!ハクガンです。ここ数年で数がぐんと増え30羽前後にまでなりました。まだ今春は数が少ないですがこれから増えるはず。

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運が良ければ乱舞するガン達が見れます。

(写真:千嶋淳)










カモ類の珍しい雑種:ホオジロガモ×ヒメハジロ?

2010-03-18 12:28:00 | カモ類
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All Photos by Chishima,J.
ホオジロガモとヒメハジロの雑種? 以下雑種はすべて同一個体で2010年3月北海道十勝川中流域での撮影)


 札幌のNさんから、「十勝に珍しいカモがいるようだ」とのメールを受け取ったのは2月の末だった。彼から教えてもらったURLを見ると、確かに見慣れぬカモの写真が数枚掲載されており、ホオジロガモとヒメハジロの雑種らしいとあった。普段珍鳥情報を聞いても重い腰をなかなか上げない性質であるが、この雑種?には俄然興味を抱き、3月上旬以降何度か観察に赴いたので、写真とともに紹介する。なお、雑種であることやその両親の証明はきわめて難しいが、北米のサイト等でも同様の特徴を持つ個体を「ホオジロガモ×ヒメハジロ」としていること、「世界の鳥類の雑種のハンドブック(Handbook of avian hybrids of the world)」という専門書に、北米で狩猟者がヒメハジロとホオジロガモまたはキタホオジロガモの雑種と考えられる翼を持っていた例が記載されていることから、ここでは便宜的にそのように扱う。
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全体的な形態:大きさはホオジロガモと同大か僅かに小さい程度で、全体的な形やプロポーション、三角形の頭部等はホオジロガモに酷似する。警戒等のため首を上げた時には後頭部が冠状に目立つため、ややヒメハジロ的なjizzを受けることがある。


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頭部:嘴は黒いが、一部灰色みを帯びる。顔は喉、嘴基部から目の上の頭頂部にかけて帽子状に、そこから更に後頚にかけて暗色である。この暗色部は一見黒っぽいが構造色であり、順光下において頭頂部より後方はホオジロガモのオスと同様の緑色光沢を呈し、前頭部の一部は赤紫色を帯びる。この構造色はホオジロガモ以上に出にくいようであり、かなりの順光下においてようやく認識できるものである。それ以外の顔、目より下方の大部分は白色で、そのため本個体は顔の白っぽい印象を受ける。ただし、目の後下方はやや汚灰色を帯びる。この白色部は後頚の上部において、中心側に顕著に食い込み、後方からは2つの白いパッチ状に見える。虹彩は褐色~黒色の暗色であり、ホオジロガモの黄色とは異なっている。


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体上面:背、肩羽から上尾筒、尾羽に至る体上面は光沢を帯びた黒色(ただし尾羽では光沢なし)で、この部分は光が当たっても緑色みを帯びない。肩羽の外側には白いラインが入るが、ホオジロガモ・オスのような櫛歯状黒線は不明瞭である。翼上面は次列風切、小~大雨覆の広い範囲が白色で、そのパターンはホオジロガモに似る。次列風切白色部の最外側は、羽全部が白色でなく、tip状に白斑が入る。白色部以外の翼上面は黒い。翼下面は次列風切の白色部が上面同様白く見える以外は、黒色である。


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体下面:胸から腹にかけては、一様な白色である。脚は淡い橙色で、ホオジロガモの鮮やかな赤橙色と比べると、かなり薄い印象を受ける。


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行動等:十勝川中流部に飛来した。単独での行動が多いが、数羽のホオジロガモと行動を共にすることがある。日中は流速の緩やかな入り江状地形で、潜水採餌している時間が圧倒的に多い。計測していないので断言できないが、周囲の他のホオジロガモに比べて潜水時間が長いようである。ただし、それが個体差なのか種(?)差なのかは不明である。水面での捕食は観察されず、潜水中に餌生物を捕食していると考えられる。潜水方法は、跳躍して頭から水中に飛び込むもので、ホオジロガモやヒメハジロと同じである。ホオジロガモがよく示す、頭部を水面に付けて伸ばし、「前かがみ」のような姿勢(下の写真)を頻繁に取り、この姿勢から潜水するのも観察された。


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 採餌以外では、ホオジロガモのメスに対する求愛行動が何度か観察されている。これはホオジロガモ・メスの周囲で頭部をやや後方に傾けながら上下するもの(下の写真)で、ホオジロガモのオスでも同じ行動が観察された。この行動に対するホオジロガモ・メスの反応は、観察されていない。
 鳴き声は聞いていない。


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 昨冬は根室で、今シーズンは十勝の海岸部で単独のヒメハジロのオスが、ホオジロガモのメスに対してディスプレイを行い、ことごとく振られるのを見た。もっとも、単独で迷行してきた種のオスが近縁種のメスに対してディスプレイを仕掛けるのは普遍的なようで、アメリカヒドリ、クビワキンクロ、アラナミキンクロの単独のオスがそれぞれヒドリガモ、キンクロハジロ、クロガモのメスへディスプレイしているのを観察したことがある。そのような試みが軒並み失敗しているのを見ると「種の壁」を感じるが、果敢な挑戦がごくごく稀に結実することもあることを、今回のような個体の存在が教えてくれている。ただ、その数の少なさを考えると、やはり大部分は徒労に終わっているのだろう。
 ホオジロガモは、マガモやカワアイサと並んで厳冬期の十勝川中~下流では最も数の多いカモ類である。警戒心の強さや河原までのアプローチの困難さからつい細かい観察を怠ってしまうが、昨冬は部分白化と考えられる個体が(「ホオジロガモの部分白化?」の記事を参照)、今冬はこの雑種が現れるなど興味深い発見も多い。


ヒメハジロ(オス・右)とホオジロガモ(オス)
2009年2月 北海道根室市
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ヒメハジロ
2009年2月 北海道中川郡豊頃町
2月下旬から3月上旬に漁港に飛来した個体。メスと言われたが、顔の白斑の大きさや胸、脇の白い羽等からオス幼鳥の可能性がある。
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(2010年3月18日   千嶋 淳)



「国境」のウニ漁

2010-03-15 22:27:46 | ゼニガタアザラシ・海獣
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All Photos by Chishima,J.
2頭のラッコ 2009年7月 北海道根室市)


 空も海も初冬の鉛色である。岬から望む海面の所々にヒメウや、渡来して日の浅いコオリガモの小群が散見される。その更に奥、絶妙な加減で傾いた貝殻島灯台のすぐ脇と、そこから歯舞諸島へ広がってゆく海域には合計四隻の、中~大型船舶が停泊していた。望遠鏡を通して見ると各船は錨を下ろして泊まっており、船から近くの別の海面までエンジン付きゴムボートや磯船が白い飛沫を上げながら、働き蟻のようにせっせと往復している。

歯舞諸島海域に展開するウニ漁船団
2009年12月 北海道根室市
中央の貝殻島灯台付近に1隻、その右に2隻、左に1隻、合計4隻確認できる。
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 上は昨年の12月1日朝、根室市の納沙布岬から観察した、歯舞諸島海域でのロシアの母船式ウニ漁である。波が比較的穏やかだったこの日は、午前の遅い時間になっても漁がまだ盛んで、近くの港から海鳥観察のため乗船した遊覧船で中間ライン付近まで近付くと、その様子を手に取るように見ることができた。案内してくれた漁協の職員は、「相当量を獲っているはずだが、中間ラインの向こう側なので我々にはどうしようもない」と悔しがった。そして、ロシアの潜水夫が操業中に飲みたくなり、ゴムボートで根室に上陸してビールを買い、帰ろうとしたところを不法入国で逮捕されたという、「国境」ならではのウソのようなホントの話も披露してくれた。


母船式ウニ漁の様子4枚
2009年12月 北海道根室市

貝殻島付近に停泊した母船から、小型の磯船が出発する。
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十分な漁獲があったのか、ゴムボートが母船へ向かう。背後は萌茂尻島。
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磯船がこの日何度目かの出発。背後は水晶島。
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磯船とゴムボートが、貝殻島手前ですれ違う。
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 歯舞諸島と周辺海域は本来、ロシアの海洋保護区に指定されているはずであり、以前は国境警備隊以外の船を見ることは稀だった。それがこの数年、制度が変わったのか、密漁の横行が黙認されているのか、ごく普通の光景となった。こうして獲られたウニは根室をはじめ道内各地へ、「ロシア産」あるいは「北方四島産」ウニとして安く出回ることになる。近年の水揚げ量は、ロシアの当該海域での割当て量をはるかに超えているとの指摘もあるから、密漁もかなりのウエイトを占めるのだろう。


「ロシア産」生ウニ
このような折が780~980円程度で売られ、根室ではそれよりはるかに安い。この折は赤みの強いエゾバフンウニが中心のようだ。
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 先週あたりから、納沙布岬周辺でのラッコによるウニの食害がさかんに報道されている。常時複数頭見られるようになったラッコが、放流したウニを食い尽し、深刻な被害を与えているという、よくある図式である。多くの報道では、ラッコの目撃頻度や数の増加について、「千島列島での手厚い保護の結果、数が回復してきた」というような見方がなされている。果たして本当だろうか。従来豊かな海だったはずの歯舞諸島周辺での、最近のウニをはじめとした資源の収奪ぶりをみると、「向こう」の海中環境が大幅に悪化した結果、「こちら」の沿岸に押し寄せて来ざるを得なくなったのではないかとも考えてしまう。少なくともその可能性も念頭に入れて、議論を進めるべきだろう。


ラッコ
2009年7月 北海道根室市
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岩に上陸したラッコ
2009年7月 北海道根室市
このような姿勢だと、カワウソ等と同じイタチ科の動物であるのがよくわかる。
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 同じような心配を、ゼニガタアザラシに対しても抱いている。道東だけの数でみたら増加傾向にあるが、極東側の分布の中心とされる歯舞・色丹の現状が不明のまま手放しに喜んだり、それで被害が増えたからといって駆除を検討したりすることが妥当だろうか。気が付いてみたら歯舞・色丹が滅茶苦茶な状態になっており、個体群としての存続すら危うくなっていることはないかと案じるのは杞憂だろうか。過剰な漁獲による海の環境の変化や海上交通の活発化は、ケイマフリ、エトピリカなどの海鳥類にもやはり影響を与えているはずである。
 十数年前、納沙布岬から歯舞の島々を望み、国境警備隊の船しか航行しない海や貝殻島、オドケ島等に大挙して上陸するアザラシを見ると「まだ聖域がある」との安心感に浸れたものだが、最近では岬から島々を見るたびにそうした安堵感は消え失せ、危機感のみが募るのが残念である。


ゼニガタアザラシの親子(左が新生仔)
2009年6月 北海道東部
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ケイマフリ(冬羽)
2009年12月 北海道根室市
冬羽とはいえ脚にほとんど赤みが無いのは若い鳥?
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(2010年3月15日   千嶋 淳)