All Photos by Chishima,J.
(オオミズナギドリ 以下1点(マンボウ)を除きすべて 2010年8月 北海道東部沖)
道東ではサンマの不漁が続いている。先日船に乗せてもらった漁師は、7月の漁獲は例年の5分の1以下だと嘆いていた。いつもなら8月を過ぎれば刺身で、塩焼きで、或いは煮付けで晩酌の友となってくれる秋刀魚も、今年の我が家の食卓にはさっぱり登場しない。不漁の原因として、猛暑とそれに伴う高い海水温が指摘されている。気象庁のホームページで確認すると、この8月の道東沖の表面海水温は、平年より2~4℃も高かったようである。
8月の半ばから末にかけて、十勝から根室にかけての道東太平洋で沖に出る機会が何度かあった。鳥の方も高い海水温を反映してか、いずれの海域でもオオミズナギドリが非常に多く、優占種であった。日本近海のオオミズナギドリは、海水温の上昇に伴って8、9月に分布が最も北寄りになる。その時期には、十勝や釧路西部の沖では例年群れが見られるが、今年は釧路よりも東の、厚岸や根室など寒流の勢力が強く、普段はあまりオオミズナギドリを見かけない海域でも優占種と化していたのが特徴的だった。水温が高い時に多く見られるマンボウもまた、各海域で普通に見ることができた。たまに現れるウミスズメ類やフルマカモメといった寒流系の海鳥がいなければ、道東沖であることを忘れ、本州東岸あたりと勘違いしていたかもしれない。
海上のオオミズナギドリ
オオミズナギドリ
マンボウ
2010年7月 北海道十勝沖
浮上直前の姿。多い年には、秋サケ定置網漁で大量に混獲されることがある。
それにしても、これらのオオミズナギドリは、思いのほか遠くから来ているようである。道内唯一の繁殖地は、道南の日本海沖に浮かぶ渡島大島であるが、そこでの繁殖数は多くても200羽程度と推測されているので、数が合わない。4時間程度の航海で、500羽前後と出会う日もあるからである。次に近い繁殖地となると、数百㎞離れた三陸の三貫島になるが、近年の発信機を用いた研究では、伊豆諸島の御蔵島で繁殖する個体群も、北海道南東沖まで採餌に来ているという。1000㎞を超え、時間にして一週間以上を要する実に長いトリップだ。5月のハシボソミズナギドリから始まって、その後のハイイロミズナギドリ、そして晩夏から初秋のオオミズナギドリまで、遠路はるばるやって来るこれらミズナギドリを、その季節に応じて養うだけの生産性が、道東の海にはあるのだろう。
オオミズナギドリ
下面を見ると、本種の種小名leucomelas(白と黒の)がよくわかる。
今朝の新聞は、道東で始まった秋サケ定置網でブリが獲れたことを報じていた。これも高い海水温がもたらした珍事と言えよう。こんな状態がいつまで続くのかわからないが、そろそろ秋刀魚の刺身をアテにしながらの晩酌で、迫り来る秋を実感したいものである。何しろ、今日も30℃を超える気温に苦しめられて、つい忘れてしまいがちだが、平年の暦ではあと一週間以内にヒシクイが十勝平野に降り立つはずなのだから。
オオミズナギドリ
「水薙鳥」の名前の通り、海面を切り裂いて飛んで行く。
(2010年9月2日 千嶋 淳)