goo blog サービス終了のお知らせ 

鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

ホオジロガモ

2012-03-29 23:33:45 | カモ類
1
All Photos by Chishima,J.
(以下雑種を除き種はすべて ホオジロガモ 2012年2月 北海道中川郡豊頃町)


(2011年12月5日釧路新聞掲載 「道東の鳥たち33 ホオジロガモ」より転載 写真・解説を追加)


 秋から冬にかけて、川や湖、漁港等の水面はカモ類の姿で賑わいます。マガモやヨシガモ、カワアイサ等道内で繁殖した種にくわえ、越冬や通過のため多くの種類がやって来るからです。今回紹介するホオジロガモもその一種で、北海道周辺ではサハリン(中部以北)や千島列島(択捉島以北)、カムチャツカ半島等で繁殖し、道東には10月中旬頃より飛来して冬を越し、5月半ばまでには渡去します。

 全長45cm、おにぎり型の頭をしたこのカモのオスは、その名の通り頬に楕円型の白斑を持ちます。メスは全身灰褐色で、頬の白斑はありません。和名はオスの頬の白斑から命名されましたが英名はGoldeneyeといい、オスでは黄色、メスでは黄白色の虹彩の色にちなんだものです。また、学名の属名は「牛のような頭」という意味のギリシャ語に由来し、独特な頭の形から付けられたものです。和名、英名、学名のいずれも頭部の特徴からの命名ですが、着眼点はそれぞれ異なっています。漁港や海上、沿岸部の湖沼等海の近くで多く見られますが、大きな河川や湖沼にも生息し、山間部の湖沼に飛来することもあります。


メス(手前)とオス
2012年3月 北海道中川郡幕別町
2


 市街地の公園等でも見慣れたマガモと比較すると、大きな相違点が2つあります。一つは餌のとり方で、マガモは水面や陸上で餌をとるのに対し、ホオジロガモは潜水して餌を探します。水草を食べることもありますが基本的には動物食で、甲殻類、昆虫の幼虫、小魚等を食べています。もう一つの違いは水面からの飛び立ち方で、マガモはいきなり飛び立つことができますが、ホオジロガモは助走を必要とします。これは最初の違いとも関連しており、潜水して水中を泳ぎやすいよう脚が体の後方に付いているためです。飛び立った後のホオジロガモが群れで頭上を通過する時、「ヒュルルルル…」と鈴のような高い音を聞くことがあります。これは声ではなく羽音ですが、その音質から英語では「ホイッスル(口笛)」と呼ばれます。学名の種小名は「響き渡る」という意味のラテン語が語源で、これも羽音からの命名です。


潜水するメス
2012年2月 北海道幌泉郡えりも町
翼を閉じて跳躍して潜る。「潜り方」の記事も参照。
3


群れの飛翔
2010年12月 北海道十勝川中流域
4


 繁殖地では深い森の、湖や川に近い樹洞に営巣するという、ホオジロガモの繁殖を日本で見ることはできませんが、その片鱗なら冬でも見ることができます。1月から3月くらいにかけて「ヘッドスロー」と呼ばれるディスプレイが盛んになるのです。1、2羽のメスを数羽のオスが囲んで、オスは頭を後方に反り返します。この時大きく反り返った頭は背中に付くほどで、フィギュアスケートの「イナバウアー」を彷彿とさせます。当のオスたちは次の繁殖に向けて必死なのでしょうが、傍で見ていると実にコミカルなものです。


ヘッドスロー・ディスプレイに興じるオスたち
2008年1月 北海道広尾郡広尾町
5


 カモ類はしばしば近縁の別種と雑種を形成しますが、アイサ類に近縁なホオジロガモではミコアイサとの雑種が観察されています。また、2010年2月から3月には十勝川に本種とヒメハジロの雑種と考えられる個体が飛来しました。ヒメハジロはホオジロガモと同属の小さなカモで北米に分布し、道東には冬期1~数羽が飛来することがあります。ヒメハジロとホオジロガモの雑種と思われるカモは、この個体を含め世界で4例しか記録のない、大変珍しいものです。


ヒメハジロと本種の雑種
2010年3月 北海道中川郡幕別町
「カモ類の珍しい雑種:ホオジロガモ×ヒメハジロ?」の記事も参照。また、同年の「BIRDER」誌8月号には森岡照明氏による解説記事がある。
6


(2011年11月29日   千嶋 淳)


ビロードキンクロ(その2) <em>Melanitta fusca (deglandii)</em> 2 (陸地ショートカット飛翔について)

2012-03-09 17:19:44 | カモ類
Photo
All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ビロードキンクロ 2012年2月22日 北海道厚岸郡浜中町)

 半月ほど前、道東の岬で海鳥を観察していた時のこと。極端な低温のため内湾側には広い範囲に沿岸氷が張り、それが風や波の影響を受けて移動し、海ガモたちをせわしなく移動させていた。その様をしばらく眺めていて、岬を挟んで移動飛翔する際、陸地より高くまで上がって陸地をショートカットして飛ぶのは、専らビロードキンクロとウミアイサの2種であるのに気付いた。当日は6種類の海ガモ類(クロガモ、ビロードキンクロ、シノリガモ、コオリガモ、ホオジロガモ、ウミアイサ)が観察されたが、高度を上げての陸地ショートカットは上記2種だけだったように思う。数の上ではビロードキンクロの10倍くらいいたクロガモは海面低くを、岬では沖側へ迂回する形で飛び、シノリガモやコオリガモも同様であった。先頭の1羽と後ろの2羽がオス成鳥で、真ん中の4羽はメスタイプ。


Photo_2


 ヨーロッパの海鳥図鑑を紐解くと、本種の飛翔について「しばしばクロガモより高く飛び、(大群の形成の仕方同様)この点でもホンケワタガモに似る」とあった。どうやらビロードキンクロが高く飛ぶ習性は、一般的なものらしい。それが何に起因するのかはわからないが、クロガモより細長く、丸みを欠く体型や安定感のある羽ばたき等が関連しているのだろうか?別カットより後ろ側の羽を切り抜いたもの。


Photo_3


 先頭側4羽を、また別カットより切り抜いたもの。先頭のみオス成鳥。嘴付け根の瘤や目後方の白い三日月状斑は、光線条件が良ければこの程度の距離でも目立つ。次列風切の白は、翼下面より上面においてより顕著。頭部はクロガモのような丸みはなく山状で、首もやや長く見える。


(2012年3月9日   千嶋 淳)



新たなる過密

2011-03-09 22:29:44 | カモ類
Photo
All Photos by Chishima,J.
堆肥に飛来したタンチョウオオハクチョウ 以下すべて 2011年2~3月 北海道十勝川中流域)


 音更町の十勝川温泉地先にある白鳥護岸は、餌付けされたオオハクチョウやカモ類を間近に観察できる冬の観光スポットであったが、全国的な鳥インフルエンザの発生を受けて、一月末より閉鎖されている。2000年代初頭までの野放図な給餌は、同半ばより総量や餌の種類、給餌期間等が規制されて、種、個体数も往年より少なくなってはいるが、それでも数百羽からのオオハクチョウとカモ類が突然人間からの給餌を断たれたことになる。閉鎖の処置が既に冬の半ばを過ぎていたこともあり、水鳥たちの多くは長距離の移動を選ばす、周辺で餌の獲れる場所を流浪しているようだ。

閉鎖された白鳥護岸

Photo_2

Photo_3


 一部の不凍河川以外に餌を求めるとなると農耕地が最有力候補となるが、春秋には格好の餌場となるそれらも、厳冬期には厚い雪に閉ざされている。その中で真冬でも採餌可能な場所として、農家の堆肥置き場がある。以前、「堆肥倶楽部」の記事でも紹介したように、発酵の熱で雪を融かし、植物質、動物質の餌に富む堆肥は、四季を通じて様々な鳥に餌場を提供している。オオハクチョウがそこに目を付けるのも当然であり、周辺の堆肥で密集した群れが頻繁に観察されている。
 数日前の午後、ある農家の、さして広くない堆肥場に約150羽のオオハクチョウが集まり、雪の融けた地面を闊歩しながら餌を探していた。この場所では100羽ほどのマガモとオナガガモ(大部分は前者)も飛来し、人や他の鳥に驚くと飛び立って、周囲を乱舞しながら餌を漁っていた。カモ類がこのような場所へ採餌のため飛来するのは夜間であることが多いのだが、ここでは午後三時過ぎ、まだ陽の高い内から観察された。くわえて、3羽のタンチョウ(成鳥2羽と幼鳥1羽。基本的に別行動で、時折成鳥が幼鳥を攻撃していたが、その関係は不明)もハクチョウやカモの中で地面をつついていた。


堆肥周辺を乱舞するマガモオナガガモ
Photo_4


オオハクチョウの群中で採餌するタンチョウ
Photo_5


 一見道東らしい豪快な光景であるが、考えてみると鳥インフルエンザの感染拡大防止のための給餌場閉鎖が、近隣の別の場所で新たな水鳥の集中を引き起こしている、皮肉な風景でもある。しかも、堆肥場は面積が狭いので個体密度は一層高くなり、また流水の存在しない陸地であるため糞等の排泄物は垂れ流しで、衛生的にはより劣悪な環境となっている。そして、個体数増加中とはいえ道内に1300羽しかいないタンチョウがそこで採餌しているということは、それへの感染症との接触機会を増大させているかもしれない。
 全国的な趨勢の中での白鳥護岸閉鎖が、妥当性を欠くものとは思わないが、真の危機管理のためには特定の箇所を隔離して終わりにするのでなく、近隣地域も含めた水鳥の分布や行動圏をモニタリングし、広域的な発想に基づく対策を講じてゆくことの必要性を、この創出された過密状態は教えてくれているような気がする。


近接するタンチョウオオハクチョウ
Photo_6


(2011年3月8日   千嶋 淳)


嘴がオレンジ色のホオジロガモ

2011-02-12 10:42:04 | カモ類
1
All Photos by Chishima,J.
嘴全体がオレンジ色のホオジロガモ・メス 2011年2月 北海道広尾郡広尾町)


 冒頭の写真は、2月1日に広尾町十勝港で撮影したカモである。嘴の先端だけオレンジ色で、他は黒色の典型的なホオジロガモのメスとは異なり、所々くすんだ黒色が混じるものの、嘴全体がオレンジ色を呈している。この点だけに着目すると、嘴全体がオレンジ色の北米西部産キタホオジロガモのメスを連想させる。しかし、それ以外の特徴は写真を見てわかる通り、ホオジロガモと大差は無い。
 急勾配の前頭部や目より前方にある頭頂、緩やかに幅を持って下る後頭部といったキタホオジロガモ的な特徴はまったく感じられない。最高点が目のほぼ上方に当たる頭部の形状や嘴の長さは、ホオジロガモと一致する。本個体は虹彩がやや暗色なことから、前年生まれの幼鳥である可能性がある。オスの幼鳥は、個体差はあるものの、この時期には嘴全体が黒色で、胸部の白色や頬の白斑がうっすらと現れる個体の多いことから、メスであるかもしれない。元々メスの幼鳥は、嘴の黒色部と黄色部の境界が不明瞭で、先端から根元の方までぼんやりとオレンジ色味を帯びる個体もいるので、色素の関係等によってオレンジ色部分が卓越する個体がたまに生じるのかもしれない。
 在庫写真の中から、およそ一月前の1月2日に同町音調津漁港で撮影したホオジロガモにも、同様の特徴を示す個体を発見した(下写真)。上の個体ほど嘴のオレンジ色が鮮やかでなく、黒色の混入する程度も大きいが、メス幼鳥のようである。年末年始の大時化が収まりきらぬ漁港内で、マガモと共に水面採餌をしていたのが印象的で、嘴の色にまで想いが至らなかった。

嘴のオレンジ色部分が広いホオジロガモ・メス
2011年1月 北海道広尾郡広尾町
2


 ネットで調べていたら、2003年12月に韓国でやはり嘴全体がオレンジ色のホオジロガモ類が観察されており、写真も掲載されていたが、冒頭の個体とよく似ていた。その記事の執筆者もキタホオジロガモを示唆する特徴の無いことからホオジロガモであろうと結論しており、更に写真を見たスリムブリッジの水禽協会の研究者による「写真の鳥ほど鮮やかなオレンジ色ではないが、嘴がオレンジ色のホオジロガモは飼育下において稀でない」とのコメントもあった。そして文尾は「人目を惹き、特徴的な頭部の形より判断しやすい嘴の色それ自体は、多くの経験を積んだバーダーは分かっているように、決定的な識別の基準とはならない。よく似た2種を分けるのに、たまに役立つ補助的な特徴でしかない。」と結ばれていた。まったくその通りだと思う。機材や情報が進歩したおかげで、やたらと細かい特徴を捉えて鳥を識別する風潮があるが、特定の識別点だけに固執するのはむしろ視野を狭窄させるだけであって、その種自体が醸し出す雰囲気のようなもの(jizz)を大切にするべきだし、そのためには時間をかけて鳥を「観察」(撮影ではなく)する必要がある。


様々なホオジロガモの「メスタイプ」

2011年1月 北海道中川郡豊頃町
メス成鳥。嘴は黄色と黒のツートンカラー。虹彩の色は明るく、脚のオレンジ色は鮮やかで、赤みを呈す。体下面の灰色は胸まで及ぶ。
3

2011年1月 北海道中川郡豊頃町
オス幼鳥。嘴は黒色で、胸は白っぽい。虹彩はやや暗色で、目と嘴付け根の間に白斑がわずかに現れ始めている。脚の色は鈍い。
4

2011年1月 北海道中川郡豊頃町
メス?幼鳥。虹彩や脚の色から幼鳥と思われる。特にオス的な特徴がないことからメスか?嘴のオレンジ色と黒色の境界は不明瞭で、もう少しオレンジ色が強ければ嘴全体がそのように見えるかもしれない。
5

2011年2月 北海道広尾郡広尾町
幼鳥。全体的に暗色で、各羽の磨滅も小さいことから、かなり幼いと思われる。嘴は黒色みが強く、脚の色も鈍い。よほど遅く生まれたか、換羽の進行の遅い個体であろう。
6


(2011年2月9日   千嶋 淳)


何を食べてる? 海ガモ類

2011-01-21 23:39:08 | カモ類
31
All Photos by Chishima,J.
漁港内でカジカ類を捕食するウミアイサのメス 2008年2月 北海道幌泉郡えりも町)

日本野鳥の会十勝・会報「十勝野鳥だより173号」(2011年1月発行)より転載 一部を加筆・修正、写真を追加)


 寒い冬の海で日がな一日潜水を繰り返し、餌捕りに励む海ガモ類。彼らは一体何を食べているのでしょうか?日本では海ガモ類の食性に関する研究は少ないですが、欧米とも共通種が多いので、そちらの情報も盛り込みながら、主要な7種の海ガモ類が冬に何を食べているのか垣間見てみましょう。
①スズガモ
 貝類をはじめ、浮遊甲殻類、カニ類、ヒトデ類といった水生無脊椎動物を中心に、植物質の餌(アマモの種子等)も食べます。動物性の餌が占める割合は、地域によって45~97%と変異があるようです。オランダで、9~2月に111個の胃が調べられた例では、貝類が全容量の80~95%を占め、貝は主にイガイの仲間(ムール貝に近い)、他にザルガイ、タマキビ類、ムシロガイが含まれていました。スウェーデンで3~4月に採取された24個の胃も同様の傾向で、イガイの仲間が87%の出現頻度を示しました。旧ソ連での研究では、餌は季節と地域によっても変化することが示され、例えば秋(10月)には貝類の割合は31.5%で、水生昆虫(24%)や種子(10.5%)も重要な餌となっていました。
 以前、根室の春国岱と黄金道路で、どちらも11月に拾得された本種の胃内容物を見たことがあります。春国岱個体の胃には干潟性のアサリ、ホッキ、黄金道路個体の胃には岩礁性のエゾタマキビガイが見られ、その時住んでいる場所の近くに豊富にある餌を、状況に応じて利用している様が窺えました。
 本種のちょっと変わった餌としては、シシャモがあります。これは自由に泳ぐ魚を捕まえるのではなく、大津漁港等でシシャモ漁期(10~11月)に、岸壁からこぼれ落ちて水没したものを狙って、多数のスズガモが岸壁付近で活発に潜水しているのを見ることができます。


岸壁付近でシシャモを捕食するスズガモ・メス
2009年11月 北海道中川郡豊頃町
「柳葉魚をめぐる鳥たち」の記事も参照。
32


②クロガモ
 貝類を中心にエビ等の水生無脊椎動物、時に魚類が餌となります。10~4月にデンマークの海上で得られた219個の胃内容物では貝類が95.9%と高い出現頻度を示し、中でもイガイの仲間(50.7%)、ザルガイの仲間(42.5%)が多く出現しました。甲殻類は10.9%の胃から出現し、それらは主に端脚類(ヨコエビやトビムシの仲間)でした。旧ソ連や北米での研究でも、イガイの仲間が重要な餌生物となっていました。


二枚貝類を捕食するクロガモのオス
2010年1月 北海道中川郡豊頃町

貝は既に口の中にあるが、付着した海藻等がはみ出している。
33

直後、それらを洗い流すような仕草を見せた。
34


③ビロードキンクロ
 貝類を主食とし、水生無脊椎動物や魚類、植物質のものも食べます。デンマークで冬期に集められた144個の胃内容物では、貝類が出現頻度で97.2%、全容量の83%と卓越し、イガイ、ザルガイ、ムシロガイの仲間が中心でした。他には甲殻類(出現頻度16%)、棘皮動物(ウニ、ヒトデなど;出現頻度9.7%)、環形動物(ゴカイなど;出現頻度8.3%)、魚類(出現頻度4.2%)等が出現しました。北米での研究でも、貝類やカニ類が主食であることが示されています。秋にはカゲロウ等水生昆虫の幼虫や蛹も食べているようです。
 ヨーロッパでは、クロガモより岸近くで採餌することが多く、おそらくそのために餌メニューの幅があると考えられています。北海道沿岸では砂質海岸の海上で見られることが多い本種ですが、これもクロガモと餌や採餌環境を別にしているからなのかもしれません。


二枚貝類を食べるビロードキンクロ・オス
2008年2月 北海道幌泉郡えりも町
35


④シノリガモ
 繁殖期には渓流をカワガラスのように潜水してトビケラやその幼虫を捕えていますが、冬には貝類や甲殻類が主食となっているようです。ヨーロッパではほぼ完全に動物食といわれ、主に貝類(タマビキ類、イガイの仲間)、他に甲殻類、環形動物、魚、魚卵を経寝ています。アイスランド沿岸では甲殻類が中心で、若干の貝類も食べているそうです。アラスカではイガイの仲間、プリビロフ諸島では端脚類とヤドカリの仲間というように、海域によっても餌は異なるようですが、いずれにしても動物質が中心で、植物質は全体の1 %程度と考えられています。11月に根室の花咲港で拾得された本種の胃内容物を見たことがあります。エボシガイ、コガモガイ、エゾタマキビガイ、イガイの仲間、フジツボ、稚ガニ、2~3種類の甲殻類、海藻などが含まれ、沿岸部の多様な無脊椎動物を利用している様子がよく分かりました。
 ただ、諸外国で言われているほど植物質への依存度が低いのか、疑問に思うこともあります。本種は漁港のスロープやその波打ち際付近で、コクガンやヒドリガモとともに採餌していることがよくあります。後2者は海草食者でスロープ周辺に付いている植物を食べていることは明らかです。シノリガモは何を食べているのでしょうか?また、漁港の岸壁部分に生えている海草群落から何かを食べているのを見たことがあります。ただし、フジツボ等固着している無脊椎動物を食べている可能性も否定できないので、今後注意して観察する必要がありそうです。


渓流に集ったシノリガモ
2007年5月 北海道十勝川上流域
「渓流の道化師」の記事も参照。
36


⑤コオリガモ
 貝類、小型甲殻類、軟体動物等動物質を中心に食べます。デンマークで11~4月に集められた113個の胃内容物では、貝類(ザルガイ、イガイ)の出現頻度が高く(93.8%)、甲殻類(端脚類や等脚類(ワラジムシ等の仲間);54.9%)、魚類(ハゼ科など;14.4%)、多毛類(ゴカイ、イソメ等;9.7%)等がそれに続きました。グリーンランド沿岸では甲殻類と貝類、カムチャツカでは端脚類と貝類など、同様の結果が他の海域でも得られています。
 珍しい事例として、荷役中の船からこぼれ落ちた穀粒を食べたというものがあります。

⑥ホオジロガモ
 昆虫類、甲殻類、軟体動物といった動物質の餌のほか、水生植物も食べます。デンマークで10~2月に集められた90個の胃からは、甲殻類の出現頻度が最も高く(76%)、貝類(小型のタマビキ類、イガイ、ザルガイ;70%)、魚類(主にハゼ科;22%)がそれに続きました。北米で11~4月に集められた150個の胃内容物は貝類、甲殻類(ザリガニ)、昆虫(トビケラ幼虫)等で、海ではそれらにフジツボ、カニ等も加わったということです。本種は内陸から外洋まで幅広い水辺環境に生息するので、その環境によっても餌生物は変化します。スコットランド等の内陸部で調べられた事例では、トビケラやカワゲラ、カゲロウといった水生昆虫の幼虫が重要な餌生物であることが示されています。十勝でもワシクルーズで出会うような河川中流域に暮らす群れは、水生昆虫の幼虫を食べながら冬を送っているのかもしれません。

⑦ウミアイサ
 魚食性が強く、ヒナや幼鳥はエビや水生昆虫も食べます。静岡県の駿河湾では、コアユとマイワシを捕食しているのが観察されています。私はえりも町の漁港で、本種が小型のカジカ類を食べているのを見たことがあります(冒頭の写真)。他に外国で食べているのが確認されている魚類には、トゲウオ、ギンポの仲間、ローチ(ウグイに似た魚)、キタノカマツカ、ツノガレイ、クロダラ、サケ科、ヤツメウナギの仲間、パーチ(スズキに似た魚)、イカナゴ等があります。胃内容物から甲殻類や昆虫が見つかることもありますが、小型のもの場合、魚が食べていたものの可能性があります。一般にカワアイサより小型の魚類を捕食するため、稚魚に有害であるとされます。
 フェリー等で沖に出ると、他の海ガモ類が沿岸部で多く出現するのに対して、本種はかなり沖合でも群れを見かけます。これは他の種類の主食が貝類のような底性動物で、水深がありすぎると潜って捕りに行けない(または行っても労力の割に合わない)のと違って、本種は表・中層の魚を捕れば沖合でも浅い潜水で餌にありつけるからではないかと思います。
 魚群が表層近くにあると思われる時に、他種の海鳥と採餌混群を形成することがあります。こうした混群の多くはまずオオセグロカモメやウミネコ等が集まって、続々と海に飛び込み始め、それを見たと思われる本種やウトウ、ウ類、アビ類等が飛来し、潜水採餌を始めることによって群れが大きくなります。潜水採餌者がメインになってくるとカモメ類はまた別の場所に飛び込み始め、潜水採餌者が再び追随することによって形成と分解を繰り返します。


ウミアイサを含む採餌混群
2010年4月 北海道根室市
夕刻の海上に海鳥が集う。オオセグロカモメウミネコは既に次の場所に移動を始め、ウトウヒメウが集まって来た。ウミアイサは最大3羽が観察された。
37


岸壁から何か(貝?)をこそぎ取るクロガモ(メス?)
2010年4月 北海道広尾郡広尾町
38


(2011年1月4日   千嶋 淳)