Photo by Chishima,J.
(カケス(亜種ミヤマカケス) 2005年10月 北海道中川郡豊頃町)
いつの間にか朝晩の空気はひんやりした冷たさを帯び、山間部からは雪や霜の便りが聞かれるようになってきた。北海道の短い秋は、今まさにこれから始まる長い冬に向けて加速しつつあるところだ。
秋の湧洞沼
2005年10月 北海道中川郡豊頃町
夏の緑は瞬く間に黄色、褐色へと変わる。そして純白に…
Photo by Chishima,J.
鳥の世界における秋の風物詩としては、本州以南ではモズの高鳴きが筆頭に挙げられる。稲刈りの行なわれている田圃に、また木枯らしの吹きすさぶ雑木林に響く「キィーキィーキィー…」の声に、日本人なら哀愁を感じずにはいられないだろう。しかし、残念なことに北海道では秋にモズの高鳴きを聞くことはほとんどない。高鳴きは秋冬期の、単独なわばりの宣言や、そこへの侵入者に対する威嚇を目的としているので、10月中遅くとも11月頃までにはより南方へ渡ってしまう北海道のモズにとっては、不必要なのであろう。
モズ
2005年7月 北海道中川郡豊頃町
摩滅のためか、上面の灰色みが強くなっている。
Photo by Chishima,J.
代わりに、ここ十勝で秋を感じさせる、鳥のいる風景は、たとえば刈り取りの済んだデントコーン畑で採餌や休息するタンチョウであり、遡上するサケを追って河川の中流部まで飛来してきたカモメ類であり、また秋風とともに湖面を渡るヒシクイの群れの喧騒などである。
タンチョウ
2005年10月 北海道十勝川下流域
刈り取り後の畑は見通しもよく、餌も多いのか、お気に入りの場所。
Photo by Chishima,J.
セグロカモメ
2005年9月 北海道十勝川中流域
力尽きたサケは、格好の餌資源。第3回冬羽の若鳥。
Photo by Chishima,J.
ヒシクイ(亜種オオヒシクイ)
2005年9月 北海道十勝川下流域
Photo by Chishima,J.
そうした風物詩の一つに、平野部へのカケスの出現がある。当地ではカケスは普通種であるが、繁殖期には低山帯以上の山間部へ移動するようで平野部ではほとんど見かけない。それが9月を過ぎた頃から、平野部でもふわふわした独特の飛翔で移動するのや、農耕地の中の孤立林で索餌する姿が目立つようになる。もっとも平野部への飛来数には大きな年変動があり、どこに行ってもカケスだらけの年もあれば、厳冬期近くまでとんと姿を現さない年もある。今年は前者に属するようで、9月後半以降随所でその姿を目にすることができる。帯広近郊では2001年以来4年ぶりのことである。今年は山でドングリやヤマブドウといった植物の実が凶作で、各地で頻発しているヒグマ出現との関係も示唆されているが、ドングリを好物とするカケスも、実りの少ない山を早々と去って平地に飛来するのだろうか。
カケスと言えば、忘れ得ぬエピソードがある。今回確認のために過去の野帳を紐解いたところ、1996年3月31日の出来事だったのでもう10年近く前になるのだが、その場面は未だ鮮明に記憶している。
その日、私は大学に隣接する売買(うりかり)川で鳥見をしていた。ごく小さな川ながらヤナギやカエデなどの河畔林が発達し、一年を通じて多くの鳥に出会える穴場である。まだ雪の残る季節ゆえ、出現する鳥は留鳥のカラ類やキツツキ類、冬鳥のマヒワなどごく限られているが、身近な隣人達とのふれあいを楽しんでいた。そんな私の耳に甲高く、素っ頓狂な声が飛び込んできた。「オ、オソーイ!」ん?人の気配は無かったと思ったが…。やや焦って周囲を見渡したが、雪原の中に人の姿のあるはずもなく、空耳だったかと再び歩き出す。間もなくして再び「オ、オソーイ!」。今度は空耳ではないことを確信し、声の方向を双眼鏡で探すと1羽のカケスを枝先に認めた。半信半疑で見ていることしばし、彼(女?)が嘴を開いた次の瞬間、例の声も聞こえてきた。「オ、オソーイ!」。その後、カケスは何度もそれを繰り返し、合間には「○×(聞き取り不能)ちゃん」と聞こえる声も発していた。
以下は私の想像である。売買川は、大学馬術部の練習コースとしても利用されている。日々川辺を駆ける馬のどれかに、馬を操るのが苦手だったのか、或いはおっとりした性格だったのか、ほかの人より目立って遅い「○×ちゃん」が乗っていたのではないだろうか。上下関係の厳しい体育会ではすかさず喝が入るはずだ。「○×ちゃん、遅い!」。おそらく、カケスはその光景を冬中眺め、そして聞いていたのであろう。そして春を目前にして気分も高揚してきた時に、それを真似してみたくなったのではないだろうか。
カケス(亜種ミヤマカケス)
2005年10月 北海道中川郡豊頃町
Photo by Chishima,J.
カケスはほかの鳥の声真似を得意とし、「ピャ-」というタカの鳴き真似にはしばしば騙されるほどだが、人の声真似の観察は初めての経験であった。
(2005年10月11日 千嶋 淳)
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