鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

自然史系文献における著作権って何だろう?

2008-08-02 00:31:13 | 自然(全般・鳥、海獣以外)
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All Photos by Chishima,J.
コヨシキリ 2008年6月 北海道中川郡豊頃町)


 先日、図書館で資料集めをしていた時のこと。書架の片隅に長らく探していた文献を見つけた。この文献は40年以上も前の帯広近郊の鳥についてのもので、この地方の鳥類リストとしては最古の部類に属するものかもしれない。古本屋や友人・知人の本棚にも見たことが無く、入手は困難かと思っていたところでまずは安心した。
 私は図書館のような静かすぎる環境では、却って集中できない性質である。自宅で、文献の山を机の上にだらしなく広げながら、気になる箇所に赤線を入れたり、疑問点を口で反芻しながら読み進めるのが一番身に付く。そんなわけで、館外持ち出し禁止のこの文献を、管内のコピー機で複写させてもらい、複写願と共にカウンターに持って行った。


キョウジョシギ(夏羽)
2008年5月 北海道中川郡豊頃町
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 カウンターでのチェックといっても通常は書類で申告した枚数と、実際の複写枚数が一致しているか程度の簡単なものなのだが、この日の職員は自己の職務に極めて忠実な方だったらしい。私が複写したのは「出版後50年を経ない単行本」であるので、著作権法により一冊の半分以上の複写を認めるわけにはいかないと言う。しかし、私が調べたいのは鳥類全般についてであり、特定の分類群のみではない。すべてのページの情報を必要としている。そのことを伝えた。それでも首を縦には振ってくれないので、くわえてこの本は出版後長い年数を経過していて事実上入手不可能であること、これを全部コピーしたところで営利目的になど利用のしようが無いこと等を説明したが、二言目には「著作権法」を持ち出してダメの一点張り。
 気長に説明を試みていた私も、余りにステレオタイプで役所的な対応と、こんなことに貴重な時間を費やされていることに腹が立ってきて、「著作権だ権利の侵害だの言うが、小説や随筆のように売り物になるわけではない書籍に、自分の観察データを託した(この本は発行は教育委員会であるが、中身は完全に一鳥見人の観察記録である)筆者が、50年近く後にそれをコピーしたいという願いを嫌がるのか?自分もそうした報文を細々と書く身だが、もし同じ立場だったら嫌がるどころか草葉の蔭からでも大喜びする!」という旨のことを、少々語気を荒げて伝えた(他にも幾多のやり取りがあったのだが、省略する)。
 黙り込んでしまった職員は「少々お待ち下さい」と裏方に消えてしまった。少々とは縁遠い時間の後、再び現れた彼女の口から、著者と連絡が付いて複写の許可が出たので、コピーは持って帰ってよろしいと伝えられた。今までの不毛な議論とは打って変わっての親切な対応には謝意を表したいが、本をコピー機にかけてから優に一時間以上が経過していた。


キタオットセイ(オス成獣)
2008年5月 北海道羅臼沖
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  今回の文献は教育委員会の発行であるが、古い時代ゆえ製本も粗末で、おそらく発行部数もかなり少ないはずで、せいぜいや官庁や学校等に配布された程度と推察される。このような曲りなりにも「公的な」出版物の他に、地元のナチュラリスト達が手弁当で自分たちの観察結果を印刷したものが各地に少なからず存在する。彼らが身銭を切ってまでそうしたものを出版するのは、自分らの結果を公にすることによって学問の進歩、また地域の自然の保全に反映されることを望んでのことだった筈である。また、それらを図書館等に寄贈するのは、ネット時代の現代ならともかく、そこに置くことによってより多くの人への情報の伝達が可能と考えたからであろう。それを、著作権法を盾に後世の人の知りたいという思いが規制されるのは、何処か腑に落ちないものを感じる。著作権法が著者の権利を保護するものであるとしたら、科学文献、特に自然史系の分野においては、規制すべきは複写の分量ではなく、そこに書かれている事実や写真を無断で使用する、あるいはそれらを意図的に無視するといった行為ではないだろうか。


ツメナガセキレイ(亜種ツメナガセキレイ;夏羽)
2008年7月 北海道北部
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ケマダラカミキリ
2008年6月 北海道上川郡上川町
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ツバメシジミ
2008年5月 北海道河東郡音更町
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堆肥上のタンチョウ・成鳥
2008年7月 北海道十勝川下流域
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(2008年8月1日   千嶋 淳)