鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

本別町の鳥類

2016-12-07 16:56:21 | 鳥・一般

Photo by Chishima, J.
タンチョウの親子 2013年5月 北海道中川郡本別町)


(2016年11月6日本別町にて開催の郷土学習「本別の野鳥を知ろう」(講師:千嶋夏子)での配布資料を一部改変)


 文頭から唐突だが鳥って何だろう?ボクが子どもの頃はテストで「羽毛を持つ恒温動物」と書けばマルが貰えた。何とも簡単でわかりやすい定義だ。しかし、世界各地で恐竜学が発展するにつれ羽毛を持った「羽毛恐竜」の存在が知られ、一部の恐竜は恒温性だった可能性も指摘されている。現在の学説では鳥類は恐竜の現生系統、すなわち生き残りと考えられている。恐竜は6500万年前に絶滅していなかったのだ!最近の教育現場では鳥類をどのように教えているのだろう?(ご存知の方がいたら是非教えて下さい)


トロオドン類(竜盤類獣脚類)の全身骨格(レプリカ)



 大型恐竜から鳥に至るまでには数多くの種が化石も残さずに絶滅していっただろうが、現生の鳥類は約1万種前後とされる。20年くらい前は8000~9000種といわれていたが、この20年で冒険家が世界の僻地から新種を採集しまくったワケではない。DNAの研究が進んだ結果、同じ種と考えられていたものの中に実は種レベルで異なるものが複数含まれていることがわかった積み重ねによる部分が大きい(もちろん、完全に新しく記載された種もある)。形からは見分けが付きづらい、隠蔽種というヤツだ。たとえば、世界のアホウドリの仲間は1990年代前半まで13種とするのが一般的だったが、遺伝子解析が進んだ結果、現在は24種とされている。いまのところ同じ種とされている伊豆諸島と尖閣諸島のアホウドリも別種とするのが妥当という研究者もいる。


アホウドリの若鳥
2014年6月 北海道十勝郡浦幌町



 日本ではこれまでに少なくとも633種の鳥が記録されている。この中には絶滅したオガサワラマシコや世界でも沖縄島北部にしかいないヤンバルクイナ、2回だけ迷って来た記録のあるヒメノガンなども含まれるから、広く定期的に見られるのは300種くらいだ。北海道では不確実なものを含めると480種以上が記録されている。北海道の鳥類相の特徴の一つに、本州以南の国内にはいない種・亜種(別種とするほどではないが明らかに羽色や大きさが異なるもの)の分布することがある。庭や公園で親しみ深いハシブトガラも本州以南には生息しない。ほかにエゾライチョウ、シマフクロウ、ヤマゲラなどは国内では北海道にのみ分布し、アカゲラ、エナガ、カケスといった身近な鳥たちも亜種が異なる。これらは国内では北海道にしかいない一方、大陸には広く分布するものが多い。北海道という大地が辿って来た歴史がその理由で、水深の深い津軽海峡は15万年前に成立してから陸続きにならなかったが、大陸とは水深の浅い宗谷海峡や間宮海峡を通じて1万年くらい前まで何度も繋がり、動物たちがやって来たのだ。ヒグマ、ナキウサギなど日本では北海道にしかいない哺乳類が多いのも同じ理由による。哺乳類・鳥類にとっての分布境界線となっている津軽海峡は、そのことに気付いた英国のナチュラリストの名にちなんで「ブラキストン線」と呼ばれる。北海道の鳥相のほかの特徴として、キバシリ、ゴジュウカラ、アオジなど本州以南では山地に生息するものが平地にも普通に分布しており(垂直分布の下降)、スズメ、カワラヒワといった本州以南の平地の種と一緒に暮らしている、いわば圧縮された鳥類相を示すことがある。繁殖期に本州以南から来道したバードウオッチャーは種や個体数の多さに驚く。一方、冬はごく少数の留鳥や冬鳥をのぞくと極端に少ない。雪や氷に閉ざされ、環境が厳しいためだ。夏鳥が多いことも北海道の特徴といえる。


エゾライチョウ
2014年4月 北海道十勝郡浦幌町



キバシリ(亜種キタキバシリ
2012年2月 北海道帯広市



カケス(亜種ミヤマカケス
2015年10月 北海道中川郡池田町



 さて、前置きが長くなったが本別町では2016年10月末現在、43科138種の鳥類が確認されている。十勝で記録ある鳥は約350種なので、その4割ほどだ。種類が多いのは主に海鳥や水鳥であることを考えると、内陸の町としては比較的多いといえるのではないだろうか。その理由の一つには比企知子さんがご自身の観察記録を1997年、ひがし大雪博物館研究報告に論文としてまとめられていることにある。地理的な条件も影響しているだろう。ボクは秋になると池田町まきばの家展望台で渡り鳥の調査を行っているが、本別方向から飛んで来る水鳥や猛禽類が多い。おそらくオホーツク海側から太平洋側へ抜ける最短ルートの一つとして利別川沿いを利用するのだと考えている。そのほかに本別町の鳥類相の特筆すべき点を挙げるなら、
①本別沢からウコタキヌプリにかけての町東側の山地は阿寒山地や白糠丘陵とも繋がりを持ち、オシドリやエゾライチョウ、クマタカ、クマゲラなど自然度が高い森林に生息する種が多い。また、針広混交林、針葉樹林が広く分布するため本来は亜高山帯に分布するルリビタキ、コマドリ、ウソなどが繁殖期にも比較的低標高で見られる。
②一方で平野部や丘陵にはミズナラ、シナノキ、イタヤカエデなどの広葉樹林が広がり、海霧の影響を受けない夏の気候のためかイカル、ヤマガラ、アオバズクなど十勝では数の少ない南方系の夏鳥が生息する。かつてはアカショウビンも渡来していた。
③海から50km前後離れた内陸部ながら利別川やその周辺の湿地、(行政区的には足寄町だが)仙美里ダムなど水辺環境もあり、先に述べたようにオホーツク海側への渡りルート上にあると考えられることから水鳥も多い。近年では十勝川やその支流沿いに内陸側へ分布も広げているタンチョウも繁殖している。
④市街地付近でオジロワシが繁殖する。
などといったところだろうか。とはいえ、未解明の部分やこれからの記録が期待される鳥も多く、本別町の山野は北海道の鳥類学におけるフロンティアだ。さらに視野を広げれば十勝平野とオホーツク海側の中間に位置するため、足寄、陸別、池田なども含め鳥類相がどのように変化してゆくのか大いに興味深い。市街地から農耕地、森林までどんな環境でも見られ、双眼鏡さえあれば観察できる(ルーペや顕微鏡を必要としない)のが鳥の魅力。外歩きが苦手なら冬に庭に餌台を設置して、ヌクい室内からホットコーヒー片手に見るのも悪くない。キガシラシトド、ゴマフスズメなど冬の北海道では餌台に迷鳥が飛来するコトが多い。ぜひ多くの方に観察して、記録を残してほしい。それがアカショウビンやシマアオジなど減りゆく鳥たち、ひいては地球環境を守る第一歩になるはずだ。本日は直接お話できず申し訳ありませんでしたが、近いうちにフィールドで一緒に鳥を見られる日を楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします!


オシドリ(オス)
2013年5月 北海道中川郡池田町



オジロワシ(成鳥)
2012年1月 北海道十勝川中流域



千嶋淳:1976年群馬県生まれ。幼少より鳥に親しみ、「4年間北海道の鳥を見に行く」つもりだった帯広畜産大学入学もいまや22年前。海なし県に生まれ育ったのになぜか仕事の大部分は海鳥・海獣に関するもの。道東鳥類研究所主宰。NPO法人日本野鳥の会十勝支部、日本鳥学会等会員。著書に「北海道の動物たち 人と野生の距離」、「北海道の海鳥1~4」、「十勝 湿地のいきもの図鑑」等。


(2016年10月31日   千嶋 淳)

書評:「鳥 優美と神秘、鳥類の多様な形態と習性」

2013-01-23 22:58:25 | 鳥・一般
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All Photos by Chishima,J.
ツバメチドリ 2012年4月 沖縄県石垣市)

NPO法人日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより179号」(2012年12月発行)より転載 一部を加筆・修正また写真を追加)

 この9月に、まだ真夏の暑さを引き摺る東京で参加した日本鳥学会100周年記念大会では、600名を超える参加者が連日議論を交わした。秋も深まった11月、千葉県にある手賀沼の畔で2日間に亘って開かれたジャパン・バード・フェスティバルでは、複数の会場で行われた企業や地方自治体、市民団体等によるブース出展やイベント、講演等は多くの人で賑わった。これだけ見ると学問として、また趣味として鳥に関わる人が大変増え、周辺環境も活発化していることが伺える。しかし一方で、鳥学や鳥類全体を広く概観できる人は増えないどころか寧ろ減っているのではないかと感じている。
 その理由の一つとして、鳥類についての幅広い情報を的確に伝える教科書的な書物の少ないことが挙げられる。比較的最近に出版されたものとして思い付くのが、M.ブライト「鳥の生活」(1997年)やF.B.ギル「鳥類学」(2009年)あたりだが、前者は生態にやや偏っている感は否めない。後者は鳥類学の分野を広く網羅しているものの、750ページ近い大部の書であり、また読み手は多少の生物学的な知識を必要とする。どちらも訳書である。日本人の手によるもので鳥を広く扱ったものとしては平凡社の「日本動物大百科」が1990年代のものだが、分類群ごとに専門家が分担執筆したもので、内容も生態中心である。また、「これからの鳥類学」(2002年)や「現代の鳥類学」(1984年)は鳥類学の専門書だが実際には論文集であり、系統立てて学べる類のものではない。この手の教科書が、昔から日本に皆無だったわけではない。大正15年に出版された内田清之介(*注1)の「鳥学講話」は、鳥の繁殖、渡りから始まって鳥と人生、鳥類の保護と云った章まで設けられ、自然科学の枠を超えた鳥学の教科書として、現代でも十分通用する。昭和16年出版の「鳥」は同書のダイジェスト版的な内容で、平易な文章で要点を纏めているので格好の入門書でもある。戦後、学問が細分化される中で広い視野を持った研究者がいなくなり、また過度の業績主義で研究者が論文ばかり書かねばならず、内田のような一般書や随筆を多く書ける人材が育たなかったのが、近年国内において同様の良書が存在しない理由であろう。


交尾直前のスズメ
2012年6月 北海道中川郡池田町
牛舎の屋根にて。左のメスは総排泄腔が見えている。
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 本書は2008年に出版された「The Secret Life of Birds Who they are and what they do」の日本語訳である。4部と10の章から成り、500ページ近い大著の中に写真はなく、イラストもモノクロが時折ある程度なので字数はかなり多い。それでもすらすらと読めてしまうのは、著者のコリン・タッジ氏がケンブリッジ大学で動物学を学んだサイエンス・ライターであり、執筆や講演を通じて科学をわかりやすく伝えることに長けているからだろう。単なる科学的事実の記述にとどまらず、我々の感性に訴えかける姿勢は全体を通じて一貫している。また、樹木や農業・食糧問題の著作もある氏ならではのものとして、しばしば鳥以外の生物との対比があり、生物界や生態系における鳥類の位置付けが従来の類書よりも理解しやすくなっている。
 第Ⅰ部「一味違う生き方」は飛翔の功罪と鳥の起源について述べ、第2章「鳥の生い立ち」では最近の知見も交えて鳥の起源にかなり詳細に迫ってゆく。羽毛を持つ恐竜等、これまでの定説が次々と覆されているこの分野の、近年新たな発見が相次いでいる中国での発掘成果等も含めたレビューは読み応えがある。ちなみに、第2章を数ページ繰っただけでもホワイト(*注2)、ウォーレス(*注3)、ダーウィン、アガシ(*注4)、ハクスリー(*注5)等錚々たる博物学者の名を目にできるのは、長い博物学の伝統を持つ英国の、文化的な奥深さを感じざるを得ない。
 第Ⅱ部「登場人物」は鳥の分類に関するものだ。第3章「登場人物の把握‐分類は不可欠」では分類学について、近年盛んになりつつあるDNAに基づく研究も含めて紹介している。折しも2012年9月に発行された「日本鳥類目録第7版」がDNAによる研究成果を採用して、従来の分類が大幅に変更されたばかりなので、DNAによる分類とは何で、旧来の分類をどう変えたか知るには最適である。ただし、本書と「日本鳥類目録第7版」の分類が完全に一致しているわけではなく、例えば本書ではハヤブサ科をタカ目に含めているが、「日本鳥類目録第7版」はハヤブサ目としてタカ目から分けている。続く第4章では、系統樹に基づいた30の目を主な単位に、世界中の様々な鳥類を紹介してゆく。形態や系統を中心にユニークな種等も取り上げ、流れるように鳥類の多様性を俯瞰できる。化石による類縁関係の推定が詳述されているのが興味深い。エチオピア区(*注6)やオーストラリア区(*注7)、新大陸には目や科レベルで馴染みが薄いものも多いので、図鑑やインターネットでその姿を探しながら読み進めると良い。


オオタカ(左)とハヤブサ(いずれも成鳥)
左:2010年11月 北海道十勝郡浦幌町 右:2012年6月 北海道
従来タカ目に統合されていたハヤブサ類は、近年ではスズメ目により近い独立した目として扱われることが多い。
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 著者が「本書の心臓部」と謳う第Ⅲ部「鳥の暮らし」は、採食、渡り、性と繁殖と云った主に生態的な部分を扱う。200ページを超える相当な情報量も、続々紹介される鳥たちの興味深い生態につい読み耽ってしまう。性や繁殖に関する部分では性選択や利他的行動等社会生物学の分野にも踏み込んでいるが、豊富な事例によってそれらを知らない人にも理解できるようになっている。第9章「鳥の心」の後半で扱う脳と社会性等については、最新の情報を日本語で読める数少ないものだろう。章の最後でそれらについて科学徒らしく「明言できない」と簡潔に答えながらも、後に続く「鳥類に心などないと主張するのはひねくれているとしか思えない。鳥類は間違いなく心をもっている。」からは、著者の鳥に対する深い愛情と慈しみの念を感じる。
 最終の第Ⅳ部「鳥と私たち」は、避けては通れない共存の問題である。有名なドードーやオオウミガラスだけでなく、いかに多くの鳥たちを人間が絶滅させて来たかに改めて愕然とする一方、未来への希望となる保全の成功例も紹介している。エピローグ「考え方の問題」ではダーウィニズムやこれまでの生物学を歴史や社会的背景の観点から捉え直して唯物論的思考や競争を批判し、協力に根ざした自然な経済を確立するために鳥類からは多くの学ぶべき点があると締めくくる。
 全体を通じて、翻訳やその校正に明らかな誤りが多いのは残念である。例えば、165ページにある英語でグレーファラロープ、米語でレッドファラロープのヒレアシシギは、アカエリヒレアシシギではなくハイイロヒレアシシギである。375ページの「ウミバトの仲間」は、その後の「断崖の岩棚に一つだけ卵を産む」という記述からウミガラスの仲間なのは明白である。ウミバトの仲間は岩礁の隙間等に2卵を産むのが普通である。ウミガラス類、ウミバト類とも英語ではGuillemotのため生じた誤訳であろう。漢字の誤りや段落が変わったのに行頭が下がらないといった校正の杜撰さは、随所に見受けられる。これらは全体的に硬めの訳文と相まってスムーズな読書を妨げている。


ウミガラス(左)とウミバト(いずれも冬羽)
左:2011年2月 北海道根室市 右:2011年3月 北海道根室市
米語ではウミガラス類がMurre、ウミバト類がGuillemotであるが、英語ではどちらもGuillemotだ。
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 とはいえ、鳥類学の広範な分野に亘って最新の知見を豊富な事例とともに凝縮した本書は、すらりと読める鳥の教科書として類書のないものであり、その価値は高い。鳥類学に関心のある人だけでなく、鳥好きなら十分楽しめる内容である。探鳥から帰った休日の午後に紅茶を、あるいは深々と雪の降る冬の夜更け、ナイトキャップを片手に鳥たちの多様な世界を垣間見ることにより、日々の鳥見が更に豊かなものとなることは間違いない。


アカエリヒレアシシギ(夏羽)の群れ
2011年5月 北海道道央沖太平洋
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ハイイロヒレアシシギ(冬羽)
2011年8月 北海道十勝沖
米語では夏羽の羽衣にもとづくRed Phalarope、英語では冬羽由来のGrey Phalaropeが用いられることが多い。
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*注1内田清之介(うちだせいのすけ1884-1970):鳥類学者。東京・銀座の商家に生まれ、東京帝国大学で動物学を学ぶ。日本鳥学会の創設メンバーの一人。農商務省鳥獣調査室長等を歴任し、日本の鳥の分布や生態、渡りを研究。日本における鳥類標識調査の創始者でもある。鳥獣保護にも情熱を注ぎ、その著書は「日本鳥類図説」のような専門書から一般向けの「野鳥礼賛」まで幅広く、数も多い。中西悟堂と並ぶ、日本の鳥界における名随筆家だ。
*注2ホワイト(Gilbert White 1720-1793):英国の牧師、博物学者。身近な自然を風土と合わせて記録した「セルボーンの博物誌」は、ナチュラルヒストリーの不朽の名作として、今日でも燦然と輝きを放つ。
*注3ウォーレス(Alfred Russel Wallace 1823-1913):英国の探検博物学者。アマゾン川流域に続くマレー諸島の探検中に自然選択説に辿り着き、書簡を交換していたダーウィンと共同で、1858年のロンドンリンネ学会で発表された。インドネシアのバリ島とロンボク島の間に生物分布の境界線があることを発見し、後に東洋区とオーストラリア区の境界として「ウォーレス線」と命名され現在に至る。後年には心霊主義や環境問題にも関心を示した。探検記の「マレー諸島」は新妻昭夫による版をはじめ幾つもの邦訳があり、ウォーレスの足跡を辿った新妻の「種の起源を求めて ウォーレスの「マレー諸島」探検」もまた好著である。
*注4アガシ(Jean Louis Radolphe Agassiz 1807-1873):スイス生まれの米国の海洋・地質・古生物学者。氷河や海洋生物の研究を通じて大洋や大陸は太古から変わらぬ恒久的な存在と信じ、進化論の強固な反対論者であった。
*注5ハクスリー(Thomas Henry Huxley 1825-1895):英国の生物学者。進化論を強力に擁護し、「ダーウィンの番犬」の異名で知られた。カンムリカイツブリやアビの求愛行動等の研究で知られる鳥類学者のジュリアン・ハクスリーは彼の孫に当たる。
*注7エチオピア区:生物地理区分の一つでアラビア半島南部、イラン南部、サハラ砂漠以南のアフリカ大陸を含む。鳥類ではダチョウやホロホロチョウ科、ネズミドリ目等がこの区に特異的。
*注8オーストラリア区:生物地理区分の一つで、オーストラリア、ニュージーランド、パプアニューギニアや周辺諸島が含まれる。哺乳類では有袋類(カンガルーやコアラ)や単孔類(カモノハシ)、鳥類ではエミュー科やコトドリ科等が特徴的である。


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ISBN 978-4-7813-0522-6 C0045     体裁:四六判・509ページ
発行元:(株)シーエムシー出版      著者:コリン・タッジ
発行:2012年10月29日         訳者:黒沢令子
価格:3150円(3000円+税)


(2012年12月28日   千嶋 淳)


ヤマゲラ

2011-05-04 16:29:49 | 鳥・一般
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All Photos by Chishima,J.
ヤマゲラのオス 2007年2月 北海道札幌市)

(2011年2月7日釧路新聞掲載「道東の鳥たち23 ヤマゲラ」より転載 写真・解説を追加)


 2、3月の山林は景色こそ冬ですが、鳥たちは近付きつつある春を予感させてくれます。ハシブトガラやヒガラといったカラ類は、高らかな囀りで次の繁殖に備えます。キツツキの仲間が木を激しく叩く、「ドラミング」も聞こえるでしょう。「ピョーピョーピョー…」という、口笛のような尻下がりの声がすることもあります。丹念に探せば、木の幹に垂直に張り付く緑色のキツツキがいるかもしれません。

 声の主ヤマゲラは、市街地でも身近なアカゲラよりやや大型のキツツキです。背中から翼にかけて鮮やかな黄緑色で、それ以外の部分は灰色、オスは頭に赤色部があります。平野から山地の森林に生息し、数は多くないものの、中規模以上の林があれば平地でも見られます。キツツキというと木の幹や枝を穿ちながら餌を取るのが一般的ですが、積雪期以外は地上でもよく採餌し、アリの巣を掘り返して、長い舌を活かして食べます。それ以外の昆虫や木の実、冬に市街地へ飛来し、餌台の脂身を食べることもあります。


地上で採餌するヤマゲラ
2007年4月 北海道河東郡鹿追町
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 山だけに棲むわけでないのに、ヤマゲラの名が付いたのはなぜでしょう?この「山」は「人の住む、中心的な所から離れた山の手」と解釈されています。江戸時代後期には「しまあをげら」とも呼ばれていました。「島に棲む緑色のキツツキ」の意で、どちらの名もヤマゲラが日本では北海道だけにいることに因るものです。本州から九州にかけては、よく似た別種のアオゲラが棲んでいます。一方、世界的にはヤマゲラは、ユーラシア大陸に広く分布しています。このように、ユーラシア大陸と北海道には分布していて、本州以南の日本にいない鳥が、実は何種類もいます。シマフクロウやエゾライチョウ等がそうですし、エナガやカケスは本州とは亜種(同じ種でも姿形が異なり十分に区別できるもの)が異なります。逆に本州以南にいて北海道に分布しない鳥にヤマドリ、キジ等があります。


アオゲラ(オス)
2006年12月 群馬県伊勢崎市
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エナガ(亜種シマエナガ
2010年9月 北海道河東郡音更町
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 津軽海峡が分布の境界線となっているのです。約2万年前の最終氷期、海面が最大で130m低下した際、水深の浅い北海道とサハリンやユーラシア大陸間の海は陸地化して動物が往来したのに対し、水深が深い津軽海峡は海のままで動物が渡れなかったためと考えられています。そのことに最初に気付いたのは1880年、英国人のトーマス・ブラキストンでした。来日するのに妻同伴で雪氷のシベリアを犬橇で横断し、帰国の際は帆船で黒潮に乗って太平洋を北上したという、徹底した探検博物学者だった彼は、貿易商として函館に20年以上居住しながら、日本の鳥獣を精力的に集めました。1000点を超える鳥類標本は、100年以上を経た今も北大植物園・博物館に所蔵されています。そして、生物分布境界線としての津軽海峡には「ブラキストン線」の名が冠せられました。
 ブラキストン線は鳥よりも哺乳類で、より分かりやすいかもしれません。本州以南にいない種はヒグマ、ナキウサギ、エゾモモンガ等、その逆にツキノワグマやニホンザル等があります。鳥は飛翔力があり、種によっては海峡を飛び越えられますが(ヤマゲラも過去に一度だけ、栃木県で捕獲されています)、哺乳類では海峡が移動上の大きな制約となるためです。


カケス(亜種ミヤマカケス
2007年2月 北海道河東郡上士幌町
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ナキウサギ
2006年6月 北海道河東郡鹿追町
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(2011年2月2日   千嶋 淳)



講演会のお知らせ

2010-05-12 09:40:48 | 鳥・一般
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Photo by Chishima,J.
ソリハシセイタカシギ 2010年4月 北海道十勝管内)

 今週の土曜日(15日)、帯広百年記念館で「とかち・四季の鳥旅」と題して講演させていただきます。十勝の季節ごとの鳥や見どころを、拙い言葉と写真でお伝えできれば幸いです。お近くでお時間のある方は、是非いらして下さい。以下、案内です。

博物館講座&友の会講演会『とかち・四季の鳥旅』
●開催日時:5月15日(土) 14時~16時
●会場:帯広百年記念館オーディトリアム
※主催:帯広百年記念館/帯広百年記念館友の会/十勝管内博物館学芸職員等協議会
※事前の申込み、参加料は不要です。当日お気軽に会場へお越しください。

(2010年5月12日   千嶋 淳)



鳥の寿命

2009-11-09 22:31:53 | 鳥・一般
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All Photos by Chishima,J.
シジュウカラの幼鳥 2008年8月 北海道河西郡更別村)


 「鳥の寿命は何年くらい?」という質問を、観察会やメールでいただくことがある。すべての生物は、生を受けた瞬間から、死というゴールへ向かって突き進む宿命にある。同じ生きとし生けるものとして、その限界に興味を抱くのは当然のことかもしれない。しかし、このシンプルな質問は「○○年くらいですよ」と即答することのできない、難しい質問でもある。

 即答を難しくしている要因の一つは、鳥の寿命を調べることがそう簡単ではないことにある。鳥の寿命を調べるには、大まかにいって下記の3種類があるが、それぞれに長所・短所がある。まずは、出生から死亡まで飼育してその年月を記録する方法。これ「は一番確実な方法であるが、飼育下のため、天敵による捕食や飢餓、病気等による死亡のリスクは極端に低下させられているので、実際の寿命とはかけ離れた、生理的な寿命と考えた方が良い。次いで、足環等の標識を付けて、生体・死体の回収があったらその経過年月から明らかにする方法がある。これは野生下での寿命を明らかにできるが、長い年月を経た回収記録は種内での最高寿命であり、平均寿命を明らかにできない、標識の装着から回収までの期間が必ずしも生涯の時間と一致しないといった問題点がある。三つめに、二番目の方法と近いが、ある個体群の多数の個体に出生時からカラーリング等の目立つ標識を施し、それを長期に渡って追跡する手法である。野外における野生生物の寿命を推定する一番確実な方法であるが、多数個体を捕獲し、それを長期間追跡するのは非常に困難で、実践例もそう多くない。
 さらに、上でも若干触れたが、多くの個体が生理的な寿命近くまで生きる現代のヒトとは違って、野鳥では産卵の瞬間から天敵による捕食、低温や高温、風雨、飢餓などにより絶えず死の危険に晒され、その結果、平均寿命(生態的寿命)と最高寿命(生理的寿命)が大きくかけ離れることが、この質問に答えることを一層難しくしている。たとえば、オランダのシジュウカラで調べられた例では、卵の時点で平均寿命は約8カ月、巣立ちまでこぎつけた若鳥の平均寿命は約10ヶ月であり、多くの個体が生後1年未満で死亡する、野生の厳しさを見せつけられる思いがする。寿命が明らかにされている、他の多くのスズメ目の小鳥でも平均寿命はやはり1、2年程度のものが多い。その一方で、死亡率の高い若齢時を生き延びればその後かなり長生きする個体もいるようで、英国ではシジュウカラの近縁種のハシブトガラで10年、アオガラで21年生存した個体のいることが、標識調査からわかっている。なので、問いが小鳥についてであった場合、「卵やヒナ、幼鳥の段階でかなりの個体が天敵に食べられたりして死ぬので、平均寿命は1年くらいだが、10年以上生きる個体もいるようです」と答えるようにしている。


ハシブトガラ
2008年9月 北海道帯広市
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 余りにも短い平均寿命とは裏腹に、長生きする鳥もいることが最高寿命の記録から窺える。飼育下であるが、オウムの仲間のキバタンでは80年以上生きた個体が知られており、ほかにもアンデスコンドルで約70年、ソデグロヅルで61年8ヶ月の記録がある。野外での記録に目を向けると、シロアホウドリで58年、コアホウドリで53年、ニシツノメドリで31年11ヶ月、オオミズナギドリ、マガモ、ミサゴなどで26年前後の生存が標識の記録から得られている。平均寿命の短い小鳥類でも、ズアオアトリで29年、クロウタドリやホシムクドリで20年の記録がある。概ね大型の鳥の方が長生きする印象を受けるが、その中でも上位にランクインしているのは海鳥が多い。海鳥は性成熟までに一定の期間を要し、繁殖開始後も年1回少数の子供を生産する、r-K戦略理論におけるK戦略的な生活史を持つことに起因するものと思われる。南北の半球を毎年往復するハシボソミズナギドリも繁殖開始までこぎ着ければ、その後は20年以上繁殖することが知られている。


コアホウドリ
2009年10月 北海道釧路沖
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ツノメドリ(若鳥)
2008年7月 北海道目梨郡羅臼町
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オオミズナギドリ
2009年10月 北海道釧路沖
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マガモ
2008年2月 北海道中川郡幕別町
左がオス、右がメス。背後の頭の赤いカモはホシハジロのオス。
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(2009年11月9日   千嶋 淳)