鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

哀しきキツネ

2006-11-24 15:14:41 | 自然(全般・鳥、海獣以外)
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All photos by Chishima,J.
キタキツネ 2006年11月 北海道広尾郡大樹町)


 T川の河口は、十勝海岸の中でも私の好きな場所の一つである。川自体は改修によって直線化されているが両岸には湿原が広がり、それを高台から俯瞰するとなかなか豪快な眺めとなる。ただ、いつもの周遊コースからはちょっと離れていることもあり、この日久しぶりに訪れた。時刻は午後の3時ではあったが、すっかり短くなった晩秋の陽がヨシ原を黄褐色に、ハンノキ林を黒褐色に照らし、期待通りの景観を呈してくれた。ただ、鳥の方はさっぱりで、期待していた猛禽類や小鳥の姿は皆無に等しい。海上に目を転じると、クロガモやシノリガモをはじめとした海ガモ類やアビの姿がちらほら見えるのが、迫りつつある冬を示唆している。

シノリガモ
2006年11月 北海道広尾郡大樹町
左端がメスで、ほかはオス。オスは「道化師カモ」という英名そのものの顔をしている。
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 帰途につこうと観察器具等を片付けていると、どこからか1匹のキタキツネが歩いて来た。ふさふさの冬毛が周囲の冬枯れた風景に馴染み、夕陽に照らし出されて美しい。私は車の陰に身を隠し、望遠レンズを構えようとしたがキツネはどんどん近寄って来る。珍しいこともあるものだと慌てて標準レンズに付け替えたが、キツネは我々から10mくらいの距離で止まってこちらを凝視している。これは幸運な出会いだとしばらくシャッターを切っていたが、驚いたことにキツネは近付いてきて、車の傍に落ちていたゴミに興味を示し始めた。さらには車にも興味を示し、中を覗き込むような仕草をしている。この瞬間にすべてを理解した。これは幸運な出会いなんかではない!このキツネは餌付いているのだ。試しにこちらから近付いてみると、一瞬警戒こそすれ、我々が立ち止まると逆に寄って来る始末だ。油断していると、鼻先を摺り寄せてきそうな距離までやって来る。なんともいえぬ哀しい気分になり、キツネを追い払った。キツネはしばし遠巻きにこちらを見ていたが、やがて夕闇迫る原生花園の中に吸い込まれるように消えていった。


上目遣いで接近中(キタキツネ
2006年11月 北海道広尾郡大樹町
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車に興味を示す(キタキツネ
2006年11月 北海道広尾郡大樹町
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人に急接近(キタキツネ
2006年11月 北海道広尾郡大樹町
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 帰りの車中、なぜこんな場所に「観光ギツネ」のような個体がいるのだろうと不思議に思い、考えた。「観光ギツネ」とは観光客の多い道路や駐車場に住み着き、観光客の与える餌に依存しているキツネで、各地で見られる。ここは観光客などそうそう訪れる場所ではなく、夏のシーズンには花目当てに多少の人はやってくるが、それにしても微々たるものだし、そういう人達はそれなりに自然との付き合い方もわかっているだろうから、キツネに餌を与えることもなかろう。


「観光ギツネ」2点(キタキツネ
2006年6月 北海道河東郡鹿追町

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 と、高台の一部で何かの工事をやっていたのを思い出した。否、厳密に言えば休日なので工事は休みだったが、何かの施設を建築中で、「こんな場所に景観を損ねるようなものを作らなくても…」と思ったのを思い出したのだ。おそらくキツネはそこで人に慣らされたのではないか。初めは、その辺に捨てていた弁当の余りの御相伴に預かりに来ていただけかもしれない。そのうち皆の目に触れるようになり、可愛さのあまり餌を与えるようになり、そう時間のかからない内に手渡しで餌をもらうようになったのだろう。


大口開けて(キタキツネ
2006年11月 北海道広尾郡大樹町
牙を剥き出しにして怒って…いるのではなく欠伸中
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 工事は雪が降れば終了もしくは春まで中断となるだろう。しかし、ここで餌をもらうことに味をしめたキツネは通い続けるだろう。もちろん、雪に閉ざされた原野に餌を持った人など来るはずもない。数ヶ月の餌付けでこの個体の狩りの能力が落ちていたとしたら、あるいはもしこの個体が幼獣で人から餌をもらうしか生きてゆく術を知らなかったとしたら、一瞬の餌付けはキツネにとってかえって仇になるだろう。
 それだけではない。有名なようにキタキツネはエキノコックス症を媒介する。キタキツネとネズミ類の間で生活環を成立させている多包条虫が人体に寄生することで発生し、肝臓や脳を侵し、死に至らしめる場合もある。手渡しで餌を与えるなどという行為は、自殺行為に等しい暴挙である。
 「危険」で人馴れしたアザラシについてふれたように、野生動物との不用意な接触は動物と人間の双方にとって不幸を招くことを再認識する必要がある。


黄昏の湿原を背景に(キタキツネ
2006年11月 北海道広尾郡大樹町
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(2006年11月24日   千嶋 淳)


冬を待つ季節(日々の野帳から2)

2006-11-21 20:07:05 | 鳥・秋
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All photos by Chishima,J.
オオワシの成鳥 2006年11月 北海道中川郡池田町)


 原野を赤や黄色に彩った木々から葉が落ちると、景観は冬枯れの褐色を主体とした寂しいものとなる。時折雪は降るものの、大抵はその後の晴天で解け、根雪になるのは平均で12月中旬頃である。鳥の世界でもいろいろな種が南へ去ってゆく一方で、海鳥や冬の小鳥・猛禽類など冬の北海道を代表するような鳥はまだ少ない。そんな晩秋から初冬へ移行中の、この半月ほどの野帳からの素描。

                   *
10月31日
 早朝、霜で真っ白に化粧した牧草地で10羽ほどのムナグロが佇んでいた。今年生まれの幼鳥たちだ。寒いためか動きはあまり活発でない。ここしばらくの暖かさで渡りを忘れていたのかもしれないが、そろそろ動かなければならないことを悟っただろう。越冬地は沖縄か小笠原あたりか、あるいは東南アジアまで行くのだろうか?


ムナグロ(冬羽もしくは幼鳥)
2006年11月 北海道中川郡豊頃町
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11月3日
 カワアイサの群れが目立つようになってきた。この鳥は十勝では普通のカモ類だが、晩秋には湖沼や大きな河川で時に数百羽にもなる群れを形成する。それと並行してオスでは体下面の紅色が鮮やかになってくる。この紅色はリポクロームという色素によるものだそうで、繁殖期前に顕著になるが、標本になるとすぐ失われてしまう。もう5年くらい前になるが、晩秋の日没間近の小さな沼の上を200羽ほどの本種が乱舞するのを見た。ただでさえ美しい下面の紅色が、大群の迫力と夕陽の照射を受けていつもの何倍も美しかったことを、この時期になると昨日の出来事のように思い出す。


カワアイサの飛翔
2006年11月 北海道十勝郡浦幌町
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11月13日
 早朝の漁港で何羽かのカモメが飛び交っていたが、その中に1羽、何か違和感を覚える個体がいた。最初何が変なのか分からず、でもどこか歪だよなと首を傾げていたらなんと尾羽が全部無い。換羽ではこのような抜け方はしないから、何がしかの事故等でごそっと抜けてしまったようだ。きわめてアンバランスに見えるが、他の個体と変わりなく港上空を周回している。尾羽はそのうち生えてくるだろう。


尾羽の無いカモメ(成鳥冬羽)
2006年11月 北海道中川郡豊頃町
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11月15日
 一面の枯野となったヨシ原の上を掠めるように飛ぶハイイロチュウヒが、背後の風景に溶け込んで目立たない。


ハイイロチュウヒ(メスもしくは幼鳥)
2006年11月 北海道十勝郡浦幌町
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 十勝川沿いではオオワシの姿が増えてきた。以前は内陸でオオワシが見られるのはもう少し遅くなってからのように思っていたが、サケに惹かれてか中流域へもそれなりの数が飛来している。
 河畔林に身を隠してオオワシと対峙していると、時々上流からカワアイサやホオジロガモが流れてくる。葉の落ちた河畔林ではこちらも完全に身を隠すことはできず、私の眼前に到達するとカモたちは三々五々、蜘蛛の子を散らしたように飛び去ってゆく。その中で1羽、飛べないらしく翼をばたつかせながら水面を走り去るカワアイサがいた。どうも右の翼を怪我しているようだ。周辺は鴨猟も盛んな場所なので、もしかしたら流れ弾にでも当たったのかもしれない。そんな心配を他所に、カワアイサは一瞬で下流へ流れ去った。


ホオジロガモ(オス)
2006年3月 北海道帯広市
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水面上を走り去るカワアイサ
2006年11月 北海道中川郡池田町
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 サケの水路にはまだ多数のオオセグロカモメが付いていたが、混じって数羽のユリカモメも飛来していた。オオセグロカモメより小型なため、その飛翔も軽やかでしなやかだ。しかし、その姿を楽しめるのも束の間だろう。道東では、厳冬期にユリカモメの姿を見ることは非常に少ない。
 この日の夜遅くから翌朝早くにかけて、初雪が降った。


ユリカモメ(幼鳥)
2006年11月 北海道十勝川中流域
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11月18日 
 つい先日までヒシクイやマガンで賑わっていた湖沼や農耕地に彼らの姿がほとんど無い。地域全体で100羽いるかいないかという程度だ。例年なら月末まではまとまった数が見られるのだが、先日の雪で南へ渡ってしまったと思われる。雪は降った日の昼にはもう解けてしまっていたが、ガンたちにとっては餌を取れない危機を感じさせるのに十分だったようだ。今年の秋も終わった。


初冬の原野
2006年11月 北海道中川郡豊頃町
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(2006年11月21日   千嶋 淳)


朝飯前

2006-11-14 11:13:44 | 海鳥
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All photos by Chishima,J.
ウグイ属魚類を捕えたウミウ 以下すべて 2006年11月 北海道中川郡豊頃町)


 午前8時、一般社会はこれから動き出す時間だが、この小さな港では既に十分遅い時間なのか漁船の出入りもほとんど無く、釣り人を除くと岸壁は静かなものだ。あるいは今は朝凪のように見える太平洋も昨晩までは初冬の低気圧で大時化だったため、漁労それ自体が無かったのかもしれない。そのためだろう、水揚げ時には賑わうはずのカモメ類の姿も散見される程度である。無人の漁船の隙間では、最近数を増してきたスズガモが1羽2羽潜水を繰り返しており、やや離れた広い水面には30羽ばかりの群れも浮いている。オスはまだエクリプスや幼鳥の羽衣にあるようで、一見するとすべてメスから成る群れのように見える。
スズガモ(メスか幼鳥)
じっと水面を見つめていたが、直後潜水した。
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 その広い水面で、数羽のウミウが活発に潜水・採餌している。スズガモとは違って警戒心が強く、人の気配を察知するとすかさず泳ぎ去ってしまう。それでも、潜水に夢中になるあまり己の位置を忘れ、突然人の目の前に浮上してきて、目が合うとそそくさと逃げてゆく個体もいる。そんな滑稽な光景が可笑しくて、私はウミウを惚っと眺めていた。


泳ぎ去るウミウ
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 中程度の距離に、1羽のウミウが飛沫を撒き散らしながら弾丸のように浮上してきた。通常の浮上とは様子が違う!ウミウの形も変だ。そう、獲物を捕えての浮上である。ウミウの嘴には、30cm前後はあろうかという大物のウグイ属魚類(海水という環境からウグイかマルタだと思うが不明;以下、単にウグイと表記)がしっかりとくわえられていた。捕えられたばかりのウグイは当然活きも良く、目をかっと見開き(後に写真で確認、とよく考えると魚は生死を問わず目を見開いている)、頭と尾はびちびちと動いている。「あいや~、こったらデカいのどうやって食うのよ~!?」というこちらの御節介とは裏腹に、ウミウは嘴を斜め上方に向けながら素早く魚をくわえ直すこと数回、魚の頭部を自分の喉の方に向けると、つるりと鮮やかに呑み込んでしまった。ここまででものの1分もかかっていない。喉が異常に膨れ上がったウミウは少しの間、居心地悪そうに泳いでいた。サギ類などでは、大型の魚を呑み込んだ直後にはよく水を飲むのだが、こちらも夢中でウミウが飲水したか確認するのを忘れてしまった。それからまた1分も経たぬ内、ウミウは「こんなの朝飯前だよ」とでも言わんばかりに水を蹴って飛び立ち、漁港の上空で数度円を描くと外海の方へ帰って行った。大物のウグイはウミウにとって立派な朝食だろうから、実際には「朝飯後」なのであるが…。


ウミウの食事風景(前半)

ウグイ属魚類をくわえて浮上した直後
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格闘中(この次が冒頭の写真)
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くわえ直して魚の頭部を口内へ
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 ウグイというと川の釣魚として有名だが、産卵期以外は海で過ごす降海型も存在する。普通中~底層を遊泳しているが、特に朝夕には餌を求めて水面に現れるそうなので、その時に自らがウミウの餌になってしまったのかもしれない。あるいは時期的なもので、降海型のウグイも11~12月には河川に越冬遡上するので、沿岸域に大挙して来ていたのかもしれない。
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 そういえばこんなことがあった。数年前のやはり11月上旬、釧路地方のある河口部にかかる橋の上でウミウの死体を拾った。妙な場所で変な鳥が死んでいることもあるものだと死体を持ち帰り、体を開いてみると食道には長さ35cm、重さ450gのウグイが1匹、未消化の状態で入っていたほか、そ嚢内には消化の進んだ魚類の残渣もあった。この状況から推測したウミウの死因は、ウグイの越冬遡上などを追って川に入り、腹を満たして海に戻ろうと飛び立ったものの、あまりの自重で高度が稼げないうち橋に達してしまい、車か橋の構造物に衝突したのだろうというものだった。ちなみに、未消化ウグイの450gは、体重3kg前後のウミウにとって体重の15%(!)に相当する。
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 ウミウは北海道全域の海岸や海上でもっとも普通のウ類で、無人島や岬などの断崖に集団で営巣する。十勝地方にはそのような環境がないため繁殖は未確認で、非繁殖鳥や移動中の個体が漁港や海岸で観察される。晩秋までにほとんどの個体が南下するが、南部の広尾町では少数が厳冬期にも見られる。


ウミウの食事風景(後半)

呑み込んだ直後でまだ口は開いている
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喉が膨張して
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ばつが悪そうに泳ぐ
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(2006年11月13日   千嶋 淳)


冬支度

2006-11-11 20:36:21 | 自然(全般・鳥、海獣以外)
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All photos by Chishima,J.
エゾリス 2006年10月 北海道帯広市)


 木漏れ日の照明が黄色く染め抜いた林床を、数匹のエゾリスが忙しなく駆け回っている。既に多くの個体で赤褐色の夏毛は前肢や後肢の一部に留める程度で、灰褐色の厚い冬毛がほぼ全身を覆っている。風も無い穏やかな秋晴れの下、リスたちはチョウセンゴヨウマツの実やカシワまたはミズナラの実(ドングリ)など、各自好みの餌での食事に夢中だ。観察していると、中にはクルミの実をくわえたまま遠くへ走り去ってゆく個体もいる。一体どこへ行くのだろうか?
餌を求めて駆けるエゾリス
2006年10月 北海道帯広市
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クルミをくわえて走るエゾリス
2006年10月 北海道帯広市
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 リスの早足の足元にも及ばない私の追跡では、最後まで見ることはできなかったが、状況から推測するに林内のどこかへクルミを貯蔵していたのだろう。長く厳しい冬を目前に控えたこの季節、リスたちは林内の土中や木の股などへの貯食を活発に行う。シマリスの貯食が冬眠中時折覚醒した際の食料なのに対し、冬眠しないエゾリスでは常食となるから、その熱心さもひとしおだ。いろいろな場所へ分散して食料を貯蔵し、その距離は数百mから時に1kmに及ぶこともあるという。


エゾリス
2006年10月 北海道帯広市
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シマリス
2006年6月 北海道大雪山系
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 「フィフィフィフィ…」。エゾリスの合間を縫うようにゴジュウカラがやはり数羽、地面に降りて跳躍しながら餌を探している。無事餌を発見した個体はすぐさま木の幹に戻り、樹皮の隙間に餌を挟んで固定してから、のみ状の嘴でつついて食べる。こちらの餌はヒマワリの種だ。ヒマワリの種など、もちろん自然界では林内に存在しないものだが、この都市公園ではエゾリスへの給餌が半ば公然と行なわれており、そうした人たちが撒いてリスが食べ残したものだろう。それにしてもゴジュウカラもひっきりなしに、地上と木の幹を往復している。どうやら食べているのは採取した内の一部で、やはり多くは蓄えている模様だ。


地上で餌を探すゴジュウカラ
2006年10月 北海道帯広市
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樹皮の間に餌を挟んで食べるゴジュウカラ
2006年10月 北海道帯広市
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 よくこのようなリスや小鳥が貯食した実の一部が「忘れられて春に発芽し、森や林を広げてゆく」というような話が解説書等にもっともらしく書かれ、それを読んで自然界の見事な仕組みに頷いたりもする。しかし、このことは科学的には証明されていないのだそうだ。動物たちが「忘れる」ことを証明することの困難さからである。室内実験では、鳥は貯食した場所周辺の木や石を手がかりに、かなり長期間にわたって正確に記憶しているらしい。たしかに、生命線となる食料の貯蔵場所をそう迂闊に忘れて良いほど冬の動物たちの生活は余裕に満ちていないだろうし、もし忘れてしまうくらいならそのような行動が進化することもなかっただろうという気もする。本当のところは当の動物のみ、あるいは食われる側の植物のみぞ知るところなのだろうが、麗らかな日和の下にあるこの街中の緑地でも来るべき飢えと寒さの季節への準備が、体の内外へ栄養を蓄えこむ形で着実に行われ、束の間の暖と穏を楽しむ余裕があるのは人間くらいのようである。


ゴジュウカラ
2006年10月 北海道帯広市
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 上記の描写や写真は今からおよそ半月ほど前のものである。気が付けば暦は立冬を過ぎ、残った葉を散らして原野の風景をより冬枯れに近付ける冷たい雨が降っている。鳥の世界でもアオジをはじめとした夏鳥がほぼ姿を消し、僅かに残ったカワラヒワやベニマシコなども一部の越冬個体を除いて近々渡ることだろう。代わってハクチョウ類やワシ類など、冬の使者の姿は目に付くようになってきた。今年はオオモズやキレンジャクなども早い時期から観察されているが、冬鳥の渡来状況はどうだろうか?久しぶりに極北の小鳥で沸く冬があっても良いのではないだろうか、と密かに楽しみにしている。いずれにしても季節の変わり目は近く、それは取りも直さずエゾリスやゴジュウカラがあの穏やかな秋の日に溜め込んだ食料を当てにする日も近いということである。


ベニマシコ(メス)
2006年10月 北海道中川郡豊頃町
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オオハクチョウの飛翔
2006年10月 北海道河東郡音更町
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オオモズ
2006年11月 北海道中川郡豊頃町
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(2006年11月11日   千嶋 淳)


大型水鳥の観察マナー

2006-11-08 16:02:12 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All photos by Chishima,J.
ハクガンヒシクイ 2006年10月 北海道十勝川下流域)


 カシワの紅葉も終わり、カラマツの黄葉も盛りを過ぎた感のある十勝平野であるが、今月一杯は十勝川下流域で大型水鳥の姿を楽しむことができる。マガン、ヒシクイなどのガン類やハクチョウ類がメインであるが、タンチョウもこの時期、収穫の終わった畑などによく出てきて、見やすくなる。十勝川下流域にはかつての河川跡の沼(河跡湖)などが多数あり、水鳥はそうした沼に滞在しながら、周辺で採餌してさらに南へ渡る(タンチョウをのぞく)ためのエネルギーを蓄えている。
マガン
2006年4月 北海道十勝川下流域
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ヒシクイ
2006年3月 北海道十勝川下流域
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タンチョウ
2006年10月 北海道十勝川下流域
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 数十年前までは沼や河川の周囲には広大な湿地があり、水鳥はおそらくそうした湿地で餌を採っていたのだろう。しかし、湿地は灌漑や埋め立てによって、その大部分が農地へと急速に姿を変えた。その結果、大型水鳥も農耕地で採餌するようになり、現在春と秋には牧草地や刈り取りの終わった畑などに群れで飛来している。


沼で休息(ヒシクイ
2006年9月 北海道十勝川下流域
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 最近ではそれらの水鳥を観察して楽しむ人も増えてきたようで、インターネット上を徘徊していると写真や観察記などを目にするようになった。そのこと自体は、地元ではともすれば畑を踏み荒らしたり、時にコムギの苗を食べたりする害鳥として認識されがちな水鳥に、新たな価値のある(訪れる人が多くなれば、食事や滞在等で地元にお金も落ちる)ことを気付かせるためにも結構なことだと思う。ただ、鳥や地元の人への配慮を欠いた、マナー違反的な行動が堂々と書かれていることがあるのは、残念なことである。


コムギ畑の招かれざる客(オオハクチョウ
2006年10月 北海道十勝川下流域
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 たとえば、飛翔写真を撮るため、ガン類の群れに近付いて飛ばしたなどという記事を見ることがある。農作業の行なわれている畑のすぐ横の牧草地に群がっている姿からは想像も付かないかもしれないが、ガン類は臆病な鳥である。集団で採餌している時でも誰かしらが常に警戒に当たり、危険を察知するとすぐに飛び立つ。特に、「殺気」のない農作業にくらべて、明らかに自分の方へ近付いてくる観察者には敏感である。撹乱があまりにも多くなれば、その場所を放棄することにもつながりかねない。実際、本州では環境はほとんど変わらないのに、道路ができて車の交通量が増えたために消失したマガンの越冬地がある。
 また、農地への立ち入りも時々見かける。さすがに畑の中にずかずかと入ってゆく人は滅多にいないが、その縁を通って沼のそばへ行ったというような話は今でも見る。たしかに、農耕地の縁や刈り取りの終わった牧草地などへ入っても、実害はほとんどないだろう。しかし、そこは他人の土地。立ち入るのであれば、地主に断わるのが最低限の礼儀であろう。


牧草地で(ヒシクイ
2006年11月 北海道十勝川下流域
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 以前は鳥を見るというと、野鳥の会の探鳥会などに参加するのが普通で、そうした場所では先輩の会員や幹事が、フィールドマナーを教えてくれたものだ。最近ではいろいろな情報が得られるようになり、個人で鳥を見る人も増えたようだが、そうした人たちに「?」と思うような行動が多い。もちろん、悪意でやっているわけではないのだろうが、知識や経験の欠如がもたらす残念な結果といえる。特に、多くの人が目にするインターネット上に書き込むことは、第二、第三のマナー違反を招きかねない。入門書を読むなどして、鳥とのつきあい方を身に付けてほしいものである。
 十勝川下流域で大型水鳥を観察する時は、
・車かブラインドの中から様子を見ながら慎重に鳥に近付き、
・群れの半分くらいが警戒したら、それ以上近付かない。
・他人の土地に断わりなく入らない。農作業の邪魔をしない。

というごく簡単なマナーを守って、鳥や地元の人と摩擦を起こすことなく、いつまでも観察が楽しめる環境であってほしいと思う。


日高山脈を背景に(ヒシクイ
2006年10月 北海道十勝川下流域
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(2006年11月8日   千嶋 淳)