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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

十勝の自然101 ケガニ

2016-12-29 10:55:41 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J
食卓を彩る十勝沖で漁獲されたケガニ

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年12 月7日放送)


 気付けば今年も師走。忘年会、新年会などで、鍋やしゃぶしゃぶと並んで欠かせない食材がカニですね。中でも甘みがあって優れた食味の身にくわえ、濃厚な旨味が凝縮されたカニみその多いケガニは最高に贅沢な逸品といえましょう。広尾から大津にかけての十勝沿岸ではちょうど、ケガニ漁が最盛期を迎えています。

 十脚目(じっきゃくもく:エビ、カニ、ヤドカリの仲間)クリガニ科に属する、ずんぐりしたカニで、オスは最大で甲長15cmに達します。ベーリング海のアラスカ沿岸から千島列島、日本を経て朝鮮半島東岸に至る北西太平洋に広く分布し、国内では北海道周辺のオホーツク海と太平洋に多く生息します。水深150mより浅い、水温15℃以下の砂か砂泥の海底に分布し、動物プランクトン、他の十脚目などを食べる肉食性ですが、自身もオオカミウオやミズダコに捕食されることがあります。

 カニというと海底のイメージが強いですが、メスの体で成熟後に放出された卵から孵化したばかりの幼生は数ヶ月間、表層でプランクトン同様の浮遊生活を送ります。5段階からなるゾエア、それに続くメガロパと呼ばれる浮遊幼生期の後に脱皮し、甲長約5mmの稚ガニとなって海底生活に入ります。甲長10cm以上となるには10年以上もかかります。

 かつては肥料としてしか利用されていなかったケガニは、1920年代に入ると缶詰原料としての利用が始まり、煮ガニ、活ガニとして出回るようになったのは1965年頃からです。主にカニかごを用いて漁獲されますが、乱獲によって急速に資源が減少したため、海域ごとに漁船数や操業期間を定めるなど資源保護が図られています。

 最後に蛇足ながら、身やみそを味わい尽くした甲羅に熱燗を注いでキュッとやるのは何とも言えない至福の境地です。お酒が苦手な方はアツアツのご飯でも同じ境地に入ることができますよ。

(2015年12月4日   千嶋 淳)

十勝の自然100 オオワシ・オジロワシと人間

2016-12-15 15:55:05 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
闘うオオワシの成鳥(右)と幼鳥 2014年12月 北海道十勝川中流域)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年12 月2日放送)

 古くはオホーツク文化や擦文文化の時代から、オオワシ、オジロワシの羽は北海道の重要な交易品でした。特に武家社会では尾羽が矢羽根として重宝され、江戸時代にはラッコの毛皮などとともに松前藩から将軍家へと献上されました。美術品としての価値も持つ尾羽を中心に、ワシを狙った密猟は、比較的最近まで行われていたようです。

 国の天然記念物や国内希少野生動植物種として法律で保護される現在では、狩猟による捕獲はほぼなくなりましたが、ワシたちは現代社会特有の新たな脅威に直面しています。

その一つが鉛中毒。1990年代、爆発的な個体数増加にともなう農林業被害を受けてエゾシカの狩猟・有害獣駆除が活発化します。撃たれたシカの多くは残滓(ざんし)として山中に放置され、それを冬の餌としたのがワシでした。その際、体内に残っていた鉛弾の破片を一緒に食べ、貧血や神経症状による運動能力の低下などから餌が捕れなくなって、最終的に衰弱死するのが鉛中毒です。1997年に最初に発見されて以降の10年間で、100羽を超えるワシが犠牲となりました。道は鉛弾使用の規制や禁止でこれに対応し、2013年には所持も禁止しましたが、残念ながら鉛中毒は発生し続けています。

 もう一つは風力発電用風車への衝突です。「エコでクリーンな」エネルギーとしての風力発電が近年、一種の流行のようになり、道内の海岸線を走っていて巨大なプロペラを見ない方が珍しいくらいです。風車の回転羽根であるブレードへ野鳥が衝突する事故が各地で起きていて、特にオジロワシはこれまでに30羽以上が命を落としました。衝突を避けるための実験、衝突リスクの高い場所の地図作りなどが行われているものの、原発事故以降のクリーンエネルギーへの期待を追い風として風車は着実に増えています。

 どちらも一朝一夕には解決できない問題ですが、まずは現状をしっかり認識し、皆で知恵を出し合って人間にもワシにも明るい未来を切り拓いてゆきたいですね。


(2015年12月1日   千嶋 淳)

十勝の自然99 オジロワシ

2016-12-14 22:36:40 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.

オジロワシ成鳥   2012年1月 北海道十勝川中流域)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年12 月1日放送)

 オオワシと肩を並べる冬の猛禽がオジロワシです。その名の通り、成鳥では尾羽が真っ白なのが特徴ですが、オオワシの成鳥も尾羽が白いので、注意が必要です。また、幼鳥や若鳥の尾羽は白黒のまだら模様で、完全に白くなるには5、6年かそれ以上かかります。嘴の黄色や体の茶色は、冬枯れの景色に溶け込むように淡く、派手なコントラストが人気のオオワシに対して、通好みの渋さを持つ鳥といえるでしょう。

 東アジアからヨーロッパまで、ユーラシア大陸北部に広く分布しますが、特にヨーロッパでは家畜へ被害をもたらすとして銃や毒餌で殺されたり、農薬汚染による繁殖失敗が続いたりして、20世紀半ばまでに絶滅・激減した地域も少なくありません。それらの一部では、人為的な再導入や手厚い保護によって回復傾向にあります。個体数は少し前には5000~7000つがいと推定されていましたが、現在はヨーロッパだけでも10000つがい前後がいて、もう少し多そうです。

 オオワシ同様、ロシア極東で繁殖して越冬のため北海道に渡って来る一方、一部は北海道の主に東部と北部で繁殖し、一年中見られます。繁殖つがい数や夏に残る若鳥は近年増えており、十勝でも1990年代には3ヶ所しかなかった繁殖地は現在、可能性のある場所も含め、少なくとも10前後あります。

 繁殖期は早く、つがいによってはまだ雪深い3月はじめに卵を産みます。そのせいか、冬でもつがいと思われる2羽でいるものが、オオワシより多いように感じます。樹上や地上に並んで、時に「カッカッカッ…」とよく響く声で鳴き交わす2羽をじっくり見ると、大きさにかなりの開きがあるのがわかります。大きい方がオスと思われがちですが、実は大きいのはメスで、オスは平均して大きさで15%、体重では25%もメスより小型です。オスがメスより小型な傾向はワシ、タカなどの猛禽類に広く見られ、その理由として、小型ですばしこいオスが獲物を捕まえる、巣で卵や幼いヒナを温めるメスは大型化が進んだと理論的には説明されていますが、例外や矛盾する事例もあり、完全には解明されていません。


(2015年11月29日   千嶋 淳)

十勝の自然98 オオワシ

2016-12-10 22:43:32 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.
オオワシ成鳥 2010年12月 北海道十勝川中流域)


(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月30日放送)


 今年も冬の猛禽類、オオワシの季節がやって来ました。サハリンやカムチャツカなど世界でもロシア極東でのみ繁殖し、10月下旬に稚内の宗谷岬から北海道に渡って来るオオワシは分布が狭いだけでなく、総数も5000羽程度と少ないため、世界中のバードウオッチャーがオオワシを見に冬の北海道を訪れます。翼を広げると2.3mにもなる巨体や精悍な眼差しは、バードウオッチャーでなくても実際に出会えば圧倒されること請け合いです。

 ところで、オオワシというと十勝の人でも知床に行かないと見られないと思っている人が多いようです。確かに、1980年代までは日本で越冬するオオワシやオジロワシの大部分が知床半島の羅臼で、スケトウダラ漁のおこぼれに預かっていました。ところがその後、漁の不振に伴い、餌を求めて各地へ分散するようになりました。あるものは川でサケを、別のものは山間部で撃たれたエゾシカの残滓(ざんし)を求め、といった具合に「海ワシ」と言われた生態は徐々に変化します。

 その過程で目を付けた場所の一つが、幕別町の十勝川千代田新水路。新水路の浅瀬が産卵に適していたため、多くのサケが遡上・産卵後に死に、それがワシの餌となったのです。12月上旬・中旬の多い日には50羽を超えるワシが観察され、それらが鈴なりになって羽を休めるドロノキを、私たちは「ワシのなる木」と呼んでいます。

 帯広市街から車でわずか15分の距離で、たくさんのオオワシやオジロワシを見ることができるのです!!新水路で多くのワシを観察できるのは11月から、サケを食べ尽くす1月前半くらいまでですので、是非その勇姿を楽しんでほしいと思いますが、一定の距離を保ち、できれば車の中から観察するなど、警戒心が強いワシの食事を邪魔しないよう、配慮をお願いします。写真を撮るため必要以上に近付いたり、逃げたワシが戻って来るのを待ち続けたりするのはご法度。皆でマナーを守りながら、新水路をいつまでもワシたちの楽園としてゆきましょう。


(2015年11月29日   千嶋 淳)


十勝の自然97 ネオニコチノイド系農薬と生態系

2016-12-07 13:35:32 | 十勝の自然

Photo by Chishima, J.


コチドリ 2014年5月 北海道中川郡豊頃町)

(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月25日放送)


 1962年にレイチェル・カーソンが著書「沈黙の春」の中で警鐘を鳴らして以来、農薬が生態系に与える影響は、さまざまな規制や取り組みがなされながらも問題であり続けています。近年、世界的に危惧されているのがネオニコチノイド系農薬(以下、ネオニコ系農薬)です。

 ネオニコチノイドはニコチン様物質を意味し、イミダクロプリド、クロチアニジンなど多くの種類があります。従来の殺虫剤と比べ、人など哺乳類への急性毒性は低いといわれます。しかし、ネオニコ系農薬が広まり始めた1990年代から、世界各地でミツバチの大量死・大量失踪が頻発し、2007年春までに北半球から4分の1のハチが消えたとされます。これら「蜂群崩壊症候群」の主な原因となったのがネオニコ系農薬でした。

 ネオニコ系農薬の特徴として、水に溶けやすく、地面に染み込みやすい上に長期にわたって残留する点があります。これが何を意味するかというと、農耕地で使われた農薬が地面に染み込んで周辺の川や湖沼に広がり、それらが長い年月残ることで、農地以外の生き物、特に水中の生き物や鳥に影響を及ぼすということです。実際に、農薬が地表水に高濃度で含まれる地域で、鳥の個体数が急速に減ったという論文が発表されています。著者らは餌の昆虫の減少がその理由と考察していますが、飼育下のウズラでの実験で、ネオニコ系農薬が生殖機能に異常をきたすとの報告もあり、化学物質が直接鳥に作用した可能性も否めません。

 地球環境に甚大な影響を及ぼすとしてヨーロッパでは規制が強化されていますが、アメリカや日本は特に規制を行っていません。それどころか、日本は今年、ネオニコ系農薬の食品残留基準を緩和するという、農薬メーカーの利益を優先した、世界の流れに反した動きをとっています。

 農地の中に川や沼が点在する十勝平野の自然は、水溶性、浸透性、残留性の高いネオニコ系農薬の影響を受けやすいと思われますが、国や自治体は実態調査すら行っていません。早急な調査や規制が必要なのは明白です。


(2015年11月19日   千嶋 淳)