鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

霧多布沖の海鳥・海獣?コアホウドリ(7月15日)

2014-01-31 22:27:19 | 海鳥
Img_4611
All Photos by Chishima, J.
コアホウドリ 以下すべて 2013年7月 北海道厚岸郡浜中町)


NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第7号(2013年10月発行)掲載の「2013年度霧多布沖合調査(その1)」を分割して掲載、写真を追加 一部を加筆・訂正)


 前回同様、海上は深い霧に閉ざされていました。それでもカンムリウミスズメやマンボウといった海水温の高い時期に現れる海の動物たちを観察し、季節が盛夏に向けて着実に移ろいつつあることを感じた航海でもありました。例年この時期にはカタクチイワシやニシンの群れが岸近くまでやって来て、それを追ってハイイロミズナギドリやウトウの大群が見られるものですが、今年はそれらが見られず、全般に鳥は少なめでした。
 その中でいつも以上に多く観察されたのがコアホウドリをはじめアホウドリ類で、同様の状況はその後も続いています(8月末現在)。船の進路上に浮いていることも多く、なかなか飛ぼうとせず、時には船とぶつかりそうにさえなります。3kg近い巨体を持つ彼らにとって、水面からの飛び立ちは大変なようです。体が重く、足が体の後方に付いているため助走なしでは飛び立てないのです。一方、一度宙に舞った彼らの動きは軽やかなものです。「小」アホウドリとはいうものの、それはアホウドリと比較しての話。広げると2mにもなる細長い翼は、グライダー並みの高いアスペクト比(翼の細長さの指標)を持ち、一度風を掴めば悠然と大海原を超えてゆきます。滑空時には高度を1m下げる間に20m進むと言われています。コアホウドリの繁殖地は、霧多布から遠く離れたミッドウェイ諸島やメキシコ近海の孤島、小笠原諸島等、北太平洋の低緯度に位置する島々。そこで冬から春に繁殖、それ以外の時期は北太平洋に広く分散し、非繁殖鳥は一年を通じて日本近海で見られます。長寿の鳥としても有名でミッドウェイ諸島では数年前、60歳を超えた鳥が現役で繁殖していて、ちょっとしたニュースにもなりました。


クロアシアホウドリ
Img_4687


霧の中のカンムリウミスズメ3羽
Img_4842


(2013年8月   千嶋 淳)


*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの



霧多布沖の海鳥・海獣⑳ケイマフリ(6月26日)

2014-01-23 19:21:22 | ゼニガタアザラシ・海獣
Img_3056a
All Photos by Chishima,J.
ケイマフリ夏羽 以下すべて 2013年6月 北海道厚岸郡浜中町)


NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第7号(2013年10月発行)掲載の「2013年度霧多布沖合調査(その1)」を分割して掲載、写真を追加 一部を加筆・訂正)


 若手調査員は皆都合が付かず、いつものオジサン達で沖を目指します。海上はこの時期特有のジリで見通しが利かず、水滴が髪や顔に纏わり付き、なかなか厳しい調査となりました。帆掛岩のゼニガタアザラシも深い霧に霞んでいましたが、巨大なオスたちの中には首や後ろ足に生々しい傷を負ったものがいました。次々と子離れが進むこの時期、発情したメスと交尾すべく水面下で熾烈な争いが繰り広げられていることを匂わせています。そんな彼らのバトルを見てみたいような、そうでもないような…。
 6月の沖合はサケ・マスの流し網が入って航行しづらいので、コースは通常と違って沿岸寄りになります。そのコースで去年は成鳥を含む3羽のエトピリカを確認しましたが、今年も5羽前後のウトウと一緒に飛ぶ成鳥のエトピリカを観察できました。繁殖に適した場所を探して彷徨っている鳥は、沖合に多い若鳥とは異なり、意外と沿岸域に分布する可能性が見えてきました。視界も回復してきた後半、2羽のケイマフリ成鳥が舳先をかすめるように飛んで行きました。沿岸性の強い本種は、特に繁殖期は岸近くでギンポやカジカを捕えていることが多く、岬調査や沿岸調査では記録されても、最も近い陸地から5,6km地点での確認は比較的珍しいといえます。この時期に2羽で行動していたということは今年は繁殖せず(もしくは失敗して)、より良い場所を探していたのかもしれません。エトピリカやケイマフリのような、繁殖地が衰退もしくは消滅した種類では、繁殖地での誘致やモニタリングと同時に周辺海域への飛来状況を把握しながら保護対策を進めることが必要で、沖合調査の意義の一つはそこにあります。


ウトウ(夏羽)の飛翔
Img_2993


霧の中のゼニガタアザラシ・オス成獣
後肢の新鮮な傷から出血している。
Img_2951a


(2013年8月   千嶋 淳)


*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの



140112 十勝川ワシ観察クルーズ最終日

2014-01-14 00:14:03 | 猛禽類
Img_8889a
All Photos by Chishima,J.
十勝川ワシ観察クルーズ 以下すべて 2014年1月 北海道十勝川中流域)


 11月半ばに開幕した今シーズンも、あっという間に最終日。陸上からオジロワシ、オオワシの成鳥をじっくり観察した後に繰り出した川面はいつになく穏やかで、5kmほど離れたJRの鉄橋を渡る汽車の音が鼓膜を揺らします。新水路の釣り人から「寒くないのぉ~?」と声をかけられ、「寒いよー!!」、「気ィ付けてなぁ!!」等と会話を交わしつつ細波すら立たぬ川を下るゴムボート。最終日で気分が高揚していたのか、気が付けばオジロワシを取り囲んでサケを強奪したタンチョウ家族にまで話は及んでいました。

 このところの寒さで迫り出した薄氷の上を忙しなく歩くハクセキレイやセグロセキレイを見ながら進みますが、肝心のワシがなかなか現れてくれません。猿別川合流点に近付いてようやく、30cmはあろうかというウグイを掴み飛ぶオジロワシを発見。それを後ろから追う、もう1羽とともにしばし観察していると、今度はトビとハヤブサの空中戦が繰り広げられ、本日のハイライトとなってくれました。その後もワシ放談を楽しみながら、青から鉛色へ変わった降雪直前の空の下、ホオジロガモの羽音をBGMに無事ゴールしましたが、タンチョウやオオワシは残念ながら姿を現してくれませんでした。ここ数日の冷え込みで移動したのでしょうか。
 シーズン5となる今季は、オオワシやタンチョウとの遭遇確率が高い季節でした。案内するこちらが興奮状態のことも少なからずでしたが、自分が楽しめないもので人を楽しませることはできないと思ってますのでご容赦下さい。十勝川温泉という土地柄ゆえ道外のお客さんが多いこのクルーズも、今季は地元十勝のお客さんにも結構乗船いただきました。多くの方が帯広から半日のプログラムでワシやタンチョウを堪能できることに驚き、喜んで下さいました。近年、諸条件が重なった結果、時期を選べば帯広近郊でワシやタンチョウを容易に観察できるようになって来ました。その凄さや地域にとってのポテンシャルを、微力ながら伝えてゆくお手伝いを今後もさせていただけたら、これに勝る喜びはありません。来シーズンもよろしくお願いいたします。


JR鉄橋と千代田大橋
Img_8925a1


*十勝川ワシ観察クルーズの詳細は、十勝ネイチャーセンターのHPを参照下さい。


(2014年1月12日   千嶋 淳)


140108 十勝川ワシ観察クルーズ

2014-01-10 23:26:04 | 猛禽類
Img_5865a
All Photos by Chishima,J.
タンチョウ 以下すべて 2014年1月 北海道十勝川中流域)


 本日はお客さんのご都合により、昼過ぎからの川下りとなりました。この時期の午後は風が強くなるので心配していましたが、幸いクルーズ中は適度な西風を受けながら、微睡むような穏やかさの中を流れました。
 陸上からオオワシ、オジロワシを観察後に繰り出した川の前半は、ここ数回と同様ワシは少なめでしたが、セキレイ類やカモ類が劇的に増えていました。特にホオジロガモは数~数十羽の群れがいくつも頭上を行き交い、英語で‘whistle(口笛)’と称される金属的で美しい羽音を、今シーズン初めて堪能しました。ようやく、いつもの冬の十勝川の雰囲気になって来ました。このところの冷え込みが効いたのでしょうか。
 そして後半、河畔林から飛び立ったオオワシ成鳥が何度も頭上を旋回して、惜しみなくその雄姿を披露してくれました。その後はオジロワシ成鳥、タンチョウと立て続けに出現し、特にタンチョウは3羽の群れが2つ、合計6羽も見ることができました。いずれもファミリーではなく、ペアに単独個体が付きまとっている(?)ものでした。密接して、動作までシンクロさせて飛ぶ2羽の後ろを鳴きながら付いてゆく単独個体を見ながら、ボートの上からは参加者がそれぞれのタンチョウ恋物語を妄想し、アドリブで台詞を連発していました(笑)。


オオワシ成鳥
Img_5808a


 上陸後は陸上からのワシ観察スポットへ。午後の早い時間ということもあって休息中のワシが多かったのも束の間、風が強くなるとやおら動き出し、餌を探しに行くワシを何羽も見送りながら本日のプログラムを終えました。
 サケはあらかた食い尽くしたと見え、ワシの数はかなり減って来ましたが、タンチョウを6羽も見られたのは案内する自分にも驚きでした。今シーズンは運航した9回中8回でタンチョウと出会えています。個体数と分布の拡大に伴って、十勝川中流域で越冬するタンチョウが確実に増えているようです。この状況が今後も続くなら、「十勝川ワシ・タンチョウクルーズ」と銘打てる日も近いかもしれません。本日のお客さんも仰ってた、「タンチョウって、釧路に行かなくてもこんなに見れるんだぁ…」を多くの方に実感していただきたいと思います。


十勝川の水面を行く
Img_8779a


*十勝川ワシ観察クルーズの詳細は、十勝ネイチャーセンターのHPを参照下さい。


(2014年1月8日   千嶋 淳)


霧多布沖の海鳥・海獣⑲アジサシ(6月4日)

2014-01-06 19:03:04 | ゼニガタアザラシ・海獣
Img_5864a
All Photos by Chishima,J.
木箱にとまるアジサシの夏羽 以下すべて 2013年6月 北海道霧多布沖)


NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第7号(2013年10月発行)掲載の「2013年度霧多布沖合調査(その1)」を分割して掲載、写真を追加 一部を加筆・訂正)

 なかなか海況が安定せず、ようやく今年度最初の調査に出ることができました。当日は所々雲があるものの、全体的には青空の広がる好天で午前8時、常連メンバーから初参加のボランティアまで6人の調査員を乗せた船は霧多布港を出港しました。浜中湾と外海の境目にある帆掛岩では、数組の親子を含む30頭余りのゼニガタアザラシを確認。幸先の良いスタートです。ちなみに、ゼニガタアザラシは岩場やその周辺の海上で子育てをするため、赤ちゃんは流氷上で子育てするゴマフアザラシやクラカケアザラシのような白い毛皮ではなく、オトナと同じ黒い毛で生まれます。
 沖に転じると鳥はやや少なかったものの、アホウドリの若鳥やシャチの小群と出会い、浜中の海のポテンシャルを感じずにはいられませんでした。そんな行程の中、海面を漂流する木箱に止まる2羽のアジサシがいました。時期からしてロシア極東の繁殖地への北上中で、2羽はつがいなのでしょうか。近付く船に颯爽と飛び立ち、そのまま去りました。カモメ類などを除く大部分の海鳥は、繁殖期以外の生涯の大部分を海洋で過ごしますが、それでも「陸上」で休みたくなることがあるようで、アジサシ類やトウゾクカモメ類はしばしば漂流している流木や発泡スチロールに止まっていますし、潜水性海鳥のウトウが流木上で休むのもよく見られます。変わったところでは、浮いているタイヤにアカアシミズナギドリが座っていたことがありました。海上調査を行なっていると発泡スチロール片や木箱、ブリキ缶等人間由来の漂着ゴミの多さにしばし唖然とさせられますが、皮肉にもその一部は海鳥たちの休息場所となっていることも事実です。


アホウドリの若鳥
Img_6067


岩礁で憩うゼニガタアザラシ
Img_5776


(2013年8月   千嶋 淳)

*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの