鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

1月のクサシギ

2009-01-14 15:16:34 | 水鳥(カモ・海鳥以外)
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All Photos by Chishima,J.
クサシギ 2009年1月 北海道十勝川中流域)


 2009年1月12日、十勝川中流域においてクサシギ2羽を観察した。本種は北海道には旅鳥として春秋に渡来するがあまり多くなく、特に道東では少ないようである。私はこれまでに十勝川中・下流域の湿地や川原などで観察しているが、いずれも5月か8~9月の渡りの時期である。本州、少なくとも関東以南では少なからぬ数が越冬している本種も、厳冬期の北海道での記録はきわめて稀と思われるので、写真(粗いが)とともに紹介しておく。
 当日の天気はうす曇り。午前10時38分の発見時、シギは雪に覆われた礫の川原の水際付近にいた。やや距離はあったが、長くてまっすぐな嘴から、周辺で少数が越冬しているイカルチドリではなく、シギ科であることは明白だった。撮影した画像を液晶で拡大し、クサシギと判定した。その後一度見失い、2分後に上流方面に飛び去る姿を再発見した。この際、腰の白や翼下面の黒など近縁種との識別ポイントや「チュイッ、チュイッ」の本種独特の声を確認した。観察者は、私のほかに日本野鳥の会十勝支部エコツアー部会のメンバー4人である。


クサシギの飛翔
2009年1月 北海道十勝川中流域
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 湿地や浅瀬で主に動物質の餌を捕るシギ・チドリ類は、真冬の北海道での生存は困難とみえて非常に少ない。道東では冬鳥として不凍河川に越冬にやって来るアオシギ(本種も数は少ない)や海岸の岩場に飛来するチシマシギ(こちらは迷鳥級)のほかは、河川中流域でイカルチドリ、海岸でハマシギがいずれも少数越冬する程度である。昨年は1月に十勝海岸で、数羽のミユビシギがハマシギの小群とともに見られたが、その後南下したのか死んだのか姿を消した。他にはエリマキシギ、コオバシギ、シロチドリ、オオハシシギなどは冬の道東で記録があるが、例外的なものである。
 今回のクサシギは、定期的に越冬しているものなのか、偶々居残ってしまっていたものなのか不明だが、どちらにしろこれから一年で最も寒い季節を迎えるこの地で生きて行くのは大変なことだろう。


イカルチドリ
2009年1月 北海道十勝川中流域
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ハマシギ(右)とミユビシギ(いずれも冬羽)
2008年1月 北海道中川郡豊頃町
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(2009年1月14日   千嶋 淳)


視線の先

2009-01-08 02:16:28 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
ケアシノスリ 2009年1月 北海道十勝海岸)


 海岸線を走る道路の電線上で、1羽のノスリがじっと下を見つめている。彼(?)は、近くに停車した私を、訝しげに一瞥するとすぐまた自分の世界に戻った。不動のように見えても、顔部だけは時折向きを変えながら、周囲の地上‐道路の周囲は雪が解けて丈の低い草原となっている‐をくまなく監視している。この猛禽の円らな瞳に閃光が宿り、地面に向かって矢の如く降下する瞬間を期待して暫く待ったが、捕食される側もそう易々とは姿を現さないようで、私が飽きて冬にしては穏やかな波が打ち寄せるこの海岸を去るまで、ノスリは電線に止まったままだった。
ノスリ
2009年1月 北海道十勝海岸
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                  *

 日頃から少ない交通量が、正月休みで更に乏しい林間の道。私の他には1匹のキタキツネが唯一の通行者だった。みすぼらしい夏毛と違って、ふさふさな黄金色の冬毛を纏ったキツネは、ハンターの貫録を帯びている。路側帯で、路肩の積雪に前脚を掛け、耳をピンと立ててじっと注意を払っている。目はほぼつぶっているから、聴覚が重要なのであろう。耳を澄まして雪中の獲物の気配を探索している。目的の音を聞きつけたら、そこ目がけて勢いよく跳躍するつもりだろう。


キタキツネ
2009年1月 北海道十勝海岸
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                  *

 原野を微風が通り抜ける度、灌木の細い枝先はそよそよと揺れた。その都度ケアシノスリは、和名が、また「ウサギの脚」という意味の(学名の)種小名が示す通り白い羽毛に覆われた跗蹠の、先にある黄色い趾で枝を握りしめ、体勢を立て直している。少し後飛び立って、灌木の列の向こうに消えた。高さは地面すれすれ。突っ込んだかもしれない。こちらも位置を変えて姿を探す。程無くして近くの地上に発見したが狩りは失敗だったとみえて、脚には何も掴まれていない。舞い上がって今度は道路脇の標識に止まり、地表を注視し始めた。


灌木上のケアシノスリ
2009年1月 北海道十勝海岸
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                  *

 以上は、いずれも年が明けたばかりの1月2日日中に十勝海岸で出くわした光景である。2種の猛禽とキツネは皆共通の獲物、野ネズミ類を狙っていたものと思われる。野ネズミ類は雪が降ると雪の下を活発に動き回る。しかし、雪の無い、あるいは少ない道路付近では地表近くまで出ざるを得ない。捕食者たちはその瞬間を、視線の先に待ち構えるのである。
 狙っているのはノスリ類やキツネだけではない。海岸近くではハイイロチュウヒやコミミズクが低空を舐めるように飛び回って捜索しているし、もう少し高い空からチョウゲンボウがホバリングしながら目を光らせているかもしれない。山林やその近くでは、フクロウが音も無く襲いかかって来る危険もあろう。
 野ネズミの冬は、寒さや食物の不足に加えて、多くの天敵に晒される、危険に満ちた季節である。


ハイイロチュウヒ(メスまたは幼鳥)
2008年11月 北海道十勝郡浦幌町
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野ネズミ類を捕らえたコミミズク
2008年1月 北海道十勝郡浦幌町
勢いよく地面に飛び込んだコミミズクが、草と一緒にネズミを持って戻って来た。
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野ネズミ類を捕らえたチョウゲンボウ
2008年2月 北海道中川郡豊頃町
電柱から覆いかぶさるように襲いかかり、捕らえた。ネズミはものの数分で体内に取り込まれた。
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野ネズミ類
2006年8月 北海道中川郡豊頃町
路上で死んでいた。アカネズミ類だと思うが尾が短い。切れた?
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(2009年1月7日   千嶋 淳)